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大冒険をしてきました。
夜中の2時。鍛錬を終えた私はいつものように布団の中に入り、体を休めていました。
すると私に突然神の声がきこえたのです。
私は悲しくなり、思わず涙してしまいました。
現世にはヒトを堕落へと誘う安寧に溢れていると。ヒトは己の足で歩くのを止め、電子の海に自らの思考を放棄して潜り込んでいると。
私は或る意味疲れていたのかもしれません。
証明したかった。世界が美しいということを。証明したかった。人間はひと瓶の牛乳と、一欠片のパンと、天と土と詩で満たされるということを。
というわけで。夜中の3時。私は自分のママチャリで日本最北端の地、宗谷岬までの長い旅へと出発したのです。
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宗谷岬までの距離は直線距離で400キロ弱。しかもママチャリでは高速道路が使えません。しかもこの時期。ライダーズハウスや宿泊所の半分が使えません。
加えてこの時私は、食べ物はパンと牛乳、そして水以外は摂取するつもりはありませんでした。(人間の尊さを示すため)
また、海沿いにそって進むルートではなく、山越えルートを私は選びました。(後にこれが地獄の選択となります)
このクレージージャーニーの行程は
1日目 札幌→旭川
2日目 旭川→音威子府(どこ?)
3日目 音威子府→宗谷岬
迂回ルートもいれて1日150キロ弱進めば着く計算です。
いざ出発!私の頭の中には宗谷岬で高らかに都ぞ弥生を歌う自分の姿しかありませんでした。
自転車を漕ぐこと1時間以上。
私は逆方向に進んでいた事が分かりました。「俺、馬鹿すぎ。」途方に暮れた私。ふとカバンを見るとその中には
詩集(宮沢賢治、北欧神話、エジプト神話)
死に至る病(セーレン・キルケゴール著)
お風呂グッズ
紙と鉛筆(思索を深める用)
着替えのTシャツとパンツ(何故か2日分のみ)
西森さんの北大柔道部ウィンドブレーカー
お金(2万円くらい)
しかありませんでした。
更に致命的なことに、何も考えずに飛び出してきた私は、自転車の空気を入れ忘れ、携帯のモバイルバッテリーを忘れてきたのでした。(道中のホテルになければ死)
(この死は文字通りです。山奥でパンク、連絡取れず、地図も出せず、行先分からず)
「これでどうやって戦えばいいんだ」
しかし七帝戦士は不屈です。今ある条件で最善を尽くさねばなりません。近所のコンビニで100円のパンを買い込み、更に遠くなった旭川を目指して進みます。
(現時点 目標-20キロ)
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道中は平地が多く、朝焼けを背に「一帯ゆるき」などの寮歌を歌いながら進みました。
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そして事件は起こりました。
札幌から進むこと100キロ弱。
砂川周辺でついに私のママチャリはパンクしました。
直線5キロ先にある自転車屋に向けて。炎天下の中。私はひたすら自転車を押すしかありませんでした。道中で住民の方に声をかけていただいて、民家に入れてもらい、野菜ジュースをご馳走になりました。ごっつぁんです。
そして着いた自転車屋。店のおっちゃんには盛大にふっかけられました。1万5000円も。旅費の大部分を失う訳には行かなかった私は、ひとまず最低限の修理をお願いすることにします。
すると
「あれ?兄ちゃん、柔道やってるのかい?」
その人が私の柔道耳を見て気づいたのです。
なんとそのお方の4人息子さんは、皆柔道経験者で、結果も残されたとの事。柔道部談義で意気投合しました。
更に自分のママチャリを見て失笑されました。「これで旭川まで行こうってのかい?」
「いや、稚内までです。」
「(爆笑)兄ちゃん、気に入ったよ!」
なんとその方のご好意で、4000円で取れかけたハンドルを、パンクを、切れかけたチェーンを、壊れたハブを、サドルを、修理して頂けることになりました。
「稚内に無事ついたら買い替えなよ。」
そう言われて、感謝の念に包まれた私はまた自転車を漕ぎ出したのです。
(旭川まで 約80キロ)
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パンクでもたついたため、時刻は既に13時30分ほど。深川を過ぎたあたりから地獄の坂尽くしが始まりました。
「どうして俺、こんなことしてるんだろう」
しかし、近藤さんに「自転車を1日150キロ以上漕いできます!」と宣言した以上、もう後には引けません。
道中、「坂田の脇ロード」に20キロほど入り、精神がやられました。(臭い、未整備、野生動物の死骸)
既に膝が痛かったです。
市街地をぬけ、ひたすらアップダウンを繰り返し、午後17時。
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街のあかりがついに見えた時、泣きそうになりました。人間の営為の痕跡によって私は安堵したのです。1日で200キロくらいは漕いだ気がします。
その日は有料チャンネルを見て格安ビジネスホテルで就寝しました。
1日目 自転車修理費 -4000
宿泊費 -3000
食費(パンとミルクと茶) -1500
有料チャンネル-1000
残金 10500と小銭
2日目
朝ごはんがついていたため、放浪者としての矜持を忘れて食いまくりました。
(人間はひと瓶の牛乳と一欠片のパンで生きられる→証明失敗!)
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さあ出発!道中は市街地に入り、山を越えるまで一緒です。夜に入る前に山を越えきらないと、道無き道を進んでいる私は白線の内側をはずれた瞬間にトラックに引かれて死んでしまいます。
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道中キツネに会いました。
牧場ゾーンをよく通りました。ひたすら直線かひたすら坂の道を通った気がします。
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道中、ひたすら登ったあと、とある開けた場所に出ました。そこは公道はひたすら一本道。ですが、右側にはひたすらに雄大な牧場が、黄金色の太陽に照らされて、風のサワサワという音とともに自然の営みを続けていました。
写真、或いは絵画の一風景のようでした。あまりの美しさに、私は写真を撮ることも忘れひたすら佇んでいました。
こんな風景に照らされて生きるのは、恵まれていると思いますね。こんな世界の美しさを忘れずに生きていたい。
雄叫びを上げながら坂を登りきり、ついに着きました音威子府。北海道で1番小さな村。
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人が少なすぎてめちゃくちゃ怖かったです。
ゲストハウスの兄ちゃんがいかつすぎて、私はハムスターのように震えておりました。
その町で最も栄えていた場所、全日食でうどん3人前、米3パック、白菜、大量の肉を買って茹でて貪り食いました。(人間はひと瓶の牛乳と一欠片のパンで生きられる→証明失敗!)
そして格安ゲストハウスで就寝しました。
2日目 宿泊費 -3000
食費 (パン、ミルク、茶、鍋)-1500
残金 6000円と小銭
宗谷岬まで残り 130キロ強
3日目
少し肌寒かったですが、朝6時30分から出発。宗谷岬までもう少しかと思うと心が踊ります。
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ここで少し問題が発生。着替えのパンツがもうありません。仕方が無いので裏返しで履くことにしました。新品を履いたみたいで気持ちいい!
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道中クマが出るとの情報があったので、でっかい声で歌を歌いながら進んで行きます。
そして北大を代表する歌、「都ぞ弥生」を歌っていた時。軽トラの運ちゃんから話しかけられました。
「兄ちゃん、北大生か~!?」
私はびっくりしました。もしや………?
「どうして分かったんですか〜!?」
「わかったも何も、背中にでっかく北大柔道部って書いてあるべやー!!」
恥ずかしかったです。
道中には廃村があり、通っている時はとても怖かったです。
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ひたすら漕ぎ続けると、見えてきました
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海
山と牧場しかない景色から、いきなり海が目の前に広がりました。嬉しくてたまりません。
自転車から降りて上裸になり、体中にお茶をふりかけます。気持ちいい!(スポーツカーで私の前を通り過ぎた一行に嘲笑されました)
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雄叫びを上げて完全復活した私は進みます
峠の上からはえもいわれぬ充足感を
海からは雄大な感情を得ました
人間の原始的な本能に訴えるものがあるのでしょうか
そして
ついに
到着!
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残り30キロ地点でサドルにヒビが入る、などのアクシデントもありながら、ついに着きました。しかし、余韻に浸っている暇はありませんでした。
1日数本しかない稚内市行きの最終バスが5分後に出るからです。
自転車に宗谷岬の留守を任せることにした私は写真を撮って、最北端到達証明書を貰って、日本最北端の地で都ぞ弥生を歌って、(カップルに失笑を喰らいました)慌ただしくバスに乗り込んだのでした。
稚内市に着いたら稚内観光
ロシア語が多いです
どことなく寂れていました。
6時30分には全ての店が閉まるのが印象的でした。
夜ご飯は、ジャンヌ臭漂う洋食屋で取りました。店のおばちゃんにジャンヌのおばちゃんの姿を重ねました。
今はただ
思い絶えなむとばかりを
ひとつてならで
いふよしもがな
そして格安ドミトリーハウスで就寝しました
3日目 バス代 -1500円くらい
ホテル代 -3000円くらい
食費 -2000円くらい
残金 0円
4日目
お金を下ろして高速バスで帰ってきました。
窓の外の景色を見ながら、旅の途中で考えた様々なことを思い返しました。人はやはり1人では生きていけないのかもしれないが、自分のために生きる事を時には選択しても良いのかもしれない、ということ、生と死について、自己の実存について、などですね。
今しかない!と思って無計画、カス装備で飛び出してきた旅ですが、かなりいい経験ができました。そして何よりも、北海道の美しい景色に心が洗われました。天と土と詩であまりにも私は満たされたのです。100人の優秀な技術者よりも、1人の素朴な文学徒を現世は欲している気がしますね。
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またやりたいな!
皆さんブログ書いてください
できれば毎日投稿しよう!