北アルプスなど著名な山域の山小屋は、三食・寝具付で自販機があり生ビールまで飲めるようなリゾートホテル化して、夕食後に勝手に山の歌など歌うことができなくなって来ている。 また、一部の山小屋では、夕食後に歌声喫茶的な歌唱を行っているところもあるようだが・・・。
り(昭和47年7月 朝日連峰縦走)
私はどちらかと言うとローカルの山志向で、北アルプスなど行ったことは少ない。夏の飯豊や朝日は、山小屋はあっても、食事や寝具の提供はほとんどないから、衣食住を全部担ぎ上げなければならなかった。
山行は大体、前夜発や早朝発で登山口まで行っているので、登山初日は重い荷物を背負っての尾根登りとなる。食糧やビールなどの水物も全く減っていないから、結構なアルバイトを強いられる。
やっとのことで幕営地に着き、テント設営、夕食の準備。今日の来し方を思い出しながらのウィスキーをチビリチビリやるのは至福の時だ。夕日が沈み山並みが金色に輝くのを眺めながらの夕食ののち、さあ、「山の歌集」の出番だ。
全員で車座になり酒を酌み交わしながら山の歌を歌うのだ。山の歌の歌詞は、過去の山での経験や想い出と重なり、更なるロマンチズムをあおり盛りあがる。
そんな想い出の歌集が数冊残っていたので紹介したい。山の歌にはテレビやラジオなどでよく歌われている曲も多いので、山で歌ったことのある山屋しか知らないような、少しマイナーな山の歌を紹介することとした。
歌い継がれて来たもので、歌詞に順序違いなどがあるかも知れないが、ご笑覧いただければ幸いです。
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過去に登山の際持ち歩き、キャンプサイトなどで歌った歌集。
上の2冊が他の山岳会からもらったもの。左下が当時加入していた山岳会で作成したもの。右下が小型軽量化して自分が作ったもの。
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飯豊の山男 (蔵王の山男替え歌)
1 色は黒いが気はやさし
胸にゃファイトの血が燃える
身にはボロ服まとえども
おいら飯豊の山男
ああ楽しきわが想い
2 飯豊川の渓谷に
沿って行くは湯の平か
はかなく散った恋ならば
岩もくだけよ濁流に
ああ飯豊は無表情
3 頼母木川の乾水期
塩焼き岩魚のあの味は
山行くおいらのなぐさめか
霧の彼方に見える山
ああ門内権現か
4 二つ峰のあの尾根を
ピッケル握って登る夢
ベースキャンプのウィンパーも
ああ風にはためくか
5 不動の滝の高巻きにゃ
さんざ苦労をいたぁけ
三日三晩のビバークも
涙をのんで引き返す
ああ不動がうらめしい
6 また来るときの思い出に
岩に打ち込むハーケンが
尾根を見返す俺たちの
ああ心にしみわたる
7 ザイルに結んだ友情は
きびしい試練に耐え抜いて
万年雪がとけるとも
とけちゃならない心意気
ああ飯豊の山男
※ 飯豊が好きで夏になるとよく飯豊に入った。当時は幕営が多かったので稜線の幕営地(キャンプサイト)でよく歌った。
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新人哀歌
さあさ みなさんお聞きなさい
これから始まる新人の
悲しい悲しい物語り
一生懸命つとめましょう
1 いいぞいいぞとおだてられ
死にもの狂いで来てみれば
朝から晩まで飯炊きで
景色なんぞは夢のうち
2 チーフリーダーは爺くさい
サブリーダーは婆くさい
あとのメンバーはエロくさい
メッチェン通ればかしら右
3 二年部員は小生意気
先輩なんかと話好き(※新米なんかと鼻の先)
地獄の二丁目山岳部
好んで入る馬鹿もいる
4 蝶よ花よと育てられ
何の苦労も知らないで
ボッカ稼業に身をやつし
泣き泣き登る雪の山
5 家へ帰ればおぼっちゃま
山へ入れば新部員
何の因果でしごかれる
まぶたに浮かぶ母の顏
6 所詮あの娘はお嬢様
俺はしがない山ガラス
月をながめてあきらめる
笑ってくれるなお月さま
7 一番鳥でもあるまいに
朝もはよから起こされて
米とぐ水のそのつらさ
故郷の母さん恋しいな
8 お威張りなさるな二年生
一年無駄飯食っただけ
そろいもそろってゴクツブシ
一年前を忘れたか
※ 飯豊は、北アルプスなどと違って衣食住を全部担ぎあげなければならない。特に初日は荷物が重く、稜線までの高度差の大きい尾根登りはこたえたので、歌詞の内容には身につまされるものがある。2番の※印のような歌詞もあった。歌詞の流れからして私はこの歌詞の方が好きだった。)
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昭和45年(1970)頃の飯豊連峰の天狗の庭。大日杉~�琢差岳西俣を縦走した時のもので向こう側が烏帽子岳方面。
当時は良い幕営地だったが、近年は登山者が歩いたところが掘れて沢になり、草原が二つに割れてしまった。
かってはなだらかな草原で天狗の庭もしかり、だったが今はその面影もなくなってしまった。家形テントやキスリングザックが懐かしい。歩いているのは当時のメンバー。
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岳人の歌
1 星が降るあのコル グリセードで
あの人はくるかしら 花をくわえて
アルプスの恋唄 心ときめくよ
なつかしの岳人 やさし彼の君
2 白樺にもたれるは いとしい乙女か
黒百合の花を 胸に抱いて
アルプスの黒百合 心ときめくよ
なつかしの岳人 やさし彼の君
※ 今思うと、「花をくわえた岳人」なんて少々乙女チックでキザっぽいが、当時(約40年前)は違和感なく歌っていたような気がする。
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山の友よ
1 薪割り飯炊き小屋掃除
みんなでみんなで やったっけ
雪解け水が冷たくて
苦労したこと あったっけ
今では遠くみんな去り
友を偲んで仰ぐ空
2 前傾 外傾 全制動
みんなでみんなで やったっけ
雪が深くて ラッセルに
苦労したこと あったっけ
今では遠く みんな去り
友に便りの 筆をとる
3 唐松萌る春山に
みんなでみんなで 行ったっけ
思わぬ雪にワカンはき
苦労したこと あったっけ
今では遠くみんな去り
友の姿を夢に見る
※ 小屋番の経験はないが、稜線の雪渓融水での米とぎは、手が切れるように痛かった想い出がある。
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谷川小唄(ズンドコ節替え歌)
1 夜の上野のプラットホーム
可愛いあの娘が涙で止める
止めて止まらぬおいらの心
山の男の度胸だめし
2 泣いちゃいけない笑顔におなり
たかがしばしの別れじゃないか
可愛いお前の泣き顏見れば
ザイルさばきの手がにぶる
3 いきなチロルよザイルを肩に
行くぞ谷川ちょっと一の倉
仰ぐ岸壁朝日に映えて
今日はコップか滝沢か
4 行こうか戻ろうか南稜テラス
戻りゃおいらの心がすたる
行けばあの娘が涙を流す
山の男はつらいもの
5 歌うハーケン伸びるよザイル
なんのチムニー オーバーハング
軽く乗りこし目の下見れば
雲が流れる本谷へ
6 急な草付慎重に越せば
やっと飛び出す国境稜線
固い握手に心も霧も
晴れて見えるはオキの耳
7 右に西黒左にマチガ
中に一筋西黒尾根を
今日の凱歌に足取り軽く
駆けりゃ土合もはや真近
8 さらば上越湯檜曽の流れ
さらば土合よ谷川岳よ
またの来る日を心に誓い
辿る列車の窓の夢
※ 軽快なズンドコ節の替え歌で、1番の「上野」のところを自分の居住地名に置き換えて歌った。
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エーデルワイスの歌
1 雪は消えねど 春はきざしぬ
風はなごみて 日はあたたかし
氷河のほとりを滑りて行けば
岩影に咲く アルペンブルーメン
紫匂う都をあとに 山に憧れ若人の群れ
2 エーデルワイスの花 微笑みて
するどき岩角 金色に照り
山は目覚めぬ 夏の朝風
乱雲おさまり 夕空晴れぬ
命のザイルに 我が身をたくし
思わず仰ぐ アルペングリューエン
※ 春夏秋冬の4番まであるようだ。
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二人の山男
1 そんなに急ぐと 山が逃げるよ
ゆっくり行こう ゆっくり行こう
あせらずに行こう あせらずに行こう
口笛吹いて 汗を拭えば
くすんだヒュッテの 赤い屋根
(以下繰り返し)
ヨイショ コラショ ヨイショ コラショ
見慣れた山さ 山さ
急ぐこないさ ないさ
2 そんなに急ぐと 山が逃げるよ
がっちり行こう がっちり行こう
あせらずに行こう あせらずに行こう
男が二人 泣きごと言えば
山の女神も そっぽをむく
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山家育ち
1 山家育ちのおいらの恋は
恋は恋でも酒もってこいよ
酒は酒でもおいらの酒は
熱い涙の恋の酒だよ
2 山家育ちのおいらの恋は
恋は恋でも山持ってこいよ
山は山でもおいらの山は
岩と氷のゴッツイ山だよ
※ 別な歌名の省略形のようだ。
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一人の山
1 山に憧れ 山に行き
言葉少なに ただ歩む
2 一人淋しく たたずめば
煙草の煙 ただ一筋
3 恋に破れて 夢も破れ
夕日静かに 山に沈む
4 雪渓滑りて 岩場を登り
ふれる岩肌の 冷たさよ
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シーハイルの歌
1 岩木のおろしが 吹くなら吹けよ
山から山へと われらが走る
昨日はボンジュネ 今日またアジャラ
煙立てつつ おおシーハイル
2 ステップターンすりゃ たわむれかかる
杉の梢よ 未練の雪よ
心は残れど エールにとどめ
クリスチャニアで おおシーハイル
3 夕陽は赤々 シュプール染めて
辿る雪道 果てさえしれず
町にはちらほら 灯りがついた
ラッセル急げよ おおシーハイル
※ 最近はカービングスキーの登場で、スキーの教程もびっくりするほど変わってしまった。クリスチャニアやウェイデルンと言う言葉もなくなり、パラレルターン、小回りのパラレルターンと言うようになった。足も揃えなくてもいいと言い、両足均等加重が原則だそうだ。したがって、ジャンプのゲレシュプ(ゲレンデシュブング)や片足に乗るステップターンなどの言葉もあまり聞かれなくなった。
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雪山に消えたあいつ
1 山が命と 笑ったあいつ
山を一番 愛したあいつ
雪の穂高よ 答えておくれ
俺に一言 教えておくれ
なんで吹雪に あいつは消えた
2 重いザイルを 担いだあいつ
銀のピッケル 振ってたあいつ
山をこの俺 恨みはせぬが
あんないいやつ どこにもいない
なんで吹雪に あいつは消えた
3 夢に破れて 帰らぬあいつ
雪に埋もれて 眠ったあいつ
山の木霊よ 返しておくれ
俺にも一度 やさしい笑顔
なんで吹雪に あいつは消えた
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鳥海山の歌
1 ここのお山は あずま一
出羽富士の名ある鳥海よ
嶺に白雲 白雪や
夏でも消えやせぬ
夏でも消えぬ
2 消えぬその雪 心字雪
とけて流れて 河原宿
お花畑や 花畑
眺めはつきやせぬ
眺めはつきぬ
3 滝の小屋より眺むれば
南に月山蔵王山
窓のともしび ともしびや
名残は尽きやせぬ
名残は尽きぬ
※ 昔、滝の小屋へ泊ったとき、いつもこれ一枚でも寒くないんだとランニングシャツ姿の小屋番の親父が、コップ酒を片手に歌ってくれたことを思い出す。当時は、湯ノ台鉱泉が登り口で横堂~東物見と登り滝の小屋が一日目の泊りだった。
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山小舎の灯
1 黄昏のともしびは ほのかにともりて
なつかしき山小舎は ふもとの小経よ
想い出の窓に寄り 君を偲べば
風は過ぎし日の 歌おばささやくよ
2 暮れゆくは白馬か 穂高は茜よ
樺の木のほろ白き 影も薄れゆく
寂しさに君呼べど 吾声むなしく
遥か谷間より こだまはかえりくる
3 山小舎の灯は 今宵もともりて
ひとり聞くせせらぎも 静かに更けゆく
憧れは若き日の 夢をのせて
夕べ星のごと み空に群れとぶよ
※ 比較的有名な歌ですよね。
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山賊の歌
1 雨が降れば小川ができ
風が吹けば山ができる
ヤッホ ヤホホホ
さびしいところ
ヤッホ ヤホホホ
さびしいところ
2 夜になれば空には星
月がでれば俺らの世界
ヤッホ ヤホホホ
みんなを呼べ
ヤッホ ヤホホホ
みんなを呼べ
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熊彫りさん
1 チンチラカンチラ仕事をさぼり
ボッケに行けば
メンコイ姉ちゃんがチラリとにらむ
なにくそ熊彫りさ男の仁義だよ
花を摘み摘み遊べ遊べ
2 チンチラカンチラ仕事をさぼり
雄阿寒行けば
山のおやじがジロリとにらむ
なにくそ熊彫りさ男の仁義だよ
おやじぐらいは丸太でどやせ
3 チンチラカンチラ仕事をさぼり
雌阿寒行けば
登山帰りのあの娘がにらむ
なにくそ熊彫りさ男の仁義だよ
遊べ遊べと気のむくままに
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いかがでしたか。青春の一ページを思い出されませんでしたか?。今度、どこかの山でご一緒に歌いたいものです。
「熊彫りさん」っていうのですね!不思議な歌です。母に聞いても知らないと言うし・・・(照れていたのかもしれませんが)ずっとまぼろしかと思っていました。
すっきりしました。
父親は山登りはしてませんでしたが、どうして知っていたのでしょうね・・・