痛ましいできごとの中に、ふっと心にふれる話がある。8月に広島市で土石流が起き、74人が亡くなった。その現場へ救助犬として初出動した雑種の夢之丞(ゆめのすけ)は、かつて殺処分寸前の捨て犬だった▼4年前の11月、夢之丞は動物愛護センターにいた。処分される順番の日になった。だが数が多くて翌日にまわされ、救助犬候補を探しに訪れたNPOスタッフの目に留まる。紙一重の僥倖(ぎょうこう)で生き延びて訓練を受けた夢之丞は、泥まみれになりながら捜索にあたったそうだ▼「人助け」の言葉は知るまいが、無辜(むこ)の動物の話はじんわりくる。だが、ひとつの話の陰で、殺処分に消える犬と猫の命は多い。減ってはいるが、なお年に計約16万匹にのぼっている▼「伴侶」として暮らしを共にし、ペットロスに泣く人もいる。一方で捨てる人の身勝手には恥ずべきものがある。先日来、生きた犬や死骸がまとめて捨てられるできごとも各地で相次ぐ。ペットブームのもたらす受難である▼青森県の三本木農業高校の愛玩(あいがん)動物研究室の取り組みを、ある本で知った。殺処分された犬と猫の焼却後の骨を砕き、土に混ぜ、鉢植えの花を育ててイベントなどで配っている。共感の輪を広げ、日本動物愛護協会の今年の日本動物大賞グランプリを受けた▼犬や猫たちのもっと生きたかったという思いを、花の生命に託すことで遂げさせたい。生徒たちは「命の花」と呼んでいる。生きた証しの骨は、機械ではなく、自らの手にれんがを握って砕くのだという。 2014年11月14日の天声人語~ かなしいきじ・・・ ふくざつでしゅ ボクは、ラッキーだったんだと かんしゃしていましゅ すべてのとうといいのちが まもられますように ニャーメン