私は…今まで一体何を見てきたのだろう…。
そう感じる出来事がありました。
視点を変えると、これまで当たり前のように見えていた世界が、がらりと変わってゆくことに気付き、思い違いをしていた自分に愕然としてしまいました。
私が考えているよりもずっと。きっと。
大きく、広く、深く、あたたかい…。
…その人の前では、仮面をつけたままでいることができなかったのです。
どんなに大人でいようと思っても、カッコ良く見せたいと思っても、知らず知らずのうちにつるりと皮がむけてしまい、気が付けば幼い頃の剥き出しの自分がいました。
何の心配もなく、不安もなく…。
背中を預けられることの嬉しさ。
遊びや、風景や、言葉…。
数々の美味しいものに引き合わせてくれ、その都度、心を動かされてきました。
その時々の私の歩幅を感じ、その行く手を阻むことなく、危険を遠ざけ……。
たぶん歯痒い思いも感じながら、時には、過保護すぎるくらいに心配し面倒を見てくれ、冒険させてくれました。
とても優しくて頼れる兄は……。
どんなに泣いて引き留めたくても、思ったよりずっとずっと早く、眼には見えない存在になってしまいそうです。
限られた貴重な時間を私に向けてくれることが嬉しくて、余計なことを口にしてしまった自分を腹だたしく思っています。
先に立つ淋しさを振り払いながら、少しでも思い残しのないよう、否が応でも訪れてしまうその瞬間まで心から笑っていてくれるよう願っているのに……。
自分の小ささばかり眼についてしまいます。
私にとって間違いなく、今までとは違った経験をさせてくれたから……。
まるで包み込まれるように……温かく見守ってくれていたのだと、しみじみ感じます。
いつまででも生きて、そばにいて欲しいのに。
こんな弱音を吐くつもりじゃなかったのに……。
……ごめんなさい。
あなたの前では、やはり、嘘はつけません……。