悲しいことばかり考える。
おそらくすべての人がそうなんだろうけど、まあどうでもいい。
自分のことで精いっぱいだから。
しかし、だれかとの関わりがなければこれは解消されることはないだろう。
自分一人で解決できるほど、私は頑丈にできてはいないので。
とりあえず歌を作って歌うことが、私が人とコミュニケーションする手段だ。
これを読んでいる人のほとんどが学校に行ったことがあるだろうからわかると思うが、勉強ができたってそんなに人と仲良くなれるわけではない(少なくとも高校まではそんな感じだろう)し、私は運動が全くと言っていいほどできない。
スポーツを通して仲間を作っていく人はちょっとうらやましくもあるが、今さら身体を鍛えるのもやりたくないし、先輩後輩とかの体育会っぽいノリにはついていけない。
ライブハウスはいいよね、いい歌を歌っていれば年齢もキャリアもあまり関係ないし。
まあ外見の問題は多少絡んでくるけど、それについては他のところとさして変わらない、どこでだって可愛い子ちゃんは得をするものだ。むしろ変であることが価値になる場合もある。
「変に特化した価値の高い人、目の前にいるし」
テーブルをはさんで正面に座る背の低いおじさんを見てつぶやく。
「あ? 何か言った?」
ちっさいおじさん、通称ポッキーさんが渋い顔でこちらを見る。
いつもの首がユルユルでド派手なタイダイ柄のシャツに防弾性能ありそうなカッチカチの革チョッキ、そしてカウボーイハットという、文句なしに変、いや変態な恰好だ。
「いえ、前に申し上げた通りのことを考えていたまでで」
「またそれ? ライブハウスなんて非日常そのものなんだから、普通の恰好して何がおもしろいのよって」
「仮にも高校生女子を前にしていかがなものかと思っているのです、首元伸びきってチクビ見えそうですし」
「それ女の子が言う? 通常高校生はこんなところに入りびたりはしないって。要するに君も変なんだって」
「タバコの人が来たら帰りますよ、おかまいなく」
いまいちかみ合わないやり取りが屈託した気分を紛らわせてくれる。
ポッキーさんは外見こそ変態のちっさいおっさんだけど、イヤなことを言わない、穏やかで話しやすい人だ。
早い時間のライブハウスは、人が少ないので空気がタバコに汚染されていない。
場所に沁みついた分はいかんともしがたいが、それでもだいぶマシだ。
今日はノルマ無しのフリーステージの日。
ステージが空いていれば自由に演奏してもよい。
未成年の私にとってウーロン茶一杯五百円という価格設定はなかなか厳しいが、場所を維持するためには仕方がないのだろう。
というワケで現在、このライブハウス「幻影」には私とポッキーさんと、店長のお姉さんの三人しかいない。
さすがに人少なすぎなので、もう少し来るまでダラダラお話というワケだ。
まあ私は空気がタバコ汚染されたら退散する予定なので、この店の本日の売り上げには全く貢献しないのだけれど。
「筋金入りのタバコ嫌いだよねって。まあ高校生としては正しいんだけど。それもタバコ対策なんでしょ?」
と、ポッキーさんは水泳選手みたいな私のメガネを指さす。
フレームが幅広い、もともとは花粉症の人が使うためのものだが、ニコチン粒子を少しでもガードするべく、ライブハウスでは必ず着用しているのだ。
「もちろんですよ。でも、だれかさんの熱気でめっちゃ曇るんですけどね!」
「ハハハ、すまんすまんって。思い出すな~、初めて対バンした時のこと」
そう、アレは何か月前だったか。ポッキーさんのハチャメチャな演奏の直後にステージに上がった私のメガネは見事にホワイトアウト。
もちろん演奏はボロボロ、私史上最も殺意に満ちたライブとなった。
「楽しかったよな~、おとなしそうなメガネっ子のキレ美味な弾き語り!」
「その節は怒りの感情のコントロールについて教えていただき、ありがとうございましたッ」
「あんなにカッカしてても全然ミスしなかったから、スゲえっと思ったよ。弦の一本や二本は切りそうな感じだったのに」
私の精一杯の皮肉なんて全く通じないには大人の余裕か? いや、単に天然なだけだろうな。
「実際みんなにほめてもらったけど、なんか同情票みたいで素直に喜べなかったんですよ。いろいろな意味で罪深いっての、わかってます?」
「今日は一段と厳しいなって~、何かイヤなことでもあったの?」
む。
天然だからこそ、図星を突くこともあるか。油断ならん。
「ポッキーさん、わかってないっすね!」
「?」
「高校生の女子が、イヤなことなしで日々過ごしてるわけないじゃないんですか!」
お、ちょっとたじろいだ。
「ま、それは何となく予想できるけどさ~」
その時、ニヤニヤとこちらの様子をうかがっていた店長さんが口を開いた。
「おいおい、独身中年を困らせちゃいかんよ~」
「え~、私が悪いんですか~?」
責められるべきはおっさんの方じゃないのかしら。
「ま、ポッキーさんがキモイのは今に始まったことじゃないし、現行犯逮捕でもいいんだけど、さ~」
「オレ、何気にひどいこと言われてね? 店長さん?」
「この歳になったらもう治らないから、若い人が気を遣ってあげないとね~」
「え? もう手遅れってこと?」
「いや、ポッキーさんはそのままで十分だから、いつまでもありのままで~」
ほめてんのかけなしてるんだかわからない言葉を投げて、店長さんは私の方を向いて、ちょっと真剣なまなざしで言った。
「高校生のイヤなことなんて、正直私からすればまだまだ序の口よ~。でもそれは、今を生きるあなたに言うのはヤボよね~。まあ、このちっちゃいおっさんをイジって気が済むならバンバンやりなよ~」
「いやあ、それだけじゃ私の悩めるハートは癒されはしませんが、何かありがとうございます」
「全然フォローになってないって! 感謝の気持ちもないでしょ!」
叫びつつ苦笑いのちっちゃいおっさん。その優しさには本当に……。
「いやホントですから。もう超ポッキーさんマジリスペクトですから」
彼はイマイチ不服そうな顔で沈黙していたが、何かひらめいた顔をして私に提案してきた。
「じゃあ、リスペクトの証に曲を聞いてもらおうか! 新ネタをなって!」
え~? マンツーマンでジャイアンリサイタルを聞くってこと?
躊躇する私に目もくれず、ポッキーさんはハードケースから愛用のギター、ギブソンSGを取り出した。
「マーシャル使いますよ、あとマイク一本」
肩をすくめてた店長さんが私にちょっと視線をやって、セッティングを手伝う。
もう打つ手なし、あきらめろってことか。
せめて私以外に来店しないか、被害が拡散できないか?
喫煙者でも誰でもいいから、
いや、喫煙者はそのくらいの罰が当たってもいいのではないか、そして私は無罪でいいのではないか。
などとわけのわからないことを考えているうちにセッティングは終わった。
いつもの通り足もとには歪み系のエフェクターが何個も接続されている。
ご丁寧にチューナーまでついてる!
チューニングなんてやったことないクセに(きっと『なんか光るからって』という理由だけで導入したんだ、そういう人だ、この人は)!
「じゃあやるか、オレの新ネタ。世界一有名な曲のカバーだぜ」
パッチパッチ。
投げやりな私の拍手を受けて、演奏だか何だかわからないそれは始まった。
ジャーン、ジャーン
エピフォンじゃない、とっても高価なマジモンのギブソンSGを開放弦で鳴らす、喫煙者より罰当たりなプレイ。
あ~、これさえもうちょっとマトモになりゃいい人なんだけどな~。
「ん?」
ひとしきり開放で鳴らした後、いつもは桜木花道のごとくそえるだけだった左手が5フレットを押さえている!
「お、オープンGのコード!」
開放でコードDだから、D、G、の繰り返しだ。
あのポッキーさんがコードワークを行っている!
いや、こんなの誰でもできるんだけど、彼の日ごろの行いからするとかなり革命的なことだ。
ふとPA卓を見ると、店長さんも口をあんぐり開けて驚いている。
それだけ衝撃的なのだ。
そして彼は歌い出した!
「イマジ~ン、ノ~ヘブ~ン♪」
イマジンだ!
ジョンの? いや、アレはこんなコード進行じゃなかったはず……。
「キヨシローのバージョンを英語に戻して歌ってる……」
店長さんがポツリとつぶやく。
そういえばキヨシロー、というかRCが日本語でカバーしたイマジン、あったっけ。
いや、でもオープンコードで、とは。
このやり方はアイデアというより手抜きっぽいし、わざわざ英語に戻したのは、その方がなんかカッコいいからってとかなんとか、どうせクソくだらない理由だろうことを想像させるのがまた憎たらしい。
そしてD、Gを繰り返しながら
「イマジ~ン、なんちゃらかんちゃら(聞き取り不能)♪」
いわゆるAメロを繰り返してる。他の部分は恐らくできないのだろう。
そして、もう数えきれないほどのリフレインの後、
「イマジ~ン、ギャ~♪」
ひときわ大声で叫んで、曲は終わった。
もちろん、サビになんて行かなかった。
「ハアハア、どうだった?」
やり遂げたドヤ顔で聞いてくるちっさいおっさん。
私が答える前に店長が一言。
「ポッキーさんごときがコードワークとは、こしゃくな」
「あなたの感想は聞いてないって! で、どうだった?」
私の方に熱い視線を向け直す。うわ~、イヤ~。
「はい、同じフレーズの繰り返しは、グルーヴが生まれますよね」
「そうだろうってな~、な~」
「そして、殺意は明日の活力になることを学びました」
「やっぱり殺意なの?」
「ええ、おそらく私は無罪です」
ニヤリと笑う私を見て、口をへの字にして頭をかくポッキーさん。
「言うね~、今日一番のいい笑顔でさ!」
殺意を表明した顔が一番の笑顔ってなんだよ、と思いながら、私は妙に納得してもいた。
その時、お店のドアが開いて新たなお客さんが入ってきた。
手にはタバコとライター。
私はそそくさと今日弾かなかったギターを抱え、帰り支度をはじめた。
「シンデレラはお帰りの時間ってか~」
名残惜しそうなちっちゃいおっさんに、今度は殺意抜きの顔であいさつした。
「なんかいろいろどうでもよくなりましたしね! ありがとうございます。マジで!」
苦笑いも、笑顔よな。
悲しいことはいくらでもある。
でも、そんなことが吹っ飛ぶ時もある。
「次は私も何か演りますんで、よろしくです。負けないっすよ!」
了
おそらくすべての人がそうなんだろうけど、まあどうでもいい。
自分のことで精いっぱいだから。
しかし、だれかとの関わりがなければこれは解消されることはないだろう。
自分一人で解決できるほど、私は頑丈にできてはいないので。
とりあえず歌を作って歌うことが、私が人とコミュニケーションする手段だ。
これを読んでいる人のほとんどが学校に行ったことがあるだろうからわかると思うが、勉強ができたってそんなに人と仲良くなれるわけではない(少なくとも高校まではそんな感じだろう)し、私は運動が全くと言っていいほどできない。
スポーツを通して仲間を作っていく人はちょっとうらやましくもあるが、今さら身体を鍛えるのもやりたくないし、先輩後輩とかの体育会っぽいノリにはついていけない。
ライブハウスはいいよね、いい歌を歌っていれば年齢もキャリアもあまり関係ないし。
まあ外見の問題は多少絡んでくるけど、それについては他のところとさして変わらない、どこでだって可愛い子ちゃんは得をするものだ。むしろ変であることが価値になる場合もある。
「変に特化した価値の高い人、目の前にいるし」
テーブルをはさんで正面に座る背の低いおじさんを見てつぶやく。
「あ? 何か言った?」
ちっさいおじさん、通称ポッキーさんが渋い顔でこちらを見る。
いつもの首がユルユルでド派手なタイダイ柄のシャツに防弾性能ありそうなカッチカチの革チョッキ、そしてカウボーイハットという、文句なしに変、いや変態な恰好だ。
「いえ、前に申し上げた通りのことを考えていたまでで」
「またそれ? ライブハウスなんて非日常そのものなんだから、普通の恰好して何がおもしろいのよって」
「仮にも高校生女子を前にしていかがなものかと思っているのです、首元伸びきってチクビ見えそうですし」
「それ女の子が言う? 通常高校生はこんなところに入りびたりはしないって。要するに君も変なんだって」
「タバコの人が来たら帰りますよ、おかまいなく」
いまいちかみ合わないやり取りが屈託した気分を紛らわせてくれる。
ポッキーさんは外見こそ変態のちっさいおっさんだけど、イヤなことを言わない、穏やかで話しやすい人だ。
早い時間のライブハウスは、人が少ないので空気がタバコに汚染されていない。
場所に沁みついた分はいかんともしがたいが、それでもだいぶマシだ。
今日はノルマ無しのフリーステージの日。
ステージが空いていれば自由に演奏してもよい。
未成年の私にとってウーロン茶一杯五百円という価格設定はなかなか厳しいが、場所を維持するためには仕方がないのだろう。
というワケで現在、このライブハウス「幻影」には私とポッキーさんと、店長のお姉さんの三人しかいない。
さすがに人少なすぎなので、もう少し来るまでダラダラお話というワケだ。
まあ私は空気がタバコ汚染されたら退散する予定なので、この店の本日の売り上げには全く貢献しないのだけれど。
「筋金入りのタバコ嫌いだよねって。まあ高校生としては正しいんだけど。それもタバコ対策なんでしょ?」
と、ポッキーさんは水泳選手みたいな私のメガネを指さす。
フレームが幅広い、もともとは花粉症の人が使うためのものだが、ニコチン粒子を少しでもガードするべく、ライブハウスでは必ず着用しているのだ。
「もちろんですよ。でも、だれかさんの熱気でめっちゃ曇るんですけどね!」
「ハハハ、すまんすまんって。思い出すな~、初めて対バンした時のこと」
そう、アレは何か月前だったか。ポッキーさんのハチャメチャな演奏の直後にステージに上がった私のメガネは見事にホワイトアウト。
もちろん演奏はボロボロ、私史上最も殺意に満ちたライブとなった。
「楽しかったよな~、おとなしそうなメガネっ子のキレ美味な弾き語り!」
「その節は怒りの感情のコントロールについて教えていただき、ありがとうございましたッ」
「あんなにカッカしてても全然ミスしなかったから、スゲえっと思ったよ。弦の一本や二本は切りそうな感じだったのに」
私の精一杯の皮肉なんて全く通じないには大人の余裕か? いや、単に天然なだけだろうな。
「実際みんなにほめてもらったけど、なんか同情票みたいで素直に喜べなかったんですよ。いろいろな意味で罪深いっての、わかってます?」
「今日は一段と厳しいなって~、何かイヤなことでもあったの?」
む。
天然だからこそ、図星を突くこともあるか。油断ならん。
「ポッキーさん、わかってないっすね!」
「?」
「高校生の女子が、イヤなことなしで日々過ごしてるわけないじゃないんですか!」
お、ちょっとたじろいだ。
「ま、それは何となく予想できるけどさ~」
その時、ニヤニヤとこちらの様子をうかがっていた店長さんが口を開いた。
「おいおい、独身中年を困らせちゃいかんよ~」
「え~、私が悪いんですか~?」
責められるべきはおっさんの方じゃないのかしら。
「ま、ポッキーさんがキモイのは今に始まったことじゃないし、現行犯逮捕でもいいんだけど、さ~」
「オレ、何気にひどいこと言われてね? 店長さん?」
「この歳になったらもう治らないから、若い人が気を遣ってあげないとね~」
「え? もう手遅れってこと?」
「いや、ポッキーさんはそのままで十分だから、いつまでもありのままで~」
ほめてんのかけなしてるんだかわからない言葉を投げて、店長さんは私の方を向いて、ちょっと真剣なまなざしで言った。
「高校生のイヤなことなんて、正直私からすればまだまだ序の口よ~。でもそれは、今を生きるあなたに言うのはヤボよね~。まあ、このちっちゃいおっさんをイジって気が済むならバンバンやりなよ~」
「いやあ、それだけじゃ私の悩めるハートは癒されはしませんが、何かありがとうございます」
「全然フォローになってないって! 感謝の気持ちもないでしょ!」
叫びつつ苦笑いのちっちゃいおっさん。その優しさには本当に……。
「いやホントですから。もう超ポッキーさんマジリスペクトですから」
彼はイマイチ不服そうな顔で沈黙していたが、何かひらめいた顔をして私に提案してきた。
「じゃあ、リスペクトの証に曲を聞いてもらおうか! 新ネタをなって!」
え~? マンツーマンでジャイアンリサイタルを聞くってこと?
躊躇する私に目もくれず、ポッキーさんはハードケースから愛用のギター、ギブソンSGを取り出した。
「マーシャル使いますよ、あとマイク一本」
肩をすくめてた店長さんが私にちょっと視線をやって、セッティングを手伝う。
もう打つ手なし、あきらめろってことか。
せめて私以外に来店しないか、被害が拡散できないか?
喫煙者でも誰でもいいから、
いや、喫煙者はそのくらいの罰が当たってもいいのではないか、そして私は無罪でいいのではないか。
などとわけのわからないことを考えているうちにセッティングは終わった。
いつもの通り足もとには歪み系のエフェクターが何個も接続されている。
ご丁寧にチューナーまでついてる!
チューニングなんてやったことないクセに(きっと『なんか光るからって』という理由だけで導入したんだ、そういう人だ、この人は)!
「じゃあやるか、オレの新ネタ。世界一有名な曲のカバーだぜ」
パッチパッチ。
投げやりな私の拍手を受けて、演奏だか何だかわからないそれは始まった。
ジャーン、ジャーン
エピフォンじゃない、とっても高価なマジモンのギブソンSGを開放弦で鳴らす、喫煙者より罰当たりなプレイ。
あ~、これさえもうちょっとマトモになりゃいい人なんだけどな~。
「ん?」
ひとしきり開放で鳴らした後、いつもは桜木花道のごとくそえるだけだった左手が5フレットを押さえている!
「お、オープンGのコード!」
開放でコードDだから、D、G、の繰り返しだ。
あのポッキーさんがコードワークを行っている!
いや、こんなの誰でもできるんだけど、彼の日ごろの行いからするとかなり革命的なことだ。
ふとPA卓を見ると、店長さんも口をあんぐり開けて驚いている。
それだけ衝撃的なのだ。
そして彼は歌い出した!
「イマジ~ン、ノ~ヘブ~ン♪」
イマジンだ!
ジョンの? いや、アレはこんなコード進行じゃなかったはず……。
「キヨシローのバージョンを英語に戻して歌ってる……」
店長さんがポツリとつぶやく。
そういえばキヨシロー、というかRCが日本語でカバーしたイマジン、あったっけ。
いや、でもオープンコードで、とは。
このやり方はアイデアというより手抜きっぽいし、わざわざ英語に戻したのは、その方がなんかカッコいいからってとかなんとか、どうせクソくだらない理由だろうことを想像させるのがまた憎たらしい。
そしてD、Gを繰り返しながら
「イマジ~ン、なんちゃらかんちゃら(聞き取り不能)♪」
いわゆるAメロを繰り返してる。他の部分は恐らくできないのだろう。
そして、もう数えきれないほどのリフレインの後、
「イマジ~ン、ギャ~♪」
ひときわ大声で叫んで、曲は終わった。
もちろん、サビになんて行かなかった。
「ハアハア、どうだった?」
やり遂げたドヤ顔で聞いてくるちっさいおっさん。
私が答える前に店長が一言。
「ポッキーさんごときがコードワークとは、こしゃくな」
「あなたの感想は聞いてないって! で、どうだった?」
私の方に熱い視線を向け直す。うわ~、イヤ~。
「はい、同じフレーズの繰り返しは、グルーヴが生まれますよね」
「そうだろうってな~、な~」
「そして、殺意は明日の活力になることを学びました」
「やっぱり殺意なの?」
「ええ、おそらく私は無罪です」
ニヤリと笑う私を見て、口をへの字にして頭をかくポッキーさん。
「言うね~、今日一番のいい笑顔でさ!」
殺意を表明した顔が一番の笑顔ってなんだよ、と思いながら、私は妙に納得してもいた。
その時、お店のドアが開いて新たなお客さんが入ってきた。
手にはタバコとライター。
私はそそくさと今日弾かなかったギターを抱え、帰り支度をはじめた。
「シンデレラはお帰りの時間ってか~」
名残惜しそうなちっちゃいおっさんに、今度は殺意抜きの顔であいさつした。
「なんかいろいろどうでもよくなりましたしね! ありがとうございます。マジで!」
苦笑いも、笑顔よな。
悲しいことはいくらでもある。
でも、そんなことが吹っ飛ぶ時もある。
「次は私も何か演りますんで、よろしくです。負けないっすよ!」
了
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