【ジャミラが教えてくれたこと】
ジャミラが登場した初代ウルトラマンの第23話「故郷は地球」が放送されたのは、1966年12月18日。もう47年も前の話である。
身長50メートル。体重10,000トン。異様な姿の怪獣である。実は、この怪獣は、人間である。フランス人宇宙飛行士ジャミラの変わり果てた姿なのだ。フランスが宇宙開発の失敗を隠蔽するため見捨てられ、異常気象の星=水のない乾燥した星に漂着し、地球からの救援を待っている間に、こんな異様な怪獣に変貌してしまったのだ。
この不祥事を隠蔽したいフランスは、宇宙飛行士ジャミラの救援には立ち上がらない。その復讐のために、地球に戻ってきて、平和会議の出席者を次々と抹殺するというお話なのである。
子供には、難しいテーマでありながら・・・ジャミラの悲しさや、ウルトラマンにジャミラが退治されていくいたたまれなさは、いまだに記憶に残っている。誰が正義で誰が悪なのか?その「答え」が出ないままに、「故郷は地球」の放送は終わる。
ジャミラは、ウルトラマンが倒した唯一の地球人なのだ。
ジャミラは、人類の科学の進化の闇から生まれた鬼っ子だったのだ。
水のない星に漂着し、こんな異様に変貌してしまったジャミラの弱みは、なんと「水」なのである。最期は、パリ本部からの命令を受けた科学特捜隊による人工降雨弾攻撃とウルトラマンのウルトラ水流により、国際会議場の万国旗を潰しながら断末魔の叫びを発して絶命する。
子供こころに・・・「水?」って思った。科学特捜隊のどんなハイテクでもなく、ウルトラマンのどんな凄い武器でもなく、、、人類の科学の無責任な 暴走を止めるのが「水」というローテクなのである。さらに付け加えると、ジャミラの最大の武器は、口から吐く100万度の高熱火炎。そして、生まれは、フ ランス。
大人になった今だからわかるのだが・・・ジャミラのシナリオの下地になっているのは、きっと、原子力発電のことである。福島原子力発電所の暴走を止めるローテクの数々を目の当たりにした時にわいた感情は、ジャミラに立ち向かう科学特捜隊やウルトラマンとかぶるのは、これが理由だ。
ウルトラマンに倒された後、ジャミラは、立派な墓が立てられ埋葬された。墓碑銘には「人類の進化のためになくなった魂ここに眠る。」と刻まれる。しかし、その前で戦いが終わった科学特捜隊のイデ隊員は、こうつぶやく・・・
いつだってそうだ・・・・・・言葉だけは立派
人間の無責任から始まった暴走は、個人の勇気とローテクでしか防げない。そうやって戦っていった勇気ある市井の人達は、偽善の言葉に刻まれた墓に埋葬されていく。科学の進化の陰で、人類繁栄の陰で、「隠蔽」と「偽善」が繰り返される闇がある。
誰が正義で誰が悪なのか?なんて問わない。少なくとも原子力がつくる電力の恩恵を受けてきた我々が、きれい事だけで、いまいちばん満足できる「答え」を出せるなんて思っていない。そんな正義がないことをウルトラマンが身を挺して教えてくれたではないか。
善も悪もない「正義」の実行のためには、「矛盾」はつきものだ。
だから、「苦悩」を見せもしないで賢そうに振る舞うのは、もうやめようよ。
いまは、誰も正しくないことを認めようよ。
人間・ジャミラを苦悩しながら退治するウルトラマン。その「矛盾した構図」にこそ、人間の叡智があるのではないかと思える。それを教えてくれたのがジャミラである。
「憲法九条」が日本にあり続けたこと自体に孕んでいる「矛盾した構図」に、ワタシは、役割があると思っている。それをわかりやすい方に解釈したり改憲したりすることは、ワタシのココロに住んでいるジャミラに顔向けができない。わかりにくい日本のままでいることが、長期的に国益を守るための国策ではないかと思う。
ウルトラマンは飛んでこないのである。
だからこそ、ワタシたちが、矛盾を受け入れられなくてはダメになるのである。
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