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*** june typhoon tokyo ***

EMI MARIA『CONTRAST』

■ 鬱屈したR&Bシーンにおけるヒロインへの期待

Emi_maria_contrast

 
 MISIA、宇多田ヒカルらR&Bディーヴァ・ブームで雨後のたけのこのように“R&B”を称するアーティストが出現した1998年前後と同様、近年でも、いわゆる“J-R&B”などと称したり“セツナ系”などで括られることもある主に着うたでヒットしたアーティストがR&Bを称して久しい。本来のグルーヴやソウルフルなものから離れた、あるいは当初はR&Bを標榜しながら、突然ヒット・メイクのために安易なポップ路線へと“転向”してしまうことが多いなか、久しぶりに“ブラック”な路線を維持してくれそうなアーティストが登場した。それがEMI MARIA(エミ・マリア)だ。

 個人的に、勝手に“ポスト・クリスタル・ケイ”(ネクスト・~でもいいけれど)と呼んでいる彼女は、1987年生まれのパプアニューギニア人の父と日本人の母によるハーフ。姉の影響でR&Bを聴いて育ち、ジャネット・ジャクソン、マイケル・ジャクソン、キース・スウェット、デスティニーズ・チャイルドなどを好んで聴いていたという。このような音楽性嗜好や時折ハスキーな感じに聴こえる声が、クリとの相似性を想起させる。

 制作陣をみると、クリスタル・ケイにも楽曲を提供しているSTYやUTA(TinyVoice Production)、はrhythm zone所属の女性プロデューサーAILI、そしてEMI MARIAの盟友ともいえそうな(実際共同制作が多い)DJ NAOtheLAIZAの名前がみえる。現在の日本のR&B/ヒップホップ・シーンで多くの楽曲を提供し活躍している面々でもあり、そういう意味では、キャッチーで聴き入れられやすい要素は揃っているといえる。

 このメジャー1stアルバムの時点で、“これぞ、R&Bアルバムだ”と言えるかというと、そこまではまだ時期尚早かもしれない。だが、単純に今風の流行を追ったUS調R&Bのエピゴーネン的なものではないといえるのは確かだ。それは、EMI MARIA自身が詞、曲を含む制作陣に加わって楽曲創作をしていることからも窺える。自分の意志をしっかりと体現することが出来る環境は整っているからだ。

 オープナーはSTYによる「Focus on Me」で、メジャー・デビューを迎えて“この世界で輝き出すわ”と高らかに宣言する決意表明ソングだが、このリズム感や譜割にクリスタル・ケイを想起した人も多いだろう。続く「One Way Love」もクリとの相似性を匂わせるが、この2曲はクリというよりも陽的なアップを得意とするエイメリーやシアラといったあたりの楽曲を彷彿とさせるといった方が解かりやすいか。
 
 AILIによる「Show Me Your Love」は、乙女の恋心を清涼感ある南国の風のような明瞭なミッド。「Call Me」は抑揚の激しい旋律を持ちながら、あくまでもラヴリーな面持ちを崩さずに描いた失恋ソング。これもクリの楽曲を思い起こさせるSTY制作曲だが、EMI MARIAとクリが似ているというよりも、このようなタッチの楽曲をソツなく歌いこなせる技量両者にあるがゆえ、キャッチーでドラマティックな展開の曲を提供出来るということなのだろう。

 どこか懐かしさを感じさせる甘酸っぱいフックが印象的な「Change My Life」はUTAによるもの。ときめいた青春時代といったような雰囲気を違和感なく歌えているのは、自身の音楽的な幅広さを物語っているよう。この楽曲ではUTAとともに作曲にも携わっている。

 今回アルバム中最大の5曲に制作参加(そのうち4曲がEMI MARIAとの共作)しているDJ NAOtheLAIZAとの共作曲「Time is Over」は、ダークな雰囲気を漂わせたエレクトロを導入したクラブ風のサウンド使いが特徴。世界的に流行しているニーヨ=スターゲイト・ライン風サウンドといってもいいような完成度だ。DJ NAOtheLAIZAが単独で制作した名義の「Get on My Bus~でもIt's Alright~」は、現状のメジャー・ミュージックに対する怒りにも似た批判を明け透けに展開しながら、それはそれで受け入れ、自分は自分のスタイルで勝負するだけと言い切る潔い曲。メジャーへの覚悟がないと歌えない曲だ。

 本作ではゲストを二人迎えているが、そのうちの一人、最近はJUJUとのコラボでも話題となったJAY'EDをフィーチャーした「We Standing Strong」は、JAY'ED作品を手掛けてもいるBACHLOGIC(バックロジック)の制作。JAY'EDの作風寄りの楽曲にチャレンジしたといった風だ。もう一人のゲスト、般若を迎えたのが「Darknessworld」。タイトルよろしくダークで哀しげなトラックが流れるなか、堰を切ったように心の叫びを吐く般若のラップとオートチューンによる組み合わせで、世知辛く未来が見えない現状を嘆く。これはラップ詞とミックス以外、EMI MARIAが全て担当したようだ。

 ここから3曲はEMI MARIAとDJ NAOtheLAIZAとの共作曲。「S-Girl」はゆったりとしたムードを持った曲で、高音のギターが強調されてはいるが、ジャネット・ジャクソンのミッド・スロー・ナンバーを想わせる。美しいハイトーン・ヴォイスも聴きものだ。「So stupid」では大切な人との時間が思い出になっていく悲しみを歌い、「メリーゴーランド」では打ち明けられない想いが頭の中でめぐる状況をメリーゴーランドに喩えている。スナップによるリズムと鍵盤が添えられた、繊細で余韻を感じる曲だ。
 UTAによる「運命にはぐれないように」は、ゆったりとしたリズムが刻まれるなかで永遠に離さないでと告げる切ないバラード。終盤に相応しい“聴かせる”系統の楽曲だが、無駄に歌い上げていないところがいい。アリシア・キーズあたりがアルバムでやりそうな感じもする。
 ラストはSTYによる「Have You Ever」。落ち着きのあるミディアム・スローで、輝かしい陽光が照らし始める夜明けの雰囲気を持ったエンディングにマッチした曲だ。“エイ!エイ!”というコーラスでのフェイド・アウトも、希望に溢れた感じでいい。

 彼女のよさは、これまでに培われた音楽的な素養と芯があるものを取捨選択するセンス。そこに従来にない領域への貪欲なチャレンジ精神が加わっていることだ。“This is the R&B”とまではまだいえないけれど、多くの楽曲にどことなくUK風の陰りを感じるところをみると、彼女の根底には、アンダーグラウンドからのし上がってきた雑多な要素を包括する“ソウル”が流れているような気がする。クラブ調のノリノリ系のアップであれ、しっとりとしたスローであれ、確かなヴィジョンを見据えて楽曲制作していって欲しい。安易に軽さだけを求めない、真のネクストR&Bアーティストとして育って欲しい逸材だ。


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