ラジオと音楽が繋いだリスナーとのラヴリーなグルーヴ。
Especiaがパーソナリティを務めるソラトニワステーション(soraxniwa)のインターネットラジオ番組『MUSICA PLAZA』(ムジカ・プラザ)。毎週月曜日の18時から30分間、東京・原宿のソラトニワ原宿にて公開生放送されていたが、彼女たちの解散もあり、2月27日をもって番組が終了。そこで“LAST PARTY”と題したライヴ・イヴェントが開催される運びに。当初、さまざまなゲスト・アーティストを招いて音楽のルーツなどに迫っていたが、その出演者のなかから高岩遼、@djtomoko n Ucca-Laughを迎え、ラストを飾るに相応しいパーティ・ステージが繰り広げられた。会場はEspecia第2章の“朝ペシア”でもお馴染みの六本木VARIT.。ディアンジェロ「ザ・シャレード」などが流れるフロアに期待と熱の渦が帯び始めた開演時刻から10分過ぎ、Especiaの3人が晴れやかな表情で登場。番組最後の放送となる27日の収録も兼ねたMCやゲストのステージ終了後のトークを挟んだ展開で、『MUSICA PLAZA』のラストを盛り上げようという趣向だ。
トップバッターはRyo Takaiwaこと高岩遼。ジャズとヒップホップをベースにした音楽性と“成り上がり”精神を持ったストリートの感覚で注目され、ceroやSuchmosなどのくだりで触れられることも多いバンド、SANABAGUN.のヴォーカルと言った方が分かりやすいか。SANABAGUN.が昨年リリースした2ndアルバムが『デンジャー』というのも(Especia第2章の初シングルのタイトルが「Danger」)、どこか繋がりを思わせなくもない。また、岩手県宮古市出身の彼はザ・スロットルというロックンロール・バンドでも活動し、番組ではそのザ・スロットルの楽曲をオンエアしたと記憶しているが、この日は並行して活動しているジャズ・バンド仕様でエントリー。ギター、ウッドベース、ドラムの若き精鋭バンドを引き連れ、シックなスーツに蝶ネクタイとシルクハットいうフォーマルな出で立ちで、フロアに魅惑的なヴァイブスを降り注いでいく。
2曲を終えてドラマーの橋詰大智がそのまま渡米のためステージを去るというハプニングもあったが、21歳のギターと26歳のウッドベースに同じく26歳の高岩のトリオでジャズ・スタンダードを展開。「ジャズというのは自由で、時に身勝手。即興を中心にしているからミスもミスにならない」とジャズを本格的に聴かずにいるだろう観客にも優しくジャズを紐解いていく。「フライ・ミー・トゥー・ザ・ムーン」や「タイム・アフター・タイム」(「C・ジャム・ブルース」もあったか)などのスタンダードをモダンに、時々コミカルな動きでジャズの“自由度”を表現するなど、先入観を解きながら粋なステージを創り上げていく。声圧が図抜けている訳ではないが、低音を含めた深みとキザっぷりが似合う声色が何より魅力で、20代半ばとは思えない貫録とそれに相反する清々しいジェントルなムードを持ち合わせた歌唱は、特に女性には大いにウケそうだ。
ラストは彼のフェイヴァリットというレイ・チャールズの「ジョージア・オン・マイ・マインド」を泥臭く熱唱。ジャズからヒップホップ、ロックンロールと彼の多才ぶりを垣間見たステージとなった。
続いて登場したのが“ともゆか”こと@djtomoko n Ucca-Laugh(アットディージェートモコ・アンド・ユッカラフ)。これまでにDJプレミアと共演経験もあるなど海外での経験も豊富な、MPC(電子楽器の音色をパッドを叩いて制御するコントローラー)を駆使するビートメイカーの@djtomoko(TOMOKO IDA)とラップもするシンガー・ソングライターのUcca-Laugh(新山ゆか)による女性二人組だ。
MPCの手さばきを後方のスクリーンに映し出す演出を加えながら、ヒップホップからR&B、ダンスまでを巧みに乗りこなしていく。初見したイメージは誤解を恐れずに言えば“BENNIE K meets セツナ系R&B”といった風。BENNIE KはMCとシンガーの二人だが、その役割をUcca-Laughが一人でこなしていくといったらいいか。KREVAプロデュースでデビューしたSONOMIと女優の高畑充希を足したようなルックスから下世話を掠めるくらいの程よい塩梅で切ないメロディの恋愛ソングを感情豊かに歌っていく。
確かに“セツナ系R&B”の要素はあるものの、いわゆる“アーランビー”と揶揄される節も少なからずあった“キラキラ系R&B”風のチープさはなし。@djtomokoによるビートメイクにはしっかりとヒップホップからの影響が窺え、そのエッジの立ったビートが土台を支えているゆえにどんなに煌びやかで華やかな上モノが乗っても“軽薄”とか“だれる”ような音にはなっていない。
また、メロディ自体はセンチメンタルな“泣きライン”のものも少なくないが、90年代USや90年代末からのジャパニーズ・ディーヴァ・ブームにおけるR&B、さらには薄っすらニュー・ジャック・スウィングまでをも見通せるような黒とダンスの要素を散りばめた音をアクセントに、パンチのある主張の強い歌唱で楽曲をゴージャスに飾り付けていく。
「キスをして」などのスウィーティなラヴ・ソングからスムース&メロウなメロディで弾ける「HUG」、ヒップホップに重心を寄せた「クラウドスター」「B Professional」など、MPCとヴォーカルのみとは思えない豊かな表情と重層的なサウンドでフロアのヴォルテージを一気に加速させると、「Especiaも好きだけど、ファンの人たちのノリも好き」との言葉を投げかけてオーディエンスをロック。コール&レスポンスで“パッション”の渦を巻き起こし、少し前まで小粋なジャズのムードに酔いしれていたオーディエンスを、瞬く間にパーティ・ピープルに変貌させた手腕は見事の一言だった。
そして、トリはEspecia。このところ冒頭に使われる「Savior」のイントロ風に思わせるイントロダクション・トラックから「Savior」へと移行。ミア・ナシメントのリードもすっかり板についてきたと同時に、声の表情や抑揚をつける意識も芽生えた。この日は冨永悠香の悲しげな面持ちを見せる終盤のフェイクが耳に残る「雨のパーラー」へと続いたが、序盤でややダウナーなテイストの楽曲を揃えてから次第に開放性と彩度の高い楽曲へと繋げる展開は、クライマックスへのヴォルテージをより高める方法論として機能しているようだ。もちろん、その“静から動”への展開がすべてではないが、オーディエンスの感情の高まりや余韻などを見計らうに、このパターンで好反応を示すことが多い。
Especia第2章に足しげく通ったぺシスト&ペシスタにとって、「Over Time」は既に森絵莉加のリード曲の代表という認識に異論はないだろう。細かいことを言えば、やや彼女の声域に合わない部分もあり、声圧が弱まるところもなくはない。だが、その欠点を上回るしなやかさが発露しているのも事実。冨永とミアもここでは脇役に徹し、爽快さが際立つ『CARTA』版からエレガントな「Over Time」へと導いているのも第2章で培った成長といえる。ミアが再びリードを執った(おそらく第2章初披露となる)「さよならクルージン」ではフロアから“ベイベ、ベイベ”のコールも飛び出すなど、解散とは無縁な気ままにグルーヴに委ねていた頃の雰囲気も生まれ始めていた。
一旦MCを挟んで、後半は「Mistake」から。「Mistake」でも“フゥ~フゥフゥ~”のコールが飛び出し、オーディエンスの興奮のギアがまた1段上がると、おそらく新作『Wizard』に収録される新録版の「アバンチュールは銀色に」へ。ここでマイクトラブルがあったのか、森がしきりにマイクチェンジを促し、ミアは不安げな表情を見せたが、そこで冨永が機転を利かせて森にマイクを差し出し寄り添うとミアも同調。偶発的に3人が寄り添いながら歌唱するパフォーマンスとなり、不安から歓喜へと一気に昇華。第2章スタート当初には皆無だった連係と視野の広さ、グループとしてのステージングの成熟が醸し出された瞬間でもあった。
クライマックスは、これも第2章スタート当初は演奏が想像出来なかった「No1 Sweeper」から本編ラストの「Boogie Aroma」へ。特に秀逸だったのは「No1 Sweeper」だろう。元来グループにとっても悩殺度の高いキラー・チューンだったが、冨永の表情豊かなリード、森とミアの仄かな色香を彩るコーラスに、さらにミアの裏リードとも呼べるフックでの情動揺さぶるファルセットが加わって、単に弾けるだけでない大人の享楽を体現したグルーヴ・ダンサーへと変容。蛹が蝶へと羽化する瞬間を眼前にしているような感情が頭をもたげるのは、決して幻想ではないだろう。しかしながら、奇しくも“蜃気楼”や“儚い夢”という意味を持つ『Mirage』から幕を切って落としたEspeciaが、過去曲「No1 Sweeper」をもって“幻想”を超えた境地へと手が届きそうなその直前に、解散というタイムアウトが迫ってくるとは不思議というか皮肉なものだ。
ステージ毎に目覚ましい成長を遂げ、表情にも充実感が窺える今。ただ、その実は解散を決定し、重いものから解き放たれたゆえに生まれたのが大きいというのも否めない。たとえるなら、ノーサイドまで僅かな時間しかなく、勝敗が決していながらも自分たちのプレーをやりきろうとトライを目指すラグビーチームの清々しさにも似ているか。冨永、森、ミアのスクラムにより強さと柔軟性が生まれてきているだけにやるせない。
それでもやはり、Ucca-Laughが放った言葉が全てを凝縮しているのだろう。「解散は残念だけど、Especiaの曲はずっと残っていく。聴き続けていくでしょう?」……その問いかけに、マイクを差し出されたぺシストが「もちろん」と答えた、それが今の彼女たちへ向けての想いだ。
解散まではあと約1ヵ月。プレイボタンを押し、Especiaの楽曲に酔いしれ、彼女たちとともに踊り明かせる日々はまだ存分にあるのだろう? そう自身に訊き返しながら、夜の六本木を足早に去ったのだった。
◇◇◇
<SET LIST>
≪Ryo Takaiwa≫
≪@djtomoko n Ucca-Laugh≫
≪Especia≫
00 INTRODUCTION
01 Savior
02 雨のパーラー
03 嘘つきなアネラ
04 Over Time
05 さよならクルージン
06 Mistake
07 アバンチュールは銀色に(New Ver.)
08 No1 Sweeper(Extended Ver.)
09 Boogie Aroma(English Ver.)
≪ENCORE≫
10 海辺のサティ 2016
<MEMBER>
Especia are:
Haruka Tominaga(vo)
Erika Mori(vo)
Mia Nascimento(vo)
Ryo Takaiwa(vo)
田中亮輔(g)
菊池藍(b)
橋詰大智(ds)
@djtomoko n Ucca-Laugh:
@djtomoko(MPC)
Ucca-Laugh(vo)
◇◇◇
【〈Especia the Second〉(新体制)以降の記事】
・2016/06/25 ESPECIA@渋谷Club asia
・2016/08/12 Especia「Mirage」
・2016/08/28 Especia@渋谷CHELSEA HOTEL
・2016/09/11 Especia@O-nest
・2016/10/16 Especia@六本木VARIT
・2016/11/13 Let's Groove@六本木VARIT
・2016/11/27 Especia@六本木VARIT
・2016/12/24 Especia@六本木VARIT
・2016/12/25 Especia@HMV & BOOKS TOKYO
・2017/01/13 談話室 スパイス ~ Flavor of Especia ~
・2017/01/19 談話室 スパイス ~ Mirage ~
・2017/02/19 Especia@渋谷CHELSEA HOTEL
◇◇◇