WAY WAVE色のラヴ・ソングで彩った、ヴァレンタイン・スペシャル・ライヴ。
昨年12月22日に3rdアルバム『VENUS STEP』をリリースした、杏奈と優奈のリアル・ソウル&ファンク・シスターズ“WAY WAVE”が、今回で45回を数える定期公演〈部員集会〉を開催。盟友のDJ arincoと、長谷泰宏とユミによるファンタジックなポップ・ユニット“ユメトコスメ”を招いて、ヴァレンタインデー直前に相応しい、ラヴ・ソングをテーマにしたステージを展開。だが、そこはソウル&ファンク・シスターズ。胸がキュンキュンするようなキュート&ファンシーな世界観はユメトコスメに任せて、不倫ソングなどの一癖あるWAY WAVE流ラヴ・ソングを携えてきた。会場は東京・渋谷のGARRET udagawa。
開演前はDJ arincoがDJプレイでフロアを温める。seikou nagaoka(長岡成貢)がケリー・サエをフィーチャーした「Let's Get Started」からスライ&ザ・ファミリー・ストーン「ダンス・トゥ・ザ・ミュージック」を配したイントロダクションへ雪崩れ込むと、WAY WAVEの2人が登場。アップビートのギター・グルーヴが走る「あいたいのあいたいのとんでいけ」からDJセットによるWAY WAVEセクションが幕を開けた。
軸となるのは最新作『VENUS STEP』の楽曲で、前半に「マジカル恋愛体質」「SUMMER BREEZE」、後半に「レトロなステップのヴィーナス」「2番目の女」と本編ラストの「HEY」と5曲を披露したが、その合間に未音源化楽曲の弾き語りやカヴァー楽曲、ユメトコスメの単独ステージとコラボレーションステージをコンパクトに散りばめているから、ヴァラエティに富んでいて、飽きることなく展開していくのがいい。コーナーによっては少し曲数が物足りないと感じることがあるかもしれないが、そう感じるくらいが実は飽きの来ない絶妙なバランスだったりもする。
レア曲コーナーでは、初期に演っていたというアン・ルイス「恋のブギ・ウギ・トレイン」の新オケヴァージョン・カヴァーと、姉・杏奈が杏奈 from ANNA☆Sとして出した(こちらは“らしい”)ラヴ・ソング「ハピネス・ピンク」を披露。「恋のブギ・ウギ・トレイン」は高揚と快活を呼び起こすキャッチーな好カヴァーに。一方「ハピネス・ピンク」はエレクトロなシンセ・アレンジがカラフルに舞うダンス・チューンという、毛色の異なる2種のラヴ・ソングでフロアに熱をもたらした。
まだCD化されていない自作曲を演奏する弾き語りコーナーでは、「Happy Life Together」「Stand Up Boy」の2曲を。のちにCD化、アルバム収録される楽曲も出るとのことで、オーディエンスの反応を見るという意味合いもあるのかもしれない。
中盤にはゲストのユメトコスメが登場。ユメトコスメは、Negiccoや花澤香菜、『ラブライブ!』のμ'sなど(ペシスト的にはNegipecia「水着・浴衣・花火・背伸び」、脇田もなり「祈りの言葉」を手掛けたといえばピンとくるか)へ楽曲提供している長谷泰宏が主宰する、乙女チックな美観とコスメティックな輝きで絢爛可憐なを織りなす音楽ユニット。生でユメトコスメを観たのは、矢舟テツローによる主催イヴェント〈それぞれのレトロ〉(記事→「それぞれのレトロ@下北沢BAR?CCO」)以来だから、3年強ぶりとなるか。
この日は通常の2名体制ではなく、ベースに河瀬英樹、ドラムに加納エミリやミア・ナシメントのバックドラマーでもあるManakaを加えたバンド・セットで、Chelip「これって恋だと思うんだ」、新山ひな「美・粒・子・ジェニック」、広瀬愛菜「なんだ、ただの青春か」という他アーティストへの提供楽曲のセルフカヴァーを、「出会いがしらの一秒後」「真夏日、時々、斜め上」という新旧のオリジナル楽曲で挟み込んだ構成で披露。ユミいわく「久しぶりのライヴで凄く緊張しています」とのことだったが、ユメトコスメの良さは、長谷のポップに弾ける鍵盤の音色とユミのメルヘンなヴォーカルが重なると、一瞬にして甘美でロマンティックな世界がオーロラのカーテンか妖精がかける魔法のごとく眼前に現れるという、マジカルなところ。「ユメトコスメの曲はみんな可愛い曲で、演奏していても聴いていても可愛くなれるので、みなさんも今、どんどん可愛くなってきている」と微笑みながらユミが語っていたのも、なるほど頷ける。そこへ気の利いた河瀬のベースと身軽なManakaのドラミングがプラスされ、“跳ね感”の高いスウィートなポップネスを横溢させていた。
ユメトコスメのステージ終了直後にWAY WAVEがステージインし、しばしトークへと移っていったのだが、ここで長谷がWAY WAVEの良さについて言及。特に歌詞が「ヤバい系を通り越してエグい系」というぶっ飛び具合が良いとのことで、「Hello New Wave」の歌詞を(以前、NHK Eテレで放映していた『佐野元春のザ・ソングライターズ』にて佐野元春が学生相手に歌詞を読み聞かせていたような感じで)「オフィスの窓のRock'n Roll / センチメンタルなDancing Beat……」と声に出して読み上げ出した(一番好きなフレーズが「陽気なゾンビのCandy Shop」とのこと)。これはプロデューサーからの普通の歌詞を書いてくるな、プロが書きそうな歌詞を書いてくるなという指令ゆえのことらしいが、確かにあらためて歌詞を声に出したものを聞いてみると、長谷がエグい系と言いたくなるのも納得してしまう。
個人的にはあまり歌詞には重きを置かないタイプなのだが(英語がネイティヴレヴェルでスラスラと聞き取れない自分が洋楽を好むのも、詞より楽曲やグルーヴを重視しているゆえだろうし)、わざわざ意識せずとも耳や脳裡に残る歌詞やフレーズというのは、言葉に力があるという意味では名リリックといえそうだ。単に奇抜な描写だから、というのではなく、その詞やフレーズとサウンドやリズムとマッチしているからこそ耳や脳裡に中毒的に残るとすれば、「Hello New Wave」を例に挙げたように、よく読めば意味が分からないぶっ飛んだ系の詞も名曲の一部の要素になるはずだ。
プロデューサーの意向でラヴ・ソングといっても不倫ソングなどひねくれたものが多いと自虐していたWAY WAVEだが、ブラック・ミュージックを基盤にするアーティストであれば、不倫や成就しない恋、恨み節、略奪愛などの一見ネガティヴな要素こそがソウル&ファンクなラヴ・ソングの王道くらいの気持ちでいればよいと思う。実経験をすれば、より説得力が増すゆえ、実際に不倫でもなんでもしてもらって……とは言わないが(笑)、日常によく溢れる陳腐な恋愛を綴ったものなどには目もくれず、斜に構えたり、クセが強いぶっ飛んだリリックを書き続けてもらいたいものだ。
さて、後半はソウル・メドレーからスタート。今回はチャカ・カーン特集ということで、ホイットニー・ヒューストンの歌唱でも知られる「アイム・エヴリ・ウーマン」(長谷が好きだということで急遽曲目を変更したとのこと)とプリンスの楽曲を歌った「アイ・フィール・フォー・ユー」をセレクト。これらのカヴァーを聴いていると、この2人のヴォーカルスキルの高さも分かるし、楽曲をしっかりと咀嚼していることも伝わってくる。プロデューサーの趣味で、若い歌い手が知らない古き良き名曲を“歌わされる”というギャップで勝負するというスタイルに面白さはあるが、真摯にソウルやファンクに向き合う者が醸し出す歌には敵わない。ということからも、WAY WAVEは大いに強みを持っているといえる。「2番目の女」で歌われる“やさぐれ”感や、「Looking For Woman」での意志の強さを抱いたファンキーな歌い口などにも、それは感じ取ることが出来る。
しかしながら、高いレヴェルで飛躍し続けているWAY WAVEの2人にも、気になる点もなくはない。ソウルやファンク・ナンバーを単に高い歌唱力で歌うのみであれば、極論本場のアーティストを聴けばよい訳で、そこにはないオリジナリティをいかに強く出していけるかということが課題か。楽曲自体であれパフォーマンスであれ、一目見て聴いてWAY WAVEらしい味付けをどこでつけていくか。また、杏奈と優奈との異なる部分をより明確化するなどのキャラクタライジングも必要になってくるかもしれない。このあたりは歌唱やステージングの質を向上させるというよりは、目を惹くためのスタンス、いわば売れるための戦略とでも言おうか。秀抜なヴォーカルスキルを持つ姉妹デュオという強力なアイテムが広く知られないというのは、日本の音楽シーンにとって損失に他ならないのだから。
黄昏時を想起させるほんのりセンチメンタルな雰囲気も醸す「HEY」で本編を終えるやいなやフロアに響くクラップを受け、WAY WAVEの2人とユメトコスメ・バンドがアンコールに登場。生バンドのコラボレーションとしてピックアップしたのが、エルボウ・ボーンズ&ザ・ラケッティアーズ「ア・ナイト・イン・ニューヨーク」のカヴァーとやや季節の先取りが過ぎる「SUMMER GIRL」の2曲だ。
「ア・ナイト・イン・ニューヨーク」は1983年にヒットしたディスコ/ダンスクラシックスで、原曲は後半になるにつれて高鳴るホーンとチッチッチッチというドラムやドンツクドンツクと刻むリズムが響くフュージョン/ディスコ作風だが、ここではホーン・サウンドがない代わりに、シャカタクあたりの煌びやか&スタイリッシュなジャズ・ファンク・ムードに寄せたアレンジで披露。先ほどまで声を唸らせてやさぐれた不倫ソングを歌っていた2人が、大人びた佇まいで夜風を受けて街を歩いているような、おめかししたコーラスを繰り出していて、面白かったと同時に、歌唱の懐の深さも感じられた。
ちなみに、エルボウ・ボーンズ&ザ・ラケッティアーズはその名を直訳すると“肘の骨と詐欺師たち”というその場のノリでつけたような名前だが、実体はキッド・クレオールことオーガスト・ダーネルを中心とした変名バンド。エルボウ・ボーンズはキッド・クレオール&ザ・ココナッツのツアーでダーネルと親しくなり、ダーネルの側近として“肘”で入り込んだことから“エルボウ・ボーンズの名を得た……としていることからも、おふざけ感に満ちている。MCでも説明していたが、日本では田中美奈子が「秘密の夜にして」のタイトルで夏野芹子(夏ノ芹子)の訳詞によって日本語カヴァーしている。シティポップが時流の今にとっては、旬のカヴァーともいえそうだ。
ラストは、長谷がキーボードを弾いている「SUMMER GIRL」でエンディング。爽快で煌めくウワモノとは対照的に(杏奈がリハーサルで手元ばかりを見ていて、本番での演奏中もつい話しかけそうになるくらい見惚れたという)河瀬が爪弾くベースがブンブンと響き、心地よいボトムを生み出していたのが印象的だった。
多彩なゲストを招きながら、さまざまなチャレンジをして経験値を高めているリアル・ソウル・シスターズ。フレッシュでグルーヴィなコーラスワークが日の目を見るために必要なほんの僅かのピースを探しながら、大胆に冒険しチャレンジする姿を、今後のステージでも見せてもらいたいものだ。
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<SET LIST>
≪WAY WAVE Section≫
00 INTRODUCTION~Dance To The Music(Original by Sly & The Family Stone)(with DJ arinco)
01 あいたいのあいたいのとんでいけ(with DJ arinco)
02 マジカル恋愛体質(with DJ arinco) (*V)
03 SUMMER BREEZE(with DJ arinco) (*V)
04 恋のブギ・ウギ・トレイン(Original by Ann Lewis)(with DJ arinco)
05 ハピネス・ピンク(Original by 杏奈 from ANNA☆S)(with DJ arinco)
06 Happy Life Together(unrecorded)(with guitar)
07 Stand Up Boy(unrecorded / New Song)(with guitar)
≪ユメトコスメ Section≫
08 出会いがしらの一秒後
09 これって恋だと思うんだ(provided by YUME TO COSME to Chelip)
10 美・粒・子・ジェニック(provided by YUME TO COSME to 新山ひな)
11 なんだ、ただの青春か(provided by YUME TO COSME to 広瀬愛菜)
12 真夏日、時々、斜め上
≪WAY WAVE Section≫
I'm every woman(Original by Chaka Khan)(with DJ arinco)
I feel for you(Original by Prince, well known as Chaka Khan's singing)(with DJ arinco)
レトロなステップのヴィーナス(with DJ arinco) (*V)
2番目の女(with DJ arinco) (*V)
Looking For Woman(with DJ arinco)
HEY(with DJ arinco) (*V)
≪ENCORE / Collaboration Section≫
A Night In New York(Original by Elbow Bones And The Racketeers, also known as “秘密の夜にして” by Minako Tanaka)(with ユメトコスメBAND)
SUMMER GIRL(with ユメトコスメBAND)
(*V):song from album『VENUS STEP』
<MEMBER>
WAY WAVE are:
Anna Koike / 小池杏奈(vo,g)
Yuna Koike / 小池優奈(vo,g)
DJ arinco(DJ)
ユメトコスメ are:
Yumi / ユミ(vo,tamb)
Yasuhiro Hase / 長谷泰宏(key)
Hideki Kawase / 河瀬英樹(b)
Manaka / 真成香(ds)
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【「WAY WAVE」に関する記事】
2020/01/19 HALLCA,WAY WAVE @渋谷 RUIDO K2
2020/12/13 HALLCA,WAY WAVE @渋谷 RUIDO K2
2021/04/09 天野なつ ✕ WAY WAVE @下北沢CLUB251
2021/10/17 Mia Nascimento / WAY WAVE @GARRET udagawa
2021/11/17 WAY WAVE @TOWER VINYL SHIBUYA【インストア】
2022/02/13 WAY WAVE / ユメトコスメ @GARRET udagawa(本記事)
【「ユメトコスメ」に関する記事】
2017/11/15 MILLI MILLI BAR@代官山WEEKEND GARAGE TOKYO
2018/11/21 それぞれのレトロ@下北沢BAR?CCO
2022/02/13 WAY WAVE / ユメトコスメ @GARRET udagawa(本記事)
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