カラフル&フレッシュに飾った、ガーリーなアクト。
渋谷・LOFT HEAVENにて行なわれている“フェアラブ”ことFAREWELL, MY L.u.vの定期公演〈DONT TOUCH MY RADIO〉。前回(FAREWELL, MY L.u.v @LOFT HEAVEN)から約2ヵ月ぶりとなる第4弾を開催。前回に引き続き、FAREWELL, MY L.u.vからの派生ラヴァーズ・レゲエ・プロダクションのFAREWELL, MY D.u.bに加え、“うさべに”の愛称で知られるマルチ・アイドルの宇佐蔵べにをゲストに迎えるほか、フェアラブの金津美月とそのサポートメンバーで構成される金津美月With!がオープニング・アクトに登場。リブートにて始動以降、回を重ねるにつれて、ステージのヴォリュームが増している感じだ。
これまでの3回は、出囃子の「プリティKiSS」からフェアラブが挨拶代わりに歌ってスタートする導入だったが、この第4回はオープニング・アクトがあるため、場内BGMのフェードアウトとともに、金津美月を含めた4人がスルスルと登場。前触れもなくハイテンションな音が鳴り出したかと思ったら、“巷で噂のセクシー上上”と合いの手が入って来た。どこかで聴いた覚えがある曲だなと頭を巡らせながら、セーラー服のコスチュームで踊るティーンズたちによる脳天に刺さる(J-POPというよりも)“ダサ系”アイドル歌謡に直面。楽曲の終盤の“巷で噂の……巷で噂の……巷で噂のセクシーボーイ”の昭和歌謡・カラオケファン大好物的な合いの手の連呼にまみれるうちに、「こんなベタなダサ歌謡するのはつんくっぽいな……あ、モー娘。か」と思い出した次第。2006年のモーニング娘。の29thシングル「SEXY BOY〜そよ風に寄り添って〜」がそれで、センターの高橋愛と田中れいなに加え、藤本美貴、久住小春、亀井絵里がメインヴォーカルを務めた時期の楽曲だ。ちなみに、ベタなダサ歌謡というのは、つんく作の場合は個人的に誉め言葉となる。
1曲歌い終えると、さらに1人がステージに上がって自己紹介。中学1年のリオ、同3年のまぽ、高校1年のゆいかと(後からステージインした)かりん、そして美月(なぜか「大学1年の~」と言わない)と金津美月 With!の面々が勢揃い。美月はブレザータイプ、それ以外がセーラー服(スタンダードの白地に紺のセーラーや紺地に金のラインのもの、ラインの数が2本や3本とか、ワッペン入り、リボンの色が青やエンジだったりと、それぞれタイプが若干異なる)のコスチュームで、メインパーソンの美月とサポートメンバーの立ち位置を示している模様。休日のブランチタイムに、グループについての事前情報のないまっさらな状態で初めて観ることになり、多少面食らったところはあったが、ハロプロ系の楽曲は、耳にするうちに慣れてくるから不思議なものだ。
その後も美月が元ハロプロ研修生ということもあって、美月、かりん、ゆいかでカントリー・ガールズの「恋泥棒」、再び5名揃ってJuice=Juice「Goal~明日はあっちだよ~」とハロプロ楽曲のカヴァーを披露。中学1年から大学1年まで(おおよそ13歳から19歳)と思春期としては年数以上にその差を感じるメンバー構成だが、そのあたりもモー娘。をはじめとするハロプロ系グループのスタイルに似ているか。何よりもチアフルなパフォーマンスが特色で、メンバーが共に楽しく歌い踊り、若さならではのパワーで“元気づける”というのが魅力だ。最後の「Goal~明日はあっちだよ~」で、With!にも名を連ねているゆいか(ここでは“ゆいきち”とも)が、勢いのまま拳を突き上げオイオイ系のコールを叫んだりと、フェアラブの時とは違った顔を見せていた(伸び伸びとやれていた?)のが、面白かった。
続いては、“フェアダブ”ことFAREWELL, MY D.u.b。おそらく現時点で楽曲がEP『Girls Lovers Reggae Vol.1』の5曲のみなので、前回と同様にEP収録の5曲を演じるが、多少曲順を変えた構成に。ソロ・ヴォーカルとなる山添みなみの「オトシモノ」「奏」のうち、特に「奏」ではセンチメンタルな表情を声色に乗せ、同じくソロ・ヴォーカルの金津の「時をかける少女」ではアイドルらしいキュートな歌唱で、それぞれの個性を打ち出していた。
そんなアイドルチックなピュアネスを垣間見せる美月に対し、MCで山添が一撃を喰らわす。この日は通常の衣装(フェアダブのTシャツ)ではなかったのだが、実は金津が「洗濯して乾かなかったから」という理由で、急遽私服になったと暴露。これに対し美月が「ママが悪い! ママが洗ってくれなかったんです!」「私は悪くない!」というエクストリーム弁明を発動して、フロアに笑いを起こしていた。
デュオで披露した「Good Day -S.A.L.A.D REMIX-」「染まってゆく」では、ことさらフックとなるパフォーマンスはないが、ステージを重ねていくうちに、コンビネーションが良化しているようだ。以前聴いた際には相方を気遣いながら、やや物怖じして歌い出していた感じもあったが、このステージではそういった素振りも見せず。ステージ以外でのコミュニケーションもプラスになっているのかもしれない。
フェアダブ初のEP『Girls Lovers Reggae Vol.1』には、タイトルに”Vol.1”とついていることから、ファンにとってはVol.2以降の続編も期待しているだろう(とはいえ、作品に“Vol.1”とつけて以降、リリースがなく終わったパターンも数多くあったりするが……)。楽曲が増えた時に、どのようなヴォーカル・コンビネーションやヴァリエーションをもたらすのか、あるいはシンプルに原曲のアレンジ・チェンジのみのシンプルなスタイルで続行するのか、気になるところではあるが、美月、山添それぞれの良さを打ち消すことない形で創出されると嬉しい。
フェアラブ勢と唯一異なるゲストとなったのが、マルチ・アイドルの宇佐蔵べに。あヴぁんだんど(その後avandoned)、APOKALIPPPS、FRUN FRIN FRIENDSといったアイドル・ユニットのほか、元たまの石川浩司らとの“えんがわ”やトイ楽器バンドのCHILDISH TONESへの参加といった活動を重ねて、ソロ・プロジェクトを展開している。あヴぁんだんど以下のグループは名前は聞いたことがあるくらいで、彼女が所属していることなどはもちろん知らなかったが、この4月に発表したソロ1stシングル「passion」が加納エミリのプロデュースということで、そこから存在を知ったクチだ。
クリっとした瞳など人懐っこい愛嬌ある表情やどこか古風な面影も覗かせる顔立ちと、ショートカットのヘアスタイルが印象的だが、花を挿した花瓶を持ってステージに登場した後、インストゥルメンタルのイントロダクションに合わせて、コンテンポラリーダンス風のダンスを披露したりと、アーティスティックな資質とクリエイターな一面があるのだろう。実際、振り付けをはじめ、アパレルショップやデザイン、映像編集なども行なっていて、そういった“表現”については一家言ありそうだ。
前半の「passion」「keep on」「open mind」は、いずれも加納エミリが制作に関与。「passion」は浮遊感あるシンセ・コードのアタックと気怠さを帯びたポップ・メロディが耳を惹く、オルタナティヴR&Bマナーのソウル・ポップ、「keep on」は加納とトラックメイカーの犬間シンとの共作で、エアリーなポップネスを弾けさせるカラフルな彩色の軽やかな曲調と、時折挟み込まれるラップ風の歌い口が印象的。なかでも新曲という「open mind」は、導入からのグルーヴィなカッティングギターをはじめ、スウィートながらもチラチラと棘を見え隠れさせるという加納らしさに満ちたグルーヴィ・ソウル。加納のサウンドには、思わせぶりに見えるけれども決して媚びないわ、というようなアティテュードをよく感じていたのだが、その意匠的なものを宇佐蔵べにも歌唱において体現。アイドル性もあるキャッチーな振り付けを絡ませながら、夏らしい爽快と刺激、胸躍る心情を衒いなく歌い紡いでいく。
後半の3曲は、ユニットの楽曲をセルフ・カヴァーした形か。「カステラたべたい」やアウトロにセリフパートもある「プアンコンタイ」は、なゆたあく(元あヴぁんだんど)とのユニット“FRUN FRIN FRIENDS”、「マーガレット」はavandonedがオリジナル。FRUN FRIN FRIENDSの楽曲は、タイトルからも想起出来るようにユニークな詞世界が特徴で、どことなく日常の事柄を童話的なストーリー性を持たせたドリーミーな小世界のようなムードが漂う。ダンサブルなアッパー・チューン「マーガレット」は、ほのかなメルヘンと甘酸っぱさが滲むビター・スウィートな青春ポップス。個人的には加納プロデュース楽曲により興味を抱くが、さまざまな楽曲にもぶつからないフレキシブルな表現力がマルチ・アイドルと自称する所以なのかもと思えた。
宇佐蔵が神戸にショップを開いているという話の流れで、美月の「神戸、海あるんですか」の発言に端を発し、ゆいかに「高校、危なかった」、宇佐蔵に「大学生で神戸に海あるのを知らないのは……」とツッコまれたり、「(金津美月With!、フェアダブ、フェアラブと3組ともに出てきて)見飽きてきた」とゆいかに弄られるなど、笑いの絶えない宇佐蔵とのトークセッションを経て、トリのフェアラブへ。
「7 DAYS FOCUS」からフェアダブの演目にも入った「Good Day」まで7曲を披露したのだが、楽曲としてのトピックは新曲の「Stargazing」だろう。「STELLA」に続くオリジナル楽曲だが、惑星や星光の「STELLA」から“星を眺める”意の「Stargazing」と、リブート以降は星シリーズという目論見もあるのだろうか。今ステージでも偶然か「Stargazing」から「STELLA」という曲順で、星にまつわる世界観を演出していた。
その「Stargazing」は、70年代ソウルやディスコを微かに思わせるファンキーなビートとスウィートなメロディが麗しく流れる、ファンタジックなソウル・ポップ。そこにゆいかによるサブカル的ラップを組み込ませたり、単なるメロウ・ポップに終わらせない仕掛けも。夜空一面に広がる星の群れが新たな物語を生み出すようなメルヘンなムードは、美月のスウィートなヴォーカルに寄り添うなど、二人の個性を活かした楽曲に仕上がっている。
また、耳を惹いたのは、ゆいかのヴォーカル。MCで「こどもビールを呑んで二日酔いなんです」、曲フリの際には「(美月が)英語読めないから、私が言ってあげます」などと“絶好調”だった彼女だが、この日は以前よりもヴォーカルの伝達力が向上が見て取れた。歌声に力強さが出てきたのと、時折こぶしやビブラート、しゃくりのようなものも散見。意図的に入れているかどうかは定かではないし、それらを使い分けている訳ではないだろうが、歌を単になぞるだけでない意識が芽生えた結果の一つの表われなのかもしれない。ダンスを含めた表現力や安定性というところでは、まだ美月に肩を並べたとまでは言えないが、歌唱を介しての表現力に変化が見られるのはいい傾向といえよう。MCでは、いっぱいいっぱいで頭が空っぽになり、お腹がすいたなどと奔放に発しているが、曲が流れだした瞬間にスイッチが切り替わるのか、度胸においては姉以上なのかもしれない。
リアルシスターズによるグッド・ミュージック・ショーにMCでのオトボケ漫談が加わった(?)定期公演〈DONT TOUCH MY RADIO〉。リブート始動当初から比べれば、当然緊張感はあるものの、次第に歌うことの楽しさと表現力の成長も垣間見られるようになってきた。星が生まれ、恒星として光を放つまでになるプロセスよろしく、ステージ経験を重ねて一歩でも先のシーンへ成長する過程を引き続き見せてもらいたいと、多くのファンも思うだろう。そのトライ&エラーの場として、以降の〈DONT TOUCH MY RADIO〉にも期待したいところだ。
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<SET LIST>
《金津美月 With! Section》
01 SEXY BOY〜そよ風に寄り添って〜(Original by モーニング娘。)
02 恋泥棒(Original by カントリー・ガールズ)
03 Goal~明日はあっちだよ~(Original by Juice=Juice)
《FAREWELL, MY D.u.b Section》
01 オトシモノ(山添みなみ vocal only)(Original by miwa)
02 奏(山添みなみ vocal only)(Original by スキマスイッチ)
03 Good Day -S.A.L.A.D REMIX-(Original by FAREWELL, MY L.u.v)
04 時をかける少女(金津美月 vocal only)(Original by 原田知世)
05 染まってゆく(Original by FAREWELL, MY L.u.v)
《宇佐蔵べに Section》
00 INTRODUCTION
01 passion
02 keep on
03 open mind
04 カステラたべたい(Original by FRUN FRIN FRIENDS)
05 マーガレット(Original by avandoned)
06 プアンコンタイ(Original by FRUN FRIN FRIENDS)
~FAREWELL, MY L.u.v ✕ 宇佐蔵べに Talk Session~
《FAREWELL, MY L.u.v Section》
01 7 DAYS FOCUS
02 HAPPY LIGHT
03 obsession
04 gloomy girl
05 Stargazing(New Song)
06 STELLA
07 Good Day
<MEMBER>
FAREWELL, MY L.u.v are:
金津美月
ゆいか
FAREWELL, MY D.u.b are:
金津美月
山添みなみ
宇佐蔵べに
金津美月 With! are:
金津美月
かりん
ゆいか
まほ
リオ
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2018/12/31 MY FAVORITES ALBUM AWARD 2018(「ブライテストホープ賞」の項)
2020/07/11 FAREWELL, MY L.u.v『DONT TOUCH MY RADIO』
2020/12/09 FAREWELL, MY L.u.v『GOLD』
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2022/05/03 FAREWELL, MY L.u.v @恵比寿CreAto
2022/07/17 FAREWELL, MY L.u.v @LOFT HEAVEN
2022/09/19 FAREWELL, MY L.u.v @LOFT HEAVEN(本記事)
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