深まる秋をアーバン・リゾートへ一変させた、20周年アニヴァーサリー第2弾。
デビュー20周年となる一十三十一が、恒例のビルボードライブ東京公演を20thアニヴァーサリー・スペシャル・ヴァージョンとして開催。2022年のビルボードライブ東京公演はすでに3月に〈〜20th Fantasy Anniversary〜〉として行なわれていた(記事→「一十三十一 @Billboard Live TOKYO」)が、今回は元キリンジの堀込泰行をゲストに迎えてのステージ。一十三十一と堀込のコラボレーションは、2021年に“流線形/一十三十一”として開催したビルボードライブ東京公演(記事→「流線形/一十三十一 @Billboard Live TOKYO」)に観賞して以来。
「ウィズアウト・ユア・ラヴ」などのブライアン・カルバートソンの楽曲がBGMで流れているなかで場内が暗転。“オッケン”“ZEUS”こと奥田健介をバンドマスターに、南條レオ、小松シゲル、冨田謙、ヤマカミヒトミというお馴染みの面々が、白や青を基調にした清涼感漂うドレスコードに沿ったジャケット・スタイルという出で立ちでステージインすると、「ミステリートレイン」のイントロが流れるなかで、一十三十一が登場。一十三十一は秋を感じさせるベージュ系のニットセーター風のトップスで、今回は露出は多くないんだなと思っていたら、ボトムが丈はロングもミニスカート部より下は黒のシースルー地。さすがのコケティッシュなヴィジュアルでの登場となった。それと、この日はベースの南條が前回はかけていた丸眼鏡をせずに眼鏡姿でなかったのと、ヘアスタイルがバッチリ決まってたこともあってか、いつもよりイケメンに見えた印象。バンドはいつも通り安定感ある、スタイリッシュでブリージンな音色を奏でていた。
「ミステリートレイン」から「Last Friday Night Summer Rain」までを立て続けに演奏。「ミステリートレイン」は哀切漂う深まる秋を抒情的に描いていたが、「DIVE」に続く「Last Friday Night Summer Rain」となると、タイトルに“Summer”があるように当然なのだが、一気にブリリアントなアーバン・サマーへと連れ去ってくれる。
20周年記念2度目のライヴ、2022年11月11日を「ニャンニャンニャンのワンワンワン…あと何?」と言う一十三十一の独特の表現に、奥田が「今日は鮭の日」「鮭の漢字の右側(つくり)が〈十一・十一〉だから……」と応じると「あ、トイトイ(十一・十一)状態ってこと?」「鮭と私がシンクロしてるってこと?」とテンション高めに反応。客席から「ベースの日!」と声が掛かると、「でもね、そう思うじゃない? そう思うじゃない? ……五弦なのよー」と南條に視線を向ける。ベースの日は、11月11日の1の4つ並びがベースの4本の弦のように見えるということで、亀田誠治の提案で2015年からスタートしたとのこと。ただ、この日の南條は「音域的に下の音を出したかった」との理由で、4弦ではなく5弦のベースにしてしまった模様。観客から「あー」と声が漏れるも、南條の「一応、ベースの日っていうことでお願いしていいですか、みなさん」との声に観客も拍手。一十三十一の「20年分のアーバン、してね」の発声から、デビュー曲「煙色の恋人達」へ移行した。
「煙色の恋人達」はもちろん現在のシティポップやそれ以前の70年代ニューミュージックの薫りを感じさせるのだが、ダニー・ハサウェイ、カーティス・メイフィールド、マーヴィン・ゲイあたりの70年代ニューソウルやジャズ・ファンクを感じさせるR&Bテイストが通底していて、デビュー当時も注目していた。余韻を残す纏わりつくようなヴォーカルも相まって、一十三十一とR&Bとの相性の良さも感じたものだ。ここではホーンセクションをはじめとするフュージョン・マナーのアレンジで、現在の一十三十一のアティテュードに沿った演奏で披露してくれた。
浜辺美波と岡田将生のW主演ドラマ『タリオ 復讐代行の2人』を見ながらよく聴いていた「悲しいくらいダイヤモンド」だが、もう2年も経つのかと思うと、時の早さに驚かされる。流線形との共同名義でドラマの音楽全般を担当した訳だが、“江口ニカ”時代から流線形との音楽性の親和性を再認識した次第。
スペシャルゲストとして呼び込まれた堀込泰行とは、その『タリオ 復讐代行の2人』のサントラ『Talio』から「嘘つき手品」と、2014年のミニ・アルバム『Pacific High / Aleutian Low』でKashifとデュエットした「羽田まで」を泰行ヴァージョンで。堀込は奥田、小松のNONA REEVESと97年デビューの同期だそうで、今年25周年のアニヴァーサリーなのだが、「本当だったら(アルバムを)リリースして25周年といいたいんだけど、リリースするものがないので、25周年に乗り損ねてる」「きっかけを失ったまま、30周年まで待つしかないのかな」と自虐なコメント。一十三十一が「でも、流線形と出したりしてますよね……」(流線形のミニ・アルバム『インコンプリート』にフィーチャリング・ヴォーカルとして参加)と助け舟を出すと、その後『インコンプリート』収録の「3号線」の堀込泰行カヴァー・ヴァージョンの7インチアナログ・リリースにも言及。一十三十一も何回か歌っている「3号線」について、2ndヴァースの冒頭で「窓の外 駒沢のビルを」の“駒沢”を(ビルボードライブ東京だったら「乃木坂の~」ってやりましたよ)とライヴの会場の地名に替えて歌うのもいいんじゃないと提案しながら、「大阪の~」と一十三十一が歌うと、堀込が「だいぶ流線形のイメージと違うけど」「でも、大阪にも流線形のファンいるし、歌ってあげないと。失礼だもんね、やらなかったら逆に。大阪では歌いませんとか」にフロアからは笑いが。「大阪もアーバンですから」と一十三十一が再び助け舟を出すと、堀込が「そうですよ、日本第2の都市ですから……ちょっとガラが悪いけどね」に、再び笑いが起こった。
その話に流されたのか、「という訳で、次は流線形の曲をやりたいと思います」に拍手が起こるが、「じゃない。流線形の曲に行く流れになったけど、やらない」とのフリから「羽田まで」へ。Kashifヴァージョンとはまた異なるノスタルジアが滲むアクトとなった。
堀込がステージアウトするも、「羽田まで」のアーバンなノスタルジーの空気を保ったまま、「ロンリーウーマン」へ。一十三十一は歌唱もなかなか好調なようで、心地よい表情でスキャットやフェイクをしているのが印象的だった。本編ラストは「次の曲でラストでいいの~?」「なんかお尻とか痛くないの~? お尻が痛そうだなぁ~。お尻が痛くなってきてるんじゃないの~」と繰り返し、スタンディングを促してからの“ダンシング・トイ”・チューン「恋は思いのまま」へと雪崩れ込み。やはり一十三十一のライヴにはこの曲がないと、と思わせるキラー・チューンで、チャカポコなるグルーヴィなギターやブイブイ鳴るベース、シャキシャキと刻むドラムと煌びやかに夜を彩るサックスに華やかな彩色の鍵盤をバックに、スウィート&コケティッシュな一十三十一が歌い踊る。その姿に感化され、スタイリッシュなダンスフロアへと変貌していった。
アンコール明けには、「20周年アルバム作る宣言してた割にアルバム出してなかったり、SNSでレコーディング風景をアップしている割にリリースしてないんじゃね?みたいな感じですが、私の仕事は終わっていて、リミックス以降でちょっと“渋滞”してたりしますが、たぶん年明けくらいには」「来年はオリジナル・フル・アルバムも出しますよ。宣言します、よ」との声にフロアから拍手の波が。
カヴァー曲をやることが多いアンコール1曲目だが、本ステージでは、2015年にエンジニアにtofubeats、リミキサーにDorianが参加したデビューEP『カクテルパーティー』で注目されたシティポップ・グループ“the oto factory”に客演した「ラストダンスは眠れぬパライゾ」を、20周年のエクストラ・バンド・ヴァージョンとして演奏。80年代シティポップの要素が散りばめられたパッショネイトなビター&スウィート・チューンだが、作詞と作曲に一十三十一が関わっているゆえ、その世界観はアーバン・リゾートのラヴアフェア全開。「シトラスの薫り」のフレーズよろしくほろ苦くも甘美なムードを創出していた。
「アゲインしたいですよね? アゲインしてほしいですよね」とのフリから再び堀込を呼び込んでのアンコール2曲目は、流線形 feat. 堀込泰行「潮騒」と一十三十一「人魚になりたい」とのマッシュアップ的なクロスオーヴァー・リミックス・アレンジを。流線形 feat. 堀込泰行「潮騒」は男性視線から、一十三十一「人魚になりたい」は女性視線から綴ったという、歌詞違いの同じ曲というオリジナルとアンサーソングを混ぜ合わせた形にした、20周年ライヴならではの特別仕様で披露。愛着の沸く親しみある堀込のヴォーカルと、エレガンスと愛くるしさの絶妙なバランスの一十三十一のそれが交差する瞬間には、まだ初々しさや気恥ずかしさを残しながらも惹かれ合う恋人達のような空気も醸し出す好アクトとなった。
アウトロで堀込をステージから見送ると、ラストは「Flash of Light」でエンディング。本曲の世界観は夏の光線だが、ガラス越しの赤坂の夜景から注がれる“光”の演出効果も加わって、シャッフルするリズムとともに、秋の夜を一十三十一らしいフレッシュでエレガントなリゾート・スペースへと一変させたステージとなった。
振り返ってみれば、2年前に流線形/一十三十一名義で『Talio』のサウンドトラック・アルバムを出してはいるものの、オリジナル・アルバムは2017年の『ECSTASY』で止まったまま。次はいかなるコンセプトの作品になるのかを期待しながら、リリース後のステージにも注目したいところだ。
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<SET LIST>
01 ミステリートレイン (*MH)
02 DIVE (*CD)
03 Last Friday Night Summer Rain (*SU)
04 煙色の恋人達 (*36)
05 悲しいくらいダイヤモンド (*TA)
06 嘘つき手品(guest with 堀込泰行)(Original by 流線形/一十三十一 feat. 堀込泰行) (*TA)
07 羽田まで(guest with 堀込泰行) (*PA)
08 ロンリーウーマン (*MH)
09 恋は思いのまま (*CD)
≪ENCORE≫
10 ラストダンスは眠れぬパライゾ(Original by the oto factory feat. 一十三十一)
11 潮騒✕人魚になりたい(guest with 堀込泰行)(流線形 feat. 堀込泰行「潮騒」crossover 一十三十一「人魚になりたい」)(*CD)
12 Flash of Light (*EC)
(*36):song from album『360°』
(*CD):song from album『CITY DIVE』
(*SU):song from album『Surfbank Social Club』
(*PA):song from album『PACIFIC HIGH/ALEUTIAN LOW』
(*MH):song from album『THE MEMORY HOTEL』
(*EC):song from album『ECSTASY』
(*TA):song from album『Talio』
<MEMBER>
一十三十一(vo)
奥田健介(g / Band Master / from NONA REEVES)
南條レオ(b)
小松シゲル(ds/ from NONA REEVES)
冨田謙(key)
ヤマカミヒトミ(sax,fl)
guest with:
堀込泰行(vo)
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【一十三十一のライヴ観賞記事】
2014/03/24 一十三十一@Billboard Live TOKYO
2014/08/31 一十三十一@Billboard Live TOKYO
2015/10/26 一十三十一@Billboard Live TOKYO
2016/09/18 一十三十一@billboard Live TOKYO
2017/08/31 一十三十一@billboard Live TOKYO
2018/03/02 一十三十一@billboard Live TOKYO
2019/07/12 一十三十一 @EBiS 303
2020/02/21 一十三十一 @Billboard Live TOKYO
2020/11/08 一十三十一 @Billboard Live TOKYO
2021/04/16 流線形/一十三十一 @Billboard Live TOKYO
2022/03/02 一十三十一 @Billboard Live TOKYO
2022/11/11 一十三十一 @Billboard Live TOKYO(本記事)