Party People、Funky People、Beautiful People……代々木に舞った感謝という名のキスの雨。
4月からスタートした全国ホールツアー〈TOSHINOBU KUBOTA CONCERT TOUR 2015“L.O.K”〉を終え、そのアリーナ版〈CONCERT TOUR 2015“L.O.K Supa Dupa”〉へと移った久保田利伸。その東京での最終公演の前日、1日目をステージを観賞。会場は久保田利伸のホームとも言える国立代々木競技場第一体育館。
サブタイトルを“L.O.K Supa Dupa”(“Supa Dupa”はアルバム『L.O.K』収録のAKLOをフィーチャーした「Cosmic Ride」の歌詞から採っていると思われる)としたエクストラ公演だが、楽曲構成は5月のNHKホール公演(久保田利伸@NHKホール)とほぼ同じ。ただ、やはり代々木第一という大きな会場ということもあり、全体的な音鳴りやライティング演出などがスケールアップした感じだ(その分、アリーナ後方やスタンド後方の客席からはステージが遠く感じられたと思うが)。これで、久保田利伸の観賞記録は次のとおりになる。
・2006/07/30 久保田利伸@代々木第一
・2010/06/26 久保田利伸@NHKホール
・2010/07/28 久保田利伸@東京国際フォーラム
・2010/07/29 久保田利伸@東京国際フォーラム(2)
・2011/11/17 久保田利伸@NHKホール(1)
・2011/11/18 久保田利伸@NHKホール
・2012/01/22 久保田利伸@代々木第一
・2013/10/31 久保田利伸@東京国際フォーラム
・2015/05/24 久保田利伸@NHKホール
開演直前のDJ大自然によるDJプレイ後に始まる展開からホールツアー公演とほぼ同様の構成のため、詳細は前回の記事(久保田利伸@NHKホール)に譲るが、やはり28年前からライヴをこなしてきたホーム、代々木でのステージとあって、久保田利伸の思い入れや気合も一段ギアがアップしたような“ノリ”の良さを見せていた。
その“ノリ”の良さは楽曲演奏以外のところにも随所に表われていた。ライヴではお馴染みとなった幕開けやアンコール明けなどで披露するメロディをつけての挨拶(“代々木に集う~ファンキーピーポー”といったような節回し)はもちろん、MCでのメンバーたちとの掛け合いなどでもサラッと歌いながら笑いをとったりと、楽しませ方も一級品。
この日は、盟友・柿崎洋一郎との掛け合いが秀逸。長年一緒にやっているとツーカーで通じ合うものだと、松任谷由実と彼女のツアー監督やキーボードを務める武部聡志との関係性を例に挙げて(ここで「武部クン、あの曲弾いて」と久保田がユーミン風にモノマネ)、柿崎に「八番目の虹の色」(1989年『GROOVIN'』収録)や「君に会いたい」(1990年『BONGA WANGA』収録)を弾いてと促すも、柿崎は困った表情をしながら鍵盤を叩けない。そこで久保田が「じゃあ、ユーミンの「卒業写真」は」と促すと、柿崎は笑顔でOKマーク。1番だけではあるが、松任谷由実のカヴァーを披露するというレアな展開に。「なんでオレの曲は弾けなくてユーミンのは弾けるんだよ?」と迫る久保田に柿崎が「高校の時から聴いてたから」と答えると、会場が温かい笑いに包まれた。
また、アイズレー・ブラザーズのボッサ・カヴァー「Between The Sheets」でのダンサー・Kanakoとの絡みについては、ツアー序盤は階段に座る久保田の後ろで演技を終えていたのが、先日には膝の上に顔が来るまでになり、これ以上はないと思ったら「今日はそれから抱き合いっちゃいました」と茶目っ気たっぷりに語ったりも。
さらに、アンコール後には代々木恒例の“ゴーゴー・ダンス・パーティ”へ。会場を左スタンド席、アリーナ、右スタンド席に3区分し、観客と一体となって踊る企画コーナーだ。来年に30周年を迎えることに因んで“めでたい”をテーマに、ダンサーと久保田をダンスの先生役にしてそれぞれ“鶴”“亀”“鯛”のダンスを踊り、ファンキーなヴァイブスを共有。この日はVIP席にナインティナインの岡村隆史の姿がなく、残念ながらこちらも“恒例”の飛び入りは見られなかったが(最終日か?)、ライヴの余韻を長く保つのに充分なパーティ演出に、観客からは笑顔の波が生まれていた。
調子という意味では多少疲れもあるかと発声や歌唱から感じられもしたが、それも言ってみれば微々たるもの。全体としてのパフォーマンスの質としては充分。また、久保田以外のバンド、コーラス、ダンサーがサポートと呼ぶにはもったいないほどのスキルを発揮し、揺らぐことのない強固な土台を構築しながら文字通りフロントに立つ久保田を後押し。国内最高峰のユニットとして比類なきステージングで、代々木に集うファンたちをパーティ・ピープルへ変貌させていた。
重箱の隅をつつくとすれば、やはり前回に言及した楽曲構成か。ミディアムやアッパーのセクションとスロー&バラードなセクションとのテンポ・チェンジがやや多いため、スタンディングから座る、またその逆の回数が多くなることか。アッパーなセクションはもう少し長めでもいいのかもしれない。たとえば、コーラス隊がメイン・ヴォーカルを務めるセクション(久保田の衣装替えの時間にも充てられているが)での「アイム・エヴリ・ウーマン」から「Loving Power」への展開などは興奮のアクセルをさらに踏み込むようなテンションへと繋がっていたゆえ、その後にスロー・ダウンしてしまったのは惜しかった気もした。
一方、観客にも一言。コーラス隊によるカヴァー・セクションでは(トイレへ行くためか)席を立つ人が少なくないが、彼らのヴォーカルも是非堪能してもらいたいところ。グラミー・ノミニーでもあるタイ・スティーヴンスほか素晴らしい逸材ばかり。楽曲のセレクトはソウル/ブラック・ミュージック・ファンなら王道の選曲ながら、しっかりとショウとしてのエンターテインメント性を持ち合わせており、リアルなソウルを体感するいい機会でもある。前述のとおり、シック(ナイル・ロジャース)やファレル、ディアンジェロの1stアルバムでドラムを務めたラルフ・ロールを筆頭にバックの音鳴りは最高水準で、そこには情熱や音楽に対する真摯な姿勢が十全に感じられる。ソウルのエキスに満ちた空間でもあるのだ。
久保田利伸も来年で30年を迎える。最先端のサウンドで目先を惑わすような斬新さはなくとも、心の炎を焚き付けるファンクネスは常に健在だ。長いキャリアの中で彼には“不変の真理=ソウル”がしっかりと宿っていて、時代の変化に左右されないオーセンティックなソウルパワーがあるからこそ、さまざまな人たちに音楽の楽しさを伝えられているのではないかと思う。
客層は確かに4、50代あたりがメインと高齢化しているが、若い世代や小・中学生くらいの子供の姿も少なくなかった。いい音楽は世代を超えて受け継がれていく。背伸びをしたり横に身体を動かして少しでも長く遠くのステージを見ていたいという子供たちの姿を見かけ、久保田がこれまでやってきたことは間違いではなかったのだなという感慨深さも。
さて、記念となる30年はいかなる展開が待っているのか。久保田利伸との付き合いは、まだまだ終わりそうにない。
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<SET LIST>
00 L.O.K(Introduction)(*)
01 Cosmic Ride(*)
02 GIVE YOUR MY LOVE
03 Da Slow Jam(*)
04 To the Limit
05 Upside Down(*)
06 Free Style(*)
07 Missing
08 It's a shame(Ty Stephens)(The Spinners Cover)
09 Street Life(Nikki)(Randy Crawford Cover)
10 I'm every woman(YURI)(Chaka Khan Cover)
11 Loving Power(*)
12 Squeeze U(*)
13 Between The Sheets(Original by Isley Brothers)
14 永遠の翼
15 ~Ad lib. Section~
卒業写真(ad lib.)(Original by Yumi Matsutoya)
声にできない(ad lib.)
16 Indigo Waltz
17 Bring me up!(*)
18 LA・LA・LA LOVE SONG
19 Oh, What a night!
≪ENCORE≫
20 LOVE RAIN~恋の雨~
21 ~Go Go Dance Party~(Including“Oh, What a night!”)
(*)song from album『L.O.K』
<MEMBER>
久保田利伸(vo)
柿崎洋一郎(key)
Ralph Roll(ds)
森多聞(b)
オオニシ ユウスケ(g)
GAKUSHI(key)
DJ大自然(turntable)
Ty Stephens(cho/vo)
Nikki(cho/vo)
YURI(cho/vo)
Ricky(dancer)
Kanako Fujita(dancer)
Shanti(dancer)
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