会計ニュース・コレクター(小石川経理研究所)

東芝の不正会計、ガバナンスの何が問題なのか?(Newsweek日本版より)

東芝の不正会計、ガバナンスの何が問題なのか?

東芝の不正会計を取り上げたコラム記事。

コーポレートガバナンス(企業統治)には、株主総会、社外取締役、社内監査、社外監査の4つがあるとしたうえで、東芝の問題では、「4番目の社外監査を行った会計事務所、そして2番目の社外取締役の責任は重い」といっています。

「2009年に発覚したオリンパスの不正経理の場合は、高度な隠蔽工作がされていたわけで、毎年の決算にあたって、例えば外部監査でも不正が見抜けなかったというのは全くわからない話ではありません。ですが、今回の東芝の場合は、報道によれば現場も巻き込んで「広く薄く利益の水増し」が長期間にわたって行われ、その合計金額が500億円に達していたというのですから、腕利きの公認会計士であれば見抜けないはずはありません

 特に、工事の進捗具合などで「売り上げの一部を計上する」というような操作における売り上げの過大計上などは工事の進捗状況の写真や、過去の売上計上の基準との比較などを行えば、見抜けないはずはありません。内部監査にしても、外部監査にしても、そのレベルの帳簿や証拠書類の原票のチェックなどはルーチンに入っているはずです。

 そのような中で、今回の問題は監査人の告発ではなく、内部告発によって初めて明るみに出たというのは、まさに日本の企業統治が機能不全に陥っていることを示していると思います。」

ちょっと違うんじゃないかという点もありますが、外部のジャーナリストから見ればこういうことなのでしょう。東芝の監査人を擁護する義理も能力もないので、当事者や、会計士の評判を守ってくれる会計士協会に、反論はお任せしたいと思います。東芝の第三者委員会報告書では、監査人のことにもふれると予想されます。それに対しては、明確な反論を期待します。

「「企業の全体の利益をエイヤッと水増し」したのではなく、「個々の件についての不正が積み上がっただけ」だから、これは「不適切会計」であって「粉飾決算ではない」といった「オトモダチ感覚の甘い対応」はスパッと止めるべきでしょう。」

これはそのとおりです。

東芝不適切会計 企業統治はどうなった(東京新聞社説)

「取締役会にはチェック機能が期待されるが、人事、経営全般にわたり権力が集中している経営トップを、内部昇格してきた社内取締役が批判するのは難しい。東芝は四人の社外取締役に加え、社内に監査委員会を設けていたが機能しなかった。外部の監査法人による会計監査も巧みにすり抜けていた

 東芝は連結売り上げが六兆五千億円、二十万人の従業員を抱え、過去に経団連会長を輩出するなど日本の産業界の屋台骨を支える企業でもある。第三者委員会、監視委は有価証券報告書の虚偽記載なども含め、厳しい調査で東芝の経営に何が起きたのかを明らかにしてほしい。」

マスコミ報道では「虚偽記載」という言葉をよく使っていますが、監査論では「虚偽表示」という言葉があります。

「虚偽表示 Misstatements

報告される財務諸表項目の金額、分類、表示又は開示と、適用される財務報告の枠組みに準拠した場合に要求される財務諸表項目の金額、分類、表示又は開示との間の差異をいう。虚偽表示は、誤謬又は不正から発生する可能性がある。監査人が、財務諸表が、すべての重要な点において適正に表示しているかどうかに関して意見表明する場合、虚偽表示には、監査人の判断において、財務諸表がすべての重要な点において適正に表示するために必要となる、金額、分類、表示又は開示の修正も含まれる。」(監査基準委員会報告書 序より)

この定義では、会社の役員・従業員が意図的に正しい表示と違う表示を行ったかどうかは、問題となっていません。単純ミスでも、間違った表示を行っていれば、虚偽表示です。

これに対して、マスコミ用語の「虚偽記載」では、意図的(あるいは「うそ」)かどうかが要件となっているようです。

「きょぎ‐きさい【虚偽記載】

1 企業が財務諸表の記載内容について意図的に事実の改竄(かいざん)や隠蔽を行うこと。有価証券報告書に重大な虚偽記載があった場合、経営者・法人は金融商品取引法違反に問われる。また、虚偽記載を行った企業の株式は上場廃止の対象となる。」(コトバンクより)

「有価証券報告書の虚偽記載

金融商品取引法は、上場企業などに事業年度ごとの経理状況など、事業についての重要事項を記した有価証券報告書の提出を義務づけている。報告書の内容にうその記載があった場合の罰則は、個人は10年以下の懲役もしくは1千万円以下の罰金、法人は7億円以下の罰金。投資家が正しい情報に基づいて判断できるよう保護することが目的で、影響が大きいと証券取引所が判断すれば、上場廃止になる場合もある。」(コトバンクより)

法律用語としての「虚偽記載」もあるわけですが、手元に参考になる本がないので、正確にはよくわかりません。金商法では、例えば、以下のような条文で使われており、不正による場合だけでなく、誤謬による場合も含まれるように読めます。

「(虚偽記載等による訂正届出書の提出命令及び効力の停止命令)
第十条  内閣総理大臣は、有価証券届出書のうちに重要な事項について虚偽の記載があり、又は記載すべき重要な事項若しくは誤解を生じさせないために必要な重要な事実の記載が欠けていることを発見したときは、いつでも、届出者に対し、訂正届出書の提出を命じ、必要があると認めるときは、第四条第一項から第三項までの規定による届出の効力の停止を命ずることができる。・・・」(金融商品取引法より)

「(虚偽記載のある発行開示書類を提出した発行者等に対する課徴金納付命令)
第百七十二条の二  重要な事項につき虚偽の記載があり、又は記載すべき重要な事項の記載が欠けている発行開示書類を提出した発行者が、当該発行開示書類に基づく募集又は売出し(当該発行者が所有する有価証券の売出しに限る。)により有価証券を取得させ、又は売り付けたときは、内閣総理大臣は、次節に定める手続に従い、当該発行者に対し、次の各号に掲げる場合の区分に応じ、当該各号に定める額(次の各号のいずれにも該当する場合は、当該各号に定める額の合計額)に相当する額の課徴金を国庫に納付することを命じなければならない。・・・」(同上)

東芝の場合に当てはめてみると、会社はすでに過年度の有価証券報告書に含まれていた決算数値に大きな間違いがあったことを公表しているわけですから、監視委は(確認ぐらいはするかもしれませんが)自分で調べるまでもなく、また、間違いが意図的であったかどうかにかかわらず、虚偽記載を認定できることになります。会社や役員に対して、課徴金を課したり、刑事告発するかどうかは、次のステップとなります。
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