「伝説の会計士」細野祐二が新著で解説、特捜の手口とゴーン事件
会計評論家(元会計士)の細野祐二氏が、『会計と犯罪――郵便不正から日産ゴーン事件まで』(岩波書店)という本を出したそうです。これは、同氏に、この本の内容などについて聞いた記事。
細野氏のいっていることが間違っているというのではありませんが、キャッツ事件についてはつっこみたくなります。
「大手監査法人の代表社員であった細野氏は、キャッツ粉飾決算事件での逮捕により、監査法人を除名された。公認会計士としての立場も失ったままだ。そうした境遇に置かれながら、その経験と知見を基に独自に確立したのが「犯罪会計学」である。本書はその研究の集大成でもあるという。
この研究を通じて、私は、村木事件が無罪判決を受け、長銀・日債銀粉飾決算事件の下級審、並びに、キャッツの粉飾決算事件が有罪判決となった理由を解明することができました。ひと言で言えば、「経済犯罪は犯罪事実を争わないと特捜検察に勝てない」ということです。実は、特捜検察が手掛けるような経済事件で、犯罪事実が争われることはほとんどありません。経済事件は故意犯なので、本来、犯罪事実と被告人の故意が共に争点になるはずですが、ほとんどの弁護人は、犯罪事実を争わず、被告人の故意だけを争っているのです。
なぜなら、特捜事件で犯罪事実を争うということは、特捜検察の立件そのものが間違いだと言うのと同じですから、特捜検察に対する全面対決となってしまうからです。負ければ、その弁護士は、その後の執行猶予狙いの事件で特捜検察から報復を受けることになりかねません。しかも、オッズは99.9%の負けと出ているのです。そんな恐ろしいことをしてくれる弁護士は滅多にいないのです。だから、ほとんどの弁護人は、特捜検察に敵対視されないように、勝てないと知りながら、被告人の故意だけを争っているのです。
ところが村木さんは、特捜検察に何らの恐怖感も持たない弘中惇一郎弁護士により、犯罪事実の全面否認を貫くという、特捜検察とのガチンコ勝負を展開しました。だからこそ、無罪判決を勝ち取ることが出来たのです。」
人質司法の問題や刑事事件として有罪とすべきだったかどうかは別として、キャッツに関しては、おかしな会計処理をやっていたことは事実であり、監査人としての責任はあるように思います。
「長銀・日債銀事件の最高裁逆転無罪判決は、「不良債権の張本人が公訴時効となる中で、後始末をやらされた経営陣が有罪というのはかわいそう」という圧倒的な国民世論の支持を背景として出されました。私の裁判では、これがありませんでした。キャッツから渡されていた1000万円という報酬について、「粉飾決算を指導した見返りにもらった1000万円」という検察側が作ったストーリーが社会に浸透していたからです。
しかし、公認会計士とは、そもそも企業から金を貰って監査をすることを職業としているのであり、私の場合は、結局その金を貰わずキャッツの経営陣に返しているのです。この金がキャッツの決算と関係がないことは、貰った現金に巻かれていた銀行の帯封番号を照会すればすぐ分かります。」
監査報酬と同じ正当な報酬だとすれば、わざわざ現金でもらう必要はないでしょう。所属していた監査法人として行った業務の対価なら、監査法人の口座に振り込んでもらえばよいでしょうし、個人としての業務提供の対価だとしても、1000万円ともなれば普通は振り込みでしょう。また、監査クライアントの経営者に、監査法人のパートナーが個人的に業務を提供し、対価を受け取るというのは、監査の独立性の問題もあります(当時はいまほどルールが厳しくなかったとは思いますが)。キャッツの決算と関係ないカネだとしても、細野氏ほどの優秀な人なら、受け取るべきでないカネ、少なくとも受け取ると誤解を受けそうなカネだということは、わかっていたはずです。