農林中央金庫の2009年3月期決算(単体)の最終損益が5657億円の赤字(前期は2720億円の黒字)となったという記事。
「保有する有価証券全体の評価損処理が6215億円に上ったほか、含み損も2兆929億円に拡大した。業績悪化を受け、退任した上野博史前理事長への退職金も見送る。ただ、自己資本比率は、グループ内で実施した1兆9000億円規模の資本増強により、前期比3・10ポイント上昇し、15・65%を確保した。
22年3月期の見通しについては、河野理事長は「巨額の減損処理により、市況が下落しても損失は拡大しない」とし、21年3月期で6127億円の赤字だった経常損益で700億円程度の黒字への転換を見込んでいる。」
記事で言っている含み損は、貸借対照表では時価評価により反映されている(損益計算書を通さず有価証券評価差額金を直接減少させている)はずなので、やや不正確な言い方かもしれません。逆に理事長の「巨額の減損処理により、市況が下落しても損失は拡大しない」という発言はよく理解できません。マイナスの有価証券評価差額金が増えているということは、今後さらに市況が悪化すれば損益計算書上損失計上される可能性のある金額が増えているということですから、楽観視はできないはずです。
ただし、決算資料の注記をよく読むと、その他有価証券から満期保有債券への振り替えが14兆円以上行われています。満期保有に振り替えれば、損益は市況の影響を受けない(デフォルトになれば別ですが)ので、「損失は拡大しない」のかもしれません。
(参考-保有目的変更の注記)
「従来,「その他有価証券」に区分していた変動利付国債は,平成20 年12月30 日に時価(7,605,555 百万円),一部の外国債券(証券化商品等)は平成21 年1 月30 日に時価(4,248,330 百万円),平成21 年3 月31 日に時価(2,143,399 百万円)により「満期保有目的の債券」の区分に変更しております。当該変更区分は,売買事例や取引量が極端に縮小していることや,オファービッドスプレッドについても大幅に拡大していたため,想定し得なかった市場環境の著しい変化によって公正な評価額で売却することが困難な期間が相当程度生じていると判断したものであります。」
「公正な評価額で売却することが困難」な有価証券を多額に保有しているというのは、それはそれで大きな問題だと思いますが・・・。
その他有価証券の時価算定方法の一部変更も行っています。
「変動利付国債の時価については,従来,市場価格をもって連結貸借対照表計上額としておりましたが,昨今の市場環境を踏まえた検討の結果,市場価格を時価とみなせない状態にあると判断し,当連結会計年度末においては,経営者の合理的な見積もりに基づく合理的に算定された価額をもって連結貸借対照表計上額としております。これにより,市場価格をもって連結貸借対照表計上額とした場合に比べ,「有価証券」は425,664 百万円,「その他有価証券評価差額金」は425,664 百万円それぞれ増加しております。」
「一部の外国債券(証券化商品等)の時価については,従来,ブローカー等の第三者から入手した評価価格をもって連結貸借対照表計上額としておりましたが,昨今の市場環境を踏まえた検討の結果,市場価格を参照して算定されているブローカー等の第三者から入手した評価価格を時価とみなせない状態にあると判断し,当連結会計年度末においては,経営者の合理的な見積もりに基づく合理的に算定された価額をもって連結貸借対照表計上額としております。これにより,ブローカー等の第三者から入手した評価価格をもって連結貸借対照表計上額とした場合に比べ,「有価証券」は1,094,767 百万円,「その他有価証券評価差額金」は501,260 百万円それぞれ増加するとともに,その他業務費用および経常損失はそれぞれ593,506 百万円減少しております。」
一連の金融商品会計基準緩和策を最大限利用しているようです。
平成21 年3月期 決算概況について(PDFファイル)
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