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[MLB短評]カード地獄

2010-04-11 11:05:00 | MLB
【書評】米ベースボールカード、1100億円市場の崩壊-野球熱低迷で(ブルームバーグ)
Mint Condition: How Baseball Cards Became an American Obsession
Dave Jamison
Atlantic Monthly Pr

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自分もメジャーリーグを見始めてからしばらく経った頃、ちょうど1990年代前半で日本人選手などいう存在は
なかった頃ですが、メジャーリーグのベースボールカードを集めだすようになりました。初めて渋谷にある有名な
アメリカンスポーツのグッズを扱っているお店でカードが入ったパックをいくつか購入し、幸運にもその中の1枚に
今ではメジャーを代表するショートストップのひとり、デレック・ジーターのルーキーカード(プロに入って最初に
発行されるカード)が含まれていました。ただその当時はヤンキーズといえば大金を垂れ流すダメチームとしか
認識しておらず、この選手もどこまで大成するかなどと考えることもありませんでしたが、今ではカードの状況にも
よりますが、1枚30ドルほどになるようです。

収集しはじめたときには、どの選手のカードがどれくらいの価値があるのか、ということは全く考えることは
ありませんでした。集めるのが楽しかったのです。でもある時、カード収集家のための雑誌Beckettという存在を知り、
その当時まだ手薄だったメジャーリーグやNFLについての情報と英語の勉強のために何度か購入しました。
そこにはカードの値段表だけでなく、スター選手のインタビューとともに、新しいカードの情報や、熱狂的なグッズの
収集家の話題など、いろいろと書かれていました。もちろん今でも売られている雑誌です。現在このようにして
メジャーリーグやNFLなどにすごく関心をもつことができているのは、衛星放送というハイテク技術とふたつの
ローテク技術、この雑誌と薄っぺらいカードの賜物です。
Beckett Baseball Card Price Guide 2010

Beckett Pubns

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しかし、この"Mint Condition"という本によれば("Mint Condition"とは収集家の間では傷物ではないことを指す)、
自分がメジャーリーグのカードに興味を持ち始めた頃、実はカード業界が曲がり角に差し掛かっていたようです。
1990年代初頭まで、カード業界ではTopps社が一大勢力でした。その後何社かがこの事業に参入しだします。
特にあらゆるスポーツグッズで有名なUpper Deck社が綺麗な写真とホログラム入りのカードを売り出すようになり、
Topps社の対抗馬にのし上がりました。それはメジャーリーグの選手会がベースボールカード発行の許可を
多くの企業に与えたからです。それはフリーエージェントが当たり前になり、メジャーリーガーの年棒が高騰した頃とも
一致します。観客収入やテレビ放映権料だけでは足りなかったのでしょう。

皮肉なことに、メジャーリーグはその選手たちの給与のために1994年から95年にかけてストライキに入ります。
これがメジャーリーグの人気を下げ、同時にカード業界も頭打ちになった、とこの本では書かれているようです。
もちろんストライキもカードバブル崩壊の要因なのでしょうが、カード業界もそれに対抗するため、プレミア度が
高いカードを次々と出すようになったことも原因だと思います。

もともと、子どもから大人までが気軽に集めることができる点がベースボールカードの魅力だったのですが、いつからか
完全な投資商品のひとつになってしまいました。カード会社はレギューラーセットとは別に、選手のサイン入りや
ジャージの切れ端をはめ込んだカードが入ったセットを売り出すようになります。それらは1パックの値段が子どもの
お小遣いでは手の出せないくらいの値段でした。しかも本当にスター選手のサイン入りカードを当てるには、
途方もない確率で引き当てなければならなかったのです。また、これは何人かの選手が実際にBeckettの中で
語っていることですが、スタジアムで子どもたちに混じって、大人が大人気ない姿をさらしながらもカードにサインを
ねだるようになりました。もちろん、このカードを高値で売るためにサインをしてもらうのです。

自分も普通に収集しながらも、そうしたプレミア度の呪縛に捕まりかけていました。狙ってそうした高額カードを
買おうとはしませんでしたが、自分が持っているカードはいくらぐらいするのかはすごく気になってしまいました。
名前が知られていても、本当に価値があるスター選手はごくわずかで、その選手のふつうのカードを引き当てる
だけでも大変でしたが、レアカードなんていったらほぼ不可能でした。「初めて買ったパックの中にリプケンの
サイン入りカードが入っていました!」などという投書を見ると、若干(?)羨ましくなったこともありました。

ただ、こうして「作られた」バブルに疑問を感じ、カード収集から手を引くコレクターも出てくるようになりました。
90年代後半のBeckettでも「こういう状況はおかしい!」という収集家からの投書で取り上げられていましたが、
自分もその中のひとりになっていきました。昨日今日発売されたアレックス・ロドリゲスの超プレミアムカードに
80年前のホーナス・ワグナーのカードと同じくらいの値段が付いたり、まだプロで1打席も立っていない選手の
ルーキーカードに3けたの価格が付くこともあったり(莫大な契約金をもらったその選手は大成しなかったどころか
ほとんどメジャーでプレイしなかったけど)、純粋な趣味からかけ離れた世界に嫌気を感じてしまったのです。
そして、以前ほどのカード収集熱は消え、しばらくして完全に撤退しました。

一方で、テロ後の不況もあり、カード業界は更に沈滞をしはじめ、倒産したカード会社も現れました。それとは見事に
反比例するかのように、メジャーリーグは観客数の増加と、特にアジア地域での放映権拡大、そして国際的な
マーチャンダイスの成功により、ひところほどとは言わないまでも、今では我が世の春です。

今は数多くのカードが押し入れのダンボールに入っていて、ごくたまに見返すことがあります。それはそれで
楽しいですし、もっと余裕ができれば、また純粋な趣味として少しずつ集めてみてもおもしろいかなと思っています。
ただし、カード収集はあまりにも気軽なものである分、「使いすぎ」「のめり込みすぎ」には気を付けたいです。

2010 TOPPS PRO DEBUT SERIES 1

(トレカショップ二木)


2010 Upper Deck Series 1 Baseball ボックス (ベースボール) (トレーディングカード)

(CARD FANATIC)


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