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[短評]豊之島とマイケル・ヴィック

2010-12-31 15:21:31 | NFL
先日、NHKで放送されていた大相撲の1年を振り返る特別番組を見ました。やはり今年の相撲の世界は、
暴力団との関係や野球賭博など、いい話題はほとんどありませんでしたので、どうしてもそのことから
避けることができない内容でした。

その中で、一人横綱の白鵬と共に、野球賭博に関わったために一度幕下へ落とされた、豊ノ島関について
特に多くの時間が割かれていました。いわずもがな、豊ノ島は社会道義的に悪いことを犯しましたが、
角界に残ることは許されました。豊ノ島にとり、勝ち続けることが個人としての信頼回復と考えていました。
一方で白鵬には、近代相撲において69人しかいない横綱として信頼が失われた相撲界を建て直すのだという
信念がありました。

その横綱の思いがー形になったのは、名古屋場所後に行われた巡業で、横綱は練習相手に豊ノ島を
指名したときでした。もちろん横綱があっさりと豊ノ島を倒しますが、体同士をぶつけ合わせることで、
横綱は豊ノ島にもう一度這い上がってこいと言うメッセージを送りたかったのでしょう。同時に、
あえて豊ノ島を稽古相手に選ぶことで、横綱は相撲界全体にカツをいれたかったのかもしれません。

それが実を結んだのが九州場所です。幕内に復活した豊ノ島は、横綱がいうところの「巧い相撲」で
勝ち星を重ねます。一方で連勝記録が途絶えながらも、横綱はいつもの強さを発揮します。そして両者が
一敗同士で並んだ千秋楽、優勝決定戦が行われました。結果は白鴎の勝利でしたが、横綱は起き上がる
豊ノ島のお尻をポンと叩き、ここまでの奮闘と復活を労いました。自分の強さだけでなく、相撲界の強さを
証明するために戦ってきた横綱なりの豊ノ島へのはなむけだったと思います。

一方、豊ノ島を見ていたら、あるひとりのスポーツ選手を思い出さざるを得ませんでした。もしかしたら、
その選手は豊ノ島よりもずっと大きな過ちを犯し、そして豊ノ島よりも過酷な復活の道のり、豊ノ島より
すごい復活劇を成し遂げようとしてるかもしれません。

フィラデルフィア・イーグルスのQB、マイケル・ヴィックのここまでの復活劇は、アメリカの大統領ですら
魅了されるほどの魔力を持っています。それもそのはず、ファルコンズ時代にスターダムにのしあがった
ヴィックは、闘犬を行った罪で、連邦法違反による懲役刑を受けます。ビッグスター選手として、あるいは
CM収入などで得た大金と豪邸は差し押さえられました。そしてフットボール界だけでなく世間から
隔離された世界で過ごすことになりました。

一方で、社場の人たちはヴィックが釈放されたら獲得すべきかを悩んでいました。でも、多くのチームは
一度犯罪を犯した選手を獲得することに二の足を踏んでいました、イーグルスを除いて。イーグルスの
当時のスターQBであるドノヴァン・マクナブがヴィックをイーグルスへ呼んだのです。かつてこのふたりは
NFC優勝決定戦で戦った同士であり、どちらも運動能力の高いQBとして名を馳せています。しかしマクナブは
そうした大過去も、懲役に服した小過去より、今ヴィックにすべきことは何かを考えての行動でした。

マクナブがイーグルスにいる間は、ヴィックは控えQBに甘んじる他ありませんでした。それでもヴィックに
とってはなにもしないよりずっとマシでした。その後マクナブがチームを離れたとき、イーグルスは
もうひとりの控えQBケビン・コルブとヴィックのどちらを2010年シーズンの先発にするかを悩みます。
その結果、チームはコルブを選びました。

しかし、コルブは開幕早々に怪我のため今期絶望となりました。そこでヴィックの出番となりました。
それはファルコンからイーグルに生まれ変わったヴィックの本当の意味での復活劇の始まりでした。
ヴィックの2010年シーズンの活躍ぶりは、自分の償いよりも純粋にイーグルスの勝利のために思えます。
なんでもかんでも自分の力で守備陣を打開しようとしたファルコンズ時代と違い、チームメイトへの
信頼の元でプレイしている印象を受けます。それがヴィックが運動能力の高い選手としてだけではなく、
リーダーシップのある大人の選手として復活を果たしました。その姿が、ファンや大統領だけでなく、
相手となるはずの選手たちをも魅了するまでに至っているのだと思います。

豊ノ島もヴィックも、その過ちから復活することができる権利を得ました(どちらも間違ったことをした以上、
過ちの大きさは関係ありません)。そして今までのところは結果を残すことで見事に復活しました。
人間はだれしも過ちを犯します。それは犯罪かどうかは問いません。むしろ重要なことは、復活させて
もらえる時間を与えられたとき、それをどう活かすかだと思います。そのことで「あのときはどうだった」と
言われるより「今はこうなんだ」と言われるようになるのです。しかし、一度傷ついた信頼を取り戻し、
新しい自分を築き戻すことは非常に大変です。豊ノ島とヴィックは、それに成功している数少ない
例だと思います。だからこそ、復活劇というものは稀有なものであり、かつ素晴らしいのかもしれません。


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