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[短評]原告適格の判決について

2005-12-09 15:36:30 | マネー&ポリティックス
原告適格、沿線住民に拡大 小田急高架化訴訟で最高裁 (朝日新聞) - goo ニュース
小田急線連続立体交差事業認可処分取消,事業認可処分取消請求事件(最高裁判所)
社説1 行政訴訟の門戸を広げた最高裁判決(日本経済新聞)
【主張】小田急高架訴訟 重たい「原告適格」の判断(産経新聞)


「原告適格」(jus standi)とは、簡単に言えば行政訴訟において原告としてなることができるかということです。

行政訴訟うんぬんを忘れて、わかりやすい例を出せば、レストランでウェイターが熱いコーヒーをお客にこぼし、
その客がギャーギャー騒いだために、近くに騒ぐ客を迷惑だと思うデート中のカップルがいるとしましょう。
コーヒーをこぼされたお客は、例えばクリーニング代の請求を行うことができるの理解できると思いますが、
せっかくのデートを台無しにされたと感じたカップルがレストランを、例えば慰謝料を訴えることができるか、ということです。
これを今回の事件に当てはめれば、レストランが行政、怒る客が地権者、カップルが焦点の「周辺住民」となります。

法律上、「法律上の利益を有する者」が行政訴訟で訴えることができる、としか書かれていません。法律の文章なんて、
難しい用語かあいまいな用語しか用いられていないので、「利益を有する者」とは一体誰なのかはこれだけでは不明です。
これまでは、この事件で言えば小田急線の高架・複々線化の影響をもろに受ける地権者以外は原告適格がない、
つまりそれを一般的な言葉でいえば「門前払い」としてきました。高架化になって騒音が激しくなることよりも、
電車運行の公共性を重視していたものと思われます。

しかしながら、在外投票権における違憲判決でも見られたように、最高裁が立法や行政に対してより積極的な姿勢を
見せる流れをみせています。その中で今回の判決は、原告適格の枠を広げたということで、さらにその色彩が強くなったと
言ってもいいのでしょう。今回は、公害対策基本法や環境アセスメントの条例など、他の法令と共に
「法律上の利益を有する者」を提起すべし、としたのです。読みようによっては、「法律上」と規定する以上、
様々な法律や条例を参照にすべしというのは、その方が日本語としてもしっくりしてむしろ当然だとも思えます。
逆にいえば、これまでの行政訴訟では法律ではなくて「利益を有する」か否かが判断材料だったのでしょう。

ちなみに、今回の判決は、原告適格が認められた、つまり訴えてもよいということだけであって、原告が勝ったか
負けたという問題は、この後また判断されることになります。

この判決を受けて、翌日の主要新聞の社説は、簡単に言えば、これからは公共事業が簡単にできなくなりますね、
と一様に述べています。工事を始めてしまえば、例え裁判になっても裁判官が門前払いをしてくれるはずという、
「やり得」ができなくなるというのです。しかし、産経新聞「主張」の最後の段落については、やや理解に苦しみます。
行政の運営を効率よく進めることは重要ですし、それに対して利益を侵害されたと思う人の裁判の自由も重要です。
その裁判の自由と公共事業の遂行を調整するために「原告適格」という制度があるのです。今回の判決でも、
原告適格が広がったといえども、40人の原告のうち3人には認められませんでした(この3人が産経曰く「住民のエゴ」?)。
最後の段落だけを見ると、市民は多少の痛みを甘受しろよというも受け取れかねません。

むしろ、今回の判決は、原告適格を広げたのと同時に、原告適格の範囲もここまでなのだと示した点が重要でしょう。
そう考えれば、司法が行政のチェックをするだけでなく、行政-市民間のチェック&バランスをもっと機能させよという
説示だと受け止めるべきでしょう。

しかしながら、そうしたこと以前に、主要紙(読売、日経、産経、東京(中日))が社説でこの大法廷判決に触れた一方、
それを載せていない毎日と朝日には、産経の「主張」より首を傾げたくなります。司法権の最高峰である
最高裁大法廷の判決に対して、「第4の権力」を自負するマスコミが何も意見なしとは。


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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (ストロー法度)
2005-12-10 10:01:04
新聞が「高度に司法的な判断はジャーナリズムになじまない」とかいったらお笑いですな。ってわらえないかorz
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Unknown (アキヒロ)
2005-12-12 23:22:35
地元の大きい事件だから東京新聞が取り上げるのは

当然ですが、それ以外に社説で取り上げたのが

右寄りの新聞で、朝日と毎日という左よりの新聞が

社説で取り上げなかったのがどうなのかなという感じがしますね
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