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[経済短評]世界で目立てずどこにもイケナイ

2010-02-14 10:29:00 | マネー&ポリティックス
「対等」合併の呪縛(トムソン・ロイター)
米クラフト、英キャドバリー買収で70%超の株主承認を取得(トムソン・ロイター 2/3)
〔情報BOX〕欧米食品メーカーの主なM&A一覧(トムソン・ロイター)


この1週間、日本ではトヨタのリコール問題が大いに話題となりました。トヨタの問題は大量リコールを起こす
自動車を生産したことよりも、ブレーキ等の問題が発覚した後の後ろ向きな対応が顧客の不安とメディアの
不信感を高めたことです。トヨタは同じくアメリカで拡大しているヒュンダイや起亜と違い、既に世界において
トップの自動車メーカーになっていたにも関わらず、今回の対応は並のアメリカのメーカーに等しいものでした。
トヨタは技術力も顧客への誠意、そしてその根幹である人間力という日本企業独特の強さを今回のリコールと
その後の対応でいとも簡単に打ち消しました。

しかし、トヨタのように世界で戦うことができる、そして業界をリードできる日本企業はまだごく少数、それどころか
両手で足りるくらいかもしれません。特に内需産業と言われ続けた食品/飲料業界では、地球的視点で見たら
零細な企業が国土が小さく、消費も人口も減りつつあるこの国で、大量の高校を流し、縮み続けるシェアの
奪い合いに必死となってきました。その中で、キリンとサントリーは合併して会社の規模でも世界の飲料メーカーと
肩を並べ、世界へ飛び出そうと計画しました。飲料業界ではここ最近、海外の飲料メーカーやボトラーの買収に
躍起となっていますが、それでもコカコーラやペプシ、アンハイザー・ブッシュなどという世界的な飲料メーカーの
足元にも及ばない存在です。

ところが今週に入り、この合併話は破談しました。これは2003年の三井化学と住友化学工業の合併断念以来の
「大型合併破談」と言えるでしょう。今回の理由はいろいろと言われていますが、最大の理由は簡単に言ってしまえば
「お家問題」でした。つまり、非上場で家族的経営を守ってきたサントリーにとって、上場企業のキリンと合併すれば、
これまで培ってきたサントリーの良さが失われてしまう、というのです。これはこの合併話が出た直後からずっと
言われてきた問題ですので、驚くほどのことではありません。しかし、縮みゆく日本を出て世界的にシェア拡大することが
内需型日本企業にとり必至だと言われる時代にあって、この理由はミジンコやミドリムシも驚くほどに微小なものです。
それならばサントリーは最初からこの合併話に乗らなければよかっただけのことです。ロイターの記者が書くように、
精神的なものは別にしても、資本的には「対等」合併はありえないからです。

この破断により、日本発の世界的な飲料メーカーの誕生は消えました。まさかキリンとアサヒが合併するとは誰も
考えていません。サッポロビールは日本人の多くが忘れかけている投資会社、スティール・パートナーズが大株主で
居座る以上、他社が合併話をもちかけるなど無理なことです。キリンがサントリーを選んだのは、アルコール飲料で
競合分野が少なかったからです。

その一方で、飲料メーカーではなく広義の食品メーカーでの話になりますが、クラフトがキャドバリーへの長い
TOBの戦いに勝利を収め、広いレンジを持つ強大菓子メーカーになりました。世界では食品や飲料などを含めた
一般消費財メーカーでの合併が進みつつあります。そして、今でも強い会社がより強い会社となり中国やインド、
南米だけではなく、もっと先の大消費市場、アフリカを全て抑えつつあります。日本企業が中国市場をやっとの
思いで抑えようとしているのとは違います。

このままでいくと、アサヒやキリンは世界的な飲料メーカーになれないどころか、逆に世界の強大な飲料・食品会社に
飲まれる側になる可能性が高まったと言えるでしょう。上場がいいのか非上場がいいのか、などというのんきな話を
している場合ではありません。同時に、これからは合併の規模と質がどちらも伴なう合併でなければ、しょせんは狭い
市場内でのシェア争いの延長線でしかないでしょう。やはり統合が取り止めになった新生銀行とあおぞら銀行などという
負け組連合の合併では、誰も満足しません。

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