ふと富士山へ登ろうと思い立ち
約2か月前から、5つの山へ登り富士登山へ向けての準備をしてきた
正直、登山は音楽とは違って
「心から楽しい!」という感じには
全然なれなかったけど
山を登ることでしか味わえない
なにか不思議な快感を得ることがあり
登山の魅力を感じることができた
✳︎
今回の富士登山はツアーで参加する事にした
今考えると、この選択がなかったら
絶対に山頂まで登れなかったと思う
それだけ他者との協力や
目標への共有という行為には
とても大きいエネルギーを生むと実感した
今回の富士登山は
体力的にも精神的にも
瀕死のギリギリの状態になった
その経験が大きな収穫になったと思う
✳︎
前日から近くのホテルを予約して
万全の状態で富士登山へ挑んだ
この選択は大正解でした
そして当日
富士山の五合目に到着して感じた事は
「富士山でけーー!」という事でした
近くで見るほど富士山の大きさは
とてつもなく大きく感じた

結論から言うと
この瞬間がいちばんハッピーでした
ここから約20時間の地獄の苦行が始まる
ここから約20時間の地獄の苦行が始まる
そんな事を知る由もなく
この時の自分は希望に満ち溢れていた


6キロぐらいの重さのリュックを背負い
普通の道を10時間歩いてください
これだけでも気が遠くなると思いますが
それを足場の悪い登り坂や険しい崖を
登ると考えると地獄のようですよね
今考えても正気の沙汰とは思えない
不条理な富士登山だと思えてならない

経験値を上げ体力も鍛えてきた筈なのに
富士山は別次元で厳しさを痛烈に感じた
登山開始は楽勝だと思いましたが
歩いて3時間くらいで呼吸が苦しくなり
まだ半分にも達していないという情報に
絶望を感じてしまい
そこからは苦行が続いた

18:00。約5時間かけて
8合目の宿泊する山小屋に到着
この時点で体力がゼロになっていた
夕食のカレーは美味かったけど
何かを食べる行為にもエネルギーが必要で
疲れ過ぎてスプーンが止まってしまった
こんな経験も初めてだった
そして山小屋で4時間の仮眠
戦時中の寝床みたいな小さな空間へ入り
体を休める。しかし眠れない…
両隣の人のイビキが凄まじく
結局、一睡もできなかった
この時、自分に圧倒的に欠けている能力は
図太い精神力だと痛感してしまった
この不眠がこの後に体調に影響してしまう
✳︎
23:00〜山頂を目指して再出発
外は真っ暗でひどく寒かった
そして満点の星と流れ星が飛び交っていた
夜星の近さ、真横に流れる流れ星を見て
とても高地にいるんだと実感できた
ここからの道のりは本当に険しく
足元の悪い崖を登る場面が続き
今までの一歩とは違う
負荷のかかる苦しい一歩が続いた
そして寒さ、吐き気、頭痛、動悸が
止まらずいちばん苦しい状態でした
それでも登らなければならない状況は
人生で最も辛い時間だった
そこらかは綺麗な流れ星が流れても
まったくの無反応になってしまい
まさに無心の状態が全身を覆った
人間は体力が極限に近づくと
思考が止まり何も考えられなくなる
そして疲れと寒さがピークになると
謎の快楽がやってきて気持ち良くなる
この時、疲れてる筈なのに
なぜか笑顔が止まらなかった
「寝るなー!!」
休憩中、同行するガイドさんや
通り過ぎる登山家に何度も注意された
それでもこの気持ち良さに抗えない
笑顔が止まらない、眠気が止まらない
最高に気持ち良い、誰も邪魔するなと思い
このままずっと眠っていたい
そんな多幸感に満たされてしまった
この状態を帰ってから調べてみると
「低体温症」という症状らしく
脳内からドーパミンが出て
気持ち良くなり、そのまま眠っていたら
最悪、死の恐れもあったみたいでした
人間には様々な欲望や苦痛がありますが
「眠気」が最も幸福で辛い症状だと思えた
もう体力も精神力も空っぽで
何のエネルギーも残ってない
ここが何合目なのかも分からない
自分自身が今何をしてるのかも分からない
苦しみや辛さという感覚もなかった
この状態を「悟り」と言うのだろうか
ただ無心で足を一歩前に出し続けるだけだった
そして登頂
やっとゴールへ辿り着いた!という
達成感のような感情は全く湧かず
無心の状態で、その場で横になってしまった
そのとき見た満点の星空は
嘘みたいに綺麗で輝いていて
ここが夢なのか現実なのか分からなかった
正確には分からないというよりも
そんな事はどうでもいいという
純粋で開放的な気持ちになった
少し落ち着いてから
山頂の山小屋で豚汁を飲んだ
甘くて温かいスープを喉に流し込むと
一気に我に帰った
失った魂が戻ってきたようだった
脳と心と体がガチッと一致した感覚で
普段の自分自身が戻ったようだった
周りを見回すとツアーの参加者さん達も
みんな豚汁を飲んでいた
その光景を見て目頭が熱くなってしまった
意味もなく涙腺が緩んできたのだ
一緒に苦難を乗り越えたからなのか?
一緒に目標を達成した満足感なのか?
よく分からないけど感動が突然やってきた
「ありがとうございました」
その言葉が口からふと出てしまった
不思議と気付いたら言葉になって
感謝の言葉が出てしまったのだ
突然何言ってんだ?みたいな空気になった
その時の皆さんの不思議そうな顔と
その後の笑顔がとても印象的だった
✳︎
豚汁を食べ終え
山小屋の外に出てみると
山頂には御来光を待つ人で溢れてた
富士山を登る約6割くらいの人が
外国人という、その光景に驚いてしまった


そして数百人で御来光を待つ
その時の気温は2℃だったらしい
とても非現実的で不思議な光景だった
ちょうど太陽が登る部分にだけ
雲が掛かってしまい
御来光の光だけを感じた

それでも心に響くものがあった
正確には響くとか刺さるとかではなく
沁みるという感覚に近かったと思う
・もう少しだけ生きてみよう
・世界は素晴らしいかもしれない
・平和な世界になってほしい
そんなことを漠然と思った
自分の内側から湧き出る素直な感情と
純粋に向き合うことができた
それだけでも登った価値があると思えた
✳︎
そして約4時間かけて下山
この下山が地味に辛かった
人生の折り返し地点を通過して
下山するのはこんな感じなのかなと思った
自分の人生は折り返したり下山なんてせず
前に突き進む方が性に合ってると思えた
そうやって生きていきたいと思った
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今回の富士登山で得たものは
何だったんだろうか?
自宅に帰ってから
そんな事ばかりを考えていた
その答えは正直よく分からない
今後の人生に反映されれば
いいのかなという結論に至ってます
そんな富士登山の挑戦と心境でした
【追記】
辛くて辛くて
もう2度と富士山なんて登らねーぞ!
と心に決めたはずなのに
現在はその辛い思い出が
不思議と良き思い出に変換されている
次は別のルートもアリかなと
思ったり思わなかったりしてます
人間の脳は不思議で不条理なものですね
家に帰ってすぐ体調を崩した
何か悪い細菌をもらってきたみたいだった
やはり健康が何よりも大切だと思った
そんな当たり前の事に気付けました
それではまたCiao!