歩き続けて、日も暮れかかってきた。木々が生い茂る豊かな山から、人々が集う忙しない街並みへと景色を変えていった。船着き場でもあり、東西の交流が盛んな場所でもあり、雑踏が常に絶えなく賑わいを見せていた。当然だが宿も多くあり、今夜はここで足を止めることにした。
街に入りかけた頃から、ちょっと目を離した隙にコトミの姿が見えなくなってしまった。彼女がよく言う『交代の時間』が迫ってきたのだろう。
口止め料で思わぬ出費もあり、一番安いとの宿を探し出すことができた。さすが街一番と謳っただけのことはあり、まずは部屋が狭い。本当に人ひとり分といったところで、ゆっくり休めるのもままならないくらい、足が伸ばせなかった。
こんなことじゃなかったら、泊まらなかったと思った。
眠気が入り交じった不満を抱いたまま、朝の街に溶け込んでいった。疲れが取れきっていないが、今日は一日中ひたすら歩き続けるわけじゃないし。
朝食は市場のものをつまみながら、人が頻りに押し寄せる街の外へと出て行った。
しばし、歩くと潮の香りと共に海が見えてきた。
蓋名島へはここで船に乗らないと行けない。ようやく乗せてくれる船を見つけると、そこへ着飾った女性が現れた。
「わたくしも、一緒に乗せて下さらないかしら」
オレはその女性を乗せてやることにした。気品溢れる足取りで船に乗り込み、オレの横に座った。こちらには顔を向けることはしなかった。だが、オレはその女性が気になって仕方がなく、ずっと見つめていた。
船も岸から離れて随分と経過した頃、思い切って声をかけることにした。
「……ところで。そんなに着飾って、七五三か?」
「そんなわけ無いでしょ!」
「コトミには、大人っぽすぎるよ」
「もう、立派な大人だよ!」
「だいたい、その格好どうしたんだよ」
「本当は候補者に分からないように、一般人に紛れて近づく規則なの……」
コトミはオレに顔が知られているから、無駄だと思う。
「それに……。あの言葉遣い……」
思い返していたら、つい吹き出してしまった。
「キョウコさんみたいに、おしとやかにしたかったの!」
キョウコはどちらかといえば、計算高く腹黒い感じがする。
「もう、ヤダ! 恥ずかしいから、これ脱ぐ!」
「いいよ、そのままで。……かわいいから」
「……え? そお……?」
いつも、からかってばかりだし。たまには褒めてあげるか。
嬉しそうなコトミがしつこく同じセリフを言わせようとしてきたので、狸寝入りして無視していた。だが、寝不足でいつの間にか本当に寝てしまっていた。
「ここが蓋名島か……。随分と殺風景なんだね。人影も少ないし……」
長閑な野畑の背景に大きな森林を目の前に、さっきまではしゃいでいたのが嘘のように、大人しくなっていた。
「ここは蓋名島じゃねえよ。その途中の島。もう一回、船に乗るんだ」
「えー! まだ乗るの!」
「一時間くらい歩いたその先でな。そして、オレはまた寝るぞ」
結局、コトミが不満そうについて回ってきた。
ついに蓋名島に踏み入ることができた。目的地はまだ歩くことになるが、目撃情報がないか聞いてまわったが、これといった情報を集めることができなかった。
気付けば、古びた木造五階建ての前まで来てしまった。ここにいなかったら、もう探しようがない。
オレ以外の候補者で、コリエンテをよく知り、ライバルでもある。そいつの住み家に入ることにした。
≪ 第26話-[目次]-第28話 ≫
------------------------------
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街に入りかけた頃から、ちょっと目を離した隙にコトミの姿が見えなくなってしまった。彼女がよく言う『交代の時間』が迫ってきたのだろう。
口止め料で思わぬ出費もあり、一番安いとの宿を探し出すことができた。さすが街一番と謳っただけのことはあり、まずは部屋が狭い。本当に人ひとり分といったところで、ゆっくり休めるのもままならないくらい、足が伸ばせなかった。
こんなことじゃなかったら、泊まらなかったと思った。
眠気が入り交じった不満を抱いたまま、朝の街に溶け込んでいった。疲れが取れきっていないが、今日は一日中ひたすら歩き続けるわけじゃないし。
朝食は市場のものをつまみながら、人が頻りに押し寄せる街の外へと出て行った。
しばし、歩くと潮の香りと共に海が見えてきた。
蓋名島へはここで船に乗らないと行けない。ようやく乗せてくれる船を見つけると、そこへ着飾った女性が現れた。
「わたくしも、一緒に乗せて下さらないかしら」
オレはその女性を乗せてやることにした。気品溢れる足取りで船に乗り込み、オレの横に座った。こちらには顔を向けることはしなかった。だが、オレはその女性が気になって仕方がなく、ずっと見つめていた。
船も岸から離れて随分と経過した頃、思い切って声をかけることにした。
「……ところで。そんなに着飾って、七五三か?」
「そんなわけ無いでしょ!」
「コトミには、大人っぽすぎるよ」
「もう、立派な大人だよ!」
「だいたい、その格好どうしたんだよ」
「本当は候補者に分からないように、一般人に紛れて近づく規則なの……」
コトミはオレに顔が知られているから、無駄だと思う。
「それに……。あの言葉遣い……」
思い返していたら、つい吹き出してしまった。
「キョウコさんみたいに、おしとやかにしたかったの!」
キョウコはどちらかといえば、計算高く腹黒い感じがする。
「もう、ヤダ! 恥ずかしいから、これ脱ぐ!」
「いいよ、そのままで。……かわいいから」
「……え? そお……?」
いつも、からかってばかりだし。たまには褒めてあげるか。
嬉しそうなコトミがしつこく同じセリフを言わせようとしてきたので、狸寝入りして無視していた。だが、寝不足でいつの間にか本当に寝てしまっていた。
「ここが蓋名島か……。随分と殺風景なんだね。人影も少ないし……」
長閑な野畑の背景に大きな森林を目の前に、さっきまではしゃいでいたのが嘘のように、大人しくなっていた。
「ここは蓋名島じゃねえよ。その途中の島。もう一回、船に乗るんだ」
「えー! まだ乗るの!」
「一時間くらい歩いたその先でな。そして、オレはまた寝るぞ」
結局、コトミが不満そうについて回ってきた。
ついに蓋名島に踏み入ることができた。目的地はまだ歩くことになるが、目撃情報がないか聞いてまわったが、これといった情報を集めることができなかった。
気付けば、古びた木造五階建ての前まで来てしまった。ここにいなかったら、もう探しようがない。
オレ以外の候補者で、コリエンテをよく知り、ライバルでもある。そいつの住み家に入ることにした。
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