Kitten Heart BLOG -Yunaとザスパと時々放浪-

『きとぅん・はーと』でも、小説を公開している創作ファンタジー小説や、普段の日常などの話を書いているザスパサポーターです。

【小説】「パスク、あの場所で待っている」第26話

2016年04月22日 00時30分29秒 | 小説「パスク」(連載中)
 キョウコと別れてから二日後の昼。山を下り、木々の間から微かに海を覗かせていた。あの海の向こうに……!
 はやる気持ちを抑えつつ、新緑の香りを纏った風を感じながら駆け下りていった。
 ふと人の気配を感じて振り向くと、コトミが必死に後ろをつけていた。オレに気づかれてしまい慌てて木の陰に隠れたが、小柄なくせに隠れきっていない。
「お前……。相変わらず、とっさに隠れるのが下手だな」
「だって! 急に振り向くんだもん!」
 諦めて、木の陰から舞い戻ってきた。
「最初っから隠れてついて来いよ」
「パスクさんが歩くのが速いから、隠れながらだと追いつかないんだもん。もっとゆっくり歩いてよ!」
「お前がこっちのペースに合わせるんだよ……」

 無駄な努力を捨てたのか、オレの右横に並んでついてきた。
「どこへ行くの?」
「蓋名島だ。旧友の所へ会いに行くんだ。久々に……」
 それを聞くと、楽しそうなスキップ混じりに足取りが変わっていった。
「……嬉しそうだな」
「遠くに行けて楽しみ!」
 声も上調子で、まるでどこかに連れてもらえる子供だな。
「オレは、遊びに行くんじゃないからな」
 いや、監視の仕事をしているお前もだろう……。
「ネビナと違って、参謀総長のばばあがいなくて楽だな。目が合うと、うるさいんだもん」
「ばばあって……。王室の高性能頭脳様だぞ」
「あら? パスクさんが参謀総長様のことを『ばばぁ』呼ばわりしていたの、言っちゃおうかな……?」
「ルール違反だろ!」
「あれれ? それはどっちかしら」
 監視員を裁くルールはないのか。
「なんで知っているんだよ。あの時の監視員は、お前じゃないだろ」
「監視員同士のネットワークで聞きました。結構伝わっているかもよ……」
 あからさまに脅した言い方をする。セーキじいさんが言っていたことはこういうことか。いつか不利になるって。
「そういえば、お腹がすいたな……」
 内部情報を取り引きに利用しようとする職権乱用だ。

「お前のせいで、金が減っただろ!」
 通りに面した食事処に連れて行ってやったが、体つきの割にたらふく食いやがった。
「あたしだって、そんなに持ってないもん」
 奢りだということに甘えて、あんなに食うな。
「オレだって、選考会前に貯めた金でやりくりしているんだよ」
「あたしだって、少ない給料でやりくりしているんだもん!」
「お前……王室勤務の公務員だろ?」
「あたし、下っ端だから少ないの! ばばあが悪いんだ……!」
 出張費は経費として認められていないのか……?
「……ケイに逆らえるやつなんて、この国にいないから諦めることだな」
「だって……」
 お腹と張り合うかのように、コトミの頬も膨れてきた。
「コトミは、なんで監視員なんかなったんだよ」
「……やりたいことがなかったから。王室の仕事だったら安定しているし。監視員はそう決められて配属になっただけだよ」
「そっか……」
 コトミもいろいろと苦労しているんだな……。
「そういえば、パスクさんってどうして『twenty』にそんなに入りたいの? 大変なのに……」
「コリエンテとの約束だからな」
「でも、それってコリエンテさんが入ってからの話でしょ? もともとは、なんだったの?」
「親父がな……。強い男になれと剣術を始めさせたんだよ。それがいろいろやっているうちに、上を目指した。……まあ、成り行きだな」
 オレも結局、他にやりたいことがなかったな。
「じゃあ、御父様ためにもがんばらないとね!」
「まあ、そうだな……」
 余計なことを話してしまったと、後悔混じりのため息が出た。


≪ 第25話-[目次]-第27話 ≫
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