捕まらないように必死で走っていて、気がついていなかった。
あたりを見渡したが、人影もなく静まりかえっていた。恐る恐る通路の角から様子を窺うが状況は変わらず、物音もしない。
多分、ガトーが引きつけてくれたものだろうと考えた。
私は何よりも元の世界に帰れる道を探すことにした。せっかくガトーが作ってくれた機会、無駄にするわけにはいかない。
追っ手が来ないことを警戒しながら、地下への階段を降りていった。相変わらず石壁が続いていたが、ところどころ水が浸みだして湿っぽくなっていた。
薄暗い通路を抜けると、古びた扉があった。
ふと振り返ってみたが、依然として誰も追ってくる様子はない。慎重にドアノブに手を掛けて回してみたが、錆び付いておらず動いたが、途中までしか回らなかった。
「鍵がかかっている……。どうしよう」
扉は上下に隙間が空いており、下を覗き込むとなにやら光のようなものが見える。恐らくは、あれが帰る道だろう。危険を冒してまでここまでたどり着いたが、ここで大きな壁にぶつかるとは思わなかった。
私のために町長さんに方法を教えて貰い、ガトーにここまで手助けしてもらい、罪悪感に追い込まれて悲しくなってきた。声を出さないように口を押さえたが、涙までは抑えきれなかった。ガトーがいたら慰めて欲しかったが、もしこの状況で会ったらなんて言えばいいのか……。会いたいけど、とても怖い気持ちもあり、余計涙が溢れるばかりだった。
私が泣きじゃくっていると、扉の下から光のような塊が通り過ぎていくのを見た。泣きすぎて幻覚かと思った。涙を拭うとハッキリ見えていた。不規則にあたりを動いたかと思うと、光り輝く粉を落としながら去っていった。チョウか、なにかの生き物に見えた。
「妖精……なわけないよね」
やっぱり幻覚だったのかな。壁に寄り掛かり、ため息が漏れた。
さて。これから、どうするか。
目の前の扉は鍵が掛かっていて、前には進めない。戻るにしてもガトーがどこにいるか分からない。そんな中で探しに行ったら、衛兵に見つかってしまう。
「せーの!」
階段から一気に駆け下り、その勢いのまま扉に体当たりをした。
「いたたたた……」
扉が古そうなので、もしかしたら強い力を与えたら壊れるのかと考えた。しかし、三回ほど試してみたが、私の体の方が壊れそうだった。
私ひとり、しかも体つきが男の人のような丈夫さはない。せめて、ガトーくらい力があれば、壊せたのかもしれない。
結局は、自分ひとりで何もできなかった。ここに来て、誰かに助けてもらってばかりだった。自分の力だけでは何もできないのが、体の痛みと共に痛感した。
状況は一転せず、再びため息が漏れる。
またもや、あの光り輝く生き物が動き回っていた。やはり動きには規則性もなく、上下左右に動き回っていた。建物内なので、風で舞っているわけでも無い。目で追ってみたが、人の形にも見える。
動き回る物体を追いかけていたが、いつの間にか見えなくなった。
そして我に返り、変わらない状況に虚しさを感じていた。
背後で物音がして、衛兵かと思い、慌てて立ち上がった。
しかし、人の足音では無く、なにかの金属がぶつかる音が連続で聞こえた。
「なにかが、落ちてくる」
妖精が落としたものか。階段の上から、小さな金属が落ちてくる音だった。それをキャッチしてみると、銀色で少し錆び付いた鍵だった。
まさかと思い、扉の鍵穴に差してみた。ピッタリと入っていった。
そして、左回りに鍵を回してみた。半回転させると、なにかに当たった模様。
「……お願い!」
心臓の鼓動が、一段と早くなってきた。それに伴って、鍵を持つ右手が震えだした。
震える手で更に回してみると、鍵はそのまま回り、解除音と共に一回転した。
鍵を引き抜き、ドアノブを押してみる。先程まで動かなかった以上に、ドアノブが動いてしまった。
そして、ゆっくりと扉を押してみた。
「……!」
扉の向こうには、隙間から見えていた光が大きく見えていた。
私が、この扉を超えて、あの光に飛び込めば元の世界に帰れる。
だけど、『さよなら』を言えないまま、ガトーと永遠に別れることになる。
私は、右手に持っていた鍵を強く握りしめた。
「ガトーの事、好きだけど、ごめんね……」
≪ 第10話-[目次]-第12話 ≫
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あたりを見渡したが、人影もなく静まりかえっていた。恐る恐る通路の角から様子を窺うが状況は変わらず、物音もしない。
多分、ガトーが引きつけてくれたものだろうと考えた。
私は何よりも元の世界に帰れる道を探すことにした。せっかくガトーが作ってくれた機会、無駄にするわけにはいかない。
追っ手が来ないことを警戒しながら、地下への階段を降りていった。相変わらず石壁が続いていたが、ところどころ水が浸みだして湿っぽくなっていた。
薄暗い通路を抜けると、古びた扉があった。
ふと振り返ってみたが、依然として誰も追ってくる様子はない。慎重にドアノブに手を掛けて回してみたが、錆び付いておらず動いたが、途中までしか回らなかった。
「鍵がかかっている……。どうしよう」
扉は上下に隙間が空いており、下を覗き込むとなにやら光のようなものが見える。恐らくは、あれが帰る道だろう。危険を冒してまでここまでたどり着いたが、ここで大きな壁にぶつかるとは思わなかった。
私のために町長さんに方法を教えて貰い、ガトーにここまで手助けしてもらい、罪悪感に追い込まれて悲しくなってきた。声を出さないように口を押さえたが、涙までは抑えきれなかった。ガトーがいたら慰めて欲しかったが、もしこの状況で会ったらなんて言えばいいのか……。会いたいけど、とても怖い気持ちもあり、余計涙が溢れるばかりだった。
私が泣きじゃくっていると、扉の下から光のような塊が通り過ぎていくのを見た。泣きすぎて幻覚かと思った。涙を拭うとハッキリ見えていた。不規則にあたりを動いたかと思うと、光り輝く粉を落としながら去っていった。チョウか、なにかの生き物に見えた。
「妖精……なわけないよね」
やっぱり幻覚だったのかな。壁に寄り掛かり、ため息が漏れた。
さて。これから、どうするか。
目の前の扉は鍵が掛かっていて、前には進めない。戻るにしてもガトーがどこにいるか分からない。そんな中で探しに行ったら、衛兵に見つかってしまう。
「せーの!」
階段から一気に駆け下り、その勢いのまま扉に体当たりをした。
「いたたたた……」
扉が古そうなので、もしかしたら強い力を与えたら壊れるのかと考えた。しかし、三回ほど試してみたが、私の体の方が壊れそうだった。
私ひとり、しかも体つきが男の人のような丈夫さはない。せめて、ガトーくらい力があれば、壊せたのかもしれない。
結局は、自分ひとりで何もできなかった。ここに来て、誰かに助けてもらってばかりだった。自分の力だけでは何もできないのが、体の痛みと共に痛感した。
状況は一転せず、再びため息が漏れる。
またもや、あの光り輝く生き物が動き回っていた。やはり動きには規則性もなく、上下左右に動き回っていた。建物内なので、風で舞っているわけでも無い。目で追ってみたが、人の形にも見える。
動き回る物体を追いかけていたが、いつの間にか見えなくなった。
そして我に返り、変わらない状況に虚しさを感じていた。
背後で物音がして、衛兵かと思い、慌てて立ち上がった。
しかし、人の足音では無く、なにかの金属がぶつかる音が連続で聞こえた。
「なにかが、落ちてくる」
妖精が落としたものか。階段の上から、小さな金属が落ちてくる音だった。それをキャッチしてみると、銀色で少し錆び付いた鍵だった。
まさかと思い、扉の鍵穴に差してみた。ピッタリと入っていった。
そして、左回りに鍵を回してみた。半回転させると、なにかに当たった模様。
「……お願い!」
心臓の鼓動が、一段と早くなってきた。それに伴って、鍵を持つ右手が震えだした。
震える手で更に回してみると、鍵はそのまま回り、解除音と共に一回転した。
鍵を引き抜き、ドアノブを押してみる。先程まで動かなかった以上に、ドアノブが動いてしまった。
そして、ゆっくりと扉を押してみた。
「……!」
扉の向こうには、隙間から見えていた光が大きく見えていた。
私が、この扉を超えて、あの光に飛び込めば元の世界に帰れる。
だけど、『さよなら』を言えないまま、ガトーと永遠に別れることになる。
私は、右手に持っていた鍵を強く握りしめた。
「ガトーの事、好きだけど、ごめんね……」
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