朝と夕暮れに湯治をして、その間はほぼ修行にあてていた。
睡眠以外の時間が勿体ないくらいだった。寝るのも惜しいくらい高揚感に包まれていた。
キョウコのアドバイスも取り入れてみた。持続力を上げなくてはならない。
体の傷も回復し、動きも以前のように取り戻していった。
今朝も起きたばかりの重い体を動かし、目覚まし代わりに朝早く手作りの湯治場へ向かった。雨期に入ったせいで、今日もどんよりとした曇り空が続いていた。
深夜も降ったのか、草木が水気を帯びて至る所で水滴が垂れていた。
やっとの思いで湯治場へたどり着くと、先客が既に入っていた。いやいや、ここはオレが山奥に作った『自分専用』だから、土地勘のある町の人たちも知らない。
警戒しながら近づいていくと、体つきの良い男が一人、こちらに気がついていないのか、のんびり居座っていた。
背後に回って、ようやくこちらの気配に気付いた。
「ここの風呂は熱いな。よくこんな川からも遠いところに作ったな!」
よく見ると、川から水を運んできたのか、一緒に紛れていた小さなゴミが湯船に浮いていた。
「結局、地元の湯が一番だな!」
散々汚しておいて、ケチをつける。まるでムギみたいな事をいう。
「かんましてから入るに決まっているだろうが! この非常識め!」
腕の筋肉、特に二の腕が太い。そして、誰も知らないところに入り込む。ほぼ間違いなく選考会参加者だろう。斬りつけるフリをして、寸止めしてみた。
素人なら避けようとするが、それを読んだのか微動だにしなかった。
「やはり参加者か……」
タトリーニと名乗った男は、湯船から出ると着替え始めた。
「長旅でちょうどいいところに風呂があって、疲れも癒えたな」
そんな余裕綽々としている状況に、ふと気付いた。
「……スキあり!」
チャンスとばかりにタトリーニに襲いかかり、かわすのが全力の所を容赦なく斬りかかった。
「卑怯者! 上が……まだだ!」
「選考会に、不意打ちは認められているんだよ!」
手当たり次第に落ち木を拾い投げて応戦してきたが、まるで攻撃らしいものには成り立っていなかった。
本気なのか、わざとなのか、笑わし方は利汰右衛門のようだった。
落ち木攻撃が止んだかと思ったら、いつの間にかどこかへ消えていった。さすがに体勢を整えるためだろう。
しかし、こちらも不用意に攻撃に行ったわけではない。半分以下の力で愛剣を振り回し、追いかけた。ちょっとは相手も体力も奪えたはず。
一瞬の殺気を感じ、強風を容易く受け流すように交わして、様子を窺う。
「あとちょっとだったか……」
攻撃に機敏性はなく、タトリーニが悔しがるほど、惜しくはなかったはずだが……。
「ここからが、本気だ!」
タトリーニの剣は、刀身は真っ直ぐ伸びて、やや幅が広いもの。全長は人の背丈の半分くらいといったところか。
山の傾斜を利用して駆け下りて、勢いよい斬りかかってきた。瞬時に軌道を読む。高い金属音を奏でる。
自信に満ちたタトリーニの顔が、やけに苛ついた。
「次は外さないからな!」
タトリーニの挑発は流した。まだオレの方が余力があるからだ。
≪ 第37話-[目次]-第39話 ≫
------------------------------
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睡眠以外の時間が勿体ないくらいだった。寝るのも惜しいくらい高揚感に包まれていた。
キョウコのアドバイスも取り入れてみた。持続力を上げなくてはならない。
体の傷も回復し、動きも以前のように取り戻していった。
今朝も起きたばかりの重い体を動かし、目覚まし代わりに朝早く手作りの湯治場へ向かった。雨期に入ったせいで、今日もどんよりとした曇り空が続いていた。
深夜も降ったのか、草木が水気を帯びて至る所で水滴が垂れていた。
やっとの思いで湯治場へたどり着くと、先客が既に入っていた。いやいや、ここはオレが山奥に作った『自分専用』だから、土地勘のある町の人たちも知らない。
警戒しながら近づいていくと、体つきの良い男が一人、こちらに気がついていないのか、のんびり居座っていた。
背後に回って、ようやくこちらの気配に気付いた。
「ここの風呂は熱いな。よくこんな川からも遠いところに作ったな!」
よく見ると、川から水を運んできたのか、一緒に紛れていた小さなゴミが湯船に浮いていた。
「結局、地元の湯が一番だな!」
散々汚しておいて、ケチをつける。まるでムギみたいな事をいう。
「かんましてから入るに決まっているだろうが! この非常識め!」
腕の筋肉、特に二の腕が太い。そして、誰も知らないところに入り込む。ほぼ間違いなく選考会参加者だろう。斬りつけるフリをして、寸止めしてみた。
素人なら避けようとするが、それを読んだのか微動だにしなかった。
「やはり参加者か……」
タトリーニと名乗った男は、湯船から出ると着替え始めた。
「長旅でちょうどいいところに風呂があって、疲れも癒えたな」
そんな余裕綽々としている状況に、ふと気付いた。
「……スキあり!」
チャンスとばかりにタトリーニに襲いかかり、かわすのが全力の所を容赦なく斬りかかった。
「卑怯者! 上が……まだだ!」
「選考会に、不意打ちは認められているんだよ!」
手当たり次第に落ち木を拾い投げて応戦してきたが、まるで攻撃らしいものには成り立っていなかった。
本気なのか、わざとなのか、笑わし方は利汰右衛門のようだった。
落ち木攻撃が止んだかと思ったら、いつの間にかどこかへ消えていった。さすがに体勢を整えるためだろう。
しかし、こちらも不用意に攻撃に行ったわけではない。半分以下の力で愛剣を振り回し、追いかけた。ちょっとは相手も体力も奪えたはず。
一瞬の殺気を感じ、強風を容易く受け流すように交わして、様子を窺う。
「あとちょっとだったか……」
攻撃に機敏性はなく、タトリーニが悔しがるほど、惜しくはなかったはずだが……。
「ここからが、本気だ!」
タトリーニの剣は、刀身は真っ直ぐ伸びて、やや幅が広いもの。全長は人の背丈の半分くらいといったところか。
山の傾斜を利用して駆け下りて、勢いよい斬りかかってきた。瞬時に軌道を読む。高い金属音を奏でる。
自信に満ちたタトリーニの顔が、やけに苛ついた。
「次は外さないからな!」
タトリーニの挑発は流した。まだオレの方が余力があるからだ。
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