Kitten Heart BLOG -Yunaとザスパと時々放浪-

『きとぅん・はーと』でも、小説を公開している創作ファンタジー小説や、普段の日常などの話を書いているザスパサポーターです。

【ファンタジー小説】encounter 第6話 ※全文掲載

2013年12月31日 11時49分00秒 | 小説encounter(完結)
 まだ若干の眠気を抱えながら、ガトーがいつも寝ているベッドから起き上がった。当の本人はというと、すでに部屋にはいなかった。
 一階に下りて洗面台にて、顔を洗う。いっそ、昨晩知った事も洗い流せれば良かったのに。
 キッチンの方からいい匂いがしたので、近寄ってみるとガトーが朝食を作っていた。
「おはよ」
 ガトーはいつも通り接してくれたが、こっちはあの部屋を見たせいもあってなんとなく気まずい。
「みんな食べたからリリーも食べて。このあと、じじぃのところに行くから」
 町長さんのところね、大丈夫かな……。
 席にはすでにトーストが置かれており、ガトーはトーストの横へ目玉焼きをフライパンから移した。今まで市場で仕入れてきたなど、出来合いのものを食べていたので、ガトー手作りは初めてだった。
「おいしい?」
「うん。とっても」
 そう言い返すと、ガトーは笑ってくれた。でも、その笑顔の裏であんなことを考えていたなんて……。

「町長さんの家って、ここから遠いの?」
「歩いてすぐさ。ほら、あの赤い屋根の家」
 食後一息つけてから、歩いてきたが五分とかからずに着いた。
「じじぃ、元気にしてたか?」
「おお、ガトーじゃないか。どうしたんじゃ」
 ガトーが『じじぃ』呼ばわりするのも分かるような、見るからに弱り切った躯体。長く伸びた白いヒゲは町長というより仙人と呼んだ方がわかりやすいおじいさんだった。
「この子がどこから来たか分からない、迷子でさ」
「おお! ジャスミンではないか! 久しぶりじゃのう」
「リリー。知り合い?」
 首を大きく横に振り、完全否定を表現した。おまけに町長さんは、ボケていることも分かった。
「また、帰り道が分からなくなってしまったか。仕方がないのう……」
「もしかして、いつもこんな感じ?」
 私がガトーに聞くと、一度だけゆっくり首を縦に振った。
「どうするか……。他に分かるヤツ、いないし……」
「前にもワシが教えたじゃろ。城の地下に帰り道があると」
 こちらの心配をよそにあっさりと解答が出てきた。
「おじいさん、それホント?」
 町長は、ただニコニコしながらうなずいた。
「帰り方も分かったし、家に帰って準備するか」
「ありがとうね。おじいさん」
「それにしても。ジャスミンがこっちに来るなんて、また嫌なことでもあったのか?」
 まさに不意打ちを食らったように、心臓をえぐるような言葉だった。
「わ、私……。べ、別に、なにも……その、ないよ?」
「リリー。置いてくぞ」
「ごめん、待って」
 あのおじいさん、ボケたフリした仙人なのかな……。

「城となると、三日はかかる。それなりに準備をしないとな」
 ガトーの部屋に戻り、また長距離移動の旅支度をする。
「ガトー。私ね、その……一人で行くよ。これ以上迷惑をかけたくない」
「オレは平気だ。気にすんな」
 そう言うが平気なわけがない。そもそも彼女をそこへ行かせてはいけない。
 ガトーは部屋の片隅に置いてあった、あの大きな剣を持ち出した。
「私ね……。その……あの部屋に入った。……ごめんね」
 ガトーはわかりやすくも、持っていた大きな剣を右手から落とした。
「私も気持ちは分かる。でもその剣って、王女を倒すためだけにガトーが作ったんでしょ。だから私を助けた時に斬らなかったのも、そういうことなんでしょ」


≪ 第5話-[目次]-第7話 ≫
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