遠方の国で修行して、この店を開いた店主の料理は以前より美味くなっていた。スープの中に麺が入っているのだが、これが絶妙なバランスがとれていた。
ムギと名乗った鎧男は、出された料理に不満げだった。
「ボクの地元の方がおいしいです」
こいつ、本気で許さねえ。
「どこから来たんだよ」
「蓋名島です」
蓋名島か……。ここから西の方にある島なのだが、周囲がかなりある大きな島になっている。そこでは、それぞれ独自の文化が根付いている。古くから修行で出向く人もおり、信仰の場所とも言われている。そういえば、あの二人も共に蓋名島出身だって言っていたな。
お互い腹を満たし、ムギがしつこく決闘をけしかけるので、店で一息つくこともなく出ることにした。買い出した荷物は、金銭と共に店主に預けた。ムギのやつ、不味いとか言いながら全部食いやがって。
連れてきたのは街から外れて、山の中に入っていった。ビーフォンやテオで使った場所でも良かったのだが、ここからだとちょっと遠い。それに、こいつの実力が分からない。なので、選んだ場所はこの温泉地と源泉がある中間点、冷却に使っている大きな溜め池付近に決めた。山の中腹に位置するのだが、広々とした場所がある。人も来ないしいいだろう。
「パスクさん、覚悟!」
腰に付けていた剣を引き抜き、鎧と同様に光り輝いていた。そして、勝ち誇ったかのように剣先をこちらに向ける。
「……自信があるみたいだな」
不意打ちでもされるのかと警戒したのか、店を出てから相変わらず全身を鎧で包んでついてきた。その結果、重い鎧でキツイ山道を登り、息が上がってしまった。息苦しいのか、大きく呼吸を整えているが、既に体力を消費しているのがよく分かる。
ますます、オレに勝機が見えてきた。これは無傷で勝てそうだ。
「スキあり!」
ムギは、金属音がぶつかり合う音を立てながら向かってきた。一瞬だった。蹴り出してからの一連の流れ。深く突き刺さる剣に、オレは言葉も出なかった。
「こんなハズじゃないです!」
蹴り出してから、すぐさま転倒。その時に剣を地面に突き刺してしまい、必死に抜こうとしていた。これはもう、なんて言ったらいいのか……。ムギに勝ち目があるのか。
「仕切り直しです!」
「頼むから、普通にやってくれ」
今度こそ、オレに向かってきた。だが、動きが遅い。すぐに受け止めた。まるで動きが止まっているようで楽に交わせる。
ムギの攻撃はともかく、問題はあの鎧だ。付け根を幾度も狙ってみたが、弾き返された。相当丈夫に作られている。あれをどうにかしないと、勝負を決めることができない。脱がせるのが最良の手か。
しかし、あれを着て戦うのは体力消費が激しいのだろうな。荒々しい呼吸音が中で反響して、よく聞き取れる。
「汗をかいただろう。ひとっ風呂入って来い」
ムギの攻撃を交わして、湯気が立ちこめる溜め池に突き落とした。溜め池の中からムギは叫び声を発した。様子を見に降りてみると、あの重い鎧は脱ぎ捨て、すぐ近くにあった水溜まりの中で、こちらを睨み付けていた。
「なにをするんですか!」
「いい汗、かいただろ」
「冷や汗です!」
言うこと言うな……。
「もう……! 本気です!」
「あれは本気じゃなかったのか……」
冷えた水溜まりから飛び出したと思いきや、かなりのスピードで飛びかかった。こんなトロいやつが、なぜ候補者入りができるのか。その理由は、だいたい予測がついていた。重くて動きづらい、あの鎧のせいであること。実際ある程度速く動けるのは見当がついていたが、このスピードは想定外だった。
風を切るような太刀捌きを避けきれず、左頬を切ってしまった。
≪ 第19話-[目次]-第21話 ≫
------------------------------
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ムギと名乗った鎧男は、出された料理に不満げだった。
「ボクの地元の方がおいしいです」
こいつ、本気で許さねえ。
「どこから来たんだよ」
「蓋名島です」
蓋名島か……。ここから西の方にある島なのだが、周囲がかなりある大きな島になっている。そこでは、それぞれ独自の文化が根付いている。古くから修行で出向く人もおり、信仰の場所とも言われている。そういえば、あの二人も共に蓋名島出身だって言っていたな。
お互い腹を満たし、ムギがしつこく決闘をけしかけるので、店で一息つくこともなく出ることにした。買い出した荷物は、金銭と共に店主に預けた。ムギのやつ、不味いとか言いながら全部食いやがって。
連れてきたのは街から外れて、山の中に入っていった。ビーフォンやテオで使った場所でも良かったのだが、ここからだとちょっと遠い。それに、こいつの実力が分からない。なので、選んだ場所はこの温泉地と源泉がある中間点、冷却に使っている大きな溜め池付近に決めた。山の中腹に位置するのだが、広々とした場所がある。人も来ないしいいだろう。
「パスクさん、覚悟!」
腰に付けていた剣を引き抜き、鎧と同様に光り輝いていた。そして、勝ち誇ったかのように剣先をこちらに向ける。
「……自信があるみたいだな」
不意打ちでもされるのかと警戒したのか、店を出てから相変わらず全身を鎧で包んでついてきた。その結果、重い鎧でキツイ山道を登り、息が上がってしまった。息苦しいのか、大きく呼吸を整えているが、既に体力を消費しているのがよく分かる。
ますます、オレに勝機が見えてきた。これは無傷で勝てそうだ。
「スキあり!」
ムギは、金属音がぶつかり合う音を立てながら向かってきた。一瞬だった。蹴り出してからの一連の流れ。深く突き刺さる剣に、オレは言葉も出なかった。
「こんなハズじゃないです!」
蹴り出してから、すぐさま転倒。その時に剣を地面に突き刺してしまい、必死に抜こうとしていた。これはもう、なんて言ったらいいのか……。ムギに勝ち目があるのか。
「仕切り直しです!」
「頼むから、普通にやってくれ」
今度こそ、オレに向かってきた。だが、動きが遅い。すぐに受け止めた。まるで動きが止まっているようで楽に交わせる。
ムギの攻撃はともかく、問題はあの鎧だ。付け根を幾度も狙ってみたが、弾き返された。相当丈夫に作られている。あれをどうにかしないと、勝負を決めることができない。脱がせるのが最良の手か。
しかし、あれを着て戦うのは体力消費が激しいのだろうな。荒々しい呼吸音が中で反響して、よく聞き取れる。
「汗をかいただろう。ひとっ風呂入って来い」
ムギの攻撃を交わして、湯気が立ちこめる溜め池に突き落とした。溜め池の中からムギは叫び声を発した。様子を見に降りてみると、あの重い鎧は脱ぎ捨て、すぐ近くにあった水溜まりの中で、こちらを睨み付けていた。
「なにをするんですか!」
「いい汗、かいただろ」
「冷や汗です!」
言うこと言うな……。
「もう……! 本気です!」
「あれは本気じゃなかったのか……」
冷えた水溜まりから飛び出したと思いきや、かなりのスピードで飛びかかった。こんなトロいやつが、なぜ候補者入りができるのか。その理由は、だいたい予測がついていた。重くて動きづらい、あの鎧のせいであること。実際ある程度速く動けるのは見当がついていたが、このスピードは想定外だった。
風を切るような太刀捌きを避けきれず、左頬を切ってしまった。
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