深くはないが、痛みと左頬を伝うものを感じた。この程度の傷は、選考会中に二つ三つ受けるくらい珍しくない。
「降参しても、いいですよ?」
「軽く切ったくらいで、するか!」
小生意気にも、ちょっと当たったくらいで調子づくムギに、苛立ちを感じずにはいられなかった。しかし、危うく本気で降参しなければならない状況になる所でもあった。
「これからが本気です!」
いったい、どれが本気なんだ……? しかし、そんな悠長なことは言ってられない。
ムギの蹴り出し。速い、とにかく速い。ほぼ真っ直ぐ突進して来た。
「うっ!」
オレはギリギリ交わした。
「やっ!」
猶も手を緩めないと、斬りかかった。それはあっさりと交わせた。
閃光のごとく動き回るセーキじいさんよりやや劣るが、ムギのあのスピードは伊達じゃない。
ならばと、仕掛けてみた。右に、左に、斬りかかる。やはり避けられる。隙を突かれてしまい、攻守逆転されてしまう。隙を作らせないと、次々に攻めかかってきた。
これじゃ、避け続けるしか手がないじゃないか。
しかし……。
「だいぶ、息が上がっているな……。あんな重たい鎧なんか着て、動き回るからだよ」
「あれは受け継いだ大事なものです。そう簡単に捨てられないのです!」
脱ぎ捨てて身軽になったとはいえ、これまで消費していった体力は計り知れない。
ムギは息を整え、再び斬りかかってきた。
「はっ!」
依然として、あのスピードを維持してくる。まだ若いから回復も早いのだろうか。緩めることなく振り続けてくる。オレの方が体力が、また無くなってくる。
初めてムギと戦ったが、ひとつ分かってきた。突進してくるスピードは圧倒的だが、切り替えが苦手らしい。意表を突いて横に切り返したときの対応が遅れている。そこをついて斬りつけてやりたいのだが、すぐさま交わしてくる。
鎧を着て無様な姿を見せるより、着ない方がよっぽど良い動きをするのに、なんで閉塞感と重量感を思う存分楽しめる鎧にこだわるんだ。
「そんなに逃げてばっかりでは、負けますですよ!」
「逃げてばっかりか……。時間も稼いだし、そろそろいいか」
ムギが手を休めた瞬間を狙い、勢いよく踏み込み愛剣を引き抜いた。ムギはそれを剣で受け止めようとした。
周囲には高い金属音が響き渡った。
「剣が……。欠けた……」
上半分が吹き飛んだ剣を、呆然とムギは見つめていた。
「お前を溜め池に落としておいて、正解だったよ」
「なんで……? なんで……!」
「ここの源泉は強酸性でな。腐食した剣だったらオレでも切れる」
何かに押さえつけられているように、ムギは固まっていた。そして我に返ったのか、突然泣き叫びだした。
「父上との誓いだったのに!」
その言葉に心をえぐられた。
泣きじゃくるムギから聞き出せたのは、騎士として名のある父の指導の下、幼少の頃から騎士団入りを目指した。候補者に選ばれた際、あの鎧と剣を受け継いだらしい。
街を下った先に、腕の良い鍛冶屋があることを教えて別れた。
「父親との誓いか……」
勝ったのに、なんとも後味が悪くてたまらなかった。こんなこと選考会では珍しいことではないし、『twenty』になれば尚更あること。でも、このことが引っかかって仕方がなかった。
オレも果たさなくてはならない約束がある。怪我も治りほぼ元の体力に回復した。そろそろあいつに、会いに行くか……。
その夜。一睡してから、荷物をまとめて実家を出た。また暫くしたら戻ってくるよ。寝静まる愛するべき村を後にした。
山を下りながら、空を見上げた。雲がなく、無数の星が光り輝いていた。思いに深けながら目的地へ歩き続けた。
≪ 第20話-[目次]-第22話 ≫
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「降参しても、いいですよ?」
「軽く切ったくらいで、するか!」
小生意気にも、ちょっと当たったくらいで調子づくムギに、苛立ちを感じずにはいられなかった。しかし、危うく本気で降参しなければならない状況になる所でもあった。
「これからが本気です!」
いったい、どれが本気なんだ……? しかし、そんな悠長なことは言ってられない。
ムギの蹴り出し。速い、とにかく速い。ほぼ真っ直ぐ突進して来た。
「うっ!」
オレはギリギリ交わした。
「やっ!」
猶も手を緩めないと、斬りかかった。それはあっさりと交わせた。
閃光のごとく動き回るセーキじいさんよりやや劣るが、ムギのあのスピードは伊達じゃない。
ならばと、仕掛けてみた。右に、左に、斬りかかる。やはり避けられる。隙を突かれてしまい、攻守逆転されてしまう。隙を作らせないと、次々に攻めかかってきた。
これじゃ、避け続けるしか手がないじゃないか。
しかし……。
「だいぶ、息が上がっているな……。あんな重たい鎧なんか着て、動き回るからだよ」
「あれは受け継いだ大事なものです。そう簡単に捨てられないのです!」
脱ぎ捨てて身軽になったとはいえ、これまで消費していった体力は計り知れない。
ムギは息を整え、再び斬りかかってきた。
「はっ!」
依然として、あのスピードを維持してくる。まだ若いから回復も早いのだろうか。緩めることなく振り続けてくる。オレの方が体力が、また無くなってくる。
初めてムギと戦ったが、ひとつ分かってきた。突進してくるスピードは圧倒的だが、切り替えが苦手らしい。意表を突いて横に切り返したときの対応が遅れている。そこをついて斬りつけてやりたいのだが、すぐさま交わしてくる。
鎧を着て無様な姿を見せるより、着ない方がよっぽど良い動きをするのに、なんで閉塞感と重量感を思う存分楽しめる鎧にこだわるんだ。
「そんなに逃げてばっかりでは、負けますですよ!」
「逃げてばっかりか……。時間も稼いだし、そろそろいいか」
ムギが手を休めた瞬間を狙い、勢いよく踏み込み愛剣を引き抜いた。ムギはそれを剣で受け止めようとした。
周囲には高い金属音が響き渡った。
「剣が……。欠けた……」
上半分が吹き飛んだ剣を、呆然とムギは見つめていた。
「お前を溜め池に落としておいて、正解だったよ」
「なんで……? なんで……!」
「ここの源泉は強酸性でな。腐食した剣だったらオレでも切れる」
何かに押さえつけられているように、ムギは固まっていた。そして我に返ったのか、突然泣き叫びだした。
「父上との誓いだったのに!」
その言葉に心をえぐられた。
泣きじゃくるムギから聞き出せたのは、騎士として名のある父の指導の下、幼少の頃から騎士団入りを目指した。候補者に選ばれた際、あの鎧と剣を受け継いだらしい。
街を下った先に、腕の良い鍛冶屋があることを教えて別れた。
「父親との誓いか……」
勝ったのに、なんとも後味が悪くてたまらなかった。こんなこと選考会では珍しいことではないし、『twenty』になれば尚更あること。でも、このことが引っかかって仕方がなかった。
オレも果たさなくてはならない約束がある。怪我も治りほぼ元の体力に回復した。そろそろあいつに、会いに行くか……。
その夜。一睡してから、荷物をまとめて実家を出た。また暫くしたら戻ってくるよ。寝静まる愛するべき村を後にした。
山を下りながら、空を見上げた。雲がなく、無数の星が光り輝いていた。思いに深けながら目的地へ歩き続けた。
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