Kitten Heart BLOG -Yunaとザスパと時々放浪-

『きとぅん・はーと』でも、小説を公開している創作ファンタジー小説や、普段の日常などの話を書いているザスパサポーターです。

【小説】「パスク、あの場所で待っている」第37話

2018年04月26日 09時56分27秒 | 小説「パスク」(連載中)
「パスク、立ち上がれ! その程度で弱音を吐くな!」
 オレはひよっこのガキながら、絶望的に力の差がある大人相手に、なんとか食らいついた。
 至る所に傷を負い、口の中にたまったものを吐き飛ばした。
「ふざけんじゃね!」
 どうにも勝ち目がないくらい、分かっていた。でも、妙に沸き上がる高揚感に後押されながら、立ち向かっていった。


 ***   ***


 湯船から上がり、身支度を調えた。不思議と体の動きが軽くなったようだった。キョウコの言うとおり、結局は気持ちなのかもしれない。
「それで、どちらへ?」
「ああ、ちょっと歩くがな」
 夏を前に生き生きと伸び茂った草木を掻き分け、昨夜降ったと思われる雨粒が火照った体を程よく冷ましていった。
 次第に不規則に並べられた木々を抜け、普段の生活圏へと戻った。
 古ぼけた味わいのある家が建ち並ぶ集落を抜けて、再び人里を離れる。少しずつ雰囲気も変わりつつ景色にキョウコも気付いた。
「まさか、怪しい所に連れて行くつもりじゃないでしょうね」
「……まあ、当たっていなくもないか」
「どういうことよ」
「もしかしたら、人じゃないものが、うろついているかもな」
 やや不気味に伸びた木々の間を抜けていくが、長年も人の行き来があるためハッキリとした道ができていた。とはいえ、人の往来は少ないのも不気味に感じるのかもしれない。
 すると開けた場所にたどり着き、不気味さはそのままに木が黒い石に変わっていた。
「墓場じゃない。なんなのよ」
 オレはキョウコの苦情を受け流し、一心不乱に一つの墓石の前に足を進めた。
「ここが……オレの親父の墓だ」
 そこは立派な御影石で作られた、一際大きく生前の偉大さを伺える。
「そういうことでしたのね。サザツ先生と言えば、剣術でご活躍なされたと伺っていましたが、ここにきてから疑問に感じておりました」
「数年前、心臓の病気で。せっかく、この場所に家があるから湯治もしてみたが、ダメだった……」
 恋愛以外は効くと言われているが、末期だった心臓にも効く限度があったようだ。
「オレは、親父に半ば強引に剣術をやらされたが、次第にのめり込んでな……。気付いたら『twenty』を目指すようになった」
「それでわたくしにどうしろと言うのですか?」
「悩んでいるんだよ、どうしようか。でも、キョウコなら分かってくれるような気がしてな」
「そうとは限りませんけどね」
「いいや、今までで十分聞けたよ。話せたことで楽になったような気がする」
 前にムギが悔し紛れで言った台詞が、ずっと離れなかった。
 もう尽きる際の頃に、オレも同じよう誓った。いつか『twenty』に入ると。
 しかし、現実は想像以上に厳しく、険しい道のりがずっと続いている。
「候補者同士のわたくしには、そもそもどうすることもできませんけどね」
「それは、分かった上の話だ」
「でも……気持ちだなんて言いましたけど、本当に強い人は、自分を信じられるんだと思いますね」
 ため息にも似たような吐き出しをしたかと思うと、急に真面目な顔つきに変わった。
「自分のパワーを信じられる、戦術を信じられる、技術を信じられる。悪状況さえも変えられることもできる自信があるのでしょうね」
 オレは反論することなく、キョウコの言葉を聞き入っていた。なにか刺さるようなものを感じたからだ。
「少なくとも、パスクさんはスタミナが足りない。後半どうしても持続しているようには見えない」
「ありがとうな。キョウコには十分助けられたよ」
「瀕死の所も救ってあげた恩、忘れないことですわね」

 昼過ぎ、実家で昼飯を満足に済ませたキョウコと別れることになった。
「わたくしは、そろそろ次の対戦相手を探しますわ」
「悪かったな、ここまで付き合わせて」
「パスクさん。一つだけ言わせていだきますと、ケイを甘く見ないことですね」
「ああ、重々分かっている」
「もし、最後まで残れた場合の話ですけど」
 なんか嫌みっぽいな。キョウコは強いから残れるつもりなんだろう。
 その後、ケガの全快を待たずに、トレーニングに励んだ。
 ガキの頃、散々練習させられた広場に来た。オレにとっては懐かしくもあり、苦しかった思い出の場所だ。
 ピーノの敗戦で自信を完全に失っていた。しかし、今はハッキリしないが妙に沸き上がる高揚感に後押されながら、オレもまた次の対戦相手に備えていった。


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