vol.56『深夜の作戦決行』
日中、ナナと一緒に調査に再び乗り出した。本当は由樹か陽介を連れて行きたかったが、畑仕事もあるのでそっちを任せることにした。大事な収入源を疎かにはできないが、クローバーの乗っ取りもあって、今後どうなるか分からない。正規ルートだけでも、出荷できるようにしておきたい。
クローバーの乗っ取り以降、南支部も混乱を来していた。連絡をしても取り合ってもらえず、ほぼ放置状態が続いている。やはりセラの予想通り、本部とは手を切る話がきた。留守中だったので由樹が代わりに聞いていた。一度セラに状況を聞いたが、こちらも取り合ってくれなかった。駄目元で陽介に聞いてもらったら、西地区管轄である本支部も本部と近くとあってかなり荒れていると簡単に教えてくれた。
「本当だ……。こっちはひどい」
以前このあたりに来たことがあるが、その時は無数の植物が生い茂っていたが、その面影はなく、地面はむき出しで木々が何十本となぎ倒されていた。
「これが問題の機材か……」
塗装が所々剥がれ落ちた随分年季が入った建設機材が五台ほど、作業中そのままの状態で置かれていた。あたりには作業員らしき人物もいなかったので、中を覗いてみたが動かせないように鍵がかかっていた。
「やっぱり、キャパに人ものども動かしてもらうしかないね」
これといっていい方法もなく、いつも通りのキャパの対策でやるしかなかった。なんとかしてあげたいが、当人たちの住み家であるし、それが一番だろう。
深夜決行に備えて、みんなで昼寝をしておいた。お陰でそこまで眠くない。明かりとなるものが少ないので、薄暗いがなんとなくものの形が見える程度だった。
「いい? 作戦は理解しているよね?」
まずは機材を移動しておく。これさえなければ、作業もできない。動かすのは瞬間移動能力のあるキャパ。時間がかかるので、夏実がキャパのそばについて残りの三人は見張りをする。最後にこの先にある宿舎を丸ごと移動。大がかりな大掃除といったところだ。
全員配置につくと、まず一台目に取りかかる。瞬間移動するそのタイミングでは大きな音はしない。ただ、あそこまで大きいものを動かそうとすると、空間の歪みから空気の移動で風が吹き荒れる。
まず一台、怪しまれることなく移動に成功する。続いて二台目、三台目と難なくこなしていった。そして四台目も動かし終わり、最後の五台目に取りかかったとき、由樹が合図を出してきた。
「誰か来る! みんな隠れて!」
とっさに物陰に隠れて様子を窺う。やや小さめの人間が、僅かながら出す土を蹴る音がこちらへ向かってくる。時々立ち止まり何かを探しているようだった。どうも一人だったので、確かめようと物陰に隠れながら近づいていった。
「なのか?!」
思わず声に出してしまい、当のなのかを驚かせてしまった。
「家にもいないから探したよ……」
「どうしたの? こんな所に……」
「あのね、分かったの。イーストエンド産業って――」
「ちょっと待って! また誰か来る」
今度は陽介から合図が来る。そのまま、なのかと一緒に木の陰に隠れた。
今度は二人組で体格も大柄で、恐らくここの作業員が、懐中電灯片手に様子を見に来たのだろう。確実に機材がなくなっていることに気づかれてしまう。今夜はもうこれ以上は無理だ、一旦引こう。
(退避するよ!)
こういうときのために決めた合図を、みんなに届くように手で送る。それに気づき物音を立てないように森の方に避難を始めた。
ドスンと、嫌な音が聞こえた。振り返ると夏実と一緒にいたキャパの一匹が転んでいた。
「誰だ!」
一気に懐中電灯の光が、音の発信源に集まる。まずい……夏実たちが見つかる。
「私……行ってくる」
ダメだよと、なのかの手を掴もうとしたが間に合わず、夏実を助けにいってしまった。夏実は見つかってしまったキャパを救おうと引き返そうとしていた。そこへ作業員もキャパへ近づいてきている。
……失敗だ。万全を期すためにこの人数にしたが、少人数でやるべきだった。
「夏実ちゃん!」
もう何もすることができず、そう叫んだ。
すると、キャパを中心にあった、人や建設機材全ていなくなってしまった。もちろん夏実となのかも。
何が起こったか理解ができず、残された三人は呆然と立ち尽くすしかなかった。
「たぶん転んだの、コントロールがままならない一番小さい子供のキャパ。きっとピンチから焦って周りを巻き込んだと思う」
「どうしようか……」
結果的に五台全ての建設機材を移動する目的は達成したが、それと引き替えに……。
「どこに飛ばしたんだろう……近所だといいが」
あの子はかなり振り幅がある。まさか北地区じゃなければいいが……。もし北地区ならば早く助けてあげないと命の危険性がある。
「しっ。……話し声が聞こえる」
一斉に黙ると足音と共に確かに人の声が聞こえる。きっと作業員の仲間だ。まだそっちが残っていた。
「と、とりあえず、みんな退避!」
残された三人とキャパたちは、クモの子のように散り散りに逃げ回った。
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※56話から全文掲載することにいたしました。1話から読みたい人はこちらへ。
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日中、ナナと一緒に調査に再び乗り出した。本当は由樹か陽介を連れて行きたかったが、畑仕事もあるのでそっちを任せることにした。大事な収入源を疎かにはできないが、クローバーの乗っ取りもあって、今後どうなるか分からない。正規ルートだけでも、出荷できるようにしておきたい。
クローバーの乗っ取り以降、南支部も混乱を来していた。連絡をしても取り合ってもらえず、ほぼ放置状態が続いている。やはりセラの予想通り、本部とは手を切る話がきた。留守中だったので由樹が代わりに聞いていた。一度セラに状況を聞いたが、こちらも取り合ってくれなかった。駄目元で陽介に聞いてもらったら、西地区管轄である本支部も本部と近くとあってかなり荒れていると簡単に教えてくれた。
「本当だ……。こっちはひどい」
以前このあたりに来たことがあるが、その時は無数の植物が生い茂っていたが、その面影はなく、地面はむき出しで木々が何十本となぎ倒されていた。
「これが問題の機材か……」
塗装が所々剥がれ落ちた随分年季が入った建設機材が五台ほど、作業中そのままの状態で置かれていた。あたりには作業員らしき人物もいなかったので、中を覗いてみたが動かせないように鍵がかかっていた。
「やっぱり、キャパに人ものども動かしてもらうしかないね」
これといっていい方法もなく、いつも通りのキャパの対策でやるしかなかった。なんとかしてあげたいが、当人たちの住み家であるし、それが一番だろう。
深夜決行に備えて、みんなで昼寝をしておいた。お陰でそこまで眠くない。明かりとなるものが少ないので、薄暗いがなんとなくものの形が見える程度だった。
「いい? 作戦は理解しているよね?」
まずは機材を移動しておく。これさえなければ、作業もできない。動かすのは瞬間移動能力のあるキャパ。時間がかかるので、夏実がキャパのそばについて残りの三人は見張りをする。最後にこの先にある宿舎を丸ごと移動。大がかりな大掃除といったところだ。
全員配置につくと、まず一台目に取りかかる。瞬間移動するそのタイミングでは大きな音はしない。ただ、あそこまで大きいものを動かそうとすると、空間の歪みから空気の移動で風が吹き荒れる。
まず一台、怪しまれることなく移動に成功する。続いて二台目、三台目と難なくこなしていった。そして四台目も動かし終わり、最後の五台目に取りかかったとき、由樹が合図を出してきた。
「誰か来る! みんな隠れて!」
とっさに物陰に隠れて様子を窺う。やや小さめの人間が、僅かながら出す土を蹴る音がこちらへ向かってくる。時々立ち止まり何かを探しているようだった。どうも一人だったので、確かめようと物陰に隠れながら近づいていった。
「なのか?!」
思わず声に出してしまい、当のなのかを驚かせてしまった。
「家にもいないから探したよ……」
「どうしたの? こんな所に……」
「あのね、分かったの。イーストエンド産業って――」
「ちょっと待って! また誰か来る」
今度は陽介から合図が来る。そのまま、なのかと一緒に木の陰に隠れた。
今度は二人組で体格も大柄で、恐らくここの作業員が、懐中電灯片手に様子を見に来たのだろう。確実に機材がなくなっていることに気づかれてしまう。今夜はもうこれ以上は無理だ、一旦引こう。
(退避するよ!)
こういうときのために決めた合図を、みんなに届くように手で送る。それに気づき物音を立てないように森の方に避難を始めた。
ドスンと、嫌な音が聞こえた。振り返ると夏実と一緒にいたキャパの一匹が転んでいた。
「誰だ!」
一気に懐中電灯の光が、音の発信源に集まる。まずい……夏実たちが見つかる。
「私……行ってくる」
ダメだよと、なのかの手を掴もうとしたが間に合わず、夏実を助けにいってしまった。夏実は見つかってしまったキャパを救おうと引き返そうとしていた。そこへ作業員もキャパへ近づいてきている。
……失敗だ。万全を期すためにこの人数にしたが、少人数でやるべきだった。
「夏実ちゃん!」
もう何もすることができず、そう叫んだ。
すると、キャパを中心にあった、人や建設機材全ていなくなってしまった。もちろん夏実となのかも。
何が起こったか理解ができず、残された三人は呆然と立ち尽くすしかなかった。
「たぶん転んだの、コントロールがままならない一番小さい子供のキャパ。きっとピンチから焦って周りを巻き込んだと思う」
「どうしようか……」
結果的に五台全ての建設機材を移動する目的は達成したが、それと引き替えに……。
「どこに飛ばしたんだろう……近所だといいが」
あの子はかなり振り幅がある。まさか北地区じゃなければいいが……。もし北地区ならば早く助けてあげないと命の危険性がある。
「しっ。……話し声が聞こえる」
一斉に黙ると足音と共に確かに人の声が聞こえる。きっと作業員の仲間だ。まだそっちが残っていた。
「と、とりあえず、みんな退避!」
残された三人とキャパたちは、クモの子のように散り散りに逃げ回った。
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