お店の前に車が停まって、喪服を着た女性が足早にお店に入ってこられた。
そして、
「軽くて美味しい豆を１００ｇだけ下さい。」
と言われた。
話を聞くと、今お父様のお葬式の真っ最中とのこと。
亡きお父様が当店の珈琲豆が大好きだったんで、お棺に珈琲豆を入れて送ってあげたいと思って・・・・って言われた。
「お名前を聞いていいですか？」
って言ったら
「Sです。」と言われた。
Sさん！・・・・・・・・・・・。
憶えていますとも。
Sさんの初ご来店は５～６年前。
自転車に乗ってこられた。
白髪の品の良いおじいちゃんって感じで、優しい口調で、
「軽くて美味しい豆を下さい。豆でねっ」
って笑いながら言われた。
それから週に一回のペースで、自転車でご来店戴くようになった。
「僕は、こっちに来たばかりだから知り合いも居ないし、ここに来るのが楽しみでねぇ。」
って言って戴いて、いろんな話をした。
ところが、２年ほど前からぱったりお見かけしなくなった。
娘さんに聞いたら、その頃から認知症が出るようになって、
外出もされなくなったらしい。
それが、つい１ヶ月ほど前、
我がママがある病院のロビーでSさんとばったり会った。
我がママが
「Sさ～ん！お元気ですか？」
って言ったら、Sさんは
「あっ、ああ・・。」
って言って、我がママとは判らないようだったと聞いていた。
今日、娘さんにその話をしたら、
我がママと別れた後、
「あの人は、確か珈琲屋さんの奥さんじゃなかったの？」って言ったら、
Sさんは、急に大きな声で
「あぁぁ！木家のママだったかぁ！木家の珈琲をまた飲みたいなぁ」
って言われたとのこと。
それで、娘さんがお葬式の最中にそれを思い出して、うちに珈琲豆を買いに来られた・・・・。
娘さんは、最後に
「これで、父も私も、心残りがなくなりました。ありがとうございました。」
って言って、車に乗られた。
万年筆とか身につけるものとか、僕は一流しか使わない
って言ってたSさん。
人生の最後にうちの珈琲豆を選んで戴いて光栄です。
本当に本当にありがとうございます。
書いてたら、穏和なSさんのお顔が浮かんできて、泣けてきた・・・。
Sさん！
天国で、久し振りにうちの豆、挽いて飲んで下さいね。
ご冥福をお祈り致します。
合掌
●木家珈琲倶楽部
熊本県宇城市松橋町きらら３－３－８
（ウイングまつばせ横）
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