「私だけの十字架」 特捜最前線エンディングテーマ
Maison Ikkoku - めぞん一刻 - Cinema (2º Ending)
めぞん一刻 OP 歌詞 Maison Ikkoku 好きさ Love of
何故、人間は妬みの感情を抱くのでしょうか?進化心理学の立場では妬みはどんな意味を持つのかについて研究されて来ました。例えば、生命の危機を回避する動機づけの感情として妬みが機能して来たと言う主張があります。
私たちの祖先が暮らした、資源が乏しい時代では、他人に資源を取られると生命の危機につながって居ました。周りは沢山ご飯を配分されて居るのに、自分だけご飯が少なかったらどうなるでしょうか。
もし平気な顔をずっとして居たら飢え死にして仕舞うかも知れません。この様な不公平な状況を防ぐために妬みは存在して居るのです。
すなわち妬みは進化の過程で「自分を守るための感情」として必要だったと言う事です。妬む事は自分の状況が不公平である事をお知らせしてくれる、黄色信号としての機能があるのです。
妬みや嫉みと心理学研究
妬みは自分を守る防衛反応としての感情ですが、どんな時に発生しやすくなるのでしょうか?此処からは深く理解するため、心理学の研究を幾つか紹介します。
研究① 自己評価が下がると妬む
人間の深い部分では「生命の危機」を感じるからと言う理由ですが、少し表面的な話をすると、自分よりも優れて居る人を見ても妬みの感情を起こりません。「自分よりも優れている人見て、自己評価が下がった時に」妬みが生れやすいです。
心理学には自分の評価をどのように維持されるか?を研究して解った「自己評価維持モデル」があります。このモデルによると、他人の存在が自分の自己評価を低下させるかどうかには、3つの要素が関わって居るとされて居ます。
1.他者の優越 ・・・他者が自分よりも優れて居るか
2.心理的近さ ・・・他者と自分の親しさ
3.優越領域の自己関与度・・・他者が優位な領域が自分に関係するか
例えば、会社で昇進出来なかった人は、昇進した同僚がもともと自分と似て居たと感じた場合に、その同僚への妬み感情が強まって居ました(Schaubroke&Lam.2004)。
このように、
・親しい人が自分よりも優れている
・仲が良い、もしくは親しみを感じる
・領域が自分と被っている
場合にもっとも人は妬みを感じやすくなるのです。
研究② もともと自尊心が低いと妬みやすい
・自尊心との関係
澤田(2008)も大学生201名を対象にして妬み感情について調べました。その結果、自尊感情と妬み感情の間には相関が見られる事が解りました。
まずは男性を見て行きましょう。表を見るとマイナスとなっており、負の相関がある事が分かります。自分を認められないと、他人への嫉妬心が強まって仕舞うのです。
続いて、女性を見て行きましょう。此方も負の相関があり、自尊心の低下が妬み感情を強めて居る事が解ります。
・自尊心が高いと「ざまあみろ」と思わない
この研究では、妬み感情と関連している自尊感情にシャーデンフロイデの喚起を抑制する効果があると言う結果も出ました。シャーデンフロイデとは、他者の不幸を喜ぶと言う感情経験の事であり、“いい気味”や“様を見ろ(ざまみろ)”といった言葉で表現される事が多いです。
自尊心が低い方は、「仕事で残業が続いた事が原因で自分よりも出世した同期の夫婦仲が悪くなった」「豊かな生活をして居た友人が仕事をクビになって経済的に苦しくなった」と言った状況でシャーデンフロイデ、すなわちざまあみろと言う気持ちが喚起される可能性が高いです。
逆に自尊心が高い方は、ざまあみろと感じる事は少なく、心配する気持ちが湧き上がって来ます。その意味で妬み感情を抑えるには、自尊心を向上させる必要がありそうです。
研究③能力への妬みが大きい
原(2013)は大学生160名に対して、妬みを持った時の対象について調査を行いました。下図のように、成績が上位を占めて居た様です。外見などには意外と妬みはもって居ない事もわかります。成人になってもある程度この傾向は受け継いで居ると推測されます。同僚の方が出世が早い、営業成績がよい、上司から評価を受けて居る・・・婚活でうまく行って居る・・・こんな状況で妬みが発生するかも知れません。
妬みや嫉みの解決策
妬み感情は人間である以上、いくばくか持つのは仕方がありません。しかし、過剰になって居る場合は、悪口をまき散らして人間関係にひずみが入る事もあります。ある程度抑制する方法を考えて行きましょう。
今回は改善策について3つ提案させて頂きます。全部読むのは大変なので、当てはまる項目についてリンク先をチェックして見て下さいね♪
①悪玉→善玉の妬みに変える
妬みには2種類ある
Shengold(1994)は妬みの感情には「悪玉(malignant envy)の妬み」と「善玉(benign envy)の妬み」があると主張して居ます。妬みに良い面があるなんて、意外に感じられるかも知れませんね。後ほど詳しく解説しますが、悪玉の妬みは、攻撃性や消極的な行動に結び付く妬みです。例えば、相手に対して悪口をいったり、コケ下すような行動に繋がっていたら要注意です。
逆に善玉の妬みは、積極的な行動や自分を磨くポジティブな変化に結び付く妬みです。勉強をして見返す!追いつける様に仕事を頑張る!こう言った活力に繋がるものは善玉の妬みと言えるでしょう。
妬みを活かす方法
妬みはよくも悪くも強い感情です。身を亡ぼす感情であると共に、健康的にうまくコントロール出来れば自分のモチベーションに変えて前向きな行動に結び付ける事が出来ます。妬みをポジティブに活かしたい・・・と言う方は対処法をご紹介して行きます。
②比較癖をやめる
他人と比較してしまう
人間は他者と比較する事で、自分の存在を確かめる生き物です。私たちはコミュニケーションを通じ互いの言動を受入れて居る為、他人と比較する事は自然で誰しもが行って居ます。しかし、他者と比べすぎて仕舞うと妬みを強めてしまう原因になります。自分の状況よりも他人が良い状況である事を認識して仕舞うと、妬みの感情を誘発しやすくなるからです。
比較癖を改善しよう
改善策としては、自分を見失わない程度の比較を身に付ける事が良いでしょう。他人と比較しやすい・・・と言う方に以下をオススメします。
③強い妬みは深呼吸で落ち着く
強い妬みは要注意
妬みはうまく処理をしないと、どんどん強くなると怒りへと発展して行きます。うまくコントロールできず、流されて仕舞いますと、他者を傷つける行動に結び付く事があります。取り返しのつかない悪口を言って仕舞ったり、暴言を吐いて仕舞う事もあります。
妬みのピークをしのぐ
妬みをコントロールするのに役立つ方法として「深呼吸法」をご紹介します。一般的に強い感情のピークは6秒と言われて居ます。この6秒間をどう凌ぐかがポイントです。
さて、どんな社会にも他人をバカにする人は少なからず居るものです。 何かにつけて他人をバカにするような口調で話したり、貶めたり。 そう言った人たちは、一体何を考えて居るのでしょうか。
心理学の専門家によると、こう言う人たちは「人よりも優位に立ちたい」「自分の身を守りたい」と言う気持ちが強いそうです。 他人をバカにする事で「自分の方が出来る」とアピール仕様として居るのでしょうね。 また、「憧れ」もあるそうです。
例えば自分には出来ない事を難なくやってのける様な人に対して、小馬鹿にした態度を取る事で、「自分はそんな事興味がない」という風を装い、自身の評価や立ち位置が下がらない様にする傾向があると言われています。
人をバカにする人の特徴として挙げられるのは、「自分に自信が無い」と言う事です。自分に自信があるのなら、人をバカにするのではなく、面と向かって勝負をすれば良いのですが、自信が無いからこそ、人をバカにする態度を取って逃げて仕舞うのです。
口では色々言うけれども実際には何もしないタイプなど、まさにその典型では無いでしょうか。
また、人をバカにする人たちは総じてプライドが高く、何らかの心理的コンプレックスを持って居ると言う特徴もあります。自分を認めさせようと言う気持ちが強く、簡単には意見を曲げないので、周囲と衝突する事もよくあります。
そして厄介なのが、自分よりも弱い者を嗅ぎ分ける力に優れている処です。人をバカにする人が大人しそうな人やいいなりになりそうな人と一緒に居るのを見た事はありませんか? 彼らに取って自分よりも弱い立場の人間は居心地のよい存在。見つけたら寄って行き、バカにしながらも自分が優位に立つ関係を築こうとするのです。
人をバカにする人への対処法
人をバカにする人と上手く付き合うには、相手の心理状態に意識を配る必要があります。バカにして居るのがコンプレックスの表れなら、一緒に同調するよりも、さりげなく話を変えて逃げたり、相手にしなかったりする方が良いでしょう。
もしあなたが攻撃された場合は、相手の心理状態を見ながら(怒らせないようにしながら)、しっかりと自分の主張をした方が良いでしょう。「でも、私はこう思ってして居るから」と言う様に。
いずれにせよ、相手の特徴を知り、冷静に対処する事が欠かせません。 言われっぱなし、やられっぱなしでは無く、相手の心理に「否定された」と言うイメージを植え付けない様に気をつけながら、しっかりと自己主張する事が、相手との間に変な力関係を生じさせないコツとなるでしょう。
人をバカにする人の多くは、心理的にコンプレックスを抱えて居る人です。自分が優位に立ちたいと言う欲求が強いという特徴があるので、面と向かって反応せずに、適度にあしらうか、毅然とした態度で接しましょう。
まあ、ハッキリ言って、バカなのですよね。私は何遍もこのblogで言って居るけど、人の言う事が聞けないのです。チンケなプライドが邪魔をして、相手をバカにして来るのです。そしてそう言う人のパターンは相手が常に自分より劣ると考えて居る事です。本当に頭がいい人はこうは思いません。相手の容姿や、自分が知って居る相手の事柄だけでは無いと思うからです。相手を敬う心を持って居ます。相手の言うことにコンプレックスをすぐ抱く人は、相手をとことんバカにして掛かって来ます。自分が常に相手より上だと考えて物事を言い続けます。
まあ、色々と対処法を書いて見ましたが。放って置くのも一手ですよ。 また、そう言う人にストレスを感じる事もあるかと思います。そう言った時はこう言ったblogなどで私の様に発散しましょう......
walts
中目黒のカセットテープ屋「waltz」
ー現実と虚構が入りまじった話 ー
その日の取材はクソだった。
それでもライターとして金を貰って居る以上、必要最低限の仕事をこなしながら、何時もの様に「お疲れ様でした」と深々と多くの人に頭を下げた。
取材で訪れた中目黒のハウススタジオを出た後、僕は駅まで歩いて帰る事にした。中目黒の駅までは歩いて約15分。地元の人以外殆ど足を踏み入れる事のない静かな住宅街を歩いて居ると、緑地公園の側に少し変わった“ある店”を見つけた。
壁には「waltz」と書かれている。たぶんワルツと読むのだろう。
大きな鉄扉を開けると、目に飛び込んできたのはメタリックで異様なまでに存在感のある「カセットデッキ」だ。
コンパクトで持ち運びできそうなものから、スパイク・リーの映画に出てきそうなギラギラしたものまで…。
「ふぅん、今時ラジカセねぇ」と少しバカにしながらも、店内を少し見渡して見た。
店は大きく4つのゾーンに分けられて居た。入って左側はアナログレコードのスペース。中央はカセットテープやラジカセ、ウォークマンが展示され、右側には60年代頃からのファッション、音楽雑誌がずらりと収納されて居る。奥には、レコード、カセットが視聴できるスペースも用意されて居た。
昔のモノを売っている店。
それが、僕がこの店を見て抱いた第一印象だった。流行に浮かれた街に行けば、誰もが目にするであろうスノッブなアナログレコードの店。普段はネットラジオとAppleMusicで音楽的欲求が満たされて居る僕に取っては、今、最も興味の無い店のひとつかも知れない。
取り敢えず店内を一回りしたのち、僕はすぐに立ち去るつもりだった。ところが、結果的には暫く店から出る事はなかった。何故か? その理由は「カセットテープ」が妙に気になったからだ。
アナログレコードやCDに見慣れていると、カセットテープはとても滑稽なサイズをして居る。ジャケットのアートワークを楽しむにはミニチュアの様に小さすぎるし、ときどき文字がつぶれて何が書いてあるか読めないものもある。
いまの時代、テープに存在価値はあるのだろうか…。
「テープ。好きなの試聴していいからね」
声を掛けて来たのは、メガネをかけた40代後半の男性だった。カジュアルな服装で、やたらと聞き取りやすい声質をして居た。彼ならどれだけ騒がしいレストランでも、すぐにウエイトレスを呼ぶ事が出来そうだ。
「いや、辞めときます。だって、テープなんて音質が悪そうだし」
僕がそう答えると、男性は少しキョトンとした表情になり「君はなぜテープの音が良くないと思っているの?」と質問をして来た。そのトーンに特別な敵意は感じられなかった。だから僕は正直に答えた。
「だって、CDのほうが音がクリアだし、音域も広いし、聞き比べたら全然違う事ぐらい子供でも解るよ」
彼は「そっか」と短く言葉を漏らし、こう続けた。
「僕はテープの音が劣って居るなんて思った事が無いな。何と比較して音を評価して居るかと言う事がポイントだと思うんだけど、当時はデジタルメディアと比較してカセットは劣って居るとか、日本製のテープと海外製を比べると日本の方がいいとか、そう言う事を言っている時代もあった。
今のデジタルミュージックとアナログメディアを比較すると、音が全然違うのは確かにそうだと思う。ポイントはクリアという基準以外に、音の柔らかさや、中音域の厚さ、それぞれに特徴があるって事だと思う」
彼は店に並べられて居るカセットデッキを指さし、さらに話を続けた。
「どう言うプレーヤーで再生するかで、カセットは音の鳴りが全然違ってくる。80年代という時代は、電機メーカーがオーディオで技術を競っていた時代だった。ソニー、ナショナル、シャープなんかは特にそうだね。だから、当時のカセットデッキにはいいスピーカーが入ってるし、世界的にも人気なんだと思う。
実際にこういうラジカセで、ヒップホップを聞くとやっぱりいい。デジタルとは比較にならない魅力がある。君も聞いて見るかい?」
僕は少し考えたけど「やっぱり、いい」と首を横に振り、「ヒップホップは余り好きじゃないから」と答えた。
彼は特に表情を変えるでもなく「どう言う音楽が好きなの?」と聞いて来た。
「ジャズは割と好き」
「そうか。ちょっと待ってて」
そう言うと、彼はカセットテープのジャズコーナーで何かを探しはじめた。僕はその姿を眺めながら、自分の対応は冷たすぎたのではないかと少しだけ後悔した。
昔を生きた人は「昔は良かった」と口を揃え、今を生きる僕たちは“So Fucking What ?”と頭の中で繰り返す。
昔がそんなに良いなら、なぜ新しいテクノロジーは生まれた? なぜ人々は、より便利な生活を求め続けた? なにか不都合な事があったから、世の中は変わったんじゃないのか? そんな青臭いことを口にした処で、青臭い自分に嫌気がさす事も知っている。
しかし、目の前の男は何かが違った。アナログ好き特有の湿っぽさもなければ、回顧主義的なウザさもない。それは何故なのか? この店を始める前、彼はいったい何をしていたのだろう…?
「俺、ライターなんだけど、此処を取材したい。いいかな?」
「取材? いいよ、時間なら幾らでもあるから」
そう言いながら、彼は1本のカセットテープを棚から取り出し、展示していた古びたラジカセにセットした。
ガチャガチャと機械が絡み合い、しばらく間の悪い静寂が訪れた。そして、突然スピーカーからChet Bakerの“Well You Needn't”が流れ始めた。1944年にThelonious Monkが作曲したものだ。
もともとは倉庫に使われて居たと言う店内は、シンプルな造りでどちらかと言えば近寄りがたい印象だった。
しかし、ラジカセからChet Bakerの曲が流れ始めた途端、まるで魔法にでも掛かった様に陽気で乾いたウエストコーストの空気が店内を包んだ。言葉にならない感覚だった。
「どう、テープも悪くないだろ?」
僕は返事をするのも忘れるほど、Chet Bakerの軽快なトランペットに心を奪われてしまった。
「此処を取材したい。いいかな?」
「取材? いいよ、時間なら幾らでもあるから」
偶然入った中目黒にあるカセットテープ屋「Waltz」。平日という事もあってか、店内に他の客は誰も居なかった。
僕は何時もの取材のようにiPhoneを取り出し、音声メモの録音ボタンを押した。
「この店は何時からあるの?」
「オープンしてまだ4年ぐらいかな」
「その前って、何をして居たの?」
「Amazonという会社に居た。14年間働いたあと退職して、去年この店を作った」
彼の名前は角田太郎。世界最大級のECサイト「Amazon」に14年勤務していた元ビジネスマンで、現在は中目黒で「waltz」のオーナーをして居る。
彼がAmazonに入社したのは、日本に上陸したばかりの2001年。当時、日本でのAmazonの認知度は可也低く、知って居る人ですら「訳の解らないものがアメリカから参入して来た」と言う時代だった。
「当時、米国のITバブルがはじけたばかりだったから、多くの人がAmazonもすぐに撤退するだろうと予想して居た。でも、今や誰もが知る大企業になった。まあ、人の予想なんてそんなものだ」
書籍販売で日本に参入してきたAmazonだったが、一番初めに軌道に乗ったのはCDやDVDを取り扱う音楽・映像事業だった。その両方をゼロから立ち上げ、日本でAmazonを躍進させた人物こそが、いま僕が話をして居るこの男と言う訳だ。
その後、Amazonで確固たるキャリアを積み上げて居た彼は、4年前、多くの人の反対を押し切って突然のリタイア。
その理由に付いて、彼は少しはにかんだ表情を浮かべ「自分の人生を見つめ直した」と話してくれた。
「45歳を過ぎたあたりで、自分が典型的な“外資系マネージメント人間”になって居る事に気が付いた。仕事の収入は良かったし、やりがいもあった。でも、何かが違うことに気が付いて仕舞ったんだ。
一方、プライベートではずっとアナログの世界に居た。何時かは本物の店を持ちたいと言う構想はあったし、Amazonと真逆の事をやって見たかった」
この店のコレクションは、もともとは彼がプライベートで所有して居たもの。これほど膨大なコレクションをどの様に自宅に保管して居たのかも気になるが、それ以上に少し意地悪な質問をして見たくなった。
「アナログメディアって今はブームみたいだけど、僕の考えでは、若者が物珍しさで買って居るだけだと思う。近い将来、きっとアナログブームは終焉する。その事に関してはどう思う?」
彼は「そうだなぁ」とつぶやき、少し考えてから「水道水と天然水の違いかな」と言った。
「音楽は“水”に例えられると思って居る。蛇口をひねれば水が出るように、YouTubeやApple Musicがあれば誰でも簡単に音楽が聴ける。それがデジタルミュージックの特徴だし、非常に便利だと思う。
でも、僕にとってそれは水道水なんだ。
水道水は誰でも手に入れられるけど、一方でおいしい天然水を飲みたい人も沢山居る。山や川までいって、手間暇かけておいしい天然水を汲む。面倒も多いけど、やっぱり水道水よりも美味しい。そう言う感覚で音楽を楽しみたい人は、本当に沢山居るんだ」
彼はマグカップを手に取り、まだ温かそうな珈琲を口に飲んだ。
「そう考えると珈琲も同じかも私れない。世界中でスタバやタリーズが増える中、サードウェーブコーヒーというカルチャーが登場した。店で焙煎した豆を、ゆっくりと時間かけて淹れる。少々待たされたとしてもお客さんはまったく気にしない。だって、スタバなんかよりうまいコーヒーが飲めるからね。
そう言う価値観が生まれた背景には、今の時代への反動もある。米国でのレコードブームの時期とも重なるしね。
世の中が便利でイージーに成れば成るほど、その反対のカウンターカルチャーが育つ。それは音楽だけでなく、どの業界にも言える事だ。僕はレコードやカセットが音楽業界の主流になるとも思わない。でも、この需要は廃れる事無く、ずっと続いて行くものだと思う」
彼の話は英語のようにロジカルでとても解りやすい。ビジネスのノウハウも知識も十分すぎる程持って居る。だからこそ「この店はマーケティングを一切して居ない」と言う言葉にはとても驚いた。SNSでの情報発信だけでなく、ネット販売すらして居ないそうだ。
「Amazonは天気が悪い週末が一番売り上げがいい。でも、此処は駅からも遠く、周りには住宅しかない。台風が来るとお客さんがひとりも来ない日だってある。良くも悪くも、Amazonとは真逆の事がやれてる証拠なんだ」
彼は笑いながらそう話したが、僕は彼の言葉を聞き逃さないように注意した。恐らくこの辺りに彼の本音が隠れている様な気がしたからだ。
僕は、そろそろ一番知りたかった質問をする事にした。
「なぜ今の時代、この店を始めようと思ったの?」
彼は少し考え込み、記憶を辿る様な仕草を見せた。そして、まるで子どもに話すようなやさしい口調で、ゆっくりと僕に語り始めた。
「僕は、誰もやって居ない事をやり続けたら何かが生まれると信じて居る。Amazonを辞めるとき、自分に大きなミッションを2つ課したんだ。ひとつは、Amazonでは出来ない事をやる。もうひとつは、自分にしか出来ない事をやる。
僕は此処をオーセンティックなレコード屋に仕様とは思って居ない。世の中にいいレコード屋はどこにでもある。でも、カセットテープを沢山売る店は、日本中探してもどこにも無かった」
彼は、店の中央にあるカセットテープのスペースを見た。
「僕はレコード屋ではなく、カセットテープ屋をやりたかった。新しい空間を生み出し、カセットテープ、ウォークマン、ラジカセを並べてプレゼンテーションする。すると、これまでに無かった価値観が想像される。今の時代、こんな光景は誰も見た事がないからね。
レコードが並べられた景色はよく見ると思う。古書だってそうだ。でも、カセットテープが並べられた光景は、今の時代何処にもない。この店以外はね。
だから、此処に来るお客さんは、日本人だけでなく外国人も店の写真をSNSにアップしてくれる。さっきマーケティングはして居ないって言ったけど、何もしなくてもお客さんが勝手に「waltz」を世界中に宣伝してくれる。そういう世界が此処で作れたのは、僕にとっては凄く興味深い事だね」
彼が丁度話し終わったタイミングで、僕のiPhoneに電話が掛かって来た。それは次の取材先で待ち合わせをして居た編集者からだった。
本当はもっと彼の話を聞いて居たかった。でも、僕は「もう時間が無い見たいだ」と彼に告げた。
「そうか。君と話せて楽しかった」彼はそう言い、小さく微笑んだ。
僕は取材の謝礼も兼ねて、店で一番安いソニーのウォークマンとカセットテープをひとつだけ購入して店を後にした。
誰のテープにするかは少し迷った。しかし、ゆっくりしている時間もなかったので、カゴの中に入って居たものからテキトーに選んだ。そのカセットがLou Reedの“Transformer”だと気づいたのは、駅に向かって歩いて居る時だった。
僕は買ったばかりのウォークマンを取り出し、カセットをセットした。再生ボタンを押すと、機械が嬉しそうに動き出した。
カチャ、ガチャガチャ…。
しばらく間の悪い静寂が訪れたあと、けだるく歌うLou Reedの声が聞こえて来た。90年代製のウォークマンで聞く彼の歌声は、何時もよりも若々しい気がした。
流れてきた曲は「Perfect day」だった。
完璧なある一日、
公園でサングリアを飲んで、
まわりが暗くなりだしたら
僕らは家に帰る。
完璧なある一日、
動物園で動物たちにエサをあげ、
それから映画を見に行って、
そして、家に帰る。
そんな完璧な一日、
君と一緒に過ごせて幸せだ。
そんな完璧な一日、
君のおかげで僕はまともでいられる。
君のおかげで僕はまともでいられる。
僕は曲を聴きながら「まったくだ」と小さくため息をついた。
「君の言っている事はよく解る。出来る事なら僕だって今すぐサングリアを飲みたい気分なんだ。でも、僕は次の仕事に行かなければならないし、公園で飲むには日本はまだまだ寒すぎる。処で、君の言っている公園と言うのは、14丁目にある“Union Square”の事かい?」
僕はLou Reedとの会話を楽しみながら、次の取材先へ向かった。(終)
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