菜の花の沖

　司馬先生の本　「菜の花の沖」いいですね。

              ウラァ、タイショウ！　

　　　　　　　　　　　　　　　　　 　  万歳　　　大将！

 

やがてディアナ号は湾口に出たとき、風の中で鳴るようにして帆を展 (ひら) いた。

そのとき、リコルド以下すべての乗組員が甲板に整列し、曳綱を解いて離れてゆく嘉兵衛にむかい、 　

　ウラァ、タイショウ　と、三度叫んだ。

 嘉兵衛は不覚にも顔中が涙でくしゃくしゃになった。

一閑張(いっかんばり) の遠めがねを高くあげ、足もとをよろめかせながら、

 　ウラァ、ぢあな　と、何度もわめいた。やがてディアナ号は、水平線のかなたに没した。