記憶は定かでないが
たぶん
小学3年生の頃だったと思う
近所に住んでいた
天才と呼ばれていた子に
連れられて
彼のクラスの女の子の家に
遊びにいった
面識はあったけど
話したこともない女の子の家
彼女の家は
大通りに面していて
大きな店構えで
裏には、
大きな倉庫があり、
その裏に、
とてつもなく大きな住居があった
彼女と天才は
ずっと話していて
僕は彼女の顔ばかり見ていた
美しい少女だった
子供ながらに
胸の高鳴りを感じた
彼女は
天才との会話の間に
ときおり僕を見た
彼女と天才は
とてもなかが良さそうで
僕の入り込む余地はないなと
思い込んだ
しばらくして
放課後、彼女に手紙を
手渡された
日付と時間と
入口の地図が
書き込まれていた
この間
天才と入った入口とは違う
手紙をもらった週の土曜日
学校が終わると
家に戻らずに
彼女の家に向かった
心臓が破裂しそうだった
地図にあった裏木戸を開けると
お手伝いさんが手招きした
『お嬢様はこの階段を上ってすぐ右側の部屋にいらっしゃいます』
心臓の音が
お手伝いさんに聞こえはしないかと、心配になった
引き戸をノックすると
音もなく扉が開いた
美しい少女が
普段着とは思えないほどの
綺麗なワンピースを着ていた
彼女は僕の手を取り
二人がけのソファーに
座るよう導いた
『昔、作業場だったのここ』
髪のやさしい香りが
漂ってくる
『ねえ、私のことどう思う?』
僕は、唾を飲み込もうとしたけど
うまく飲み込めなかった
ドアを叩く音がした
お手伝いさんが
ケーキと紅茶を持ってきてくれた
そのあと
何を話したのか
よく覚えていない
紅茶の味も
ケーキの味も
思い出せない
その日から
僕と彼女は、特別な友達になった
休み時間
放課後
彼女との時間は夢のようだった
そんな日が
ひと月ほど続いたある朝
天才が僕に向かって
『見た?』
と、半笑いで聞いてきた
『何を?』
と、僕が聞き返すと
笑いながら去っていった
放課後、家に帰ろうとすると
道路や壁や石垣に
彼女と僕の名前が書かれた
相合傘が
点々と続いていた
彼の仕業だ
翌日
天才が職員室
にいるのを見た
遠目に
泣きながら
相合傘を消している
天才を見た
親も先生も
僕と彼女には
何一つ言わなかったけれど
学校中の騒ぎになってしまい
僕と彼女は
暗黙のうちに
会うのをやめた
切なかった
だけど……
それから3年がたち
6年生になったとき
僕らの小さかった恋は
再燃することになる