ショートなはなし

実際に体験したことをもとに、ショートな話をお聞きください。

相合傘

2021-02-24 11:58:51 | 日記
記憶は定かでないが
たぶん
小学3年生の頃だったと思う

近所に住んでいた
天才と呼ばれていた子に
連れられて

彼のクラスの女の子の家に
遊びにいった
面識はあったけど
話したこともない女の子の家

彼女の家は
大通りに面していて
大きな店構えで
裏には、
大きな倉庫があり、
その裏に、
とてつもなく大きな住居があった

彼女と天才は
ずっと話していて
僕は彼女の顔ばかり見ていた
美しい少女だった

子供ながらに
胸の高鳴りを感じた
彼女は
天才との会話の間に
ときおり僕を見た

彼女と天才は
とてもなかが良さそうで
僕の入り込む余地はないなと
思い込んだ

しばらくして

放課後、彼女に手紙を
手渡された

日付と時間と
入口の地図が
書き込まれていた

この間
天才と入った入口とは違う

手紙をもらった週の土曜日
学校が終わると
家に戻らずに
彼女の家に向かった

心臓が破裂しそうだった

地図にあった裏木戸を開けると
お手伝いさんが手招きした
『お嬢様はこの階段を上ってすぐ右側の部屋にいらっしゃいます』

心臓の音が
お手伝いさんに聞こえはしないかと、心配になった

引き戸をノックすると
音もなく扉が開いた

美しい少女が
普段着とは思えないほどの
綺麗なワンピースを着ていた

彼女は僕の手を取り
二人がけのソファーに
座るよう導いた

『昔、作業場だったのここ』

髪のやさしい香りが
漂ってくる

『ねえ、私のことどう思う?』

僕は、唾を飲み込もうとしたけど
うまく飲み込めなかった

ドアを叩く音がした

お手伝いさんが
ケーキと紅茶を持ってきてくれた

そのあと
何を話したのか
よく覚えていない
紅茶の味も
ケーキの味も
思い出せない

その日から
僕と彼女は、特別な友達になった

休み時間
放課後
彼女との時間は夢のようだった

そんな日が
ひと月ほど続いたある朝
天才が僕に向かって
『見た?』
と、半笑いで聞いてきた
『何を?』
と、僕が聞き返すと
笑いながら去っていった

放課後、家に帰ろうとすると
道路や壁や石垣に
彼女と僕の名前が書かれた
相合傘が
点々と続いていた

彼の仕業だ

翌日
天才が職員室
にいるのを見た

遠目に
泣きながら
相合傘を消している
天才を見た

親も先生も
僕と彼女には
何一つ言わなかったけれど

学校中の騒ぎになってしまい

僕と彼女は
暗黙のうちに
会うのをやめた

切なかった



だけど……

それから3年がたち

6年生になったとき



僕らの小さかった恋は
再燃することになる


夢と目標と道程

2021-02-22 08:08:31 | 日記
子供の頃
いつも一緒にいた男の子

彼は机上では
勉強していない様子だった

だけど、成績は常にトップで
追随を許さなかった

天才と呼ばれていたけど
きっと、見えないところで
努力していたに違いない
彼はそれを
努力とは思っていなかった
おそらく

ある日の帰り道
将来どうするの?
と彼に聞かれた

僕は、早稲田に行って
小説家になるかな
と、曖昧に答えた

彼は、東大に行って
医者になると言った
その言葉には、真実味があった
小学生5年生の言葉

中学は同じだったけど
少しずつ疎遠になり
彼は、県内でも
有数の進学高校に入学した

僕は地元の高校に
ギリギリで合格した

何十年もして
彼の名前を検索したら
国立大学の医学部の教授
に、同じ名があった

卒業した大学の
教授になっていた

僕はといえば
早稲田よりかなり偏差値の低い
大学に入り
小説家にはなれなかった

若いときに苦労しないと

そのあとずっと苦労する

苦労でないことも
苦労と感じてしまう

ひとを好きになるということ

2021-02-17 10:05:07 | 日記
男性、女性に関わらず
どうしようもなく
好きになってしまうことがある

客観的に判断したら
おかしな行動を
とってしまっているのかもしれない

どうしようもなく
好きになってしまったのだから
しかたない

若い頃は
その感情を抑えきれないでいた

好きという気持ちを
表に出す
アピールする

相手の気持ちは考えない

得てして、そんな場合
こちらの気持ちは届かない

どうしようもなく
好きになってしまったから
その炎を必死になって消そうとする

なかなか、鎮火しないが
消し続けるしかない

男性、女性に関わらず
どうしようもなく
好きになってしまうこともある

大概
焼け跡には
やるせなさが残る


不足と蛇足

2021-02-10 08:14:59 | 日記
言葉だけでは
伝わらないときがある

言葉が足りないのかもしれないし
気持ちが足りないのかもしれない

相手に思っていることが
伝わらないと
黙ってしまう人がいる
怒ってしまう人がいる

余計に伝わらない


言葉が過ぎて
伝わらないときがある

余計なことが邪魔しているのかもしれないし
自己主張が激しいのかもしれない
伝わらないと
さらに言葉を重ねる人がいる
さらに自分を出してくる人がいる

それでは
なかなか伝わらない


いい塩梅というのは
以外と難しいのかもしれない

いい案配に
話せる人
心配りのできる人は

素敵である

不足と蛇足がない


新宿厚生年金会館

2021-02-09 11:42:58 | 日記
初めてあのひとの実像を見た場所

CDは、殆ど持っていて
バラードが好きだった

そのときのコンサートは
彼が精神的な病から復帰した
記念すべきものだった

まだ、結婚して間もない妻が
チケットを取ってくれた

僕らは、
正直、うまくいってなかった
些細なことで喧嘩して
僕は言葉を発しなくなる
悪いのは僕だとわかっていた
だけど、どうすることもできなかった

ステージであのひとが話す

得たいの知れない
悲しみと苦しみと怯え

あのひとの、一言一言が
僕の滴の一粒一粒に
変わっていく

それは、頬を伝い
服を濡らした

あの日
新宿厚生年金会館に
行かなかったら
あのひとの言葉を聞かなかったら

僕は大切なものを
確実に失っていた

何十年も前の話

新宿厚生年金会館は今はない

ただ

あのひとは今も歌い続けている

そして
妻は今も僕の傍らで微笑んでいる