A collection of epigrams by 君塚正太

 君塚正太と申します。小説家、哲学者をしています。昨秋に刊行されました。本の題名は、「竜の小太郎 第一話」です。

エジプトにて

2007年05月14日 21時54分18秒 | 回想録
 昨年の九月にエジプトに行った時の事を思い出すと、かなり危険な状況下に身をおいていた。まず日本を発つ前にエジプト大使館と観光局に行き、情報を集めた。それによると、エジプトの治安機関はほとんど機能していない、という話であった。私はその事は先刻承知であった。発展途上国において、治安が維持されていないのは当然の事である。したがって、私はなんらの同様も覚えずにエジプトに赴いた。現地についてみるとさほど治安の悪さは目に付かなかった。首都のカイロでは政府機関が多く、さらには商店が一晩中営業しているために治安の劇的な変化を目にする事はなかった。
 次に私はルクソールを経由し、アスワンに向かった。地方都市になればなるほど、路上の整備や物乞いの人が増えていった。だがそれでも治安の悪化はさほど見られなかった。私はルクソールの宿で、「かわいいエジプト人はいないか?」と、聞いた。するとすぐさまそこの宿主は一生懸命になって、女の子を捜し始めた。結果から述べれば、女の子は見つからなかったが、そこの従業員とは関係をもった。宿主はもともと悪い人ではなく、たくさんの子供がいるためにやむを得ず、そういう行動に出たのである。エジプトでは女の子の斡旋は法律上禁止されている。私は宿主に冗談まじりに、「この事を他人に言ってもいいか?」と、聞いた。するとすぐさま宿主は、「それはだめです」と、応答してきた。もちろん、この会話は英語でなされたものである。そして宿主に私はチップを渡し、彼はカイロの良い場所を教えてくれた。
 私はカイロに戻り、前に知り合ったエジプト人に電話をかけた。これが不幸をもたらすとは思いも知れず、私は電話をかけたのである。私は三人のエジプト人と待ち合わせ、女の子と知り合う段取りを決めた。しかし彼らがあまりに法外な金額を請求したので、私は憤慨し、すぐさまルクソールの宿主に教えてもらった場所に向かった。だが私はここで初歩的な間違いを犯した。私は尾行されているのに気がつかなかったのである。それでも私はボディガードである。店に着いたときに一番見通しのつく場所に座り、あたりを警戒した。案の定、彼らは十分後に店の中に入ってきた。私はその状況に危険を感じ、いったんホールに出た。それから三十分もしないうちにマフィアが大勢、押し寄せてきた。しかし私もプロである。その光景にまったく動じず、前もって買収しておいた店の用心棒の助けもあって、六時間ほどその場所に居座った。これこそが「獅子身中の虫」である。たくみにマフィアと親しくなり、店の中でも自然な風体を装った。そして無事にその危険な状況を抜け出したのである。もちろん、手元にはいくつかの武器を用意していた。ナイフやフラッシュライトである。もしその時に襲われたら、私はマフィアの何人かを殺害しようとまで考えた。それほどの度胸がなければ、修羅場は潜り抜けられないのである。
 私は店を出た後にすぐさま警察署に行った。だが観光局の言うとおりに警察は機能していなかった。私は事前に用意しておいたメモを取り出し、大使館に連絡を取った。そして明朝には大使館に着き、事のあらましを説明した。知り合ったエジプト人の携帯の番号と違法な事を行っている店の住所を大使館に報告した。それから、滞在していたホテルを引き払い、別のホテルに移った。これは様々な事を憂慮して行った行為である。私はその後、ホテルの外には出ず、ひたすら耐え忍んだのである。
 

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