第二章 北から南へ
心の中で伊都子が、雪道を・・と思いながら帰った日から何日が過ぎた。
テレビの天気予報では、冷たい雨になると言ってたから確かに寒い。でも、底冷えのする寒い朝だわと思いながら窓の外を見ると・・・
天使のような雪が空から舞い降り始めてた。
伊都子「あっ!雪。今年初めての雪だわ。」
思わず声にしてしまった伊都子は、初雪を修と過ごしたいっと思った。
伊都子「もしもし・・・」
修 「もしもし・・」
伊都子「修。おはよう・・まだ、寝てた?」
修 「いやっ、起きてるよ。」
実際、修はまだベッドの中でフトンにくるまっていた。
伊都子「起こしちゃったら、ごめんなさい。あのね、窓の外見たら・・雪が降り始めていて・・」
修 「雪?」
伊都子「そう、雪が降っていて。。初雪の日にあなたと過ごせたらと思って、電話しちゃった。あとで、会えるかしら?」
修 「そうだな。時間作るよ。電話待っていてくれよな。必ず連絡するから。。」
伊都子「うん。。待ってる。じゃ、あとでね。。」
伊都子は修と会えると思った瞬間、どうやって楽しい一日をふたりで過ごせるかと考え始めた。
雪は、降り続く
もうお昼を過ぎたというのに、修からの電話はない。
ちょっとの不安はあるが、修との逢瀬を待つ、この時が伊都子は好きだ。
「そうだわ」「あそこに行きましょ」「彼も きっと喜ぶと思うわ」
伊都子は、修の電話を待ちながら身支度をし始めた。
雪はやがて、止み、急に雲の間から眩しい太陽の光が。。。
伊都子は、修からかかってくるはずの電話を待ちながら
そっと窓ガラスに映る光の反射を眺めていた
<<<私達。。。このままで いいのかしら・・・!?>>>
今はいいわ。。。だけど、この幸せがいつまで続くのかしら。。。
と、思った瞬間、玄関のチャイムが鳴った。
「 ピンポ~ン! 」
伊都子は少し濡れたアイメークを、素早く直し玄関ドアを開けた
そこには頭のてっぺんに雪を乗せ、はあ~はあ~と息の荒い修がいた
「伊都子!さあ~迎えに来たよ!行こう!」
伊都子の手を取り走り出す修
そんな修の後を必死について行きながら
「やっぱりこの人について行こう!」と呟いた。
「どこへ行きたい?」ちょっと首をかしげ、優しく聞く修の目には、お茶目な一面が・・・
伊都子は、こんな修が大好きなのだ。
「思い切って札幌は?」修は一瞬、戸惑った・・・
何日、かかるんだ・・・でも、いい、行ってみよう、札幌へ・・・
「時間は大丈夫?」・・・車で行けば、何日もかかる・・・両親にも言っていない・・・でも行きたかった・・・修と行きたかった・・・
決心したように、黙ってうなづく伊都子の肩を、修は、そっと抱いた・・・
そしてふたりは札幌へついた。
やはり、内地とは違い寒さで震え上がったが、ふたりは一緒にいるというだけで 温かかった。
伊都子と修は車を降り市電に乗ることにした。
この札幌の市電には、美しい韓国の男性が運転手として働いているという噂があった。
札幌・・・。
雪深いこの地は、真っ白な絨毯を敷いてふたりを待っていた。
日も暮れかかった夕刻、ふたりは黙って市電に乗る。
どこへ行くあてもないままに・・・。
「とうとう来てしまったね・・・」
修は伊都子の手を握ってそう呟いた。
「ええ・・・・・・」
不安?いいえ・・・誰も知らないこの地までかれとふたりきりで来れた事の幸せで
伊都子は言葉を詰まらせた。
降りるあてもない電車・・・
終点についても、降りる気配のないふたりに、運転手は言った。
「お客さん・・・終点ですよ」
伊都子は目をみはった。
だって・・・
呟いたその若い運転手は・・・
まさに自分の隣に居る、愛しい修にそっくりだったから・・・。
修は、伊都子のびっくりとした表情を見逃さなかった。
修「伊都子、どうしたんだ?お腹すいたのか?」
修はこの先伊都子がどこか遠くへ行ってしまうような気がした。何故なんだ?この胸の痛さは。。
そんな事を何も知らない運転手は、またこう言った。
運転手B「お客さん!早く下りてくれないかな。。オレ、早く会社に報告しなくてはいけないんだよ。」
伊都子はハッとして、我に返り・・
伊都子「あ!すみません。この市電は、車庫に入るのですか?」
運転手B「そうだよ。見ればわかるだろ」
なんとなく無愛想に返答する運転手だが、あまりにも隣にいる修そっくりなので、伊都子はくすっと笑った。
修「どうしたんだい?伊都子・・」
伊都子「え? あっごめんなさい。この運転手さんが、あなたそっくりだから。。」
修「えっ!!彼にそんなに似てるかなぁ?」
伊都子「ええ、そっくりよ。双子みたいに。。」
この運命的な出会いの修と運転手B。これから起こるであろう嵐の予感。。このふたりは・・
修「双子みたいだって!?」
そう伊都子に聞き返した修は その若い運転手の顔をまじまじと見た
運転手「なんなんですか!?あなた方は・・・僕の顔に何か付いていますか!?」
修「お、お、お前は、!!!」
<ここでミュージックスタート >
ジャン、ジャン、ジャ~ン
ジャン、ジャン、ジャ~ン
何処からともなく聞こえてくる、火曜サスペンスのテーマソング
伊都子「修さん、どうしたの!?」
修「お前は、もしかして。。。修二じゃあ~ないか!?」
運転手「ええ、私の名前は、大田原修二と申しますが・・・あなたは!?」
修「おれだ!おれだよ! 幼い時に生き別れた修兄さんだよ」
運転手「え”っ!!!」
その光景を伊都子は 目をパチクリさせながら 見ていた・・・
「修さん、アナタ・・・思い出したの 」
修は孤児だった・・・
孤児院育ちの修の影が伊都子を魅了していたのだ。
修は頭を押さえ苦しそうに、何かを求めていた。
うっすらと思い出しはじめていた・・・
あの交通事故、そして記憶喪失。
ここで、雪が降り始める・・・
もう外は暗い・・・
伊都子は、目に涙をため抱き合う兄弟を優しく見守った・・・
運命的な出会いをした修兄弟・・・
伊都子「さあ~2人とも、めぐり逢えたお祝いのパーティーをしましょう!」
修「伊都子、ここは、札幌だよ。どこかいいお店知っているのかい!?」
修二「あっ!兄さん、それなら 僕に任せて!この先に、美味しい札幌ラーメンを食べさせてくれる店があるんだ」
伊都子「わあ~、私ラーメン食べたかったの」
修二「そこのラーメンは、とっても美味しいって評判で、前に、韓国の俳優が、お忍びで食べに来た事もあるんだ」
伊都子「え”っ その俳優って。。。もしかして。。。LBH」
修二「伊都子さん、よく知ってるね」
修「伊都子!君は何故そんなに詳しいんだ!?」
伊都子「だって私のお友達のみんな、ファンなんですもの・・・」
修「じゃあ~君は!?」
伊都子「私は。。。ポッ! 修さん一筋に決まっているじゃあ~なあい」
修二「さあ~さあ~オノロケはそれくらいにして早く食べに行こうよ」
恋の花咲く~札幌~
札幌で偶然にも、奇跡の再開をした彼とその弟。
あの晩は札幌で三人でカニを食べながら遅くまで語らって、その後、おいしいラーメンを食べてかえったっけ・・・。
今は、また・・・現実の東京へ戻ってきたのだけれど、修さん、疲れていたのね・・・
普段なら、翌日が早い仕事のときは、泊まらずに帰ってしまうけど、今、こうして、私を腕に抱いたまま、寝息を立てている・・・。
伊都子はそっと、彼を起こさぬようにその胸の中で微笑んだ。
次はいつ会えるのかしら・・・・・・
気持ちのいい朝の陽射しが差し込む部屋・・・
ベットで眠っていた伊都子は、まだ覚めきれないまま手探りで ベットの横の修を探す
伊都子「・・・・う、・・・んっ!?・・・・」
いない!!!
そう思った瞬間に ベットから飛び起きる伊都子
伊都子「修さん・・・修さん・・・どこなの!?どこにいるの!? 」
急に不安になった伊都子は、急いで自分の身体をシーツに包み、ベランダに駆け寄った。
一瞬 ひやりとした空気が伊都子を襲う
しかし、伊都子の視線は、1つの場所をしっかり捉えていた
そこには眩しい光を浴びて湖に佇む修がいた
伊都子「修さぁ~~~ん 」
その可愛い声に振り返る修
そして、100万$の笑顔で応える修だった
「良く眠れた?」真っ白な歯を見せて修が言った・・・
伊都子は「ええ」とかすかに頷いた。
本当は、夢の中でまどろんでいるようで、熟睡は出来なかった。。。。。
「ごめんなさい、早くしないとお仕事に遅れちゃうわね」
もっと、一緒にいたかったが、突然の札幌行き、衝撃的な再会をした修を一人にしてあげたかった。
「今日は、会社を早退して病院へ行って来る。弟の事も大宮先生に話して来る。」
嬉しそうに話す修を納豆をかけたご飯を口いっぱいにして、伊都子は聞いていた。。。。
「君、納豆が好きだったの 」
「ええ、大好き・・・修さんは?」
修は答えられなかった・・・唯一、苦手な食べ物だったのだ・・・
「あ、ああ、まあね・・・・・でも、今日はいいよ。じゃあ、遅れそうだから行くよ。」
修は、思いつめたように出かけて行った。。。。。
伊都子は修を見送った後部屋を掃除していた。
掃除をしながら、この何日か過ごしたあのうっとりするような日々を思い出しながら くすっと笑っていた。
それにしても、絶対考えられないような出来事が起こるものなのねと思った。
修が双子の、ましてや幼いときに生き別れになっていた兄弟と偶然に出会うなんて。
と、ここ数日間の思い出をひとつひとつ思い出していたら。。。
修が病院に行くから。。って言ってたっけ。
聞き間違い?
大宮先生って、たしか心臓外科で有名な先生だよって修が以前言ってたっけ。
その大宮先生になんで修二さんの事話す必要があるんだろう。。
その頃、修は会社で。。。
兎に角、この何日間の仕事の遅れを取り戻さなければ・・・修は仕事の没頭した。
早く仕事を切り上げ、大宮先生の所へ行かねば・・・時間がないのだ。
幼い頃の交通事故が原因で、時々、激痛を感じる胸のあたり・・・
いいや、忘れよう・・・今このひと時の幸せに、もっと酔っていたかった、しかし・・・
「今日の晩御飯は何にしようかな 」
毎日が楽しくて、伊都子は生来の明るさに輝きも増し、日に日に美しくなって行く。。。
「そうだ、修さんが好きな、ビビンパにしよう。」
嬉しくて、いつものように ランランラン とくちづさみ、スーパーへ出かけた。
「~~~~~ん、ちょっと心配ですね」大宮先生は、重い口を開いた。
「手術は出来ますか?」祈るような修の声が、診察室から聞こえていた。。。。。
突如その沈黙を破り大宮先生は・・・
大宮「出来る事は 出来るんだが・・・」
修「やはり 難しい手術になるのでしょうか?」
大宮「君、ご兄弟は いるのかね?」
修「はい、弟が1人おりますが・・・」
大宮「そうか、その弟さんに至急連絡をとってくれたまえ」
修「はあ~、私の病気と弟が 何か関係があるのでしょうか!?」
大宮「今は具体的には言えないが、君にとってこれは、天の助けかもしれない」
修「わかりました。至急連絡をとってみます」
修の病気の事も、そしてその身に転機が訪れている事すら知らない伊都子は、部屋を暖かくし、自慢のビビンパを作りながら、ひたすら修の帰りを待っていた
「修二が天の助け?」兎に角、札幌にいる弟に連絡しよう。。。
「ヨボセヨ。。。修二?」
「ヨボセヨ。。。アハハ、兄さん、思い出したよ、小さい頃、近所のオバサンにハングルだっけ?韓国語をちょっと習ってふたりで言っていたよね」
「おう、覚えているのか」
「勿論だよ、兄さんと僕の合言葉じゃないか 」
修は、胸のつかえたように穏やかやな気持ちになった。。。
そうだ、あのオバサン、どこに住んでいたっけ・・・
そんな事を思っていたら、通じたのか、修二が言った。
「兄さん、あのオバサン、大阪に住んでいたよね。所で、何の用?」
修は言葉につまった。。。
こんなに嬉しそうに話す弟に病気の事なだ言い出せない・・・
「うん・・・・・お前があの合言葉を覚えていたら、伊都子と3人で、あの大阪のオバサンを訪ねて見ようかと思ってね、どうだ?」
「嬉しいよ、兄さん!僕はあのオバサンに札幌ラーメンを持って行くよ。」
その夜、修は伊都子が作ったビビンパを食べながら、大阪行きの話をした。
伊都子は修とビビンバを食べながら、修の子供の頃の話を聞いていた。
伊都子「修さん、修二さんとの合言葉って何?」
修 「ああ。子供の頃、二人で作ったんだよ。笑うなよ。」
伊都子「ええ、合言葉聞いても笑わないから・・教えて。」
修は意を決したように言った。
修 「ボン キュッ・・・」
伊都子「もしかして その後に続く言葉は ボン 」
修 「あったり~ 」
伊都子「あはははは(笑) ごめん、ごめん あまりにも簡単な合言葉だし・・子供のくせに・・」
修 「だから、笑うなって言ったじゃないかっ 」
伊都子「修さんって面白い子供だったのね。」
伊都子はそんな修が前よりも好きになったのだった。
家の中で一人で読書をすのが好きだった伊都子だが、修と知り合い、愛する事の素晴らしさを覚え、気がつくと家での読書より修との外出を、いつも楽しみにしている自分に、ふと微笑んでしまうのだ。。。
修と弟「おばちゃん!」
大阪のおばちゃん「どちらさん?
修と弟「僕や 僕達のこと 覚えてへんか?醤油やの隣に住んでた修と修二や」
大阪のおばちゃん「え!修ちゃんと宏ちゃんか?いや~、大きいなってもてわからんかったわ~えらい男前やんかあ。 元気にしてたん?」
修「うん。なんかおばちゃんに会いたくなってな顔見にきてん」
大阪のおばちゃん「そうか。おおきにな(涙ぐむ)それよか、あんたら おなかすいてへんか?」
宏「うん、すいてる!」
大阪のおばちゃん「そうか、ほなあんたらの好きやった「好きっやん」のラーメン作ったるわ~」
宏「やったあ!おばちゃんの作るラーメンが好きやったわ。おばちゃん 僕な、今札幌に住んどんやけど、おみやげに札幌らーめん持ってきたで!」
大阪のおばちゃん「いや~ そうかいな。嬉しいわ」
大阪のおばちゃんは、台所に立ち不思議な縁を感じていた。
1ヶ月ほど前、あのふたりの兄弟について尋ねてきた人があった。
身なりのいい、どこかの会社の秘書らしき名刺を置いていった
大阪のおばちゃん「さあできたで!はよう食べや。ところで、こちらのべっぴんさんは修ちゃんの小指かいな?」
修「うん へへへ。伊都子っていうんや。おばちゃん頼むわ~」
伊都子「初めまして。ご挨拶がおくれました。伊都子です。宜しくお願いいたします。」
とある沖縄の高級別荘で、白髪交じりの上品な婦人が、静かに海を見つめていた。。。
この頃、毎晩のように夢に出てくる可愛い男の子二人、幼い頃、夫の経営していた会社が倒産に追い込まれ、泣く泣く手放したわが子達だった・・・
「もう結婚しているのかしら・・・」
修子は、何としても会いたかった。。。
とその時、テレビにニュース速報が流れた。
「本日、東京の心臓外科医、大宮消価容疑者が、逮捕、容疑は詐欺罪、、、、この所、自身の精神が安定していないにもかかわらず、患者に心臓移植が必要などと多額の手術費を要求、これまでに被害に会った人は11人、いずれも、その多額な要求に不審をいだき警察の調査願いを出していた為、当局が調査にあたった所、患者が驚く顔をみたかった、などと意味不明な事を口走り、精神状態は悪化していた・・・」
「あの有名な大宮先生が・・・精神に異常とは・・」
それにしても、修二は、一時期、宏という名で大阪に住んでいた・・・
それも、占いの人に改名した方がいいからと薦められ・・・
名前まで変えて・・・幸せでいてくれるだろうか、
探し出せるだろうか・・・
有り余る財産を譲る息子達にも会えないまま、生涯を閉じなければならないのだろうか・・・
目の前の澄んだ海で、はしゃいでいる若者が、別れた息子達に重なり修子は涙が止まらなくなった。
大阪のおばちゃん「ほんまようきたな。おばちゃんもあんたらに会いたかってん。
実はなついこの間、あんたらを尋ねてきた人があってな、ほれこれがその人が持ってきた名刺や」
修 宏「・・・」
大阪のおばちゃん「なんかなあんたらの母親が、あんたらを探しているらしいねん」
修 宏 「え!・・・」
修二「にいさん・・・この名刺は。。。」
修「その名刺がどうかしたのか!?」
修二「うん、ちょっと見てよ」
そう言いながら修に名刺を渡す
修「・・・・・・・」
大阪のおばちゃん「修ちゃん、どないしたん!?」
修「おばちゃん、この名刺に写ってる顔、あの時、別れたかあ~さんだ!!!」
大阪のおばちゃん「へっ!? そやったんかいな!?おばちゃん最近、目もわる~うなってしもて、よう見えへんねん 」
修二「かあ~さんが僕達を捜してるって事だよね」
その会話を聞きながら修は思った
<これは、本当に不思議な縁だ。
伊都子と2人宛てのない旅に出て、偶然、昔、生き別れた弟の修二にめぐり合い、そしてまたここに来て、2度と会うことのない母親からの連絡・・・
それに、告白しなければならない 僕の病気・・・>
修「修二、これもなにかの縁だ!これからかあ~さんの所へ行こう」
修「うん!兄さん、わかった!行こう!」
大阪のおばちゃん「そうや、そうや、あんたらこのラーメン食べて、はよう行った方がええわ」
伊都子「修さん。。。。私は!?」
修「伊都子!モチロン君も一緒さ」
大阪のおばちゃんに別れを告げ3人は 関西空港へと急いだ・・・
三人は搭乗手続きを済ませ、飛行機に乗り込んだ。
行き先は・・・そう、名刺の隙間に直筆で書かれてあった
母の別荘のある場所・・・沖縄だ。
修子は、二人を手放した後、強く心に誓った。
「必ず・・・必ずお金を貯めて、二人ともを迎えに行く・・・」
そして、日夜修子は、寝もやらずに働いた。
できることはなんでもやった。
そんな修子に、すまないとは思いながら、夫は自ら経営していた
乗りに乗ったバブリーな会社の面影を忘れられないで居た。
今からだというときに・・・まさかの倒産だった。
そして夫は、日々、酒に溺れ、やがて毎日正気でいられないほどになっていった。
五年後、修子の苦労の甲斐も無く、夫はあっけなく世を去った。
保険は入ったものの、修子はなにもかもを失った気がした。
そして修子は、昔から仲のよかった友達を求めて沖縄へと渡ったのだ。
沖縄での暮らしは、一からのスタートにちょうどよかった。
ここでも修子は、一心不乱に働いた。
昼も、夜も・・・。
そして、狭いがひとつの家を手に入れて、ふたりの息子を探した。
ところが・・・
預けた親戚は離婚をし、双方にひとりずつ引き取られたふたりの行き先は、どれだけ探してもわからなかった。
そりゃあそうかな・・・あれからもう、20年にもなるのだもの。。。
何度もあきらめようとしたが、できない修子は、家族が離れ離れになる前、楽しく過ごした時のことを思い出した。
すると、あの大阪のおばちゃんの顔が浮かんだのだ。
ふたりはおばちゃんになついて、よく遊んでもらっていた。
あのおばちゃんなら、ふたりのことが分かるときがくるかもしれない。
いや、そうであってほしい・・・。
伊都子を真ん中に、ふたりの心は言いようのない期待感にあふれていた。
・・・もうすぐ母に会える・・・
そして、沖縄本島から、船に乗りやってきた離島。
そこにひっそりと立つ、綺麗な別荘。
インターホンを押す前に、中から老婦人が走って出てきた。
どうやら・・・テラス前のガラス窓から外を見ていたら、ふたり(+伊都子)の姿が見えたらしい。
母「あなたがたは・・・!あなたがたは、修と修二ね!!」
修「かぁさん!?かぁさんなんだね!!どうしてそれが・・・!?」
母「忘れるはず無いわ・・・ずっと、ずっと思っていたのだから・・・」
そしてそして、三人は我を忘れて号泣
伊都子の紹介を済ませて、晩御飯の食卓を囲んだ。
修二「兄さん・・・なにか話したいこと、あるんじゃない?」
修二には、兄が何か隠していることが分かっていた。
修「そうなんだ・・・じつは、俺・・・会社の検診でひっかかって、心臓移植が必要といわれたんだ・・・。」
母「それって、どこで見てもらったの?確かなの??」
修「うん!間違いないよ、あの大宮先生だから・・・」
母「大宮先生~~~!?」
そして・・・母から先生が今日、捕まったことを聞かされた。
急いで島の病院で再検査をしてみると、なんでもなかったが明らかになった。
修「なんだ・・・おかしいと思ったよ。だってこんなに元気だから」
母「どうせなんだから、しばらく居られるんでしょ?」
そして四人は、泡盛を片手に、ミミガー・ゴーヤー・テビチーなどを食べて、夜が更けるのを忘れて語り合った・・・。
沖縄で数日間、修一家と過ごしていた伊都子は、仕事の都合で一足早く東京の家に帰って来ていた。
心の中で伊都子が、雪道を・・と思いながら帰った日から何日が過ぎた。
テレビの天気予報では、冷たい雨になると言ってたから確かに寒い。でも、底冷えのする寒い朝だわと思いながら窓の外を見ると・・・
天使のような雪が空から舞い降り始めてた。
伊都子「あっ!雪。今年初めての雪だわ。」
思わず声にしてしまった伊都子は、初雪を修と過ごしたいっと思った。
伊都子「もしもし・・・」
修 「もしもし・・」
伊都子「修。おはよう・・まだ、寝てた?」
修 「いやっ、起きてるよ。」
実際、修はまだベッドの中でフトンにくるまっていた。
伊都子「起こしちゃったら、ごめんなさい。あのね、窓の外見たら・・雪が降り始めていて・・」
修 「雪?」
伊都子「そう、雪が降っていて。。初雪の日にあなたと過ごせたらと思って、電話しちゃった。あとで、会えるかしら?」
修 「そうだな。時間作るよ。電話待っていてくれよな。必ず連絡するから。。」
伊都子「うん。。待ってる。じゃ、あとでね。。」
伊都子は修と会えると思った瞬間、どうやって楽しい一日をふたりで過ごせるかと考え始めた。
雪は、降り続く
もうお昼を過ぎたというのに、修からの電話はない。
ちょっとの不安はあるが、修との逢瀬を待つ、この時が伊都子は好きだ。
「そうだわ」「あそこに行きましょ」「彼も きっと喜ぶと思うわ」
伊都子は、修の電話を待ちながら身支度をし始めた。
雪はやがて、止み、急に雲の間から眩しい太陽の光が。。。
伊都子は、修からかかってくるはずの電話を待ちながら
そっと窓ガラスに映る光の反射を眺めていた
<<<私達。。。このままで いいのかしら・・・!?>>>
今はいいわ。。。だけど、この幸せがいつまで続くのかしら。。。
と、思った瞬間、玄関のチャイムが鳴った。
「 ピンポ~ン! 」
伊都子は少し濡れたアイメークを、素早く直し玄関ドアを開けた
そこには頭のてっぺんに雪を乗せ、はあ~はあ~と息の荒い修がいた
「伊都子!さあ~迎えに来たよ!行こう!」
伊都子の手を取り走り出す修
そんな修の後を必死について行きながら
「やっぱりこの人について行こう!」と呟いた。
「どこへ行きたい?」ちょっと首をかしげ、優しく聞く修の目には、お茶目な一面が・・・
伊都子は、こんな修が大好きなのだ。
「思い切って札幌は?」修は一瞬、戸惑った・・・
何日、かかるんだ・・・でも、いい、行ってみよう、札幌へ・・・
「時間は大丈夫?」・・・車で行けば、何日もかかる・・・両親にも言っていない・・・でも行きたかった・・・修と行きたかった・・・
決心したように、黙ってうなづく伊都子の肩を、修は、そっと抱いた・・・
そしてふたりは札幌へついた。
やはり、内地とは違い寒さで震え上がったが、ふたりは一緒にいるというだけで 温かかった。
伊都子と修は車を降り市電に乗ることにした。
この札幌の市電には、美しい韓国の男性が運転手として働いているという噂があった。
札幌・・・。
雪深いこの地は、真っ白な絨毯を敷いてふたりを待っていた。
日も暮れかかった夕刻、ふたりは黙って市電に乗る。
どこへ行くあてもないままに・・・。
「とうとう来てしまったね・・・」
修は伊都子の手を握ってそう呟いた。
「ええ・・・・・・」
不安?いいえ・・・誰も知らないこの地までかれとふたりきりで来れた事の幸せで
伊都子は言葉を詰まらせた。
降りるあてもない電車・・・
終点についても、降りる気配のないふたりに、運転手は言った。
「お客さん・・・終点ですよ」
伊都子は目をみはった。
だって・・・
呟いたその若い運転手は・・・
まさに自分の隣に居る、愛しい修にそっくりだったから・・・。
修は、伊都子のびっくりとした表情を見逃さなかった。
修「伊都子、どうしたんだ?お腹すいたのか?」
修はこの先伊都子がどこか遠くへ行ってしまうような気がした。何故なんだ?この胸の痛さは。。
そんな事を何も知らない運転手は、またこう言った。
運転手B「お客さん!早く下りてくれないかな。。オレ、早く会社に報告しなくてはいけないんだよ。」
伊都子はハッとして、我に返り・・
伊都子「あ!すみません。この市電は、車庫に入るのですか?」
運転手B「そうだよ。見ればわかるだろ」
なんとなく無愛想に返答する運転手だが、あまりにも隣にいる修そっくりなので、伊都子はくすっと笑った。
修「どうしたんだい?伊都子・・」
伊都子「え? あっごめんなさい。この運転手さんが、あなたそっくりだから。。」
修「えっ!!彼にそんなに似てるかなぁ?」
伊都子「ええ、そっくりよ。双子みたいに。。」
この運命的な出会いの修と運転手B。これから起こるであろう嵐の予感。。このふたりは・・
修「双子みたいだって!?」
そう伊都子に聞き返した修は その若い運転手の顔をまじまじと見た
運転手「なんなんですか!?あなた方は・・・僕の顔に何か付いていますか!?」
修「お、お、お前は、!!!」
<ここでミュージックスタート >
ジャン、ジャン、ジャ~ン
ジャン、ジャン、ジャ~ン
何処からともなく聞こえてくる、火曜サスペンスのテーマソング
伊都子「修さん、どうしたの!?」
修「お前は、もしかして。。。修二じゃあ~ないか!?」
運転手「ええ、私の名前は、大田原修二と申しますが・・・あなたは!?」
修「おれだ!おれだよ! 幼い時に生き別れた修兄さんだよ」
運転手「え”っ!!!」
その光景を伊都子は 目をパチクリさせながら 見ていた・・・
「修さん、アナタ・・・思い出したの 」
修は孤児だった・・・
孤児院育ちの修の影が伊都子を魅了していたのだ。
修は頭を押さえ苦しそうに、何かを求めていた。
うっすらと思い出しはじめていた・・・
あの交通事故、そして記憶喪失。
ここで、雪が降り始める・・・
もう外は暗い・・・
伊都子は、目に涙をため抱き合う兄弟を優しく見守った・・・
運命的な出会いをした修兄弟・・・
伊都子「さあ~2人とも、めぐり逢えたお祝いのパーティーをしましょう!」
修「伊都子、ここは、札幌だよ。どこかいいお店知っているのかい!?」
修二「あっ!兄さん、それなら 僕に任せて!この先に、美味しい札幌ラーメンを食べさせてくれる店があるんだ」
伊都子「わあ~、私ラーメン食べたかったの」
修二「そこのラーメンは、とっても美味しいって評判で、前に、韓国の俳優が、お忍びで食べに来た事もあるんだ」
伊都子「え”っ その俳優って。。。もしかして。。。LBH」
修二「伊都子さん、よく知ってるね」
修「伊都子!君は何故そんなに詳しいんだ!?」
伊都子「だって私のお友達のみんな、ファンなんですもの・・・」
修「じゃあ~君は!?」
伊都子「私は。。。ポッ! 修さん一筋に決まっているじゃあ~なあい」
修二「さあ~さあ~オノロケはそれくらいにして早く食べに行こうよ」
恋の花咲く~札幌~
札幌で偶然にも、奇跡の再開をした彼とその弟。
あの晩は札幌で三人でカニを食べながら遅くまで語らって、その後、おいしいラーメンを食べてかえったっけ・・・。
今は、また・・・現実の東京へ戻ってきたのだけれど、修さん、疲れていたのね・・・
普段なら、翌日が早い仕事のときは、泊まらずに帰ってしまうけど、今、こうして、私を腕に抱いたまま、寝息を立てている・・・。
伊都子はそっと、彼を起こさぬようにその胸の中で微笑んだ。
次はいつ会えるのかしら・・・・・・
気持ちのいい朝の陽射しが差し込む部屋・・・
ベットで眠っていた伊都子は、まだ覚めきれないまま手探りで ベットの横の修を探す
伊都子「・・・・う、・・・んっ!?・・・・」
いない!!!
そう思った瞬間に ベットから飛び起きる伊都子
伊都子「修さん・・・修さん・・・どこなの!?どこにいるの!? 」
急に不安になった伊都子は、急いで自分の身体をシーツに包み、ベランダに駆け寄った。
一瞬 ひやりとした空気が伊都子を襲う
しかし、伊都子の視線は、1つの場所をしっかり捉えていた
そこには眩しい光を浴びて湖に佇む修がいた
伊都子「修さぁ~~~ん 」
その可愛い声に振り返る修
そして、100万$の笑顔で応える修だった
「良く眠れた?」真っ白な歯を見せて修が言った・・・
伊都子は「ええ」とかすかに頷いた。
本当は、夢の中でまどろんでいるようで、熟睡は出来なかった。。。。。
「ごめんなさい、早くしないとお仕事に遅れちゃうわね」
もっと、一緒にいたかったが、突然の札幌行き、衝撃的な再会をした修を一人にしてあげたかった。
「今日は、会社を早退して病院へ行って来る。弟の事も大宮先生に話して来る。」
嬉しそうに話す修を納豆をかけたご飯を口いっぱいにして、伊都子は聞いていた。。。。
「君、納豆が好きだったの 」
「ええ、大好き・・・修さんは?」
修は答えられなかった・・・唯一、苦手な食べ物だったのだ・・・
「あ、ああ、まあね・・・・・でも、今日はいいよ。じゃあ、遅れそうだから行くよ。」
修は、思いつめたように出かけて行った。。。。。
伊都子は修を見送った後部屋を掃除していた。
掃除をしながら、この何日か過ごしたあのうっとりするような日々を思い出しながら くすっと笑っていた。
それにしても、絶対考えられないような出来事が起こるものなのねと思った。
修が双子の、ましてや幼いときに生き別れになっていた兄弟と偶然に出会うなんて。
と、ここ数日間の思い出をひとつひとつ思い出していたら。。。
修が病院に行くから。。って言ってたっけ。
聞き間違い?
大宮先生って、たしか心臓外科で有名な先生だよって修が以前言ってたっけ。
その大宮先生になんで修二さんの事話す必要があるんだろう。。
その頃、修は会社で。。。
兎に角、この何日間の仕事の遅れを取り戻さなければ・・・修は仕事の没頭した。
早く仕事を切り上げ、大宮先生の所へ行かねば・・・時間がないのだ。
幼い頃の交通事故が原因で、時々、激痛を感じる胸のあたり・・・
いいや、忘れよう・・・今このひと時の幸せに、もっと酔っていたかった、しかし・・・
「今日の晩御飯は何にしようかな 」
毎日が楽しくて、伊都子は生来の明るさに輝きも増し、日に日に美しくなって行く。。。
「そうだ、修さんが好きな、ビビンパにしよう。」
嬉しくて、いつものように ランランラン とくちづさみ、スーパーへ出かけた。
「~~~~~ん、ちょっと心配ですね」大宮先生は、重い口を開いた。
「手術は出来ますか?」祈るような修の声が、診察室から聞こえていた。。。。。
突如その沈黙を破り大宮先生は・・・
大宮「出来る事は 出来るんだが・・・」
修「やはり 難しい手術になるのでしょうか?」
大宮「君、ご兄弟は いるのかね?」
修「はい、弟が1人おりますが・・・」
大宮「そうか、その弟さんに至急連絡をとってくれたまえ」
修「はあ~、私の病気と弟が 何か関係があるのでしょうか!?」
大宮「今は具体的には言えないが、君にとってこれは、天の助けかもしれない」
修「わかりました。至急連絡をとってみます」
修の病気の事も、そしてその身に転機が訪れている事すら知らない伊都子は、部屋を暖かくし、自慢のビビンパを作りながら、ひたすら修の帰りを待っていた
「修二が天の助け?」兎に角、札幌にいる弟に連絡しよう。。。
「ヨボセヨ。。。修二?」
「ヨボセヨ。。。アハハ、兄さん、思い出したよ、小さい頃、近所のオバサンにハングルだっけ?韓国語をちょっと習ってふたりで言っていたよね」
「おう、覚えているのか」
「勿論だよ、兄さんと僕の合言葉じゃないか 」
修は、胸のつかえたように穏やかやな気持ちになった。。。
そうだ、あのオバサン、どこに住んでいたっけ・・・
そんな事を思っていたら、通じたのか、修二が言った。
「兄さん、あのオバサン、大阪に住んでいたよね。所で、何の用?」
修は言葉につまった。。。
こんなに嬉しそうに話す弟に病気の事なだ言い出せない・・・
「うん・・・・・お前があの合言葉を覚えていたら、伊都子と3人で、あの大阪のオバサンを訪ねて見ようかと思ってね、どうだ?」
「嬉しいよ、兄さん!僕はあのオバサンに札幌ラーメンを持って行くよ。」
その夜、修は伊都子が作ったビビンパを食べながら、大阪行きの話をした。
伊都子は修とビビンバを食べながら、修の子供の頃の話を聞いていた。
伊都子「修さん、修二さんとの合言葉って何?」
修 「ああ。子供の頃、二人で作ったんだよ。笑うなよ。」
伊都子「ええ、合言葉聞いても笑わないから・・教えて。」
修は意を決したように言った。
修 「ボン キュッ・・・」
伊都子「もしかして その後に続く言葉は ボン 」
修 「あったり~ 」
伊都子「あはははは(笑) ごめん、ごめん あまりにも簡単な合言葉だし・・子供のくせに・・」
修 「だから、笑うなって言ったじゃないかっ 」
伊都子「修さんって面白い子供だったのね。」
伊都子はそんな修が前よりも好きになったのだった。
家の中で一人で読書をすのが好きだった伊都子だが、修と知り合い、愛する事の素晴らしさを覚え、気がつくと家での読書より修との外出を、いつも楽しみにしている自分に、ふと微笑んでしまうのだ。。。
修と弟「おばちゃん!」
大阪のおばちゃん「どちらさん?
修と弟「僕や 僕達のこと 覚えてへんか?醤油やの隣に住んでた修と修二や」
大阪のおばちゃん「え!修ちゃんと宏ちゃんか?いや~、大きいなってもてわからんかったわ~えらい男前やんかあ。 元気にしてたん?」
修「うん。なんかおばちゃんに会いたくなってな顔見にきてん」
大阪のおばちゃん「そうか。おおきにな(涙ぐむ)それよか、あんたら おなかすいてへんか?」
宏「うん、すいてる!」
大阪のおばちゃん「そうか、ほなあんたらの好きやった「好きっやん」のラーメン作ったるわ~」
宏「やったあ!おばちゃんの作るラーメンが好きやったわ。おばちゃん 僕な、今札幌に住んどんやけど、おみやげに札幌らーめん持ってきたで!」
大阪のおばちゃん「いや~ そうかいな。嬉しいわ」
大阪のおばちゃんは、台所に立ち不思議な縁を感じていた。
1ヶ月ほど前、あのふたりの兄弟について尋ねてきた人があった。
身なりのいい、どこかの会社の秘書らしき名刺を置いていった
大阪のおばちゃん「さあできたで!はよう食べや。ところで、こちらのべっぴんさんは修ちゃんの小指かいな?」
修「うん へへへ。伊都子っていうんや。おばちゃん頼むわ~」
伊都子「初めまして。ご挨拶がおくれました。伊都子です。宜しくお願いいたします。」
とある沖縄の高級別荘で、白髪交じりの上品な婦人が、静かに海を見つめていた。。。
この頃、毎晩のように夢に出てくる可愛い男の子二人、幼い頃、夫の経営していた会社が倒産に追い込まれ、泣く泣く手放したわが子達だった・・・
「もう結婚しているのかしら・・・」
修子は、何としても会いたかった。。。
とその時、テレビにニュース速報が流れた。
「本日、東京の心臓外科医、大宮消価容疑者が、逮捕、容疑は詐欺罪、、、、この所、自身の精神が安定していないにもかかわらず、患者に心臓移植が必要などと多額の手術費を要求、これまでに被害に会った人は11人、いずれも、その多額な要求に不審をいだき警察の調査願いを出していた為、当局が調査にあたった所、患者が驚く顔をみたかった、などと意味不明な事を口走り、精神状態は悪化していた・・・」
「あの有名な大宮先生が・・・精神に異常とは・・」
それにしても、修二は、一時期、宏という名で大阪に住んでいた・・・
それも、占いの人に改名した方がいいからと薦められ・・・
名前まで変えて・・・幸せでいてくれるだろうか、
探し出せるだろうか・・・
有り余る財産を譲る息子達にも会えないまま、生涯を閉じなければならないのだろうか・・・
目の前の澄んだ海で、はしゃいでいる若者が、別れた息子達に重なり修子は涙が止まらなくなった。
大阪のおばちゃん「ほんまようきたな。おばちゃんもあんたらに会いたかってん。
実はなついこの間、あんたらを尋ねてきた人があってな、ほれこれがその人が持ってきた名刺や」
修 宏「・・・」
大阪のおばちゃん「なんかなあんたらの母親が、あんたらを探しているらしいねん」
修 宏 「え!・・・」
修二「にいさん・・・この名刺は。。。」
修「その名刺がどうかしたのか!?」
修二「うん、ちょっと見てよ」
そう言いながら修に名刺を渡す
修「・・・・・・・」
大阪のおばちゃん「修ちゃん、どないしたん!?」
修「おばちゃん、この名刺に写ってる顔、あの時、別れたかあ~さんだ!!!」
大阪のおばちゃん「へっ!? そやったんかいな!?おばちゃん最近、目もわる~うなってしもて、よう見えへんねん 」
修二「かあ~さんが僕達を捜してるって事だよね」
その会話を聞きながら修は思った
<これは、本当に不思議な縁だ。
伊都子と2人宛てのない旅に出て、偶然、昔、生き別れた弟の修二にめぐり合い、そしてまたここに来て、2度と会うことのない母親からの連絡・・・
それに、告白しなければならない 僕の病気・・・>
修「修二、これもなにかの縁だ!これからかあ~さんの所へ行こう」
修「うん!兄さん、わかった!行こう!」
大阪のおばちゃん「そうや、そうや、あんたらこのラーメン食べて、はよう行った方がええわ」
伊都子「修さん。。。。私は!?」
修「伊都子!モチロン君も一緒さ」
大阪のおばちゃんに別れを告げ3人は 関西空港へと急いだ・・・
三人は搭乗手続きを済ませ、飛行機に乗り込んだ。
行き先は・・・そう、名刺の隙間に直筆で書かれてあった
母の別荘のある場所・・・沖縄だ。
修子は、二人を手放した後、強く心に誓った。
「必ず・・・必ずお金を貯めて、二人ともを迎えに行く・・・」
そして、日夜修子は、寝もやらずに働いた。
できることはなんでもやった。
そんな修子に、すまないとは思いながら、夫は自ら経営していた
乗りに乗ったバブリーな会社の面影を忘れられないで居た。
今からだというときに・・・まさかの倒産だった。
そして夫は、日々、酒に溺れ、やがて毎日正気でいられないほどになっていった。
五年後、修子の苦労の甲斐も無く、夫はあっけなく世を去った。
保険は入ったものの、修子はなにもかもを失った気がした。
そして修子は、昔から仲のよかった友達を求めて沖縄へと渡ったのだ。
沖縄での暮らしは、一からのスタートにちょうどよかった。
ここでも修子は、一心不乱に働いた。
昼も、夜も・・・。
そして、狭いがひとつの家を手に入れて、ふたりの息子を探した。
ところが・・・
預けた親戚は離婚をし、双方にひとりずつ引き取られたふたりの行き先は、どれだけ探してもわからなかった。
そりゃあそうかな・・・あれからもう、20年にもなるのだもの。。。
何度もあきらめようとしたが、できない修子は、家族が離れ離れになる前、楽しく過ごした時のことを思い出した。
すると、あの大阪のおばちゃんの顔が浮かんだのだ。
ふたりはおばちゃんになついて、よく遊んでもらっていた。
あのおばちゃんなら、ふたりのことが分かるときがくるかもしれない。
いや、そうであってほしい・・・。
伊都子を真ん中に、ふたりの心は言いようのない期待感にあふれていた。
・・・もうすぐ母に会える・・・
そして、沖縄本島から、船に乗りやってきた離島。
そこにひっそりと立つ、綺麗な別荘。
インターホンを押す前に、中から老婦人が走って出てきた。
どうやら・・・テラス前のガラス窓から外を見ていたら、ふたり(+伊都子)の姿が見えたらしい。
母「あなたがたは・・・!あなたがたは、修と修二ね!!」
修「かぁさん!?かぁさんなんだね!!どうしてそれが・・・!?」
母「忘れるはず無いわ・・・ずっと、ずっと思っていたのだから・・・」
そしてそして、三人は我を忘れて号泣
伊都子の紹介を済ませて、晩御飯の食卓を囲んだ。
修二「兄さん・・・なにか話したいこと、あるんじゃない?」
修二には、兄が何か隠していることが分かっていた。
修「そうなんだ・・・じつは、俺・・・会社の検診でひっかかって、心臓移植が必要といわれたんだ・・・。」
母「それって、どこで見てもらったの?確かなの??」
修「うん!間違いないよ、あの大宮先生だから・・・」
母「大宮先生~~~!?」
そして・・・母から先生が今日、捕まったことを聞かされた。
急いで島の病院で再検査をしてみると、なんでもなかったが明らかになった。
修「なんだ・・・おかしいと思ったよ。だってこんなに元気だから」
母「どうせなんだから、しばらく居られるんでしょ?」
そして四人は、泡盛を片手に、ミミガー・ゴーヤー・テビチーなどを食べて、夜が更けるのを忘れて語り合った・・・。
沖縄で数日間、修一家と過ごしていた伊都子は、仕事の都合で一足早く東京の家に帰って来ていた。
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