金閣寺の金箔の下には、漆が丹念に塗られている。漆塗りは美しいだけでなく、耐熱や耐水、抗菌に非常に高い効果を発揮する。酸やアルカリにも強く、伝統建築や文化財に広く使われてきた。漆器の産地では古来、地元以外の文化財保護に携わるケースも少なくない。
▼例えば石川県の輪島塗の技は、佐賀県の「唐津くんち」に生きている。ユネスコの無形文化遺産に選ばれたこの祭りは、獅子や兜(かぶと)をかたどった漆塗りの巨大な曳山(ひきやま)が主役。その一つ「鯱(しゃち)」は4年ほど前、輪島の職人が修復作業にあたった。古い塗膜を削り、傷を直し、新しい漆を塗りこめる。1年かけ、鮮烈な朱色が蘇(よみがえ)った。
▼能登の地震で輪島塗は壊滅的被害を受けた。唐津に職人を派遣した「田谷漆器店」も、社屋が全壊した状況をホームページで伝えている。オープン間近だった新ギャラリーは大火で焼け落ちたという。鯱を守りつづけるためにも、苦境の輪島を救わねば。唐津側では見舞金を送ろうと、寄付金集めに取り組んでいるそうだ。
▼社会や文化は土地ごとに独歩してはいない。渾然(こんぜん)と交わり、離れた人間同士も結びつく。だから災害は被災地のみならず、その場所を知る大勢の心をも傷つける。ひとごとではないのだ。発災からきょうで1カ月。クラウドファンディングといった輪も広がる。支えるのはどこかで能登とつながる私であり、あなたであろう。
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