「今の政治家は政権欲に急なるため、日本の国際的な地位の上下などは一切失念しているのではないか」。晩年に「政治の倫理化運動」を起こした後藤新平の言葉だ。名目国内総生産(GDP)が世界4位に転落と聞くと、現代に通じる警句に思える▲「議会が信望を失えば、議会政治の否定につながりかねない」。後藤は初の普通選挙(1928年)を前に「普選準備会」を結成して警鐘をならした▲「権力、金力、情実のために良心を曲げて選挙することがあれば、政党の腐敗、議会の堕落、政府の弱点を示す」。後藤の懸念は今も解決されていない。自民党派閥の裏金事件の背景に「カネのかかる選挙」があることを考えれば明らかだ▲政治倫理審査会の開催が取り沙汰される。その出発点はロッキード事件での41年前の田中角栄元首相の1審有罪判決だ。元首相への議員辞職勧告決議案をめぐる与野党の攻防の末、設置が決まった▲国会には国政調査権がある。証人喚問なら出頭拒否や偽証に刑事罰が科される。疑惑追及に活用すべきだが、政治家にはありがたくない。喚問を避けつつ、ミソギを済ませるために審査会が利用された歴史がある▲そこにさえ出席を拒むなら何をか言わんやだ。国会の場で国民に説明責任を果たせるか。「安倍派5人衆」は無論、岸田文雄首相の倫理観も問われる。「政治は公明正大でなければならぬ」が後藤の信条だったという。「政権欲」だけでは国家のかじ取りは難しい。それは今も昔も変わらない。
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