ある一つの野球の話

３年前

「え？本当に行くの？」
「うん、だってどうせなら甲子園行きたいし・・」
「でも○○高校なら特待で行けるんでしょ」
「レギュラーにはなれないかも知れんけど仕方ないわ」
「そうかー試合に出て何ぼだと思うけれどな～」

１年前

「背番号貰った～」
「まじ！やったじゃんかー！！」
「一桁じゃないけれどま、いいわっ」
「そうそう！名門だもん。ベンチ入りだけでもえらいもんだわー」
「背番号なくならないよう頑張るわ～」

数ヶ月前

「背番号は無理かも。新一年生が入って来るし・・・・」
「そうか～、厳しいわなぁ。ま、瑞穂に出場したくない所だねっ」
「あー、頑張るしかないっ。瑞穂に選ばれたら終りだ！」
「しっかり、食べて活躍して！」



6月12日

彼は瑞穂球場にて高校野球最後の背番号をつけて、夏の大会を迎えることなく
主役になって試合をしたのです。
３年間、名門野球部でみんなと共に練習したのだが夏の大会前にベンチ入りの２０人から漏れたのだった。
もう、明日からはどんなに活躍しても打っても投げても７月の大会のメンバーには選ばれません。

私は最後の勇姿を見るため瑞穂球場に出かけましたがアナウンスの声と共に早くも涙が・・・・・。
見守る家族もハンカチを目に当てているように見えます。

わが子なら不憫で辛くって耐えられないかもしれません。
なのに一生懸命応援する家族の姿に毎年涙するのです。
必死で試合をする彼らに涙がでるのです。


監督らの優しい気持ちから毎年こういう試合が用意されています。
毎年この地域では話題になるこの出来事。
他校に行っていればレギュラーになっているであろう能力のある彼ら。
そしてその日、素晴らしい活躍を見せるのですが明日からは練習のお手伝いに回る２０数名。

思いました！
彼らはこの３年間で誰よりも思いやりや優しさ。それと友情を人一倍学んで野球を終えるんだな。って。
甲子園に行く事とは違うかけがえのない何かを手に入れたんだろうなぁ・・・・
みんな、お疲れ様でした。
でもお疲れ様ではないと言うのです。
自分の選んだ学校が甲子園に行く為にあと一ヶ月。
まだ終ってはいないと言うのです。
この子らに素晴らしい道が拓けますようにと祈らずにおれません。