欧州議会選挙2024、「極右」「EU懐疑派」大躍進の理由…EU市民は何を思って右派に票を投じたのか?

口先だけで民主主義を叫ぶ腐敗政治家には退場してほしいのが、EU市民の本音だ

欧州議会選挙2024、「極右」「EU懐疑派」大躍進の理由…EU市民は何を思って右派に票を投じたのか? - ライブドアニュース


5年に一度の欧州議会総選挙

6月9日(正確には6~9日)、EUの欧州議会の5年に一度の総選挙が実施された。

欧州議会では、同じような考えの党が集まって政治会派を組んでいるが、今回は事前から“保守”会派の伸びが予想されており、結果として、その通りになった。しかも、極右・国家主義の会派として問題視されているID(アイデンティティと民主主義)や、EU懐疑派であるEDR(欧州保守改革グループ)が票を伸ばした。

IDには、フランスのマリーヌ・ルペン氏の党である「国民連合(RN)」や、イタリアのメローニ首相の党「イタリアの同胞(Fdl)」やサルヴィーニ氏の「同盟(Lega)」、オランダのヴィルダー氏の自由党(PVV)、オーストリアの自由党(FPÖ)など、中道保守や左派やメディアが日頃から極右として忌避している党が、軒並み所属している。

これまでは、ドイツのAfD(ドイツのための選択肢)もID会派に属していたが、現在は、筆頭候補者だったクラー氏の選挙運動中のトンデモ発言「SSの全員がナチだとは思わない」のせいで締め出されている。だから、今のAfDはひとまず無所属だ。

フランスでは、ルペン氏の国民連合に大敗したマクロン氏が、まだ最終選挙結果が出てもいないうちに、早々と解散総選挙に舵を切った。吉と出るか、凶と出るかは、霧の中。ドイツメディアはマクロン氏のこのアクションを、「前方への敗退」などとクールに評していたが、そもそも解散総選挙をしなければならないのはドイツのショルツ首相(社民党)の方だ。

社民党はすでに前回19年の欧州議会選挙で支持率を11.5%ポイントも減らし、16%を切っていたが、今回は14%にも届かなかった。岸田首相も支持率が下降の一途だが、上には上(下には下?)がいる。要するにドイツでは、支持率14%足らずの政党が国政を司っているわけだ。

ちなみに、社民党の筆頭候補だったカタリーナ・バーリー氏は何の存在感もない政治家だが、今回、自党の惨敗に驚き、「選挙前の素晴らしい雰囲気と、選挙結果があまりにも違う」と戸惑っていた。普段から、ファンクラブのようなお仕着せ政治集会をやっていたため、井の中の蛙になってしまったらしい。

挙句の果てに、「ベルリンからの応援がなかった」と、負けはショルツ首相のせい。確かに直近のアンケートでは、国民の8割近くが「ショルツ首相の仕事ぶりに不満足」という結果が出ており、首相の応援がかえってお荷物となった可能性はある。


緑の党の致命的な誤算

また、緑の党も壊滅的に票を減らした。同党は、前回19年の欧州議会選挙では20.5%の高得票を記録したが、今回はほぼ半減で11.9%(もう一つの与党である自民党は、元々支持率が低かったが、今回は一応、その低いレベルを維持)。

5年前の緑の党は、温暖化で地球が人間の住めない惑星になるというホラー的シナリオを拡散。多くの素直なドイツ国民はそれを信じ、人類の最重要課題は温暖化を止めることだと張り切った。その結果、子供たちは金曜日に学校をサボり、気候保護を叫んでデモ(=Fridays for future)に明け暮れたが、それを主導し、鼓舞していたのが緑の党だった。

当時、緑の党は、これら若い人たちが選挙権を持てば、皆、自分たちに投票すると思ったらしく、参政年齢を下げるよう強く主張していた。そして、実際に、今回の欧州議会選挙では16歳から選挙権が与えられた。

ところが、実は若者たちの心はすでに緑の党から離れており、それどころか、AfDへの投票率は、年齢別で見た場合、16歳から24歳が一番高いという正反対の現象が起こった。

若者は夢見がちだが、夢から覚めるのも早い。若者を将来の自分たちの票田とみなし、せっせと耕していたつもりの緑の党にとってみれば、致命的な誤算だった。

若者たちはしっかりと見ていたのだ。緑の党の見果てぬ夢が、誤ったエネルギー政策で電気代を高騰させ、過激な脱炭素政策で産業を破壊し、行き過ぎた自然保護で農家を苦しめ、さらには国民の私生活まで支配し始めていたことを。

そして、その結果としての景気の減退、雇用の縮小、さらには寛容過ぎる難民政策による治安の急速な悪化をいち早く感じたのが、若者たちだった。これから就職し、人生設計をしなければならない彼らが、これ以上、緑の党の夢に付き合えるはずもなく、踵を返したのは当然のことだったかもしれない。

しかし、緑の党はそんな現状を尻目に、ウクライナ戦争が始まると従来の平和主義までかなぐり捨て、「国民がどう思っても構わない。我々は正しいことを断行する(ベアボック外相)」と、ウクライナへの武器の供与と対ロシア徹底抗戦を叫んでいた。施政者が有権者の意思を無視するのは独裁政治だ。


極左BSWと極右AfDの共通点

さて、では、AfDはどうか?

この党は、結党当時からさまざまな批判を浴び続けてきたが、最近はそれが、与野党、さらには官庁や司法まで巻き込んで、弾圧と呼べるほど激しくなっている。

今回の選挙直前には、AfDの筆頭候補であった2名が、中国およびロシアとの癒着を疑われて、選挙運動ができない状況にまで追い込まれ、ドイツのあちこちでは、“反AfD”、“民主主義防衛”を謳ったデモが大々的に繰り広げられた。

ただ、これでAfDが駆逐されたと思ったのは早とちりで、多くの有権者はそれでもAfDに票を投じたのである。

現在、AfDは15.9%の得票で、CDU/CSUに次ぐ第2党だ。旧東独地域に限れば、5州全てで第1党である。9月には、そのうちの3つの州で州議会選挙が実施されるから、今後、この地域でのAfD弾圧はさらに増すはずで、治安の乱れが懸念される。

一方、興味深いのは、今年1月にできたばかりの左派の新党BSW。極左といわれた左派党からの分岐党で、代表はサラ・ヴァーゲンクネヒトというカリスマ才媛(54歳)。理論家としても、勇敢さにおいても、誰にも引けを取らない超インテリだが、基本的には共産主義者だ。

そのBSWが、AfDと並んで旧東独で強い。出来立てホヤホヤの党なのに、一気に6.2%の票を取り、出身党である左派党をほぼ潰してしまった(左派党の得票率は2.7%)。興味深いのは、極左と言われるBSWと、極右と言われるAfDに多くの共通政策があることだ。

ちなみに、既存の政党はBSWのことを極左と位置付けてはいるものの、“極右”のAfDほどは攻撃しない。その第一の理由は、このBSWを、旧東独地区でAfDに対する当て馬にしようと思っているからだ。つまり、CDUも社民党も、自分たちの勢力を保持するために、いずれBSWを自分たちの陣営に引き込もうという腹づもりなのだ。

既存の政党は、AfDを締め出している限り、過半数を確保するためには、政治の原則も民意も無視したこういう野合のような連立を組むしかなくなる。要するに、AfDに対するなりふり構わぬ攻撃というのは、民主主義のためでも、自分たちの納得する政治のためでもなく、彼らがこれまで皆で構築してきた快適な世界と、そこにまつわる利権を失うことへの恐怖の表れであるといえる。
EUが壊れても、ヨーロッパは壊れない

さて、これらドイツの政治状況の変化が、今後、いかにEUの政治に反映されるかというと、残念ながらドイツの政治力は急激に弱まっており、良い意味でも悪い意味でも、あまり期待できない。

ただ、EUの運営は、各国が人口や経済規模に応じて拠出するお金で賄われており、ドイツの負担が一番多い。そうでなくても、現在、ドイツの税負担は世界で2番目に重いと言われ、しかも、国民の間では貧富の差が急速に広がっている。そんな中、多くのお金がEUに流れ、しかも影響力が低下するなら、ドイツ国民にとっては悲劇だ。

なお、EUのもう一つの問題は、EUの行政府(=内閣)である欧州委員会の存在。欧州委は、加盟国27ヵ国の27人の委員(=EUの各大臣に相当)で形成され、現在の委員長は、フォン・デア・ライエン(CDU・女性)だ。

欧州委のメンバーは国民の選挙を経ずに決まり、その委員長は、全加盟国の首脳が密室で決める。しかも理不尽なことに、欧州委員会の権限は、選挙の洗礼を受けた欧州議会よりも強く、また、密室で決められた委員長が絶大な権力を持つ。EUが民主的な組織ではないと言われる所以だ。

実は前回の19年の時も、委員長には違う人が就任すると思われていたが、蓋を開けてみたらフォン・デア・ライエン氏となった。そして5年後の今、氏の評判は壊滅的に悪いが、そんなことはお構いなしに、何が何でも委員長続投を狙っている。その氏が、自身に対する支持を取り付けるため、各国首脳とさまざまなディールを行っていることは想像に難くないが、極右と言われるイタリアのメローニ首相に接近している様子が報じられた時は、さすがに保守陣営の顰蹙を買った。

なお、今回の欧州議会選挙では、極右の台頭でEUが壊れ、さらにはヨーロッパの民主主義が危険に晒されるなどいう警告が盛んになされたが、選挙結果を見た限り、ヨーロッパの多くの住民はそんなことは思っていない。その反対で、彼らは民主主義を守るつもりで、右派に票を投じたのではないか。EUが壊れても、ヨーロッパは壊れない。

いずれにせよ、口先だけで民主主義を叫ぶ腐敗政治家には退場してほしいのが、EU市民の本音だ。その筆頭が、欧州委員長のフォン・デア・ライエン氏や、ショルツ首相ではないかと疑っているドイツ国民はかなり多いと、私は見ている。

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