国土交通省が東京メトロ南北線と有楽町線の延伸計画の鉄業事業許可を出した。このうち有楽町線についてはふたつの新駅が開設される計画だという。2030年代の半ばの開業目標とまだまだ先のことではあるが、今後新駅開業に向けて、周辺での再開発などが活発化し、近隣エリアのマンション相場が大きく動く可能性がある。注目が集まりそうなエリアについて調べてみた。
南北線には新駅の計画なし
このほど国土交通省が鉄道事業を許可したのは、東京メトロ南北線の白金高輪~品川間と、東京メトロ有楽町線の豊洲~住吉間。計画図にあるように、前者は、南北線の白金高輪駅からJRや京浜急行線の品川駅を結ぶ計画で、建設キロは2.5kmだが、途中に新駅の計画はない
整備効果としては、六本木・赤坂などの都心部とリニア中央新幹線の始発駅となる品川駅とのアクセスの向上が挙げられている。
JR品川駅[Photo by iStock]
現在は、南北線の六本木一丁目駅から品川駅に向かうには、南北線で目黒駅に出て、そこでJR山手線に乗り換えて品川駅に至るルートなどがある。この場合、乗車時間は16分だが、乗換えを含めて実質20分から30分程度かかる。それが、新線が開業すれば9分に短縮される。品川駅から先の羽田空港や臨海部へのアクセスも向上し、利便性が格段に高まる。
豊洲市場、スカイツリーへのアクセス向上
一方、東京メトロ有楽町線の延伸計画は、始発駅である新木場の二駅手前の豊洲駅から新線を分岐して北東に向かうルートを設け、東京メトロ東西線の東陽町駅を経て北上、東京メトロ半蔵門線・都営地下鉄新宿線の住吉駅まで延伸する。建設キロは4.8kmだが、住吉駅から半蔵門線に乗り入れて、錦糸町駅、押上駅方面につながることになるだろう。
東京メトロ南北線と有楽町線の延伸計画(資料:東京メトロホームページ)
有楽町線の池袋駅や都心の各駅などと城東エリアの各駅が直結し、利便性が高まる。たとえば、都心部から押上駅の東京スカイツリーに乗換えなしで向かうことができるようになり、また通勤だけではなく、観光面でのメリットも大きい。都内の城北方面から豊洲市場のある豊洲駅にダイレクトにアクセスが可能になる。
現在は住吉駅から市場のある豊洲駅に行くには、半蔵門線で清澄白河駅に出て、都営大江戸線に乗換え、月島駅でさらに有楽町に乗り継ぐ必要があり、乗車時間は10分程度でも、乗換えを含めて30分ほどかかる。それが、新線が開業すれば乗車時間9分で直結される。
この有楽町線の延伸部分には、ふたつの新駅の設置が計画されている。豊洲駅と東陽町駅の間の江東区枝川二丁目周辺と、東陽町駅と住吉駅との間の江東区千石二丁目付近だ。
これによって、地下鉄各線の混雑の緩和が期待される。新線が東陽町駅で接続する東西線は、日本一の混雑路線として知られている。
2020年の調査では、木場駅から門前仲町駅間の混雑率は200%だが、東京メトロのリリースによると、新線・新駅の開業によって、この混雑率が20%程度緩和されるとしている。新駅が開設される江東区枝川二丁目や江東区千石二丁目周辺の居住者が、東西線に集中するのではなく、新線を利用して都心に向かうことができるようになるためだ。
その意味では、新駅が開設される枝川や千石周辺の人だけではなく、東西線東陽町駅から千葉側の各駅の周辺に住んでいる人にとっても、混雑が緩和されるメリットを享受できそうだ。
だが、言うまでもなく最大のメリットを享受するのは、新駅が設置される枝川や千石周辺に住んでいる人たちである。どんなメリットがあるのだろうか。
マンションの価値が上がる可能性
江東区枝川二丁目周辺に住んでいる人は、現在は東西線の門前仲町駅や有楽町線の豊洲駅まで10分から15分程度かけて歩かなければならないのが、新駅が開業すれば徒歩数分程度で地下鉄にアクセスできるようになる。しかも、余分な乗換えが不要になって、通勤時間の大幅な短縮になるケースも少なくないはずだ。
東京メトロ有楽町線の豊洲駅[Photo by iStock]
現在、買い物は東陽町駅や住吉駅周辺の商業施設を利用している人が多いだろうが、新駅オープンにあたって、再開発などによって近くにスーパーなどの生活利便施設ができる可能性も高い。交通アクセス、生活利便施設の両面で一段と住みやすくなる。
もちろん、それよってマンションなどの資産価値のアップが期待できる。
全国の不動産の価格相場などの情報を提供している「ウチノカチ」によると、江東区千石周辺の中古マンションの1?当たりの単価は68.0万円で、70?に換算すると4760万円。
それに対して、住吉駅周辺は1?単価が86.8万円で、70?換算では6076万円になる。単価で18.8万円、70?換算で1316万円の差がある。千石のマンションは住吉に比べて2割方安くなっているわけだ。
しかし、新駅の開設が決定して、今後は開業に向けて千石周辺の相場の上昇が見込まれる。これまでの新駅開業の動向をみると、計画が持ち上がった段階、正式決定された段階、そして開業前後に相場が上昇することが多い。その意味では、計画が正式決定した現在、相場の上昇が期待されると同時に、実際の開業に向けてもう一段の価格アップが見込まれる。
新駅が設置されるもうひとつのエリア、江東区枝川二丁目にも注目しておきたい。
やはりウチノカチのデータによると、枝川周辺の中古マンション相場は、1?単価が76.1万円なので、70?換算にすると5327万円だ。
それに対して、豊洲駅の周辺相場は1?単価が88.2万円で、70?換算では6174万円。枝川周辺は豊洲駅周辺に比べて1割以上安くなっている。
現在の枝川周辺は住宅のほか、倉庫や町工場なども点在しており、再開発の余地が大きい。千石以上に新築マンションの開発や商業施設の開発などの可能性が高く、利便性の向上も期待できる。
開業にむけて、「先物買い」もあり
ちなみに、ふたつの新駅の駅名は公表されていない。江東区枝川二丁目に関しては、地名の「枝川」がそのまま駅名になりそうだが、難しいのが江東区千石二丁目。都営地下鉄三田線に「千石」駅があるのでそのままは使えない。これはあくまで筆者の予想だが、近くにある都内最大の親水公園である「仙台堀川」などが採用されるのかもしれない。
いずれにしろ、今後、新駅が開設される、枝川周辺や千石周辺では、新駅周辺の再開発が進み、マンションの新規供給の増加が期待される。現在の相場は、既存の駅がある住吉や豊洲に比べて1割から2割方安くなっているが、新駅開業に向けて相場価格がアップ、その差が小さくなる可能性が高い。
いまはまだ、最寄り駅まで徒歩時間が長かったり、生活利便施設が遠かったりするが、いずれはそれらが解消されて、交通アクセスが改善、生活利便施設が充実し、資産価値の向上が期待できる。2030年代半ばの開業に向けて、いまから先物買いしておくのもありかもしれない。