抜本的システム改革必要な最高裁 福井県立大学名誉教授・島田洋一

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【正論】抜本的システム改革必要な最高裁 福井県立大学名誉教授・島田洋一

憲法81条は妥当か否か

最も声を上げるべき国会議員が、意識すらしていないと思える憲法改正の重大テーマがある。

日本国憲法第81条が果たして妥当か否かである。条文を引いておこう。『最高裁判所は、一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である』

すなわち曲がりなりにも国民の直接選挙を経た国会が成立させた法律を、選挙を経ない(内閣の指名のみで職に就いた)15人の裁判官が違憲と判断し無効にできる。

最高裁の決定は過半数で行われるため、より厳密に言えば8人の国民が全く知る機会を与えられずに就任した人々が、密室の協議で『国の唯一の立法機関』たる国会の決定を覆せる。

しかもその決定は「終審」とされ、国民は抵抗できない。国会は最高裁決定に沿った法改正を迫られる。国民主権の原則に照らしても、三権分立の原則に照らしてもおかしいだろう。

まず、憲法改正が必要なく、法改正だけで対応できる国民審査制度について見ておこう。

現行の最高裁判所裁判官国民審査法は、罷免を可とする裁判官に×印を付し、無印の場合は承認票に数え、×票が無印票を超えると罷免される方式を取っている(過去に罷免の例はない)。

これについて、東大法学部の芦部信喜憲法担当教授の手になり、広く参照される「憲法」第8版(岩波書店、令和5年)は、次のように解説する。『最高裁は、国民審査の性質はリコール制であることを理由に、積極的に罷免を可とする投票以外は罷免を可としないものとして扱うことはむしろ適当である、と判示している。しかし、現行法の方式が違憲だとは言えないとしても、信任は○、不信任は×、棄権は無記入、という方法がより適当である、とする意見が有力である』

常識的な意見だろう。そもそも裁判官の国民審査の方式を裁判官自らが「判示」するというのも妙な話である。国会が、三権相互の「抑制と均衡」(チェック・アンド・バランス)の理念に基づき、「信任は○、不信任は×、棄権は無記入」とする方向で、速やかに法改正を行うべきである。

性別変更巡る最高裁決定

芦部「憲法」も次のように念を押す。『この制度の目的が裁判官の法律家としての適否を判断することではなく、裁判官のものの考え方ないし意識と民意との間のずれを是正することにあることを評価し、より実効的な制度にするよう、活性化を図ることが適当であろう』

まさにその通りであり、ここに言う「裁判官のものの考え方ないし意識と民意との間のずれ」が厳しく問われたのが、一定の条件下で性別変更を認めた性同一性障害特例法の「手術要件」を一部違憲とした10月25日の最高裁決定である(一部は高裁に差し戻し)。

その結果、男性の生殖機能を持ちながら性自認は女性とする人々が法的権利として女性専用スペースに入る道を開いた。海外での悪用事例が報告される中、一般女性が抱く不安を「差別感情」と一蹴することはできないだろう。

裁判官も一般人同様、不完全な人間であり、判断を誤ることもある。問題は、最高裁に、一方通行的な優越的権力を与えている現行システムにある。一方向的なチェックを双方向的なチェックに改めねばならない。

米国での論議をみると

アメリカでも同様の問題は先鋭化しており、さまざまな改革案が出されている。例えば、レーガン政権で司法長官首席スタッフを務めた、憲法史に詳しい論客マーク・レビンは次のような改憲案を提示している。

すなわち、最高裁の違憲立法審査権は認めるが、議会上下両院が5分の3以上で再可決した場合、最高裁の違憲無効決定は覆され、法律は再び有効となる。州議会の5分の3以上が、最高裁の決定を否とする決議を成立させた場合も同様とする。

ちなみに、米上院は、5分の3の同意がなければ法案審議を打ち切って採決に入れない院内規則を保持しており、この数字には制度的な先例がある。3分の2以上とすると、憲法改正の発議要件と同じになり、ハードルが高すぎるという判断も働いている。

なお米国憲法の改憲規定は、連邦議会の両院の3分の2による修正発議に加え、3分の2の州議会が請求するときは、連邦議会は「修正を発議するための憲法会議を招集しなければならない」と定めており、州にも最高裁決定に対抗する権限を与えるのは自然な発想と言える。

日本でも、次の2点において憲法改正が必要だろう。①最高裁の違憲決定を、国会が過半数より高い数字の再可決によって覆せる道を作る②最高裁裁判官を、オープンな公聴会を伴った国会同意人事とする

最高裁が「抑制的司法」の矩(のり)を越えた以上、国会も動かねばならない。(しまだ よういち)

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