にざかな酒店

疲れ探偵幕間

幕間が一番まともっぽいてどうなの?な疲れ探偵です。
大体やっつけみたいな変な事件ばっかりなのにね。
でも今回のも動機は大概な事件が出ています。
疲れ探偵 幕間

自分が探偵になったのは、学生時代の事件だった。
いじめられっ子が殺された事件、犯人は母親だった。
「だって、自分の子がいじめられてやり返せもしないなんて、ダサいじゃない」
そういう動機だった。
許せない動機だろう、とは思う。だが、いじめられているこの家は人が思っている以上に疲弊している。我が子ゆえの苛立ちもあるだろう。許せもしない。納得もしない。だが、本当に世界はこんなものだった。
こんな話もある。
「探偵さん、聞いておくれ。うちの孫にお前は人の大切な子をいじめるだけの価値があるのかい、って毎日言ってたら、死んじまったんだよ。私のせいかい?情けないねえ」
これはこれでどうだという気はする。
結局世界は二枚岩でできているのだ。どちらが正しいか、という問題ではなく。
ただ色々な事象が積み重なって、それが世界というものでできているのだった。

そんな感じの夢をぼんやり見ていた朝、スーパーでいつもの女性に出会った。
「ああ、あなたはクロワッサンの…」
「久呂です。探偵さん、今日も早いのですね」
「早いというか、まあ。特にすることもないですしね」
はは、と疲れた笑いを浮かべる。
「良ければ、少しお茶しませんか?」
彼女は意外なことを言った。
「探偵さんなんて、この町では珍しいですから」
いたずらっぽく笑う。なんだ、好奇心か。
少し考えて、まあ、お茶くらい、いいか。となった。
「自分の分は出しますよ」
「あら?私、そんなこと言いました?」
なんか、確信犯だな、この人。意外と要注意人物かもしれない。
「男が女性にご馳走になるわけにはいきませんので」
「そうですか」言ってる割に、いい笑顔。

「この頃、事件が多いのはどういうことだと考えています?」
久呂さんは開口一番にそう聞いてきた。
「そうですね、災害なども多いですし。ただ、世界の終わりというのだけではないのではないかと」
「…と、言いますと?」
「もともと、世界というのは自分が生まれてから死ぬまでの短い間の付き合いしかないわけです。それが自分が生まれる前ずっと前から綿々と受け継がれている世界がいきなり終わる、という理屈に持っていくのはおかしい気がしますね」
「なるほど、そうですか。でも、テロとか、今の世界の世界現象も世紀末感溢れている気はしませんか」
「世紀末はもうとっくに過ぎていますよ。今の世界自体がロスタイムです」
「ええ、でも、今あなた自分が死ぬまでの短い間しか世界との付き合いはないって言いましたね?」
「区切りという意味では世紀末というのはあるでしょう。ただ、そこで終わらなかったということに関しては意味があるかもしれません」
「そうですか…」
「あなたは今のロスタイムの意味は何かと思いますか?」
「たまたま、神様の気まぐれでしょう」
「気まぐれ、ですか…では我々は気まぐれで生かされてるわけですね」
「ええ」
「いきてることが何か、意味についてはもうどれだけ手垢が付いているかわからない議論です。それこそ、いろんな人がいろんなことを言っていてわからないくらい。ですが、いきているのはただの事象です。動かしようのない、事実です。」
「そうですね」
「ですが、殺すのは、単なる自分の勝手でしかないわけです。ただ失望した、自分の思う通り動かなかった、意に沿わなかった」
「…そうですね」
「最悪、殺す理由はなんでもいいわけです。それこそ、最強のエコでも」
「エコ?」
「人を殺せばなんのエネルギーも使わないでしょう?」
「…ああ」
「それを許さないというのも、一つのエゴかもしれません」

「ですが、殺してまで叶えなきゃいけない願いなのか、という疑問だけは持っていた方がいいように思います」
久呂さんの顔に、ゆっくりとした笑みが浮かんだ。
「そうですか、それがあなたの答えですか」
「ええ」
「疑問の解決にはなりませんか?」
「なるような答えが返ってきた試しがありません。世の中には疑問しかありませんよ」
「なるほど、少し、わかりました」

では、お邪魔させていただきます、と言った彼女の姿が陽に透けて、そのまま消えるのではないかというほど―――透明な日差し。
ジリジリと蝉の声が唯一の現実感を持つ。
「狐にでも化かされたのか?」
一瞬思ったのだが、彼女もきっとこの町の人間だ。
何かにつけ、よく見るし、きっと現実にいるはずだろう。そう思った。
なら、また会えるのだ。
いきているからの疑問符、解決、そしてまたの事件。
終わらないスパイラルに。
いくつもの再会に。
治らない傷跡に。
それでも答えを出し続けねばならない。
なぜなら、探偵だから。
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