どんとやき、という言葉を耳にしました。
考えてみればよくわからない言葉だったので
しっかり考えてみたところ、
由来と意味もわかったので、残しておくことにします。
では、まず、直接には関係ありませんが、
行事、『五山の送り火』についてすこし考えます。
『五山の送り火』は関東のほうでは『大文字焼き』のほうが
呼び名としては親しまれていることでしょう。
『五山の送り火』と『大文字焼き』を言語的に比較すると、
『五山の+送り火』対『大文字+焼き』となります。
これにより、『焼き』は『送り火』と対等であると考えることができます。
このこと、すなわち、日本の行事においては
『焼き』は『送り火』と同等の意味を持つことがある、と
いう概念は後に使いますのですこし気にとめておいてください。
では、本題の『どんと焼き』に行きます。
ここで『どんと焼き』の別名を改めて見てみましょう。
・どんと焼き
・とんど焼き
・どんどん焼き
・さいと焼き
・とんどさん
・とうどうさん
・しんめいさん
『さん』という対人の敬称づきの名称があるのが見て取れます。
ここから、『どんと』とは対人敬称をつけられるような
存在なのではないか、との推測ができます。
『対人敬称をつけられるような存在』というのは、
人・神・食べ物・それ以外の物 のことです。
たとえば味噌かゆの『おみいさん』、芋の『おいもさん』、
太陽の『お日さん』などです。
食べ物の場合は敬称づきでも接頭辞の『お』がついて
『お~さん』になる場合が多いので、
『お』がついていないどんと焼きの別名は
食べ物や食べ物以外の名ではない可能性が大きくなります。
それにより可能性が高くなるのは、『どんと』は
人の名、もしくは神の名であるということです。
もし、『どんと』が神や人の名を表していると考えたら、
それはどんなものである可能性があるでしょうか?
『どんと』が神や人の名を表していると仮定した場合、
上記『どんと焼き』の別名から注目すべきは、
『さいと焼き』『とんどさん』『とうどうさん』の三つです。
なぜかといえば、この単語群からは共通の根が見えるからです。
古い単語は、時代を経るごとに言葉に揺らぎが発生し、
元の形がぶれていきがちです。
たとえば、『なるめり』が『なんめり』『なめり』に変わっていくような。
それと同じく、『さいと焼き』『とんどさん』『とうどうさん』の
三つの単語をまとめて見ると、
これらは単語揺らぎによって見た目が変わっただけで、
もともとは共通の一単語から派生したものだと伺うことができます。
さて、この単語らの元となるものはなんでしょうか?
……揺らぎ単語を集め、元の単語を読み出すという技法から推測すると、
元の形は『歳徳神』であるようです。
漢字の『歳徳』は、現代人でもこのまま見て
読み方がわからない人がいると思います。
そういう人がどう読むかといえば
『さいとく』か『としどく』あたりでしょう。
『歳徳』を物の名ではなく、神や人の名のように考えると、
発音の省略がおこりやすくなります。
たとえば現代でも、『さかもと』という人がいて、
その名が他人に呼ばれると、
『さかもとさん』→『さかもっさん』→『もっさん』のように
省略と揺らぎが生じるのはわかると思います。
それと同じことが『歳徳』でも起こります。
まず『歳徳』を『としどく』と読んでみるとして。
敬称をつければ『としどくさん』。
先の『さかもとさん』が『さかもっさん』になるのと同様に、
『としどくさん』は『としどっさん』に変化することができます。
『としどっさん』の促音便も省略されれば『としどさん』。
『としどさん』をはっきり言わずに力を抜いて発音すると
『とっどさん』や『とんどさん』、『とーどさん』。
『とんどさん』は『どんと焼き』の別名のひとつです。
また、『とーどさん』はそのままでは収まりが悪いと感じた人がいれば
意味不明単語に意味づけをしようとする動きが起こります。
意味のわからない発音は、なじみのある単語に近づけようとされるのです。
これは地方の歌謡を見ても明らかで、根拠も提示できますが、
論文でもないので説明は省きます。
簡単に言えば、『とーどさん』では人の名前のようなのに
そんな名前はないので、もっと人の名前に近づけようとする人たちが
意識的・無意識的に名前を変更させるのです。
そうして変わるのが『とーどーさん』。
すなわち、『どんと焼き』の別名のひとつ、『とうどうさん』です。
次に『歳徳』を、『さいとく』と読んでみるとして。
『としどくさん』が『としどさん』になったように
後ろの『く』を落として『さいと』と省略され得ます。
この『さいと』のために焼けば、『さいと焼き』。
これも『どんと焼き』の別名のひとつです。
このように、『さいと焼き』『とんどさん』『とうどうさん』の
三つの単語が指しているのは『歳徳』であり、
それぞれ言い方は異なりますが、
それは言い方が異なるだけで、元は同じ一柱の神さまだと考えられます。
ところでこの『歳徳神』という神様、
どういう神様かごぞんじでしょうか?
知っている人はなにをいまさらと思うくらいの神様ですが、
『歳徳さま』はほぼ『お正月』そのものを象徴する神様です。
では、お正月はいつからいつまで? と考えると、
地域によって違いますが、1月1日~1月7日、
もしくは1月1日~1月15日まで、といったところでしょう。
そして、どんと焼きはいつ行うか、と言えば、ほぼ1月15日。
どんと焼きを行う時期と、お正月が終わる時期は
重なっているのです。
・どんと焼きはお正月終わりの1月15日に行われる
・どんと焼きの別名
『さいと焼き』『とんどさん』『とうどうさん』の
『さいと』『とんど』『とうどう』は『歳徳』であると思われる
・『歳徳神』はお正月の神様である
このことを考えると、どんと焼きと歳徳神には
強い関連性があると考えられます。
お正月が終わり、『歳徳神』が帰る時期に合わせて
お正月由来のものを焼くということを考えると、
どんと焼きの『焼き』は先に述べた『五山の送り火』、
『大文字焼き』の『送り火』のような意味を表すものと考えられます。
すなわち、どんと焼きとは、『歳徳焼き』が発音揺らぎを
起こしたものであり、意味は『歳徳神の送り火』を表し、
陰陽道の考えや儀式が、今にまで残り続けたものだった
と言うことができるのです。
2017-07-12 19:09:47