アクアマリン。水+海。
海の水、という名前の宝石です。
そこからも引けるように、アクアには
水という意味があります。
さて。このアクア――と行く前に、
省略形の音便について見てみましょう。
適当に音便と言っていますが、
国語学として見た場合には
音便とは言わないようです。
でもわたしは他に相当する単語を知りませんので
音便と、ここでは呼びます。
では、『赤穂』。
これはなんと読むでしょうか。
あかほ、とも読みますが
あこう、とも読みます。
こういう読みは人名に特に多いように思います。
それは、口当たりの問題です。
もちろん、もともとの読みは『あかほ』です。
なぜそう言えるか、それが語形変化です。
あかほ。見やすくアルファベットで書くと、
『akaho』。
このあかほを、ひたすら早く言おうとしてみてください。
発音は、最後の『o』にひっぱられて
だんだんと『あくぉ』に近くなるはずです。
これを逆にはっきりといったものが、『あくぉー』。
すなわち、『あこう』です。
その他も、そういう変化はよくあります。
『甲田』で『こうでん』さんの
『こう』がちぢまり、『くでん』。
『乙幡』で『おつはた』さんの全体が変化し、
『おっぱた』さんや『おばた』さん。
どれも口にしているうちに穏便化が起こったものです。
人名なんてそんな変化なので、
基本的に読めなくて問題ありません。
ほんとにそうなの?
ただのこじつけじゃないの?
そう思われる向きもあるかもしれません。
では、こんな問題です。
次の発音は語形変化を起こすと、どうなるでしょうか?
『うい』
『あい』
なんとなくドイツ語にも通じますが、
それぞれ、『ぃいー』、『ぇー』となります。
たとえば、単語自体で見てみましょう。
『あつい』=『at+ui』=『あトゥ+うい』
『だるい』=『dar+ui』=『だる+うい』
ういの音便化は、『ぃいー』ですので
おきかれば『あちー』『だりー』です。
語尾『あい』の変化は、たとえば
『うるさい』、『うざい』。
『うるさい』=『uru s+ai』=『うる ス+あい』
『うざい』=『uz+ai』=『うず+あい』
これの変化は、『ぇー』になるので置き換えて、
『uru s+ai』→『uru s+e:』=うるせー
『uzu+ai』→『uzu+e:』=うぜー
となるわけです。
特に規則だと覚えなくても、
日本人で日本語なら、口にすればわかるでしょう。
さて、そこで本題の『アクア』。
基本的に外国語だろうと語形変化は起こせます。
『アクア』をとにかく早く連続で言えばわかりますが、
この発音で弱いところは『ぅあ』部分です。
ここに変化が起こりそうです。
変化後は『ッア』もしくは弱い『ぅ』が
吸収されて『ア』でしょう。
『ak+ua』→『ak+a』=アカ
このアカ、水を表す言葉で聞いたことはありませんか?
水アカ、ではありません。
たとえば徒然草の11段目。
『閼伽棚に菊 紅葉など折り散らしたる
さすがに住む人のあればなるべし』
閼伽棚(あかだな)。
仏壇の、お水を乗せる棚です。
言い換えれば、アカを乗せる棚です。
さらに次。
このアカをさらに変化させてみましょう。
発音が近い『ばか』で見ればわかりやすいでしょうか。
「ばかばかり」
「ばかじゃないの?」
これを語形変化させるとどうなるでしょう。
答えは、促音便化して、
「ばかばっか」
「ばっかじゃないの?」
どちらの意味でも発音でも、
『ばか』は『ばっか』になります。
二つは同じものです。
これをアカにあてはめると、
『アッカ』。
アッカを水として使う言葉、ごぞんじでしょうか。
たとえば、こう書いてみます。
アッカ・ナイ
カムイ・アッカ
もっと変えてみるなら
ワッカナイ
カムイワッカ
すなわちアイヌ語で、
水(飲める水)の川
神 of 水
の意味です。
――アッカとワッカは違うんじゃない?
そんな疑問には、これです。
『三位一体』
これ、なんと読むでしょうか。
たぶん、辞書で引いても、さん『み』いったい と
読みが振られているはずです。
現代日本語では言霊が失われたため、
『三』はただの『さん』として読まれてしまいます。
スペルにすると『san』ですね。
でも、本来の読みは『sanm』。
野暮ったく書くなら、『さんっむ』です。
これに『いったい』を続けるので
単語の結合部が音便化されて、
『san m+i ttai』→『サンミッタイ』→『さんみいったい』
になるわけです。
また、『を』はどう発音するでしょうか?
『かにをたべる』『どんをりー』を読むと?
答えは、『uo』=『ぅお』です。
『かにぅお食べる』
『どん ぅおりー』(心配するな)。
今の日本では『お』と『を』が同発音されていますが、
同じ『お』に聞こえても、
頭に『w』の音、すなわちこもった『ぅ』が
隠れているのです。
アッカもそれとおんなじ。
ぅアッカ=ワッカ
基本的には同じものです。
さらに。他言語において ぅアッカ(ワッカ)で
水をあらわすものをごぞんじでしょうか。
日本語では『気違い水』と書くアレです。
『ぅアッカ』→『ゥオッカ』。お酒ですね。
さすがにこれはこじつけじゃない? と
思われるかたは、ウオッカについてお調べください。
実際に『水』から派生した言葉だと
たぶんすこし詳しいものになら書いてあるはずです。
『あ』と『お』の揺らぎは、
外国語だと結構まざります。
英語の発音記号に多少親しんだ方なら
わかるでしょうが、『アー』や『ォー』『ぅー』は
一つの発音記号で表されることもあります。
たとえば日本人発音でたまねぎの『オニオン』。
これ、現地ではどんな発音になると思いますか?
……カタカナだと適当になりますが、
感覚としては『アーニャン』、『アニャン』。
むしろ、はっきりとした『オ』では通じません。
『オ』なのか『ア』なのか確信がもてないから
はっきり言うのはごまかしたくて
口の中でぼそぼそ言う感じに発音すると
結構近くなると思います。
なおこのウオッカ、ロシア語では
ヴァッカ、ヴォトカ に近い発音をします。
この『ヴァ』『ヴォ』、なにかと言えば
『wa』です。
たとえば車でおなじみの『Volks wagen』。
ドイツ語では『フォルクス・ヴァーゲン』
と読みます。
これが英語だと『folk wagon』。
『フォーク ワゴン』、民族車です。
つまり、ロシア語の水は、
waをヴァと読むだけで、
アッカの一派生と言えるのです。
このウオッカをさらに見ていきましょう。
ヴァッカ、ヴォトカの発音を同じ語の中に
持つことからニセスペルで表すとこんな感じでしょう。
watka
『t』が『ッ』のような発音になっています。
これをすこしつまらせて、
『ク』を『ス』っぽく発音してみると――
ヴァッサ
Wasserと書いて、ドイツ語で『水』です。
なお、先ほどのウオッカ、
ドイツ語で親しみを込めた時にいう、
縮小詞・縮小語尾・指小辞の類に変化しています。
(日本語で言う、『にゃんこ』、『棒っこ』、
『嫁っこ』の『こ』のようなもの)
これをとった、ロシア語の水の元の形は、
『ヴァーダー』。
ヴァはwaなので適当に変えると
wader
日本でも重い方言では、
清音が濁音に変化することも珍しくありません。
一族総出の稲刈りのあと、お風呂上りにみんなでお酒。
「この一杯がこたえられないなあ!」
これを重い方言に変換。
「こぉのいっぺーが こだえらんねんだぁ!」
ロシア語、ドイツ語は口当たりが重い言語なので
方言みたいなものと考えてみると、
ものによっては(ヴァとワのように)
濁音も清音も揺らぎという言葉の範囲内でおさまるものです。
『ヴァーダー』、
濁りをとって――『ゥアーター』。
どこかで聞いた単語ですね。
water
『ワーラー』とも『ゥオーター』とも
発音される、あの単語です。
このように、水という単語は
基本的な部分は残しながらも
いろいろに形を変えて人々の間を
流れているのです。
――そう、まるで水そのもののように。
という感じできれいにまとめたふりして完了です。