鬼畜な美食家 Ⅳ 1話
2021年8月
事件は起こってしまった。東京では夜になっても蒸し暑い日が続き、若者たちは夏の夜を楽しむかのように、道端で会話を楽しんだり居酒屋で暑気払いにビールを片手に夜を楽しんで居た。平穏な時間だった。
そしてこの夜も平穏な日々が続いていて警察官たちも夜勤を除いて略、定時の17時には警察署から個々に帰宅の途に付いていて、特別事件もないことから各自個々に自宅の窓を開けビールを片手に外から入る微風に頬を緩ませていた。
そんな平穏な時間にとある場所では事件が起きていた。 それは事件としては最低最悪の凶悪事件だったが、まだこの事件を知る者は何処にも居なかった。一人の全裸の女性がうつ伏せになってロープで縛られ身動き出来ない状態で尻、太もも陰部を鋭利な何かで肉をそぎ落とされ苦痛に大声を上げていた。
2012年8月4日、深夜の二時に一本の119番通報があった。消防隊員は「事故ですか? 事件ですか?」と、尋ねたものの相手は住所だけ言うと電話を切り、不審に思った消防隊員はその住所を警察に通報し自らも救急車を走らせた。
そして辿り付くと、限界集落の中にある一軒の大きな屋敷で玄関に明かりだけが灯っていて周囲には人気も無くさみしい場所だった。そして消防隊員が到着すると同時に警察もパトカーでその場所にサイレンを鳴らし赤色灯を回して来た。
灯りの付いた大きな屋敷の玄関には呼びブザーも付いていない築数十年は経過している瓦屋根の平屋で、消防隊員は玄関の引き戸を右手で軽く叩いたが応答は無く今度は警察官が引き戸を開くと引き戸は「ジジジーー!!」と、渋く開いた。
警察官と消防隊員と中に入ると何か、肉の焼ける匂いが全員の鼻に突き刺さって、消防隊員が大きな声で呼んでも応答はなく、警察官が居間の明かりを灯すと居間の奥にある大きな部屋の中へ入って行った瞬間「大丈夫ですかーー!!」と、怒鳴った。
するとそこに居たのは全身を包帯で巻かれた若い女性が床に尻を着いて壁に寄りかかっていた。 そして警察官が辺りを見回すとあちこちに血が飛び散り壁にも血が飛んだ形跡が見られた、
消防隊員は慌てて担架に女性を乗せると4人で担架を手に持って救急車の中に女性を搬入し、開いている病院が無いか電話を片っ端から掛けたが何処も救急外来はやっていないと断られ、仕方なく隊員が警察官に警察病院でダメか確認してもらうと、病院側は受け入れを表明した。
そして救急車は警察病院を目指して赤色灯を回しサイレンを鳴り響かせ病院に直行し、残された警察官たちは「至急! 至急!」と、所轄に連絡を入れると「何かあったのかぁ~」と、目をこすりながら当直の刑事が仮眠室から出てきて血相を変えて車を飛ばした。
そして現場に到着した刑事達は屋敷の奥に足を入れると「これは・・・ ヤバいな・・・」と、鑑識を呼んだ。 床も壁も血が飛び散っていて大きなテーブルの上にあったガスコンロと鉄板に少しだが肉片が媚びりついているのを確認した。
すると鑑識が到着し鑑識は現場写真を撮りルミノール反応を確認し、鉄板に付いている肉片を採取しガスコンロも証拠品として押収し、現場に先に到着していた警察官にここに居た若い女性の状況を聞くと顔を青ざめさせ「おい! おい!」と、まさかの判断に苦慮した。
そして翌日、警視庁と所轄の合同本部が立ち上げられたが、被害者の女性は尻や太ももに陰部、そして乳房を切り落とされ手術用のメスのようなモノで生きたまま肉を取られていた事が判明したが警視庁は科捜研に肉片と肉を切り取ったのは何なのかを依頼した。
それから二日後に科捜研から凶器は手術用のメスと同じ鋭利なスプーン状のモノと判明し肉片は被害者のモノだと言うことを伝えた。更に警視庁の捜査員はを驚かせたのが被害者は麻酔無しで肉を取られていた言う点だった。
「生きた人間に麻酔無しで肉をすくい取ったと言うのか!!」と、警視庁捜査一課長は全捜査員の目の前で顔色を真っ青に変え握った拳を机に叩きつけた。そして捜査員達を警察病院に向かわせると担当医師に話しを聞いたが「被害者は喋れないんです!」と、口数を少なくした。
そしてこの事件は直ぐに全国に知れ渡りメディアはこぞって事件の内容を大々的に取り上げ視聴者の耳を驚かせた。だが東京では「そんなの変質者の仕業だろ?」と、事件の重さをまだ解っては居なかった。
警察病院の担当医師は被害女性がパニックになっていて側に近づくだけで悲鳴を上げて失神すると刑事達に説明し、最低でも一週間は時間を置かないと無理だと、付け加えた。だが担当医師はそれ以外に理由があるようにも刑事達には見えたらしい。
だが事件はこの一回だけでなかった。 事件が起きてから一週間が経過した頃に再びあの忌まわしい事件が発生した。警視庁は都内の所轄からも応援要請して500人態勢で捜査にあたったが今回の事件でも被害女性は全身の肉を切り取られ現場にはガスコンロと鉄板、そして刺身醤油に塩も放置されていた。
この猟奇的事件は単なる変質者の事件ではないと警視庁捜査一課長は考え、最初の被害女性から何か聞けないか捜査員を警察病院に行かせた。だが担当医師によると女性は精神的なストレスから言葉を話せない状態だと告げられ、事件のことは聞くことが出来なかった。
そして事件のことをマスコミが再び大々的に報じると、都内で夜を過ごす若者、特に女性の姿はメッキリ少なくなって行った。そして二度目の被害者の事件でマスコミの怒りは矛先を警察に向け、警察に対する罵詈雑言が増えて行った。
警察では街頭で「女性の一人歩きは大変危険です!!」と、パトカーで街中を回るしか手立てが無かったが、そんな捜査本部に警察病院から不思議な連絡を受けた捜査員達は蒸し暑いさなか病院へと車を走らせた。すると担当医師が「最初の被害者は精神的ストレスで話せないのではなく言葉が解らないようだ」と、驚きの証言をした。
捜査一課長は「言葉を話せないとはどう言うことだ」と、戻って来た捜査員達に聞くと担当医師は「事件のショックで言葉を忘れてしまったのではないか」と、そして「瞬間記憶喪失」ではないかと予想できるとした。
捜査一課長は「言葉が話せないなら何かいい手だては無いか!?」と、考え全国に行方不明者の捜査依頼は無いか捜査員達に女性の顔写真をメールで送って当たりを待って居たが何処からも該当者はいないことに肩を落とした。捜査本部では取り敢えず被害者の身元確認が最優先だと決定された。
そしてメディアでは女性の夜の一人歩きやミニスカートやショートパンツも着用しないようにと新聞やテレビに週刊誌でも注意喚起が一斉に報じられ、焦る警察に手立てはあるのか? と、特別番組でテレビ業界では高視聴率を上げていた。
だがそんな事は、お構い無しとばかりに事件は3週間連続で発生してしまった。 警察は必死になって被害者の身元を調べていたが、全くの手がかりの無い状態に追い込まれていた。被害者の女性達は何を聞いても「アウアウアウ」と、言葉にならない言動が多く捜査員達も必死に文書で書いて質問して見たりしたが、彼女たちからは何の返事も貰えない状態だった。
そして鬼畜の行いは毎週続いて4人目の被害者が出たものの、1番目そして2番目の被害女性達は何も答えずトイレと食事だけをとっていたが、1番目の被害者はごょう員の中で鼻をクンクンと動物のように嗅ぎまわり風呂場の前で「アウアウ」と、だけ喋っていた。
だが担当医師は「もしかしたら精神的に追い詰められているのでは無く何らかの方法で彼女達の言論を封じているのではないか」と、捜査員達に漏らした。捜査員達は日本では超有名な心理学の教授に協力を要請し、被害女性達から何か証言が取れないかと画策していた。
ただ事件の方法や状態は全員が同じで、使われていない建物の中で行われている状況だと言う事と、被害者の年齢も20代前半だと言う事だけが唯一の関連している事項であった。捜査本部では科捜研に年齢を特定してもらうべくDNA判定で判断を仰いだ。
生きた人間に麻酔もせずに鋭利なスプーンで肉を剥ぎ取り焼き肉にしたり、刺身で喰うと言う前例のない犯行に都内はもちろんの事、全国でもその恐怖に震え上がっていた。
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