水温が低くなると魚の動きは鈍くなる。さらに厳い冷え込みの日は川底の石陰に入って寒さを除けている。
「頭隠して体隠せず」、体高のあるフナは石の隙間に入ると、当然体は横になってしまう、
深く潜り込めないフナは冬の陽をあび銀色に光り、岸からでもフナのいる場所が手に取るようにわかる。
水の冷たささえ我慢すれば捕まえるのは簡単だった。尻尾をもって引出す、ただそれだけ。
フナは持ちかえって庭の池に放し、川に行けない時の気休めにそのフナを釣っていた。
白い石を探し水中に投げ込む。
それを合図に一斉に飛びむこんで川底の石をいち早く見つけ出す遊びもできた川での遊泳は、
小学校に入って少し経った頃に禁止(その後10年ほど泳いでいたが)になった。
昭和40年代に入って河川汚染が進み,、下流の堰堤では洗剤の泡が風に舞って、
カワガキ族が生息するに快適な環境が急激に失われようとしていた。
当り前に見られた小魚の仲間も減り、鯉だけがやたら目立つ川になってしまった。
あまり川には行かなくなり、たまに出かけても川漁師が投網をしていた場所には鯉釣りの竿が林立していた。
そんなころ川の中にいる同級生らを見つけた、彼らは素潜りで鯉を捕まえていた。
鈴をつけた竿を1人で何本も並べても一向にアタリの来ない釣り人を茶化すかのように
潜っては良い型の鯉を抱きかかえて水面に現れた。
たぶん、この時が彼の姿を川で見た最後だったと記憶している。