浮遊脳内

思い付きを書いて見ます

マシーネンクリーガー SS シリーズ1 その12

2010-05-28 00:08:54 | Weblog
 衝撃に、思わず地にかじりついた。
 背を突かれるようにしたあと、続けて何かが近くではじける。ばちばちと石くれが打ち付ける。きつく目を閉じても、まぶたの裏に何かの光が差し込む。
「!」
 リンツはわめいた。レーザーの光だ。地に突き刺さり、石を砕き、砂埃とともに跳ね上げる。さらに撃ち込まれるレーザーは、砂埃を鋭く光らせ、吹き飛ばす。
 不意に光が途切れる。
 自分が死んだのかとおもった。けれど鼓動はある。頭が痛むほど脈打っている。まだ生きている。頭を撃たれたのかと思い、手をやろうとした。けれど動きは遮られる。装甲戦闘服PKAの動きは形とソフトウェアの両方が制する。PKAの機能はまだ生きている。
 リンツもだ。まだ生きている。鼓動が強く打っている。こめかみが痛いほど脈を打ってる。
 撃ち飛ばされたのは、頭上に伸ばしていたレーザーマウンテッドサイトだけだ。
 顔を上げた。撃ってきた方を見た。暗視視野の中に下り行くゆるい斜面と、そこから駆け上がってくる黒い人型の姿が見える。すぐにわかる。ほっそりしたその姿は敵の装甲戦闘服AFSだ。
 リンツは半身を起こし、腕を向けた。そこにはハンドグレナーテの発射筒が二つ取り付けてある。それを向ける。暗視視野の中の照準レティクルをAFSに合わせる。PKAの腕が自動で動いて照準補正をする。
 大きく息を吐く。奴を絞め殺すようにトリガーボタンを絞った。
 ばむ、と破裂音がして、発射筒から煙が噴き出す。それを突き破って飛び出した何かが、光って暗視視野の中を飛びぬける。
 丘の斜面に沿って低く飛び、地に突き刺さる。
 一瞬、光が膨らむ。火の粉が散って飛ぶ。膨らむ砂埃の中にAFSの姿がかき消される。
 けれどそれが光った。
 閃光がほとばしり、埃を吹き飛ばし、さらにリンツの間近の石塊を打ち砕く。

マシーネンクリーガー SS シリーズ1 その11

2010-05-11 19:57:46 | Weblog
 照明弾のまぶしい光の中で リンツは身構えた。
 敵の見えた今は、早く落ちろとそればかり願う。
 今は丘の頂にあるわずかな凹凸だけが頼りだ。ゆらゆらと落ちてゆく照明弾の光を受けて、長い影がゆらゆらと揺れる。自身の影とまろいキャノピーの反射を敵に悟られてはならない。見つかれば射すくめられる。
 リンツの武器は限られている。主武装のノイ・パンツァーファストを失っていた。残っているのは装甲戦闘服PKAの両腕にとりつけた二本ずつのハンドグレナーテと、PKA自身の腕しかない。手指の代わりに鉤爪のような先端を持つそれは、地面を掘ったり石を除けたりするには便利なものだ。しかも必要があれば格闘戦に使うこともできる。
 リンツは唸った。何が必要があれば、だ。
 それを教えた教官は、実際に鉤爪で戦うわけじゃない。装甲戦闘服AFSをつけた敵はほんの数百メートルしか離れていない。それでもPKAの鉤爪が届くまえに、奴らのレーザーがリングを撃ち抜くだろう。鉤爪のほかに持つ四発のハンドグレナーテも、その射程は敵のAFSの持つレーザーよりずっと短い。しかも敵は、丘を駆け上がりながら二手に分かれつつある。
 リンツにもわかった。注意を分散させながら互いに援護しあって、丘の上を目指してくる。丘の正面から一機、丘の脇へとすこし巡りながらもう一機が上がってくる。あと一機がいたはずだ。
 リンツはレーザーマウンテッドサイトをめぐらせた。独立アームでキャノピーの上に伸ばされた独立双眼鏡のようなものだ。その映像はリンツのヘルメット内暗視に映される。ゆらゆら落ちる照明弾の光は丘の斜面を照らし、小さな凹凸を驚くほど鮮やかな光と影に浮き立たせている。三機目の敵は、丘の下にとどまったままだ。殻豆野郎、とリンツは思う。
 そして気づいた。
「B62よりB6Zへ、丘の下方にとどまる一機は、アンテナを増設しているように見える」
 三機目は丘の斜面の下で巧妙に身を隠している。体をうかつに晒さない。けれど少し覗かせるその頭部は少し大きく見える。そんな敵は初めてだ。今まで見たことは無かった。資料にも無かったはずだ。それより重要なのは、その頭部の脇からアンテナが伸びているように見えることだ。
 アンテナのことは知っていた。敵の殻豆の指揮官機はそれをつけて通信能力を強化している。その通信能力で指揮官機は部隊を統制するのだ。
 だから指揮官機をつぶせば、敵の部隊行動力は低下する。
『B6Z、了解した』
 夜空を轟音がめぐる。見上げる空は暗いままで、その空をホルニッセが飛び巡ってゆく。今は地上は明るく照らされているけれど、それも照明弾が落ちるまでのわずかな時間だ。再び闇が訪れれば、敵はさらに大胆に動くだろう。三機目の敵も取り逃してしまうかもしれない。
 夜空を照明弾は落ちてゆく。まぶしい光は直接見られないほどに強い。パラシュートに吊られてゆれながら風に流れ、白い煙を流している。ゆっくり、ゆっくりと地上へと近づき、それにつれて地上の影は次第に長く長く伸びるようになる。
 じりじりとリンツは待った。照明弾は緩やかに落ちてゆく。小隊長はベテランだ。必ず攻撃をしてくれる。けれど、それも敵が見えている間だけだ。
『B6Z、攻撃する』
 上空のエンジン音が巡り、高鳴る。
 リンツは見た。側面の楕円のサイドウィンドウの向こうで何かが光る。夜空の中でそれは滑るように舞い降りてゆく。
 白煙が現れる。光が走る。筋を引いて流星のように飛びぬける。ロケット弾は丘の斜面に突き刺さる。爆発の閃光が横合いから差し付ける。
 リンツは首をすくめる。サイドウィンドウもキャノピーも防弾というほどの能力は無い。けれど離れた爆発なら、爆風の名残が押し寄せたところでどうということもない。リンツは顔をあげ横合いへと目を向けた。
 爆発の白煙が流れている。淡い影は長く伸び、照明弾はすでに丘の頂より低くある。ホルニッセは飛びぬけていった。エンジン音を低くとどろかせながら上昇して夜の闇にまぎれる。
「B6Z!違う!」
 ロケット弾の作った弾痕はリンツの思ったところとは違うところにあった。爆発の白煙が流れるのは、丘の脇に回り込もうとしていた二機目のいたあたりだ。
 リンツの示した三機目の、アンテナを持つAFSは丘の正面に潜んでいる。照明弾は低く落ち、三機目の潜む影も長く伸びている。
「B6Z!目標が違っている。B62はレーザーポイントで目標を示す」
『やめろ62!』
 けれどリンツはレーザーマウンテッドサイトを操作した。低くなりゆく光の中の、長く伸びる影を見る。そこに光を当てた。
 今まで忘れていた暗視ヘルメットの機能が、レーザーの細い光条を明るく示して見せる。
「62は目標を指示中!」
 リンツは胸のマルチディスプレイに目を落とす。戦術データリンクへのアップロードが示されている。情報は正常に更新中。これで上空のどの機体も敵の位置を知ることができる。
 マウンテッドサイトの視野の中で、影が動いた。低くなった明かりの長く引く影の間に、それは不意に現れる。
 一瞬、何が起きたのかわからなかった。けれどマウンテッドサイトはその自動機能のまま黒い敵を追い続ける。
 長く影投げて走るのは、同じく黒の姿だった。三機目のAFSだ。隠れ場所から不意に飛び出し、丘の斜面を走る。黒塗りの姿はやはり頭が大きく見える。実際に大きいというより額と頭の後ろに他のAFSには無いものがあるように見える。
 リンツのPKAのマウンテッドサイトはその姿を追い続けている。そして指示レーザーの細い光条で示し続ける。
 そのときだった。
 横合いから、鋭い光が走った。
 闇が打ち付ける。何かがはじけた。

マシーネンクリーガー SS シリーズ1 その10

2010-05-07 06:56:24 | Weblog
 星空の中をゆっくりと動く光は人工衛星だ。
 星空を背に大きく巡るのは、第六小隊の二機のホルニッセだ。
 コンラート・リンツ一等兵はまろいキャノピー越しにその姿を見上げ、暗視視野の中で追いかけた。
『リンツ、こちらはB6Z。中隊到着まで15分。B6在空班は前方掃討を開始する。丘より支援せよ』
 第六小隊長からの声が響く。リンツはあわてて防御体制をとる。防御体制といっても、今ここで効果の上がることなどほとんど無い。鉤爪のようなアームと、それを取り付けた装甲戦闘服PKAならば蛸壺くらい容易に掘れるだろうが、掘ったころには中隊が到着してしまう。
 だからリンツは丘の稜線を盾に身を低くした。ひざを着き、手の先の鉤爪をついて伏せ、それからある操作をした。
 まろいキャノピーの後ろから、ぱたんと音を立てて細い支持アームが伸びる。暗視視野の中に新しい暗視映像が映し出される。それはたったいま伸ばされた支持アームの先に取り付けられた、レーザーマウンテッドサイトからの映像だった。
 双眼鏡のような形をしたそれは、装甲戦闘服PKAにとって双眼鏡と同じ役割をする。強化された光学機能と、レーザーポインター機能を一つにとりまとめてあって、ヘルメットに取り付けられた暗視装置以上のものを着用者に与えるのだ。
 しかも着用者の頭の動きに合わせて動き、願うところを見せてくれる。リンツは軽く頭を動かしてマウンテッドサイトが正常に動くことを確かめると、それを使って丘の稜線の影から、闇の大地を見渡した。
 丘の上からならば、広く遠く見渡せる。昼間ならば何もかもを一望できるけれど夜は暗視視野に頼らなければならない。敵の装甲戦闘服AFSは発熱量も少なく、敏捷で遠距離からは捉えにくい。
 ごう、と上空でエンジン音が響く。首をめぐらせて見れば、星空を背に二機のホルニッセが旋回してくる。それは丘を斜めに見下ろして飛びぬけた。
『注意、照明弾、投下』
 リンツは反射的にまぶたを閉じる。そのまぶた越しに、明るい光が差しつける。暗視視野に緑の増感光があふれたのはほんの一瞬だった。すぐにフィルタがかかり、まばゆさを打ち消す。ふたたび目を開いたリンツに見えるのは、夜目をくらまさない程度に調整された暗視映像だ。
 パラシュートに吊られた照明弾が、ゆらゆらとゆれながら地上を明るく照らしている。乾いた大地の木々が、茂みが、岩が、あるいは小石すらも、意外なほど長く影を引いていた。
 一瞥しただけでは、その影のどれが敵で、どれが自然のものかはわからない。けれど影のいくつかが動いたように見えた。
 リンツが声を上げるよりはやく、上空のホルニッセが全翼胴を傾ける。
 斜めにすべりおちるように、明るく照らされた大地へとダイブしてゆく。機体から白煙が沸く。
 それは機を離れ、夜空を背にまっすぐに飛び出した。伸びて伸びて伸びてゆき、地上へと突き刺さる。
 地に一瞬、炎がひらめく。並んで二つ白煙が膨れ上がる。ホルニッセは飛びぬける。降り注ぐ照明弾の光に、自らも照らされながら丘の脇を抜けるように低く飛ぶ。
 そして暗がりの中で再び上昇するのだ。
 影どもはもう、隠れつづけようとはしなかった。ゆれる照明弾の光の中で、長い影を引きながら、起き上がり駆け出し始める。
 照明弾はゆらゆらと落ちてくる。殻豆どもは互いにかなり広い間をあけて駆ける。地に投げかけられた長い影の群れもまた駆ける。
 一つや二つではない。十どころでもない。 リンツは息を呑んだ。
『B6Zより、B中隊長へ。丘正面に戦闘隊形、中隊規模のAFS。阻止しきれない』
『中隊長了解。到着まで10分』
 ぎりぎりだ、とリンツは思った。
 敵のAFS、殻豆どもが走れば、時速50km程度を出せるはずだ。邪魔がなければ奴らは五分ほどでこの丘まで登ってくる。
 妨害があれば稼げる距離は半分以下でしかないにしても、10分もあれば、丘の頂上までたどり着ける。
 照明弾はゆるやかに落ちて行き、明るかった大地は急に闇へと戻ってゆく。照明弾は地の闇に吸い込まれる。
 最後のときに、目の端で何かが動いたような気がした。
 リンツがそちらに目をやったとき、照明弾の光はもう届かなくなっていた。暗視視野が回復し、緑の増感光で視野が満たされたとき、リンツが見ていたのは丘の裾だった。
 レーザーマウンテッドサイトの視野は、ヘルメットに装着した暗視装置よりも感度も解像度も高い。
 動く姿があった。見間違いだと思った。
 目をそらし、それがなかったのだと思い込もうとした。
 恐る恐るもう一度レーザーマウンテッドサイトの視野を向ける。
「……」
 いなかった、と思い込みたかった。
 けれどそれはあった。
 地に落ちた照明弾の、かすかな光に背後から照らされて、敵の装甲戦闘服のほっそりした姿が、身を低くしながら、丘の際にすでにある。
 唇を噛んだ。うかつだった。なぜ今まで気づかなかったんだと思った。
 一つ、二つ、・・・少なくとも三機いる。
「直前に、敵AFS・・・・・・」
 1000メートルほどしか離れていない。
 殻豆どもは、優れた夜間行動能力を持っている。それでもPKAの暗視機能ならもっと遠距離からでも見つけられるはずだった。
 なのに今でさえ、はっきりした熱戦画像を得られない。
 気づかなければ、もっとちかくにまで詰め寄られていたかもしれない。
「直前に、敵」
 まだ誰も応えない。鼓動ばかりが体の中に激しく響いている。
「こちらB62!丘の直前に敵AFS!」
 自分の声が闇の中に吸い込まれる。胸元のマルチディスプレイを見た。無線は作動している。
 もう一度、叫ぼうとした。
『B62、落ち着け』
 小隊長の声がようやく応える。
 噴射の轟音が丘の上空を飛びぬける。
『上空から確認できない。B62、再確認せよ』
「見えています。丘の裾にAFS3機です。本機より1000メートル以内!」
『確認する。照明弾を投下する』
 ふいにまぶしい光が降ってくる。
 暗視視野にフィルタがかかり、その中にやはり殻豆どもの姿があった。黒塗りのそれは身を起こし、駆け始める。
 見つかったのなら、それ以上おとなしくしている必要は無い。
『リンツ!接近戦に備えろ!』
 小隊長の声が、リンツの耳に響く。

マシーネンクリーガー SS シリーズ1 その9

2010-05-04 00:44:57 | Weblog
 星々を背にそれは静かに落ち続けていた。
 見下ろす青の星へと落ち続けながら、決して大地へとたどり着くことは無い。それは衛星軌道を巡り続ける。機能を喪失するまで。そしてただひたすら地上を見下ろし、そこに起きたことを地上に伝える。
 それは彼とも彼女とも呼ばれるべきものではなかった。それはただの低軌道監視衛星に過ぎぬのだから。危険な今の低軌道では衛星の寿命は長くない。
 それは今もまた球状のシーカー集合部をめぐらせ、青の星の砂色の砂漠を見つめるのだった。
 それは青の星自身の作る影の中に沈む大陸の中にある。オーストラリア大陸南西部の乾燥地帯の一角に配置された装甲歩兵連隊戦区のある丘と、その周囲をみつめるのだった。
 丘には友軍の識別コードを発振する存在があり、その存在は優先支援対象とされていた。
 ゆえにその存在を見つめ、また広角シーカーをもってその周囲を広く探る。
 上空を友軍の識別信号体が大きく巡る姿を捉える。また丘へと向かって飛び行く友軍機群を捉える。多くの赤外線輻射を伴いながら、それは西方へと飛び行く。
 低軌道偵察衛星に、一つの信号が送られ来る。低軌道偵察衛星の優先支援対象の西方を走査せよ、と。それは球状のシーカー集合部をかすかに傾けて、見つめるべき新たなところへと向き直る。
 機械の瞳は、乾いた大地の夜を静かに見つめるのだ。