浮遊脳内

思い付きを書いて見ます

腹ふくるるからやっぱり書いておこう

2016-08-15 12:15:00 | Weblog
こういうのをここに書くのはどうかと思ってたけど、やっぱ腹ふくるるから書いておこう。


いま、自衛隊の、南西諸島有事にあたって、一度に輸送できる能力は、

第1輸送隊に所属する3隻の全力なら隊員約2,000名、戦車1個中隊、特科1個大隊などの普通科連隊戦闘団(RCT)半個の輸送が可能となる
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%8A%E3%81%8A%E3%81%99%E3%81%BF%E5%9E%8B%E8%BC%B8%E9%80%81%E8%89%A6_(2%E4%BB%A3)#.E8.83.BD.E5.8A.9B

半個連隊戦闘団、というか要するに大隊レベルの歩兵を主幹として、多くて二個の戦車小隊、多くて二個の砲兵中隊でしかないわけです。
これが、現状の、そして新しい輸送艦への設計資料収集が終了して、計画が立案され、予算が承認され、建造が開始され、新しい輸送群を成す、そうとうな未来までの自衛隊全体の輸送能力がこれなわけです。
これで、南西諸島有事に対応しなければならないのです。

しかし
陸上自衛隊のPV
https://www.youtube.com/watch?v=QJ-VvX2MHME

ここには富士教導団が行う、そうかえん、の画像が多く使用されているのですが、複数の連隊を持つ旅団この旅団を、輸送する能力は当然、無いわけです。
公式PVですから、企画発注した連中は、当然、知ってるわけです。
もちろん、旅団の全部を投入するとは言ってないし、かつ、現在の陸自の主要な海浜用陸手段、ゴムボートとLCACの両方(それらは教導団の装備ではないらしい)が写っているので、明確な嘘、とは言えないわけですが。
嘘でないけど、大げさです。半個連隊と旅団レベルの戦力とは隔絶していますから。
その違いを明示しないのはまぎらわしいわけですが。
しかしその違いは、自衛隊が秘密にしているはずの南西諸島展開に関わるので、明示する必要は無い(特にオタク染みた興味には)ということのようです。

したがって、民間船舶使用、しかも戦闘領域にあって民間の乗員をともなって、という発想が軍事の側から出てくること自体は、まあ構わないのですが、それは自衛隊自体にその能力が無いからであり、その結果、志願していない民間人を、戦闘領域で自衛官と見なして運用で生きないか、とするには、ある種の筋が通されてしかるべきです。


とまれ、この状態で、尖閣諸島を含む、南西諸島有事を想定して対処せよ、との政府に対して出てくるのが、

尖閣防衛、ミサイル開発へ…23年度の配備目標 2016年08月14日 07時21分
 政府は、沖縄県・尖閣諸島などの離島防衛を強化するため、新型の地対艦ミサイルを開発する方針を固めた。飛距離300キロを想定している。宮古島など先島諸島の主要な島に配備する方針で、尖閣諸島の領海までを射程に入れる。
http://www.yomiuri.co.jp/politics/20160813-OYT1T50138.html

こう言ったニュースなのですが、もちろん速攻で突っ込みが入るわけです。

https://twitter.com/kojiinet/status/764613996171239424

まあ、当然です。
このとき、どんな手段で敵を認知するのか(哨戒機でしょうか)、どのような手段でミサイルの標的としての情報を入手するのか(哨戒機でしょうか)、恣意的に哨戒機でしょうか、と書いていますが、現実の他の手段は、海上自衛隊の艦艇を常置させるくらいしかないのですが(他にも海上保安庁の通報を受けて、データリンク機能をもつ航空機を急行させるという手段はあります)

このとき、問題になるのが、尖閣諸島周辺で、哨戒機、あるいは艦艇が活動可能か、ということになります。
ここでこのニュースが効いてきます。

中国軍機、空自機に攻撃動作 「ドッグファイト回避、戦域から離脱」 空自OBがネットニュースで指摘 2016.6.29 07:07
 元航空自衛隊航空支援集団司令官の織田邦男元空将は28日、インターネットのニュースサイトで、東シナ海上空で中国軍の戦闘機が空自機に対し「攻撃動作を仕掛け、空自機がミサイル攻撃を回避しつつ戦域から離脱した」とする記事を発表した。詳しい日時や場所、中国軍機の種別などは記されていない。防衛省幹部は産経新聞の取材に対し、大筋で事実関係を認めたが、「実際にどこまで中国機が空自機に迫ったかが問題だ」と指摘した。
http://www.sankei.com/politics/news/160629/plt1606290009-n1.html


これに対して、こんなことは日常茶飯事だ、などという言葉が事情通などがSNSで言い立てる場面を見ましたが、これが本当に日常茶飯事であるならば、航空自衛隊は、南西諸島で、すでに航空優勢を獲得できない状況にある、ということになります。
こう言ったことを「情報隔離されている連中は知らない」などとうそぶいているのは、大変酷い態度であると思います。こういうことを言う人が「自衛官は人間扱いをされていない」などとうそぶいているのですが、これは自業自得だと僕は考えてしまうのです。

とまれ、空自が南西諸島で航空優勢を獲得できないのであれば、先のSNSリンクの指摘のような、ターゲティングの問題は当然、発生してきます。
まず哨戒機が活動できなくなります。つづいて、艦船にも襲撃行動が(実弾を発射するのがいつかは別にして)行われます。領海外のEEZでのこの行動に、自衛隊が対処できないのは、上のリンクの指摘通りです。
空対空の挑発しかしてこない、と考えるのはもちろん間違いでしょう。

さらに尖閣上空でしか挑発してこない、と考えるのも誤りです。そも先の記事では「どこで」起きたかは明示されていません。というより、先の記事が事実であるとするならば(そして事情通が嘯くように日常茶飯事であるとするならば)、中国空軍機が戦闘可能なあらゆる領域で、航空自衛隊は劣勢である、ということです。

ならば、尖閣上空でのみ行動する理由は、中国軍にはなくなります。航空自衛隊に対して優勢ならば、航空自衛隊の基地を攻撃し、これを無力化して、もっと規模の大きな戦闘を実施できるのです。
もっと言えば、自衛隊が反撃奪還を意図したとしても、これの実施には大変大きな制約が生まれます。

たとえば、航空機による部隊の急速輸送が行えなくなります。一つは、空港自体が攻撃を繰り返し受けて、機能を喪失してしまう事。もう一つは、戦闘によって質だけでなく量的優勢を獲得した中国空軍機は、戦場近くに戦闘機を待機させ、進出しようとする日本側のあらゆる輸送手段を攻撃することが可能になるからです。

具体的には、オスプレーがいかに九州から那覇までノンストップで進出可能であり、また那覇から尖閣を往復可能であるとしても、中国軍機の阻止を突破できない、ということになります。

オスプレーなどどこで使うのかわからない、とうそぶく自称陸自幹部を見ましたが、確かに、航空自衛隊が航空優勢を獲得できないのが日常茶飯事であるならば、オスプレーなど不要です。使いようがありません。
ならば、オスプレーの採用など阻止しなければなりません。

しかし、陸自はUH-Xを島嶼事案に必要だ、と予算請求しているのですから、かの組織の行動の意味が分かりません。腐敗しているとすれば説明はつきますが。

<追記>
ミサイルの記事を引用したのに、空自が航空優勢を獲得できないのなら、ミサイルによる防衛も成立しないではないか、とこき下ろすのを忘れてしまいました。

空自が航空優勢を獲得できない状態で、ミサイルのターゲティングを行うのは、難しくなります。そもそも自衛隊に、尖閣へ来寇するだろう敵の具体的な位置情報を知る手段があるのだろうか、というレベルです。

オスプレーの使い方はわからないが、UH-Xは島嶼防衛に有効で、先のニュースのミサイルもまた有効である、という状況がいかなるものか、説明可能ならやってもらいたいものです。そういうことをまるっと知らない奴には言う必要が無い、というような放言の連中の肩を持つことは僕にはできません。

任務に邁進する、というのは、部内で決めたことをを部内本意にやることではないと僕は思うのです。
<追記終わり>


また、航空優勢を獲得できない、すなわち航空攻撃を受ける蓋然性が極めて高いのなら、そこに民間船舶を、民間の乗員ごと投入する、という自衛隊防衛省の施策は、非自衛官の人命財産を著しく軽視しているとしか言いようがありません。

内閣府の方は、先の記事の内容自体を否定し、指摘した元空将を批判してもいますが。

航空輸送、オスプレーが調達前に無力な状態というのが事実ならば、このエントリーの最初の部分にも、大きな影響があります。輸送艦、輸送能力の不足を、航空輸送では補えない、ということです(もちろん輸送艦の航行の上でのリスクも大変大きく、危険になる、ということは先に書いたとおりです)


ここで僕が言いたいのは、事情通が嘯く、情報を隔離されてる連中は知らない、こんなことは日常茶飯事だ、などということの大変酷い態度についてです。
事実であるならば、これは(秘密の部分が設定されるにしても)政府による検討と対応が要求されるべきものです。先の航空優勢の件が事実であるなら、オスプレーの採用は行うべきではありませんでした。
それより優先されるべきは、航空自衛隊の機材の更新と、能力の向上でした。
しかし航空自衛隊自身は、FX選定を自ら遅らせ、検討を長引かせました。

もし、先の空自機離脱が嘘であるなら、これを危機感持つべき情報として触れて回った元空将にはどんな意図があったのでしょう。またこれの尻馬に乗って行った自称事情通と、自称自衛官幹部は、どんな意図があったのでしょう。

国民に情報を知らせず、部内の為ならどんな嘘をついても構わない、という態度は、常軌を逸しています。


最初に書いた通り、自衛隊の持つ南西諸島有事対応能力は、ごく限られたものです。
現在だけでなく、将来にわたってそうです。
オスプレーの採用によって、海上輸送力の低さを補いうる公算はありますが、それが成立するのは空自の航空優勢獲得があったばあいです。
空自が中国に劣勢で、逃げ回るのが日常茶飯事だという噂(といっておきましょう)もあります。
にもかかわらず、陸自は先に挙げたようなPVを作って広報しているわけですから、その態度は常軌を逸してると言うべきです。それは自衛隊全体、特に先の元空将や、自衛官幹部を称する連中全体に言えます。
何が嘘で何が本当か、国民に判断できないことをいいことに、何の目的か判らない放言を繰り返し、自分は自衛官である、とそれを担保するようなことをしているのが、正常な民主主義政府の役人の態度なのでしょうか。

その上、それも国民の選択だ、などと尻馬に乗ってゆく連中もおかしいと僕は思います。
赤本青本として知られる基本教本すら管理文書に指定している自衛隊から、情報を得ようとすれば個人のリークか、公開資料に寄るしかありません。
おかしいですよ。個人の判断による教授で、知った、知らないになる世界というのは。
もって国民が判断できないとしたら、それは情報の適切な開示が無いからです。

僕は、上記のように考えています。



本来はこう言ったことを、このブログに書くつもりはありませんでしたが、
ツイッターにリンクされた場として、僕の考えをまとめるために記述しました。

チーム0・F・INF 助走 エピローグ

2015-11-20 02:07:09 | ガンプラバトル系SS チーム0・F・IN

 「おいーす」
 玉ちゃんが手を振る。通りを、有田君が歩いてくる。その隣には、女の子がいる。
 俺たちに気付いたのだろう。女の子は急に足を止めた。有田君はすぐに振り返り、彼女の手を自然に引いた。
 女の子は、見るからに恥ずかしげに、それでも引っ張られるままにこちらへとやってくる。俺と玉ちゃんは互いに互いの横顔を窺い見ながら、互いにニヤニヤするんじゃねえぞ、と脳量子波を送りあった。
「おはようございます」
「おはよう」
 女の子も、つづけて小さく、おはようございます、と言いながら、有田君の影に隠れる。えーと、誰?と有田君へ向けて、小さく囁く。
「あれ?乾、知らなかったっけ?」
 おい、呼び捨て来たぞ。有田君は俺を示す。
「相馬さんと玉田さん。僕のチームメイト」
「ういっす」
「乾さんっていうんだ。一度会ったよね。池郷模型店の前で」
 え?と女の子は驚き、それからぶんぶんと首を振る。あー、この子、ホントに覚えてないなあ、と俺はほっこりにやにやする。
「荷物、後ろに乗せなよ」
 玉ちゃんは、SUVの後ろ扉を開く。俺と玉ちゃんの機体は、もう積み込んである。詰み込んであるって言ったって、箱一つずつだけどな。これから、西東京地方大会予選だ。
「彼女?」
 俺はニヤニヤと有田君へ聞いた。
「ちがいますっ!」
 真っ赤になって応えたのは乾さんのほうで、そんなんじゃありません!と強く打ち消す。
「じゃあ、何?同級生?」
「中学まで一緒でした。でも、こいつ、女子高行っちゃったんで」
「哲ちゃんが頭良すぎるんだもん」
「そんなこと無いって」
 哲ちゃんときたよこれ。幼馴染属性だよこれ。
「えー、じゃあ、いつもは池郷模型店で待ち合わせ?」
「そんなことしてません」
 有田君は言うけれど、乾さんは真っ赤だ。かわいいなあ。乙女心だよ。っていうか、有田君、あんだけ頭いいのに、まるで気付いてないとか、どこのラブコメだよ。その有田君は、荷物を車に乗せる。
「店長はまだですか」
「え?店長じゃないよ」
 玉ちゃんが応じる。
「理恵子さん」
「聞いてないよ」
 俺はホントに聞いてない。玉ちゃんは言う。だって昨日、電話あったんだもん。
「なんて?」
「いや、それだけ。あたし行くからって、それだけ」
 なんだそれは。俺は首をひねり、有田君はなぜかそっぽ向く。
「おっはよー!」
 やたら元気な声は、その理恵子さんだ。振り返り、俺はちょっと驚いた。理恵子さん、わりとキメてきてる。まあ、これはこれで良いものだ。うん。
「あら、美佳ちゃんも来るの?」
「ちがいます、ちがいます」
 乾さんはぶんぶん首を振る。けれど有田君は、あ、そう、帰るのか、見たいなことを言う。やっぱ高校生だな。ここは大人が後押ししてやらにゃいかん。
「いいじゃん。来なよ。この車、6人乗りだろ、玉ちゃん」
「7人。乾さん一人くらい、ぜんぜん軽い軽い」
「重いかもしれませんよ」
 有田君が軽口を叩く。もう、ばかっ!と乾さんは有田君の背を叩く。これだ、これだよ。うん。玉ちゃんもうんうんとうなずいている。
「お家大丈夫なら、ホントに来ていいのよ」
 ナイス発言、理恵子さん。乾さんは、えー、とか、いいんですか、とか言いながらもじもじしてる。
「いいよな、有田君」
「ええ、まあ」
 この程よい鈍さ、わざとじゃないところが謎だ。乾さんは、え、でも、とかいいながら、家に電話してみます、などと車の陰に回る。うん、もしもし、あたし。うん。あのね、今からね、ちょっと出かけて来ようと思って。哲ちゃんたちとだけど、池郷さんちの理恵子さん一緒なの。
 おおう、理恵子さん、信頼有るじゃないか。俺は理恵子さんを見る。理恵子さんの横顔は何やらニヤニヤしている。俺はこっそり聞いた。
「中学くらいから?」
「そうそう」
 その笑みのまま、理恵子さんはうなずく。
「もう、もどかしくって」
「まあねえ、大人的にはねえ」
「あの、何時くらいまでかかりますか?」
 乾さんが車の陰から振り返る。すぐに有田君が応える。閉会式が15時半。だから、玉田さんどうですか?と。玉ちゃんは一本指を立てる。
「普通なら一時間。でも会場出たあと混んでるだろうから、プラス三十分」
「じゃあ五時半くらいかな」
「六時前には帰れると思う」
 乾さんは電話にそう話す。おいおい、30分鯖読んでるのは、あれか?二人の時間か、と俺は思う。
「うん。わかった。寄り道しないで帰るから」
 乾さんは俺たちへ振り向く。おかあさん、良いって。
「それじゃ、乗っちゃって」
 玉ちゃんが車の天井を叩く。
「乾、酔うだろ?」
「もう、小学生じゃないよ」
 ちくしょう、なんだ、この致死性のほのぼのは。俺は死ぬ前に、後ろのドアを開けた。
「理恵子さん、どうぞ」
「ありがと」
 微妙な笑みで、理恵子さんは、それでもすっとシートにつく。俺は助手席だ。乗り込み扉を閉めたところで、玉ちゃんが言う。
「シートベルト、な」
「へい了解」
「言っておくけど、超安全運転だからな、俺」
「ユーハブコントロール」
 俺は振り返る。
「アテンションプリーズ、皆様、シートベルトをお締めください。確認終了次第、当車は出撃いたします。機長はおなじみ玉田。ロードアテンダントは相馬が担当いたします」
 俺は続ける。
「なお、戦術予報士兼チームリーダーは有田となっております。有田君、よろしいでしょうか」
「よろしいです」
「そうじゃないっしょ、有田君」
 バックミラーを覗き込みながら玉ちゃんが言い出す。
「理恵子さん、いつもの、行っちゃって」
「あら、あたし?」
「どぞどぞ」
 それじゃ、と理恵子さんは、小さく咳払いする。
「それじゃ、ガンダムファイト!」
 皆、すぐに気付いた。声が合わさる。
「「レディー!ゴー!」」
 笑い声が広がる。そうして、俺たちは出発したんだ。

チーム0・F・INF 助走13

2015-11-19 22:48:53 | ガンプラバトル系SS チーム0・F・IN

 はっとして、俺は飛び起きた。
 いや、ぼんやりした記憶はあるんだ。慌てた店長に助け起こされたこと、どこかの部屋に運び込まれて、その畳の上に横たえられたこと。
 そして飛び起きた今、額に当てられていた濡れタオルが、胸に落ちた。
「大丈夫ですか?」
 覗き込んでくるのは、理恵子さんだ。店長の娘さん。っていうか、顔、近いって。理恵子さんは気にした風もなく、俺の胸元に落ちた濡れタオルを取り上げる。
「急に倒れるからびっくりして」
「いや、すいません。立ちくらみっす。昨夜徹夜で」
「徹夜でガンダム?」
「ガキっぽくて面目ない」
 理恵子さんはくすくす笑う。まあ、ウチは商売なんで、お客さんは大事にしますけれどね、と。
「あの、みんなは?」
「もうゲームは終わったみたいよ?」
 俺は額を押さえる。やべえ、と思っていた。俺、間違いなく、池内さんのあのシナンジュをぶっ壊してる。あのがっちゃーんて音は、確実に何かを割っている。シナンジュをフィールドから押し出したのは、俺だし。
「相馬さん、大丈夫?」
「いや、俺は大丈夫っすよ」
 問題はシナンジュだ。理恵子さんは、お水持ってこようか、とか、もう少し横になった方がいいんじゃない?とか。
 いえ、大丈夫っす、と俺は強がりを言いながら、ふらつかないように立ち上がった。
「パパ、相馬さんがそっちへ行くって」
 理恵子さんがパパ、とか言うと、なんかちょっとえっちく感じる。それはいいものだ。大丈夫かい?などと店長の応じる声もする。俺は畳からバトルマシンのある部屋へと降りた。皆は、ガキどもが順番待ちする席に座ったり、椅子を引っ張り出したりして、楽しく話していた風だった。
「池内さんすみません!」
 俺はもう、これいじょうないっつーくらいの勢いで頭を下げた。もう立位体前屈モードだ。
「いや、いや、相馬君、頭上げて。いいんだよ」
「そういうわけには行きませんっ!」
「いや、ほんとうに」
 池内さんは困ったように言う。有田君、止めてよ、と。有田君も困っている風だったけれど、玉ちゃんが俺の背を叩く。
「相馬ちゃん、いまさ、俺らは判りあえてたんだよ」
 店長が笑う。上手いことを言うね、と。続いて池内さんが言う。
「僕ら的には、業が打ち壊された、っていうか、ね」
「破壊による創造っすよ」
 玉ちゃんが言う。俺にはさっぱりわからないが、皆は楽しげに笑う。
「相馬君、だから、頭上げてよ」
 俺はそっと顔を上げた。
 池内さんは言う。あれは、壊されて構わないものだったんだ。僕の気持ちの中でも、ね、と。実際、シナンジュは壊れていた。粉々と言っても良かった。あれほど磨き上げられた表面も、ぱっくりクラックが入っていた。自作パーツも折れて、破片が無くなってしまったものもあるらしい。でも、池内さんは笑っている。
「まあ、僕ら的に言えば、あるべき形の業の行方、ってやつだよ」
 池内さんたちは、皆で笑う。
「いや、それより、相馬君、君、すごいよ。すごい操縦だった」
「相馬ちゃん、これでも始めて三か月も経ってないんすよ」
「三か月?そりゃすごい」
 相馬さんのチームの加藤さんと敏野さんも笑う。俺らさっぱりだめだったねえ。だめだねえ、と。もう、若い人の時代だね、と。まあまあ、相馬君、座って座って、と俺にも席が勧められる。俺的には床に正座したいくらいの気分だった。それとは別に、話は盛り上がる。池内君も、あれだけ追いつめられたのは、珍しいんじゃないか?いや、あるにはあるけど、久々にホントに追い詰められたねえ、と。
「いや、池内さん、ホントに上手かったっす。もう、最後は、あれしか手がなくて」
 すみませんすみません、俺はもう何度も言っていた。皆は笑う。
「あの判断力は、すごかったと、僕も思います」
 有田君は言う。両方とも、武装をロストしたところで、相馬さんの役割は完全に達成されてました、と。でも、その上で、あの判断をですから、とも。
「うわあああ」
 俺は頭を抱えた。そう言われれば、池内さんのシナンジュを壊してしまう必要なんかなかったんだ!
「いやいや、いいんだよ。あれは壊されるべきだった」
 池内さんは言い、加藤さん敏野さん、それに店長もうなずく。有田君は少し居心地悪そうだ。
「破壊による創造っすよ」
 玉ちゃんが、これ以上ないドヤ顔で言う。玉ちゃんにイラっと来たのは、これが初めてだ。
「天然系の相馬ちゃんだからこそ、やれたんだ。よかったんだよ、あれで」
「天然系言うな」
「じゃあ、脊髄反射系?」
「反射来たら思考と融合させようよ」
「思考してなかったっしょ」
「うん」
 皆が笑う。池内さんが言う。
「君ら、良いチームだよ」
「それは判ってます」
 玉ちゃんはドヤ顔だ。なあ、有田君、とうなずきかける。
「はい」
 有田君は、うなずく。玉ちゃんは俺の背中を叩く。
「どうよ、相馬ちゃん」
「うん」
「相馬ちゃんに思考が足りなくても、有田君がやってくれるから。これこそ反射と思考の融合だよ」
「足りない言うな」
 店長たちが笑う。いや、笑い過ぎだから。
「バトルに呼んでくれたことに、ホントに感謝してるんだよ」
 池内さんは言う。加藤さんと敏野さんも深くうなずく。
「僕ら的にも、いろいろ決着ついたし」
「すみません」
 有田君が頭を下げる。
「ありがとうございます」
「いや、君が謝る必要なんかない。相馬君もだからね」
 池内さんは言う。もちろん、俺にだって少しは判っていた。以前に、この店であったという、ちょっとした出来事って奴だ。何があったのかも、少しは察していた。でも、知りたいとは思わない。
 皆、笑って忘れようとしている。それでいいじゃないか、と俺にも思えていた。

チーム0・F・INF 助走12

2015-11-18 22:35:46 | ガンプラバトル系SS チーム0・F・IN

 ビームサーベルで、斬り結ぶ。
 光の衝撃波が広がり、粒子が散って打ち付ける。
 赤く輝く粒子を放ちながら飛ぶ俺のキュリオスと、同じく赤く、輝くサイコフレームを露わにして飛ぶシナンジュカスタムが、斬り結んでは離れ、しかし離れきることは互いに許さず、ふたたび宙を蹴るようにして、詰め寄り切り結ぶ。目の前の敵しか、もう見えない。俺は、こいつを、みんなのところへ行かせるわけにはゆかないんだ。
 俺のホロモニターは橙色を過ぎて、さらに赤みを増しつつある。機体のプラフスキー粒子が尽きつつある。尽き果てれば、機体は完全にコントロールできなくなる。今なら、そのまま撃破される。ライトボールを圧し、機体を踏み込ませ、ビームサーベルを振るわせる。奴のサーベルと打ち合い、粒子が飛び散る。
 奴が身を翻す。しまった、と思ったときには、蹴りとばされていた。
 思わず、俺までのけぞる。マジで蹴られたようだ。蹴られ突き放されたなら、すぐに次が来る。キュリオスの身をひねらせる。片脚を失って機体が安定しない。そこに射撃が叩きつけてくる。
 奴の、バルカン砲だ。俺の掲げたシールドに、次々と着弾する。一部は機体にもあたっている。それで撃破はされないが、奴自身がサーベルを振りかざしながら迫る。応じる俺は、わずかに遅れる。左腕一本で、シールドとサーベルを同じ腕に持っているからだ。それでも、受けた。
 粒子が飛び散る。さらに押し込まれる。受けながら、こんどは俺の側が身を翻す。蹴るためじゃない。蹴りをあらかじめ避けるためだ。体を入れ替えた拍子に、開いた間合いに、俺はサーベルを振るう。
「・・・・・・っ!」
 確かに奴の機体に斬り込んではいた。奴の肩をかすめて、左のバックパックだ。しかしやつは、斬りつけられながらも、身をかがめる。俺のサーベルが、奴の背をえぐる。そこに取り付けられた、アームドアーマーにも食い込む。
 奴の背が光る。爆発じゃない。
 その背につけたアームドアームが飛んだ。俺に向かって。噴射の尾を引いて、ぶつかってくる。キュリオスが大きく態勢を崩す。俺もリアルに衝撃を受けたようにのけぞる。
「!」
 俺は、わけのわからない声を上げて、そのアームドアームを斬り払った。それは二つに断ち切られて、くるくると舞い、そして爆発する。炎に煽られて、さらに機体を揺らがせるキュリオスへ向かって、奴が突っ込んでくる。ビームサーベルを振るう。
 咄嗟に掲げたシールドに、奴のビームサーベルが食い込み、断ち切る。俺は姿勢を立て直せない。奴は再び、ビームサーベルを振りかぶる。受け太刀の俺に叩きつける。そのまま、俺は押し込まれる。機体の踏ん張りが効かない。奴のパワーだって、今は弱っているはずなのに、受け太刀のまま押し込まれて、肩にまで、斬り込まれる。
 押し返す。まだGNドライブの推進力は負けていない。アームドアームを失った奴を押し返し、返す刀で奴へと斬りつける。奴も、サーベルを振るった。打ち合い、切り合い、粒子が飛び散る。機体が安定しない。片足を失い、先に肩まで切りつけられたキュリオスのダメージは大きい。右腕は動くが、先のマニュピレーターを失っている。武器にはならない。それは奴も同じだ。奴の右腕は、アームドアーマーごと、俺が斬っている。互いに残された腕一本での戦いだ。奴のサーベルが下段から振り上げてくる。
「しまった!」
 機体の制御が間に合わない。受け太刀のビームサーベルも、間に合わない。
 奴のサーベルが脇をえぐったところで、ようやく、受け止める。サーベルでなく、機の左腕で。斬り飛ばされて、宙を舞う。持っていた、最後の武器のビームサーベルとともに。
「このぉ!」
 ほとんど反射的に、蹴り上げていた。奴の腕を。そのサーベルを握った手を。キュリオスの残った脚、そのブレードフィンが蹴り上げる。手ごたえがあった。サーベルと、砕かれたマニュピレーターアームが飛んでゆく。
 けれど奴は俺を見た。ツインアイが輝く。そしてバルカン砲を放った。
 機体が撃たれ、悲鳴を上げる。俺には、キュリオスには、もう、武器は無い。半ば斬り飛ばされた左腕、マニュピレーターを失った右腕で、機体を庇うのがやっとだ。
 いや、ちがう。
 まだ負けていない。俺も、キュリオスも、負けちゃいない。まだ、最後の手がある。
「!」
 気合に上げた声は、もう自分でも何を言っているかわからない。ライトボールをタップ。高速モード。背にある機首がせり上がる。身を庇っていた両腕も、高速形態の為に、両側面へもどる。そこい、容赦なく、奴のバルカン砲が撃ちあたる。
 構うものか。俺に出来る最後の手段は、突っ込む事だけだ。
 奴にまっすぐに機首を向け、そしてフルスロットルで突っ込んだ。まっすぐに奴にぶちあたる。衝撃を感じるほどホロモニタが揺れる。すでに赤く染まり、ぷらふスキー粒子はわずかしか残っていない。体当たり位でシナンジュを破壊できるとも思っていない。俺はキュリオスの変形を半解除する。劇中で、落下しようとするコロニーを支えた時の形だ。そして、腕の残った部分で、奴を抱え込む。
 そのまま最大加速に固定する。機体が安定しない。振り回されて、シナンジュから引きはがされないのがやっとだ。奴は身をよじってあらがう。残された左腕の肘を打ち付けてくる。逆進噴射もかけようとする。でもむだだ。俺を苦しめた不安定性が、いまは奴を苦しめる。振り回すようなランダムな加速に、奴の姿勢が安定しない。いける!
 このまま、二機で、バトルフィールドから飛び出す。バトルフィールドから飛び出した機は、失格になる。
 俺の役割は、シナンジュを、池内さんを、抑え込むことだ。
 不意に、モニターが暗くなった。プラフスキー粒子が尽きたのか、と思った時、嫌な音が聞こえた。
 床にプラモを落として、ぶっ壊したような音、がっちゃーん、というプラの割れる、取り返しのつかない音だ。
 今、俺のモニタには、アウト・オブ・バトルフィールドの文字が点滅している。
 場外では、プラフスキー粒子の効果が無く、当たり前のことだが、プラモが飛んだり跳ねたりはできない。放り出されれば、床に落ちる。
 いやまてよ、 バトルマシンの周囲には、一応、棚のような安全スペースがあって、フィールドから押し出されたくらいでは、床まで落ちないようになっているはずだ。ちょっとフィールドから出たくらいなら。
「・・・・・・」
 ちょっとじゃなかったよな、俺の勢い。
 あの音、俺のキュリオスだけじゃないよな。池内さんのシナンジュを、フィールドから押し出そうとしたんだもんな。
 すっげー完成度だったよな。俺のはパチ組みにデカールとクリアコート程度だけど、池内さんのシナンジュ、マジで全部のパーツに手が入ってい・・・・・・
 あたままっしろになった。
 うん、徹夜明けだし。
 間違いなく、池内さんのシナンジュ、壊したはずだし。
 たぶん、俺はそのままぶったおれたはずだ。
 よくわからん。

チーム0・F・INF 助走11

2015-11-17 18:08:53 | ガンプラバトル系SS チーム0・F・IN

 だが、モニターは死んでない。
 俺のキュリオスは、まだ生きてる。ぐるんぐるん廻っている。ホロモニターの機体状況パネルが瞬いている。右足が、膝から無くなっている。
「この!」
 ライトボールをしゃにむに圧して、何とか安定を取る。機体が安定しない。すぐ目の前を、白のシナンジュカスタムが飛び去ってゆく。牙のように開いた左腕のアームドアームが、俺のキュリオスの右足を握りしめ、文字通り粉々に砕く。
 そんなもん、見送っている暇なんか無かった。はじめてアリオスに乗った時のように、機体が安定しない。キュリオスの膝の羽根は、GN粒子を制御する機能がある。それが失われれば、高機動時の安定性が落ちる。そんな設定まで、反映してなくてもいいじゃねえか。その俺へと、シナンジュカスタムはゆっくりと振り向く。
 俺は、ビームビームガンをぶっ放す。連射は、奴の右や左や斜め上を飛び去るばかりだ。
「この!」
 俺はミサイルを発射した。ビームガンが駄目なら、自分で当りに行くミサイルだ。尾を引いて伸び行き、シナンジュカスタムへと絞り込まれてゆく。しかし、ミサイルが奴へと届く前に、奴の機体が輝く。赤く。
「うそだろ・・・・・・」
 でも、俺は気付いていた。シナンジュの登場するガンダムUCに登場する、サイコフレームによる機体強化システム。NT-Dだ。
 機体をサイコフレームの赤い光につつみ、シナンジュカスタムは、あの牙を開いたような左腕を振るった。次々と爆発が起きる。ミサイルは、奴の機体に触れることもなく、破砕され、自ら吹き飛んでゆく。爆炎を振り払い、シナンジュは、右腕を、ブレード型のビームランチャーを向けてくる。
 光が走る。咄嗟に、俺はライトボールに力を込める。応えてキュリオスは大きく身を揺るがせる。間近を、光が薙ぎ払う。奴のビームだ。避けられたのはまぐれだ。
 避けたからって、奴のビームは止まらない。鞭のように振るわれる。
「くそ!」
 俺は避けるので手一杯だ。機体は思ったように動かない。勝手にふらついたり廻ったりする。その間近を、ビームが薙ぎ払う。避けられたことに、俺の方が驚いていた。というか、奴の方も驚いているらしい。
 いや、今がチャンスだ。
 俺はライトボールの使っていなかったアイコンをタップする。ホロスクリーンにSpecial functionの文字が浮かび上がる。特殊機能だ。奴の、NT-Dと同じ。
「TRANS-AM!」
 意味は無くても、そう叫ぶ。だって、トランザムの決まりだ。
 キュリオスは加速した。備蓄しているプラフスキー粒子を一気に開放して、パワーを高めるシステム。もちろん、ゴリゴリと粒子が減ってゆく。ホロスクリーンの色も、みるみる黄ばんでゆく。やがて橙色へと変わるだろう。さらに赤になり、赤黒くなり、粒子を使い尽くせば、ホロスクリーンは暗転して、機体も機能を止める。それまでに、奴を倒せばいい。奴のNT-Dだって似たようなものだ。俺は両手のビームガンを捨てた。役に立たないビームガンは、捨てるのがガンダムの流儀だ。代わりにビームサーベルを抜く。二刀流で、突っ込む。どうせ、思うように機体制御なんかできない。突っ込むしかないんだ。
 奴の姿が大きく迫る。牙の腕を、奴も振るう。俺もビームサーベルを叩きつける。すれ違いざまに、粒子が散った。キュリオスには、損傷はない。すれ違い、すり抜けて、旋回する。もう一撃、ぶち込むために。
 奴は、身を翻す。俺の相手など、している暇はないというように、逃れるように加速する。
「行かせるか!」
 俺の役目は、奴を抑え込むことだ。有田君と玉ちゃんの背を突かせるわけには行かない。逃げる奴を、追いつめる手が無い。ビームガンを捨てたら、キュリオスにはもう火器が残っていない。あるのは両腕のシールドとビームサーベルだけだ。シールドには、ニードルがあるが、サーベルよりも短い。奴の飛ぶ先、有田君と玉ちゃんとが、相手チームと戦っている。
 奴は、シナンジュカスタムはひたすらに駆ける。そここそが戦いの場である、というように、俺など、ただの邪魔者に過ぎない、というように。シナンジュが、右手のビームランチャーを構える。
「有田君!」
 俺はホロモニタの通信ウィンドウへ叫んだ。
『大丈夫です』
 彼は応じ、彼方のケルディムは俺たちを見上げる。何が大丈夫なものか、シナンジュはビームランチャーを構える。足を振り出し、宙を踏みしめるようにして、狙いを着ける。けれど、有田君は動かず、代わりにコールした。
『TRANS-AM』
 ケルディムが赤くGN粒子の渦の中に包まれる。同時に、その渦に舞い上げられるように、ケルディムガンダムの肩にあった、シールドビットが飛び立つ。その姿へ、シナンジュの奴は、ビームを放つ。
 強力なビームが、虚空を貫いて、まっすぐにまっすぐに伸びてゆく。動かず赤く輝く、有田君のケルディムへと向かって。
 だが、届かなかった。ケルディムの、ほんのわずか前で、ビームは阻まれ、水しぶきが飛び散るように、粒子を飛び散らせる。
 シールドビットだ。トランザムによって、強化されたシールドビットが、シナンジュのビームを阻んでいた。
「うぉりゃあああああ!」
 俺は叫んだ。今なら、届く。俺は加速し、ビームサーベルを振りかぶる。狙撃体制のシナンジュに打ち付ける。奴は、それでも左腕の、牙のように開いたアームドアーマーを振り向けてくる。サイコフレーム共振か何かで、何もかも粉砕する無茶設定のアームだ。
 激しく粒子が散った。信じられない。ビームサーベルの粒子すら飛び散らせて、奴の機体に届かない。俺は、奴の前をすり抜ける。飛び行き過ぎながら、俺は機体を翻す。これ以上撃たせるものか。
 奴も、俺へと振り向く。牙を開いたようなあのアームドアーマーを、再び俺へと向ける。あれを潰さなければ、手が出せない。トランザムで、俺のキュリオスの粒子は減り続けている。ホロモニターの色は、黄色を過ぎて、橙色に変わりつつある。あまり長いこともたない。しかも片足だ。機体の制御も悪い。
 俺は宙を蹴るようにして、奴へと迫る。奴のアームドアーマーの牙の真正面へだ。突きを放つ。粒子が散った。ビームの刀身すら、砕かれて撒き散らされてゆく。でも、俺にはまだシールドがある。キュリオスのシールドの閉じた切っ先を、押し込む。
 トランザムのGN粒子に守られたシールドのエッジならば、奴のアームドアーマーを押し切れるかもしれない。
 だが、共振フィールドは、容赦なくシールドを苛む。そして、荒目のヤスリでも掛けられたように斬り削られてゆく。シールドだけでなく、ビームサーベルの刀身も、それを持つキュリオスのハンドパーツも。
 まだだ!まだ終わりじゃない!俺はライトボールをタップした。半ばまで削られたシールドが開く。シールドに仕込まれたGNニードルだ。それが飛び出す。まっすぐにアームドアーマーの真ん中に突き刺さる。
 爆発が起きた。俺のシールドが吹き飛ぶ。奴のアームドアーマーの爪が引きちぎられて飛んでゆく。俺たちも、爆発に引きはがされて離れる。キュリオスの右腕はまだ残っている。でもマニュピレーターはもう動かない。ホロモニターの色はほとんど赤だ。粒子の残りも少ない。俺はビームサーベルを振りかぶる。奴へと叩きつける。
 奴は、もう一方の腕、右腕で身をかばう。その腕に装着された、アームドアーマーに、俺のサーベルが食い込む。俺はさらに斬り下げる。ふたたびの爆発が起きる。奴の右腕の先が飛ぶ。ようやく互角、いやまだ奴には両足が残っている。奴は退く。退き、けれど両脚のバーニアを吹かして、踏みとどまる。奴の右腕の先は無い。左腕は残っている。それが、ビームサーベルを引き抜く。
 奴は俺を目指して、突っ込んでくる。俺も、ビームサーベルを振りかぶる。豚角ブレードが打ち合って、粒子が激しく散った。

チーム0・F・INF 助走10

2015-11-15 20:10:14 | ガンプラバトル系SS チーム0・F・IN

 「ガンプラファイト!レディーゴー!」
 コールしたのは、理恵子さんだった。そして、俺たちは、バトルをしている。
 広がる星空、瞬く残骸、暗礁空域フィールドを、キュリオスは飛ぶ。眼下で玉ちゃんのセラヴィーが、激しくビームを放っている。
 相手からの応射も来る。Ex-Sガンダムのビームスマートガンだろう。けれど、セラヴィー自慢のGNフィールドが、それをはねつける。お返しに、セラヴィーはビームを放つ。
 途中に残骸があろうが、構わずビームの連射を続ける。玉ちゃんの役目は、壁役だ。敵の攻撃を引き寄せながら、敵を攻撃し続ける。敵は玉ちゃんのセラヴィーを決して無視できない。避けて通るか、それとも打ち崩すか、どちらかだ。
 相手は、撃ちあうことを選んだ。強力で、正確なビームが、セラヴィーへ飛びくる。まっすぐな光の筋だけでなく、一度あさっての方向に飛んだ光線が、かくん、と急角度で曲がって、横合いからも叩きつけてくる。だが玉ちゃんのセラヴィーは動じない。強化されたGNフィールドが、ビームをはねつけ、はじき飛ばす。プラフスキー粒子が尽きるか、あるいはGNフィールドを物理的に貫くかでなければ、セラヴィーを倒すことなどできない。
 しかしセラヴィーの放つビームも、敵に効果を見せているわけでもない。敵は、暗礁空域の残骸の中を、長い噴射炎をひらめかせながら、敏捷に飛び回る。セラヴィーのビームがそれを追って放たれ、上手く捉えたときにも、しかし、ダメージを与えられていない。Ex-Sにも簡易ビームバリアがある。直撃しなければ、大ダメージにはならない。
 それでもこちらには勝算がある。
 今、強力なビームが、緑のGN粒子を散らしながら飛びゆく。有田君のケルディムのビームだ。さすがのEx-Sもブースタ噴射炎を伸ばして、大きく退く。有田君と玉ちゃん、二機がかりでEx-Sを叩く。それが俺らの作戦だ。一機を落とせば、次の一機にも優勢な数で戦える。相手の最後の一機、デカイ腕を持つギガンティックアームは、まだ姿を見せていない。あれには火力があるが、機動力が無い。だから今がチャンスだ。
 そして俺の役割は、二人がそのチャンスに全力を出せるように、挟み撃ちに来たシナンジュを抑えることだ。機動性と、火力との両方を備えたシナンジュが、挟み撃ちをかけてくるだろう、それが有田君の予想だった。
 その通り、白のシナンジュは、俺たちの横合いを狙って、飛び来た。噴射のひらめきが、流星のように見える。残骸の向こうを鋭く切り返しながら飛ぶ。俺もキュリオスを飛ばす。残骸を避けながら、奴の針路をふさぐ位置へ。まだ遠い。俺のキュリオスのビームガンは、速射と連射には強いけれど、遠距離射撃には向いていない。遠距離射撃が得意なのは、むしろシナンジュのほうだ。
 装備マシマシ、バンシィの装備が全部くっついているらしい。背中にアームドアーマー、両腕それぞれにもアームドアーマーがある。右腕のそれは、ビームスマートガンってやつだ。こちらに振り向け、ぶっ放してくる。白く輝くビームの筋が、俺へ向けて伸びてくる。
 俺は、ライトボールを操って、回避運動に入る。あれの厄介なのは、ただ飛びぬけるだけじゃなくて、撃ちっぱなしで斬りつけるように薙いでくることだ。俺の回避のあとを追って、ビームは横なぎに虚空を切り裂く。途中で残骸を吹き飛ばす。俺は回避しつづけるしかない、ビームが途切れるまで。
 だが、途切れたなら、俺のターンだ。ライトボールを操り、俺はキュリオスの両腕を振り上げる。両腕にはシールドと、ビームガンと、ミサイルとを取り付けた、超マシマシ武装だ。そのビームガンをぶっ放す。トリガーアイコンを圧している限り、ビームが放たれ続ける。マシンガンと同じだ。火力じゃ負けてない。
 だが流れるようなその光の中を、白いシナンジュは小刻みに機体を揺さぶりながらすり抜けてくる。ホントに上手い操縦だ。だが、こちとらビームだけじゃないぜ。俺はライトボールのセレクタをタップする。武装切り替え。照準マーカーが大きなものに変わる。自分から命中に行くミサイルは、目標を支持してやればいい。それからトリガーをタップする。
 腕の、そして膝のフィンにつけたランチャーから、ミサイルを発射する。射出されたミサイルは、噴煙の尾を引き、それぞれに弧を描いて、絞り込むようにシナンジュへ向かってゆく。
 シナンジュは、退かない。むしろ、噴射を強めて、こちらへ、ミサイルへと突っ込んでくる。そして銃火を放つ。バルカン砲だ。信じられない。か細い尾を引くバルカン砲の銃弾が、ミサイルを貫く。迎撃している。シナンジュはさらに突っ込んでくる。貫かれて爆発したミサイルの火球を、自ら押抜いて、だ。
 そしてその右手を、俺へと向ける。ビームを放つ。俺は横滑りに回避する。それを追いかけて、宙を切り裂くようにビームは追ってくる。回避を続けるしかない。そして、俺が横滑りに退いたところへ、シナンジュは突っ込んでくる。
「させるかっ!」
 まっすぐに突っ込ませるもんか。シナンジュは大きく横滑りして俺から距離を取る。それでも突っ込む勢いは変えない。俺も転進して、奴と並ぶように飛ぶ。
 俺と奴との間を、残骸が流れゆく。俺は撃つ。ビームが続けざまに飛びゆく。跳ねるように奴は回避運動に入る。それを追いかけ、トリガーアイコンを圧したまま、照準マーカーで追いかける。連なるビームの軌跡は、わずかずつ奴に遅れて、届かない。
 奴も撃ち返してくる。ビームの癖に薙ぎ払い、回避する俺を追いかけてくる。けれど、奴が撃つときは、俺にとってもチャンスだ。奴の動きが一瞬、止まる。振り抜く奴のビームとすれ違いながら、俺は撃ち続ける。
 ぱっ!と奴から光が散った。手ごたえがある。でも、まだ弱い。ぶち抜いたわけじゃない。俺は、さらにミサイルを撃つ。奴も、跳ねるように飛んだ。俺へではなく、前へ。奴が、目指す有田君と玉ちゃんの方へ。ミサイルの群れが、航跡をうねらせて、奴を追いかける。奴は、そのミサイル群をちらり見て、着いてくるのを一瞬、確かめた。
 何故だ?俺が思った瞬間、奴はさらに大きく吹かす。奴の正面に浮かぶ、大きな残骸へ向かって。モビルスーツの何倍かはある、巨大な残骸だ。コロニーの外壁みたいに、緩やかな弧を描いている。
 奴は、左腕を振りかぶる。その腕に装着された太い外装が開く。牙のように。それを、残骸へと叩きつける。
 爆発は、起きない。ただ衝撃波が広がり、奴の打ったところに、ぽっかりと穴が開く。そこを、奴はすり抜ける。すげえ操縦だ。わずかに遅れて、俺の撃ったミサイルが、残骸へと突き刺さってゆく。爆発が連なって起きる。残骸の壁を消し飛ばし、代わりに爆炎の壁が宙に現れる。奴の姿は、見えない。
 やべえ、と思った。俺との間に、爆炎の壁を置いて、奴は有田君たちのところへ突っ込むつもりだ。焦って、ライトボールを押し込んだ。キュリオスを加速させる。爆炎の中に突っ込む。赤いガスを突きぬけて、ふたたび、暗い虚空が開ける。その先で、有田君たちの撃ちあう閃光が見える。けれどシナンジュの姿は見えない。
 もういちど、やべえ、と思った。罠だ。俺が焦って突っ込むのを、奴は待っていた。でも引っかかるしかなかった。突っ込まなければ、奴は俺が案じた通り有田君たちのところへ乱入したはずだ。
 ホロモニタの端に、光が滑るように動く。噴射を切り返し、白の機体が急接近してくる。奴だ。白のシナンジュカスタム。
 俺がビームガンを向ける間にも、奴の姿は大きく迫る。間に合わないか。構うものか。俺は後ろ飛びに機体を滑らせながら、ビームを放った。奴の機体が大きく横滑りする。俺のビームをすり抜ける。照準が追い付かない。その間に、奴は急接近してくる。その左腕を振りかぶる。牙のように開いたそれを、俺に叩きつける。
 急回避は、間に合わない。それでも、俺はライトボールを思い切り引き寄せる。
 ホロモニタの視野が、大きく揺れて、衝撃にすら感じる。

チーム0・F・INF 助走9

2015-11-15 00:38:06 | ガンプラバトル系SS チーム0・F・IN

 「あら、いらっしゃい」
 声に俺は少し驚いた。いつもの店じゃあ聞かない、若い女性の声だ。店のサッシの扉を開いてくれたのも、若い女の子だ。
「おはようございます、理恵子さん」
「おはよう、有田君。玉田さんも」
 ういーす、などと言いながら、玉ちゃんは普通に入ってゆく。俺は、ドモデス、とかキョドりながら玉ちゃんの後に続く。
「誰よ、アレ」
 玉ちゃんはわざとらしく、ん~ああ、しらなかったっけ~とか言いやがる。
「理恵子さん。店長の娘さん」
 その理恵子さんは、またサッシの扉を閉じる。そこにはまだ「準備中」の札がかかっている。そう、少し早く店を開けてくれたのだ。時間が遅くなると、ジャリどもが増えてくる。互いにウザいと思いながら、ぶつかるのは面倒じゃないか。店長も、そうだな、と言ってくれて、この朝のバトルとなった。
 相手の池内さんたちも、承諾してくれた。そしてすでに奥の部屋で俺たちを待っていてくれている。ガキ向けの待機席に並んで、何事か話をしている。笑い声も聞こえる。
「やあ、おはよう」
 店長が振り返る。待機席の池内さんたちも立ち上がる。
「おはようございます」
 有田君はいつも通り礼儀正しく一礼する。俺らも慌てて頭をさげる。間に立って店長は俺たち双方にうなずきかける。
「こういうことを、僕が言うのは、どうなのかな、と思っていた時期もあったんだ。でも今は思う。僕がこの商店街で、この地域で店をやっているのは、この地域が好きだからでもある」
 だから、と店長は言う。
「地域の人たち、子供も、大人も、変わりなく、僕はその橋渡しの役目を、もうすこしちゃんと考えるべきだった。君たちが、ここで、普通にガンプラバトルをしてくれるのがうれしい」
 余計なことを言ったかな、と店長は照れたように笑う。
「まず、紹介くらいしようか」
 もっとも、俺以外は互いに、顔くらいは知っているようだった。池内さんは、シナンジュを持ってきていた。シナンジュスタインという白の機体をベースに、右腕にはビームランチャーを折りたたんでいる。左腕は握りしめた巨大な拳のようだ。アームドアームという、巨大なクロウだ。その背には、シールドのようなパーツを背負っている。それもまた別の種類のアームドアームだ。アームドアームマシマシだ。
 俺は、ちょっと胸焼けしそうだ。シナンジュスタインベースにした、バンシィノルンを作ってきている。素のバンシィノルンじゃなくて、シナンジュベースですらなくて、シナンジュスタインをベースにした、バンシィノルン仕様だ。何を言ってるかわからない。俺も判らない。でもすげえ造形なんだ。
 装甲にスリットが入っていて、キラキラしたメタルの内部が見える。サイコフレームだ。どれだけ手間をかけて作ったのか、俺にはもうわからない。
 池内さんのチームの二人目は、敏野さんという、池内さんと同年代の、少し小柄な人だった。彼の機体は、EX-Sガンダムだった。でっかいブースターを背負い、ビームスマートガンという長いランチャーは、機体の前に横に携えている。でかい肩には白く丸いマーキングがある。デカールもバリバリだ。肩の上にはフィンがある。そのフィンには、爆弾のようにミサイルが装着されている。腰の後ろにあるフィンにも同じだ。これまたすげえ手間を掛けて作ってある。
 三人目は、加藤さんという。これまたすごい機体だ。ガンダムの背後から、さらに大型の腕が生えている。サイコガンダムの腕だ。ヘイズル・ギガンティックかよ、と玉ちゃんが呟く。俺にはもはや何が何だかわからない。ベースになってるガンダムもRX-78系じゃない。ヘイズルというタイプだ。さらに色々とユニットが増設され、強化されている。そのトドメがサイコガンダムの腕だ。そこには、サイコガンダム用の馬鹿デカイシールドが両手に装備されている。俺には何が何だかわからない。
 彼らの作りこんだガンプラに比べたら、俺らのは、如何にも急いで作りましたって感じだ。俺のキュリオスなんて、無塗装簡単仕上げに、デカールを貼ってあるだけだ。
「行けます」
 作戦タイムに、有田君は言う。相性のいい組み合わせです、と。
「ギガンティックアームは、パワータイプですけど、バリア系の防御じゃないです。こっちの攻撃は効きます。重要なのは、機動性が低いことです」
「じゃあ、俺が」
「いえ」
 玉ちゃんに、有田君は首を振る。
「EXーSを二人で叩きましょう」
「なぜ?」
 俺は問う。デカ腕を叩く方が良さそうに見える。有田君は言う。
「EXーSと、あのシナンジュが、あっちの主力です。二機の機動力で、相手を挟み撃ちにする気です」
「なるほどね」
「挟み撃ちにさえされなければ、なんとかなります。だから、相馬さん」
「俺はシナンジュの方を押さえればいい、ってことか」
「お願いできますか」
「任せろ。アイハブコントロール」
「池内さん、つええぞ?」
「死ぬ気で押さえる」
 わかった、と玉ちゃんはうなずき返してくる。あちらの作戦会議も終わったらしい。池内さんたちは、俺たちを見る。
「いいかい?」
「はい」
 有田君が応じる。池内さんは一歩踏み出し、手を差し出した。
「僕らも全力を尽くす」
「おねがいします」
 有田君も、池内さんの手を握り返す。強く振る。戦いのための礼儀だ。店長も見届けるようにうなずく。
「今回は、非破壊モードだ。ダメージは仮想反映されるけれど、実機には与えられない。フィールド広さは、ウチのマシンのままだ。フィールドから出れば、それで機体ロストあつかい。負けになる。その他、標準ルールで行く。もう、わかってるね」
 はい、と俺たちはうなずく。
「では、配置に」
 それ自体は、もう慣れきっているはずなのに、今日は妙に緊張する。マシンのこちらサイドの縁に、自分のバトルパネルをセットする。接続正常。データ共有。その上で、自分のガンプラをセットアップポジションへと置く。俺のキュリオスは、高速形態でだ。セットして、スキャンさせる。スキャンに基づくデータと、バトルパネルにプレイヤーが初期設定したデータとが、マシンの中で処理されて、スキャンデータ優先で整合される。だから強すぎる俺設定が機体の性能に反映されるとは限らない。
 俺は、左隣の有田君と、さらに向こうの玉ちゃんを見た。二人とも、少し緊張してるようだった。だから、俺は言った。
「チーム・ゼロフィンフ、スリー。キュリオス、介入行動準備良し」
「チーム・ゼロフィンフ、ツー」
 すぐに玉ちゃんが続ける。やっぱ玉ちゃんは良い奴だ。
「セラヴィー、目標を駆逐する」
「チーム・ゼロフィンフ・・・・・・」
 有田君は、少し迷ったようだった。けれどかぶりを振り、顔を上げる。
「ワン。出撃準備良し。チーム・ゼロフィンフ、準備良し!」

チーム0・F・INF 助走8

2015-11-13 23:30:12 | ガンプラバトル系SS チーム0・F・IN

 それは、模型誌の作例かっつーくらい、綺麗に仕上げられた、ケルディムだった。
 ケルディムガンダムGNHW/R。劇中最終決戦に投入された、重武装カスタムだ。卑怯レベルで強い第二期ガンダムに、さらに卑怯なビットマシマシだ。しかもこのケルディム、オリジナル改修があちこちにある、玉ちゃんが作らないと言っていた、バトルスペシャルだ。
「その武装、どうかな」
 玉ちゃんは、そっと問う。
 有田君は、眼鏡の奥で瞬き、顔を上げて、玉ちゃんを見つめ返す。
「良いです。ありがとうございます」
 武装は、三つ又に分かれた、大型のものだった。俺ら00好きなら一発で判る。劇中、あれほど活躍した強敵、ガデッサのビームランチャーだ。三つ又の銃身兼増幅ブレードを持ち、その付け根中央にビーム発振部がある。ランチャー、というより、大砲だ。実際、そんな風に使われた。
「良かった」
 心底ほっとしたように、玉ちゃんは息をつく。ケルディムの武装って、どっちか言えば乱射タイプだろ、と。
「でも、違うんだよな。欲しいのは狙い撃つ武装なんだ。君に向いているのも、狙い撃つつ武器だと思った」
「はい」
「あとな、俺アイデアぶっこんであるんだよ」
 玉ちゃんは楽しげだ。ちょっといいかな、とケルディムを取ると、その機体背部を有田君へと向ける。尻の、尾羽のようにライフルビットがあるところだ。ケルディムガンダムには、その付け根に、動力炉の太陽炉がセットされている。
 玉ちゃんは、自慢げに、その太陽炉を動かした。
「自作関節入れてるのよ。それで、ね」
 じゃーん、と言いながら、彼はケルディムを俺たちに見せる。俺は何だかよくわからない。
「ほら、ここ」
 もどかしそうに、玉ちゃんは、ケルディムのケツと股間を指さす。
「・・・・・・何?」
「なんですか?」
「あー!もう!」
 言いながら玉ちゃんは、ケルディムをガニマタ開きにして、その股間パーツを開いて見せた。ここ、と指差す。
「アリオスの太陽炉パーツをここに仕込んでるの。股間」
「股間、股間ってでかい声で言うなよ」
「で、ケツのケルディムオリジナルの太陽炉が、こうやって・・・・・・」
 おお!と、俺と有田君は声を上げた。
「こんな仕掛けが!」
「クアンタムバーストモード!」
「どうよ?」
 クッソ自慢げに玉ちゃんは言う。二個の太陽炉の直結態勢だ。でも、これに気付けとか、ちょっと無理だろ。でも玉ちゃんは自慢げにつづけるんだ。
「ダブルオーって、どうみてもエクシアからの発展型だろ?クアンタもそうだし。でもさ、ケルディムダブルオーとか、アリオスダブルオーもあり得たと俺は思うんだよ」
「さっすが玉ちゃん」
「すごいです」
 二つの太陽炉を搭載して、暴力的なまでに主人公メカをアピールしたダブルオーは、そりゃかっこいいけど、キュリオス好きとしては、ちょっとさみしいところもあった。キュリオスダブルオーとか無理だもんね。それはたぶん、有田君も同じだ。
 だが、これは二個の太陽炉を搭載し、さらに直結して、クアンタムバーストモードになる。これでパワーマシマシだ。
「見とけよ、見とけよ~」
 玉ちゃんはノリノリだ。まだ仕掛けがあるらしい。またケルディムの股間をいじる。なんか股間ばっかだ。股間に太陽炉を入れるアリオスがアレなんだが。玉ちゃんは股間アーマー、っていうか俺らがフンドシと言ってるパーツを開く。さらに奥の太陽炉に指を伸ばし、それを引っ張り出す。
「どうよ!」
「・・・・・・」
 さすがに、俺も有田君も絶句した。声も無かった。これは、さすがに、どうなのよ?
「どうよ?」
 玉ちゃんの言葉がいぶかしげになる。なあ、どう?と不安げに。
「チ○コ?」
 俺はそっと聞いた。だって仕方ないだろ。股間の太陽炉から、その中枢パーツが伸びて前に突き出してるんだ。
「馬鹿言うなっ!」
「いや、判ってる、わかってる。クアンタムバーストモードだから、しょうがない」
 実際、劇中の刹那のクアンタも、胸の太陽炉がそうなっているんだから。でも、これは、股間だ。
「どうよ?」
 玉ちゃんは、自分の工作をほれぼれと見ている。
「いいとおもいます」
 若干不自然な響きで、有田君が言う。すごいです。さすが玉田さんです。この工作精度で、グラビカルアンテナまで開くなんて。
 そうだろ、そうだろ、と玉ちゃんは悦に入っている。もはや何も言うまい。俺は話を変えることにした。
「で、玉ちゃんの使う機体はよ?」
「忘れてたぜ」
 鞄からごそごそと、もう一つの箱を取り出す。こっちは旧作だからよ。でもまあ、いいだろ?と。それは、セラヴィーGNHW/Bだ。ケルディム同様、第二期最終決戦用に重装備したタイプだ。GNフィールド装置マシマシの上に、ビームガンもマシマシだ。背中のセラフィムは、もちろん分離可動できるようにしてある。そこは玉ちゃん、抜かりない。
 そうして、3機のガンダムが、テーブルに立つ。バトル用カスタムは、もろもろマシマシの派手派手になりがちだ。でも、俺は思うんだ。
「いいね。俺たちのガンダムだ」
「ああ、そうだな。俺たちのガンダムだ」
「不思議ですね」
 有田君が感慨深げに言う。
「僕ら、先月までは、こんな風にチームを組むとは思っていなかった」
「君、受験生だもんなあ」
「ごめんな。俺らの遊びにつきあわせて」
「いえ。だってホントに息抜きに来てるんですよ?もう忘却曲線に対抗するくらいしか、僕にはできないんで」
 この子は優秀だと思う。優秀すぎて、俺らにつき合わすのが申し訳ない。
「うん、息抜きだけには、なるように、俺らも努力するから」
「努力したら息抜きにならないですよ」
 わはは、と玉ちゃんが笑って答える。ファミレスでガンダムを並べて、へらへらしてる俺たちは、そうとう危ない集団だが、まあ、いいか。いいよな。
「いいよな」
 おう、と、はい、との返事が重なる。
 そのまま俺らは、ガンダムを眺めていた。俺たちのガンダムだ。
 そして、バトルでは、俺たちがガンダムだ。
 

チーム0・F・INF 助走7

2015-11-12 23:35:53 | ガンプラバトル系SS チーム0・F・IN

 結局、日曜の朝までかかったさ。
 マジで朝さ、徹夜さ。そろそろ徹夜が厳しいお年頃さ。だが、だが、だがだがだがだがだがだがっ!完成させたさ。そうさ。アイハヴコントロール!
 待ち合わせのファミレスで、俺は、玉ちゃんの前に、どん、とキュリオスを置いたったさ。
「どうよ?」
「おお、いいねえ」
 玉ちゃんはでっかい背をかがめて、俺のキュリオスに見入ってくれる。全塗装する時間は無かった。申し訳ない。
「いや、いいんだよ」
 玉ちゃんは言う。これだけ綺麗にヤスリ当ててヒケ消して、そのあとにクリア吹いたっしょ、と。
「判ってくれる?」
「わからいでか。こちとらモデラーよ」
 徹夜明けの脳に染みるぜ。玉ちゃんは続ける。無塗装デカールって結構、ハードル高いのよ。無塗装簡単仕上げってだけで、結構軽く見られる向きあるけど、逆に手間かかるから、エアブラシ持ってるなら、サフで仕上げて塗る方が早いもん、と。
「相馬ちゃん、マーカーと水性で細部に筆入れて、クリアーで閉じてから、デカール貼って、さらに艶消しで閉じるのって、すっげー手間だったっしょ」
「おう」
「エッジも立ててきてるしね」
「おう」
 泣けるねえ。判ってくれる奴がいる。
「ゲーム対応てんこ盛り武装とはいえ、これ、いいよ」
「マジで?」
「・・・・・・」
 玉ちゃんは無言で親指を立ててくれる。生きててよかった。ガンダム握りしめたまま死んでなくてよかった。
 言われる通り、ゲーム対応てんこ盛り武装だ。両手にはシールドを一枚ずつ。さらに、腕につけるアダプターに、ライフルと、ミサイルの両方をつけている。このために、アストレアを二個買いしたようなものだ。さらに俺は、メーカーに部品請求して、ミサイルを二基追加している。それは、キュリオスの脚、膝から突き出した特徴的なフィンに取り付けられている。
「見ててくれ」
 俺は、テーブルの上のキュリオスを手に取り、コキコキと変形させる。寝そべり変形と言われるが、俺は構わないと思う。っていうか、俺はキュリオスが好きなんだ。脚をガニマタにし、先の膝のフィンに後退角を着ける。成り行き任せっぽいが、腕に着けたシールドで膝のフィンを挟むので、一応、形は決まる。そして、その状態で、腕と、足のミサイルランチャーは全て機体上面に、一方ライフルは機体下面に来るようにセットされる。
「おー、良いじゃん。戦闘機的武装フィット理解」
 このために、ピンバイスだの何だの、新規設備投資したのだ。特に足のミサイルランチャーのセットアダプターの自作に、とんでもないクソ時間がかかった。こいつのおかげで間に合わないかと思った。いや、マジで。ホントに、聞いてくれ玉ちゃん、膝の外側にランチャーが来るようにしないと、飛行形態でランチャーが上面に来ないだろ?しかもランチャーの付け根で取付け角が動かないと、フィンの後退角に対応できないんだよ、なあ、なあ、なあ。
「おう、それはわかってんだけどさ、有田君がさ・・・・・・」
「そのうち来るだろ、あの子、ちゃんとしてるし。来られなくなったら電話くらいするだろ、心配しなくていいから、俺のキュリオス見ろよ見ろよ見ろよなあなああ」
「来てるんだよ、あそこ」
 玉ちゃんは、窓の外を指さす。俺は振り返る。ちょっと驚いた。俺たちのいるファミレスへ向かってくる道を、有田君と女の子が歩いてくる。
「俺、あの女の子と、模型屋の前ですれ違ったことあるぞ?」
 すこし前だ。あの子、たしか模型屋の中を覗き込んでいて、そして、ごめんなさいごめんなさい言いながら駆け去って行った子だ。
「うん。俺も見たことある」
 その女の子が、いま、有田君と肩を並べて歩いている。楽しげに有田君を見つめて、笑っている。
「玉ちゃーん」
「相馬ちゃーん」
 俺たち二人は、顔を見合わせて、ニヤニヤ笑う。
「青春っすなあ」
「青春っすよ」
 だが、女の子は足を止めて、有田君に小さく手を振る。有田君は彼女へと振り向く。そういう何気ないしぐさが決まるのは、イケメンの特権だ。この世には、選ばれたイケメン階級があるのだとしみじみ思う。有田君は、彼女に、そうだ、彼女だ。彼女に何か言っている。彼女の方は楽しげにうんうんうなずいたり、首を振ったりする。それから彼女は、肩のところで、もう一度手を振る。
 有田君はうなずき返し、同じく肩のところで手を振り、それから振り返る。俺と玉ちゃんは、席の影にぱっと隠れた。彼は小走りに、ファミレスへと駆けてくる。ぴんぽんぴんぽんぴんぽ~ん、入店のチャイムに続いて、歩いてくる気配。
「おはようございます。すみません、遅れました」
「うん、いいんだよ。おれたち、いまきたとこだし」
「それより、このきゅりおす、みてくれよ」
「お二人とも、どうされたんですか?」
 ううん、なんでもない、と俺たち二人は声を合わせる。
「ねえ、たまちゃん」
「うん、そーまちゃん」
「何か棒読みっぽい」
「それよりさ、どりんくばー、さんにんぶんとってあるから、のみものをもってきなよ」
 あ、すみません、と有田君は頭を下げて、荷物鞄を置いて、ドリンクバーへ向かってゆく。
「ええこやのう」
「ほんにのお」
 俺たち二人は、肩を並べて、向かいの席に有田君を迎えた。有田君は何か察したらしい、神妙な顔をしている。
「あの、もう、お聞きになったかもしれませんが、僕は、池内さんの・・・・・・」
「あ、そうじゃないって」
 俺は手を振る。そんなことよりおれのきゅりおすはどうよ、みてくれよ、なあ、なあ、なあなああなあああああぐっ!、半ば発狂しかけた俺の脇を、玉ちゃんの肘がえぐる。
「相馬ちゃん徹夜で仕上げたらしいからさ」
 それより、と、玉ちゃんは自分の箱を、テーブルに乗せる。
「約束の品、間に合ったぜ」
 そう言ったときの、玉ちゃんのかっこよさと言ったら。まあ、俺は惚れないけどさ。また、玉のハゲ、開けてみてくれよ、などと言いながら、箱を有田君の前にそっと押し出すんだぜ。結婚指輪かっつーの。
「すみません」
 言って彼は箱を開く。そして、ホントに結婚指輪を見た時のように動きを止める。それから、玉ちゃんを見た。
「すみません、ホントに」
「なに言ってるんだよ。有田君は俺たちのロッコンで、ティエリアなんだぜ。俺たちの用意できる、最高の機体を使ってほしいんだ」
 きらっきらする笑顔で、玉ちゃんは言った。
 ちょっと惚れるぞ、おい。

チーム0・F・INF 助走6

2015-11-11 23:55:33 | ガンプラバトル系SS チーム0・F・IN

 「池内さん・・・・・・」
 有田君が呟く。誰だそれ。俺は知らない。玉ちゃんを窺うと、少し驚いた顔をしている。店長の声が響く。
「池内君、入りなよ。ウチは、千客万来なんだ。今でもね」
「いや、ガンプラバトルのポスターを見て、久しぶりだと思っただけなんだ」
 池内、と呼ばれた男は、俺らより十は上な感じだ。アラフォーまでは行ってない。薄手のジャンパーにデニムの、どこにでもいるおっさんだ。店長は懐かしげに話しかける。
「今でも、模型、作ってるんだろう?」
「ええ。あいかわらず。昔の連中とも、つるんでます。バトルからは、ずいぶん遠ざかりましたけれど」
「やりませんか」
 思わず、俺は言っていた。
 言った俺の方が驚いていた。でも、言った後には、言うべきことを言ったんだという気がしていた。なぜかって?それは判らない。でも、俺の脳量子波がそう思ったんだよ、たぶん。
「ガンプラバトル。俺たちと。俺たち、チーム組んだばっかりなんです」
「ああ、そうっすよ、池内さん」
 やっぱ玉ちゃんは良い奴だ、と俺は思った。安心して、背中を預けられる。駄目だったら、必ず知らせてくれたはずだ。玉ちゃんもやるべきだと思ってる。
「やりましょうよ」
「いいのかい」
 池内は俺たちよりも、有田君を見ていた。有田君は、ややうつむいて、その顔はうかがえない。やがて、有田君は、そのまま言う。
「僕らでよければ」
「いいのかい」
 池内は問い返す。有田君はすぐに答える。
「はい」
「じゃあ、水曜までに連絡する。チームの友人に連絡とりあわないといけない」
「チームIDは、前と同じかい?」
 店長が問う。池内は、ええ、と応じる。今は雑談くらいしかしてないんですが、と。
「わかった。彼らのチームの新しいIDを、送っておくよ」
「おねがいします」
「また、待ってるよ」
 はい、じゃあ、また、と言って池内は、店に入りもせずに、背を向ける。そのまま通りを歩いて行った。
 店長は、彼の背中を見送っている。それから息をついた。玉ちゃんも同じだ。むしろ黙ったままの有田君の方が心配だった。店にまだいたガキどもも、黙って俺たちを見ていた。
「ごめんな、勝手なことを言って。俺の中のアレルヤさんがヒャッハーして脳量子したみたいなんだ」
「いいんです」
 小さく有田君は応じる。横で玉ちゃんがうなずく。
「いいよ。あれでよかったんだよ。ホント脳量子波バリバリだった。あれでオッケー。でもさ、有田君、嫌だったら、今からでも辞めようぜ」
「そんなこと無いですよ」
 有田君は顔を上げる。いつもの、大人びて、大人びすぎて何を考えているのかも良くわからない、落ち着いた顔だ。むしろ、何か良くない気がする。問いただすだけ、その端正な顔の奥に響かなくなってゆくような。その横顔を見ながら、玉ちゃんは、小さくうなずく。
「じゃあ、とりあえず、来週対策か」
「さっきの作戦案でいいよな」
「はい」
 有田君はうなずく。俺が突込みと攪乱、玉ちゃんが壁役、狙撃が有田君。有田君が一機を落とせれば、あとは数を頼りにする。
「でもさ、俺、今のままじゃアリオス、使いきれない気がするんだよな」
「じゃあキュリオスにしなよ。そこにあるし」
 玉ちゃんが棚を指さす。俺は、キュリオスではなく、さらに隣の箱を手に取る。
「・・・・・・なるほど、武装か」
 俺の取った箱を見ながら、玉ちゃんはつぶやく。キュリオスではなくアストレアFだ。ボックスアートも武装てんこ盛りだ。そう。特徴は同梱の大量の武装パーツだ。シリーズ初期に出たキュリオスは、初期設定の武器しかない。それじゃ足りない。実はキュリオスの弱点は、武装がビームガンしかないことなんだ。連射が効くし、パワーもそこそこだけど、そこそこでしかないんだ。でも放映の途中で一度だけハンドミサイルを使っている。それが一基だけ、アストレアFに同梱されている。
「二個必要でしょ。もう一個買っちゃえよ」
「いいよ。買っていって」
 店長までが言って、はい、と二個目の箱を乗せる。 
「・・・・・いいけどさ。俺、アストレア嫌いじゃないし」
「キュリオスも好きだろ」
 重なった二箱の上に、玉ちゃんはさらにキュリオスを乗せる。
「ライフル二丁に、シールドも二個に出来る」
「おおう」
「機首のクリアパーツを二面にして、グラビカルアンテナも増やせば、プラフスキー粒子の出力量と、コントロール性が良くなるはずですし」
「ああ」
「アストレアの肩ランチャー、一つ、分けてもらってもいいですか」
 有田君の言葉に、俺はうなずくばかりだ。アストレアには、機体の肩に直接接合するタイプのランチャーも同梱されている。デカイ武器は、それだけパワーがあるのが、ガンプラバトルのルールだ。けれど、玉田が有田君を覗き込むように言う。
「俺、さ。ちょっとさ、案があるんだよ。有田君の機体、俺に作らせてくれないかな」
「いいんですか?」
「うまくゆくかどうか、わかんないから、来週になっちゃうんだけど。うまくいったら、俺が新機を持ってくる。有田君、この店にディナメス、預けてあるでしょ。だから俺が作れなくても最悪、そのデュナメスで」
 有田君は、玉ちゃんを静かに見つめている。それから少し俯いて答える。
「わかりました。玉田さんにお願いします」
「ありがと。ちょっと頑張ってみるわ」
「玉ちゃんが無理して倒れたら意味ないんだぜ?」
「そりゃ相馬ちゃんもいっしょだろ。相馬ちゃんは、キュリオスないとバトルができないんだぜ?」
「さ、最悪アリオスがあるし」
「アリオスだとバトルになんないかもしれないんじゃね?」
「お、おう。頑張るわ、俺」
「頼むわ。相馬ちゃんがいるから、俺たちはチームなんだ。それは有田君も同じだ」
「玉ちゃんもな。三人そろって、チームゼロフィンフだ」
「そうさ」
 玉ちゃんは言う。
「俺たちが、ガンダムだ」