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紀の善のお店のわきに咲いていた椿。雨に濡れて綺麗。
能楽鑑賞記 12月3日 櫻詠会
おはようございます。
あなたのブースター、ヤスミンです。
先日、待ちに待った、能楽師・政木哲司氏シテ「葵上」の公演を見て参りました。
拙いものですが、鑑賞記録をしたためたいと思います。
パンフレット、手元になくてお名前など記憶に頼っています。
ごめんなさい。
12月3日 櫻詠会 矢来能楽堂(神楽坂)
13:30開始
素囃子 「熊坂」
山中一馬
山中先生による、勇壮な熊坂。
薙刀の演舞が見どころでありますが、久方ぶりに拝見した山中先生の、舞ににじむ色気に参りました。まさに男盛りですね。いっきに舞台に引き込まれました。
地謡も、部分的に放逸なところがむしろ好ましく、公演の幕開けにぴったりの華やかなものでした。
狂言 「鱸包丁」
大蔵流 山本泰太郎
大蔵流は大好きだけど、なぜか今回は発生が聞き取れなかったので、大変難解に感じました。しばらく能舞台から離れていたので、ヒアリング能力が落ちていたのかも。
ノノちゃんはオチのところでクスクス笑っていました。
彼女は、通常の日本語のほかに、赤ちゃん語、爺語も聞き取れるトリリンガルなので、室町語である狂言も7割がた聞こえたそうです。
仕舞
「経政キリ」守屋泰利
「半蔀曲」櫻間金記
金春流の重鎮による仕舞。
お二人の至芸に固唾をのみました。
枯淡の域に達した流麗な舞は、人間の本質的な美しさを体現していました。
今日は来て良かった!!と早くも感じさせてくださいました。
能 「葵上」
シテ 政木哲司
前シテの六条御息所、天皇の未亡人であるにもかかわらず、いじけて世を拗ねたアラサーOLのよう。
面(おもて)の横顔が、本当に疲れていて、くすんでいて、生気がまるでないところが、嫉妬に苦しみぬいて哀れ生霊と成り果てた女の情念を完璧に表現していました。
御息所は貴婦人中の貴婦人なので、ゴージャスな演出があって当然なのですが、素晴らしく豪奢な能装束をまとっていてもなお浮遊感があるところが、若い男への報われぬ愛をもてあました年増の所在なさを浮き彫りにしていていました。
ヤスミンの、個人的な見解ですが、自分が若いころは、若いので六条御息所の気持なんかわからなかったわけですよ。
ヤングアラフォーとしての現在、人間のいろいろな美しさを味わうときに、稀人ともいえる異性に出会ってしまってうっかり恋などしてしまったら、あなた、彼を取り巻く女性たちを想像しただけで、脳みそが震えるような衝撃を覚えてしまいます。
彼は私のものにはならないんだわ~、
あの人にはもっと相応しいひとがいる。。。
なんてフレーズが、一瞬頭の中を巡っただけで、地に倒れ伏し再起不能になってしまいます。
ましてや、その彼に相応しいんじゃないかな?なんて女性像を、これまた勝手に妄想してしまって、それが資産家の令嬢で容姿端麗、お仕事もかたくこなし、体も若くて丈夫そうで、ないのは女の色気だけ?でも色気は年相応の経験をちゃんと積めば出てくるから、やっぱりないものはない、みたいな女だったら、
六条御息所でなくても、ジェラシーで自家中毒になってしまうだろうなあ、と、少し人生経験を重ねたヤスミンは思うのでした。
そのジェラス感は、決して人には見せられない心中の暗部、精神のねじれとして確実にその人を食い荒らしていくのでしょう。
人間の内部のゆがみは現実の認知と連動しているので、生霊となって幽体離脱しちゃうのもむべなるかな。
だからこそ、今回の政木氏のうらぶれた御息所像というのは、ある意味新境地を拓いたものと感じられました。
後シテの般若面をつけた御息所。
政木氏の面目躍如といったところ。
本性をあらわにして暴れまわる鬼の六条さん。
ワキの横川聖との闘争に緊張が高まります。
やがて調伏されたのか、それとも邪心のリミットが振り切れたのか、どこへともなく去っていきます。
聖の祈りに改心してくれたのなら、それこそが女性の本質をあらわしてくれているようで、観る側としては救いがありますね。
山中先生地頭の地謡、お囃子、ともにヤスミンの鑑賞履歴のなかで最高水準でした。
後見の金記先生、守屋先生は、ただそこに在るだけで舞台全体を引き締めておいででした。
クラシカルで小さな能楽堂のなか、黄金色に輝く能舞台。
此岸と彼岸のあわいを、観客の私たちは漂いました。
今回、数年ぶりに能を鑑賞して感じたこと。
「能楽って本当に素晴らしい」
伝統芸能というと、かたくるしくとっつきにくいものに思われる方もいらっしゃることでしょう。
ですが、本来的に観客と演者の距離がとても近いライヴパフォーマンスなんです。
演者の息遣い、精神集中に私たちも呼吸を合わせて観る。
演者と観客の一体感こそが、熱いうねりとなって舞台を輝かせ、それが私たちの網膜を通過して心に届くものなんだと思います。
来年の政木哲司氏によるシテは、
12月22日
国立能楽堂
「道成寺」
披きです。
皆さん、ぜひご一緒に。
このみかんは到来物。別格品。
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