三谷幸喜の長編映画監督8作目で、記憶をなくした総理大臣が主人公の政界コメディ。史上最低の支持率を叩き出した総理大臣を中井貴一が演じるほか、ディーン・フジオカ、石田ゆり子、草刈正雄、佐藤浩市ら豪華キャストが顔をそろえる。
あらすじ:国民からは史上最悪のダメ総理と呼ばれた総理大臣の黒田啓介は、演説中に一般市民の投げた石が頭にあたり、一切の記憶をなくしてしまう。各大臣の顔や名前はもちろん、国会議事堂の本会議室の場所、自分の息子の名前すらもわからなくなってしまった啓介は、金と権力に目がくらんだ悪徳政治家から善良な普通のおじさんに変貌してしまった。国政の混乱を避けるため、啓介が記憶を失ったことは国民には隠され、啓介は秘書官たちのサポートにより、なんとか日々の公務をこなしていった。結果的にあらゆるしがらみから解放されて、真摯に政治と向き合うこととなった啓介は、本気でこの国を変えたいと思いはじめようになり……。
<感想>三谷幸喜監督、待望の映画第8作目は、支持率2,3%の国民から総スカンの総理大臣が主人公の政治コメディ、もちろんフィクションである。なんと支持率49%を誇る安倍晋三首相もご鑑賞とのこと。感想を問われると、霞が関界隈では、流行語大賞殿堂入りのセリフ「記憶にございません!」と仰って笑いつつ、少しムッとされたという本作。もの凄く面白くて傑作間違いございませんから、どうかこの映画を一度はご覧になっても損ではありません。
まったくもって政治批判はなく、コメディ一色の喜劇になっており、国会中継や党首討論、首相へのインタビューなど、とにかく中井貴一首相の演技は主演男優賞ものですね。
この映画は、パロディでも、風刺でも、特定の政治家や党に対する批判でもなく、もっと広い意味での政治、政治家を描いていた。確かに今作で三谷幸喜監督が描いたのは「政界」という社会ではなく、政治家という人間であります。世にも愚劣な政治を行ってきた最低の権力者が、記憶をなくしたことをきっかけに、生まれ変わることができるのか。つまりは人間として再生できるかどうかが鍵であり、現実の政治や現代社会を揶揄する意図はないというのなら、まぁそうなのだろう。
俳優については、舞台好きとしては、総理のお友達としての梶原善、ダサすぎるクールビズ大臣の小林隆を始めとし、近藤芳正、阿南健治といった東京サンシャインボーイズ時代からの三谷組が映るだけでも嬉しくなる。
個人的にツボだったのが、ミュージカルを中心に活躍する宮澤エマで、本作では木村佳乃演じる米大統領の通訳で登場する。感情を押し殺した能面フェイスと抑揚のない声で体現する完璧な通訳ぶりには、大いに笑わせてもらった。
官房長官鶴丸には、草刈正雄が扮しており、黒田首相の記憶喪失を始めは信じていたが、なんか様子がおかしい黒田に、これを機会に陥れようと機会を狙っているのだ。
主人公は不測な事態へと直面して、その矢面に立つことになり、次々と起こるトラブルにドタバタと追い詰められてゆく。それに付随して綴られるのが、様々な人間模様、そして、決断の物語。佐藤浩市が、フリージャーナリストを演じていて、首相の家族の不祥事を暴き、金と交換に脅して来る。
佐藤浩市さんが、米大統領とのゴルフコンペでは、女装をしてキャディで出て来るのが笑えました。
物語は、史上最悪のダメ総理と呼ばれている黒田啓介が、病院のベッドで一人目覚めるところから始まる。自分が誰だかわからない。演説中に一般市民からの批判の証、投石が頭に当たり、記憶を失ってしまっているのだ。夜中に起き出し病院を抜け出して、無銭飲食をしたり、道路で右往左往して自分が何処へ帰るのか分からなくなる。その時の交番の巡査に、田中圭が扮していて、後に黒田のSPに雇ってもらうことになる。
前半ではこの国民の嫌われ者を中心に、それまでの経緯と、彼を取り巻く多彩な登場人物たちが紹介されてゆく。驚いたのが、吉田羊が野党の女党首であり、黒田総理とホテルで密会して、愛人関係にあると言う設定には笑ってしまった。
「果たして記憶喪失以前はどうだったのか」がフックとなり、ズレた会話、徐々に明らかになるチグハグな関係性が笑いに結びついて、映画を引っ張っていく。
総理のトップシークレットを取り扱う3人の直近の秘書官は、現実派、理想派、軽薄派に分類でき、ディーン・フジオカ、小池栄子、迫田孝也がそれぞれの役の個性をうまくデフォルメして演じていた。小池栄子が首相夫人のTV出演の代役で、踊りを踊るシーンがある。この女優さんは、何をやらせても上手いのに感心させられる。
それに、手を差し伸べる黒田の恩師役には、ベテランの山口崇の出演であり、小学校時代の担任であり近代民主政治の基本原理、三権分立から黒田に叩き込んでいく。本作ではキャラクター上、迷える男・黒田の精神的支柱となるのだ。
もはや笑いごとでは済まない今の政治を題材にしたコメディ、「記憶にございません!」にも通ずる提言なのではないかと。
終盤では、物語の到達点として家族の話に趣をおき、妻が秘書のディーン・フジオカと不倫(自分も野党の女性議員と浮気をしているので)をしていても許し、息子とも仲良く話し合い、絆を深めてゆくという終わり方に、ちょっと物足りなさを感じたのだが。しかしながら、家庭の中がぎくしゃくしては、家族を守れないのでは、日本国の首相は務まらないということなのだろう。
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